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この人に聞く:軍縮を担当する、アンゲラ・ケイン国連上級代表

2014年01月08日

201418潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は2012年3月、ドイツ出身のアンゲラ・ケイン氏を、核軍縮・不拡散の推進ならびにその他の大量破壊兵器に関する軍縮体制の支援を行う「軍縮部」のトップ、国連軍縮担当上級代表に任命した。軍縮部は、通常兵器、特に現代の紛争でよく使用される小型武器に関する軍縮も推進している。

ケイン氏は、国連におけるその長いキャリアの中で、さまざまな上級職を歴任してきた。現職に就く前は、政治問題担当事務次長補に続いて、管理担当事務次長を務めた。また、平和維持部門と広報部門においても指導的な役職を経験しており、世界軍縮キャンペーンとの関連で過去にも軍縮問題に携わった経歴がある。

UN News Centreは、軍縮分野でさまざまな動きが見られた2013年の終わりにケイン氏に話を聞いた。

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UN News Centre:2013年は、軍縮分野で非常に活発な動きが見られた年でした。その中で最も重要な成果は何だと思われますか?

ケイン上級代表:軍縮問題に関して、2013年は実に記念すべき年だったと思います。まず4月に、武器貿易条約(ATT)が採択されました。この条約の作成には少なくとも6、7年、もしくは8年が費やされており、過去の会議では合意に達することができませんでした。2013年末までに115カ国が署名し、9カ国が批准しました。これは実に素晴らしい成果です。50カ国が批准すれば条約は発効することになっており、2014年末までに間に合わなかったとしても、2015年には間違いなく発効するでしょう。

もう一つの歴史的な進展は、シリアにおける化学兵器の使用をめぐる動きです。シリア政府は、アレッポ近郊のカーン・アル・アサルで発生した事件の調査を国連事務総長に要請し、事務総長はこの要請を受諾しました。事務総長は他の加盟国からも同様の要請を受け、その結果、ダマスカス近郊のグータ地区での大規模な化学兵器使用やその他のいくつかのより小規模な使用が実際にあったことが、調査団によって明らかにされました。結果として、シリアは化学兵器禁止条約に加盟し、保有している化学兵器を放棄することになりました。

核軍縮に関するハイレベル会議はいかなるものでも核軍縮を進めることになると思います。なぜならこれらの会議によって、やらねばならないことの緊急性が強調されるからです。

UN News Centre:武器貿易条約の採択が実現したいきさつについて少し教えていただけますか? この条約が紛争削減の効果的なツールになるのはいつ頃だと思いますか?

ケイン上級代表:世界中のあらゆる品物は貿易規則によって規制されています。衣料品も、果物も、バナナも、トマトも、とにかくありとあらゆるものです。ところが武器の輸出入は、これまで規制されたことがありませんでした。ですからこの条約は、実質的には軍縮規則ではなく貿易規則なのです。その趣旨は、当事者に武器の流れを追跡するよう求めることにあります。どこに販売されているのか? どこと取引されているのか? 人権侵害を犯していることが知られている政府の手に渡っていないか? 渡っている場合、輸出国は人権侵害に武器を使用している国への輸出を禁止しなければなりません。ですから実際のところ、この条約は貿易規則であるとともに、武器貿易における透明性の大幅な改善に貢献し、武器密売人による闇取引の防止につながります。ここ数年間で、世界情勢が不安定化したために武器貿易が大幅に拡大したことを忘れてはいけません。その年間取引総額は850億ドルに上ると思われます。これは莫大な金額です。(ATTは)これに光を当てて、武器がどこに行き、誰によって売られ、誰の手に渡るのかを明らかにします。

2013年12月13日、シリアにおける化学兵器使用疑惑についての調査結果を報道陣に説明するケイン上級代表と国連調査団のメンバー©UN Photo/Amanda Voisard

 UN News Centre:話が戻りますが、シリアに関する活動の概要を説明していただけますか?

ケイン上級代表:先ほど申し上げた通り、事務総長はシリア政府から化学兵器使用疑惑についての調査要請を受け、スウェーデン出身の科学者オーケ・セルストレム氏を団長とし、化学兵器禁止機関(OPCW)と世界保健機関(WHO)の専門家で構成される調査団を結成しました。調査団は事前調査の後で2度にわたってシリアへ赴き、グータ地区を中心に現地調査を行い、血液、尿、毛髪などの環境的・医学的サンプルを採取しました。そして彼らは、サリンがグータ地区で大規模に使用されただけでなく、他のいくつかの場所でより小規模に使用されたという結論を持ち帰りました。

UN News Centre:現在進められている取り組みに、軍縮部はどのように貢献しているのですか?

ケイン上級代表:10月にシリアが化学兵器禁止条約に加盟した後で、OPCWは確定的な期限を設定しました。OPCWと国連の合同ミッションが設立され、これに関する任務が国連のいくつかの部門に割り当てられました。当然ながら軍縮部は化学兵器に関する問題を、フィールド支援局(DFS)は兵站・輸送支援を担当します。また、ジュネーブでの政治的交渉には政治局(DPA)があたり、ラフダール・ブラヒミ特別代表は平和的解決を実現するため、1月に会議を主催します。また、安全保安局も非常に大きな役割を果たします。なぜなら、安全および安全保障、特に化学物質のシリア国外への輸送は極めて重要な課題だからです。ですから私たちは、国連として、またOPCWとの協力のもとで、非常に連携のとれた形で作業を進めています。(合同ミッションの)リーダーに任命されたオランダ政府高官のシグリッド・カーグ氏は、国連事務総長とOPCW事務局長の双方に報告を行います。

UN News Centre:上級代表ご自身も今年シリアに行かれましたが、実際に現地を視察して何を思われましたか?

ケイン上級代表:私たちは当初、ここニューヨーク本部でシリア行きについての交渉を行っていました。そういう場合は常に法的な合意が必要になるのです。どのように調査が進められるのか、私たちの義務は何か、政府の義務は何か、といったことに関する合意です。交渉はスムーズには進みませんでした。最終的にシリア政府は、セルストロム教授と私に交渉のためにダマスカスへ来るよう要請しました。そこで私たちはダマスカスに向かったわけです。交渉は非常に難航しました。本当に大変でした。シリアは主権国家であり、私たちが提示した要求の中には彼らにとって根本的に受け入れ難いものもあったのです。しかし最終的に、私たちが3つの事件について調査するということで合意に達しました。シリアやその他の加盟国の要請の原因となったカーン・アル・アサルでの事件と、他の2つの場所で起こった事件です。これらの事件の調査のために調査団が8月にダマスカス入りした時、グータで大規模な事件が発生しました。この事件については最初の合意には含まれていませんでした。そこで私は再びダマスカスへ行き、今回の事件の現場にも入れるよう政府と交渉し、合意を得たのです。

2013年6月3日、武器貿易条約署名式典の冒頭の特別イベントで発言するケイン上級代表©UN Photo/Eskinder Debebe

この新たな化学兵器使用疑惑の現場は、政府の管理下にない地域でした。私たちは政府の手の届かない場所で政府による防護を受けずに反政府勢力と交渉したうえで、調査団が現地へ入り、患者、救急隊員、医療従事者、およびその他の情報提供者と接触し、ケーススタディを記録してサンプルを採取した後、誰にも妨げられることなく現地を離れることができるようにしなければなりませんでした。また政府には、その間の停戦を守ることに合意してもらわなければなりませんでした。調査団が最初に現地入りした時、政府の防護区域を離れた途端に狙撃手に狙われ、最初の車両が意図的な攻撃を受けました。彼らは引き返すことを余儀なくされ、別の車両に乗り換え、危険を顧みず再度現地に向かいました。私はこれらの人たち、団長、そして事件の真相を明らかにするために現地に赴いたOPCWとWHOのチームメンバーの無私の精神と献身に心から敬意を表します。

UN News Centre:この数カ月間におけるOPCWと国連の全体的な取り組みの進捗状況についてどう思われますか?

ケイン上級代表:大々的かつ非常に建設的な協力が進められていると思います。このような大々的な協力はかつて例を見ません。米国とロシアが仲介役を果たしてくれたおかげもあって、驚くほど早く事態が進展しました。しかしこれほど迅速にことが進んだのは、シリアから化学物質を緊急に運び出す必要があるためでもあります。期限は迫っています。治安上の問題のため、期限を若干過ぎてしまうかもしれません。また、雪と厳しい寒さも輸送を妨げています。こうしたさまざまな問題のすべてに対処しなければなりません。また、化学兵器の破壊には多大な費用が掛かります。米国やロシアなど、大量の化学兵器を保有している国も、破壊にあまりに多大な費用が掛かるという理由で、当初定められた廃棄期限を若干超えています。

2011年、国連本部で開催された式典で、職務中に命を落とした国連職員の家族と握手を交わすケイン管理担当事務次長(当時)©UN Photo/Rick Bajornas

UN News Centre:核軍縮の現状はどうなっているのでしょうか? 9月のハイレベル会合で何か進展はありましたか?

ケイン上級代表:核軍縮に関するハイレベル会合はいかなるものでも核軍縮を進めることになると思います。なぜならこれらの会議によって、やらねばならないことの緊急性が強調されるからです。軍縮全体の土台となるのは、もちろん核不拡散条約(NPT)です。NPTには3本の柱があり、その一つが核軍縮です。しかし実際に核軍縮がどの程度進んでいるかというと、あまり進んでいないというのが現状です。核兵器を放棄して自らの条約義務を履行するようにという、保有国に対する非保有国からの圧力がますます切迫感を増しつつあります。多くの大臣たちが参加するハイレベル会合が行われたことによって、さらなる取り組みの必要性が強調されました。

2010年に直近のNPT再検討会議が行われた際、64項目の行動計画が策定され、核保有国に具体的な義務が課せられました。しかし、それらの行動計画が果たしてどの程度実現したのかということを考えると、2015年に開かれる次回会合までに大幅な取り組みの強化が必要です。今回のハイレベル会合のようなイベントが、核軍縮への道を前進するためにさらなる努力が必要な国の刺激となることを願っています。

UN News Centre:地域的な軍縮努力はあまり話題に上りませんが、この分野における取り組みについて教えてください。

ケイン上級代表:確かに地域的な軍縮努力についてはあまり報道されません。もしかしたらその地域内では報道されているのかもしれませんが、例えば、ラテンアメリカやカリブ海地域は世界最初の非核兵器地帯条約であるトラテロルコ条約以来、非常に長きにわたって非核兵器地帯となっており、現在ではその事実が一般に認められていますが、もうそのことは話題にも上りません。しかし、そのような条約は他にもあります。例えば、アフリカ非核兵器地帯条約、通称ペリンダバ条約があります。この条約ができたのは、核兵器や核物質を保有しながらそれらを放棄することを決断した国がいくつか存在したからです。私たちはこの事例を模範とすべきだと思います。また、モンゴルは、ロシアと中国という2つの核兵器保有国に隣接しているため非核兵器地帯に加わることができませんでしたが、一国非核地帯となることを宣言しました。これは非常に興味深い展開だと思います。この話題についても、メディアでもっと取り上げてほしいと思います。

2010年5月、国連本部ビルの改修に関する資本基本計画(CMP)諮問委員会の初会合の後で、潘基文(パン・ギムン)事務総長の横に立つケイン管理担当事務次長(当時)©UN Photo/Mark Garten

また現在、何千もの都市の市長が非核兵器都市宣言をしています。これは実に奨励すべき動きだと思います。なぜなら、私たちに欠けているのは大規模な市民社会の関与だからです。現在の市民社会運動は非常に熱心かつ広い見識に基づいたものですが、国連軍縮特別総会が開かれた1970年代後半から1980年代にかけて盛り上がりを見せた大規模運動とは異なります。こうした動きがもっと必要だと思いますし、これについてもっと報道してもらいたいと思います。人々に、このような動きについて知り、どうすれば自分たちもこの動きに参加できるのか、どうすれば核軍縮を進めることができるのか、どうすればこの世界をもっと安全な場所にできるのか、ということを考えてもらえたら非常に嬉しく思います。

UN News Centre:軍縮部は、世界の軍事支出などに関する非常に重要なデータベースや、ツール、出版物を保持しています。この非常に興味深いデータをいかにして若い人々に伝えていきたいと考えていますか?

ケイン上級代表:いかにしてより多くの情報を若い人々に伝えるかということは、常に大きな課題です。さまざまな国で起こっていること、例えば、軍備にどれほど多額の、あるいはどれほど少額のお金が使われているかという情報は、広く公表されるべきだと思います。皆さんにはぜひ軍縮部のウェブサイトwww.un.org/disarmamentをご覧くださいと勧めますが、そうした情報は少し探す手間がかかります。新聞にはそのような情報は出ていません。武器貿易条約についてですら、明らかに真実でないたくさんの誤報が新聞に掲載されていました。私たちはそれらの誤りを正そうと、編集部に手紙を出すのですが、訂正してもらえません。非常に有益な存在となり得るメディアが、時に全く役に立たない存在になってしまうのは、非常に残念なことです。北米全域で、つまり米国と、おそらくカナダでもそうだと思うのですが、ATTによって一般市民の武器の携帯が禁じられることになるという報道がなされました。もちろんそんなことはでたらめです。完全にナンセンスです。武器の携帯に関する国の法律は国内法であって、輸出とは何の関係もありません。誰かが言っていたように、トマトの輸出に関する規制ができたからといって、トマトを食べることを禁止されるわけではないのと同じです。全くのナンセンスです。メディアは正確に伝えることによって、また前向きな傾向について話したり書いたりすることによって、建設的な役割を果たすことができると思います。私たちはいつでもそうした情報を喜んで提供します。私たちは一般市民や学生にとって非常に有益な各種の情報をウェブサイトで公開していますが、そうした情報をすべての人に個別に提供することは非常に困難です。

UN News Centre:軍縮担当上級代表に就任されてから、20143月で2年が経過します。前職と比べて、この役職で取り組まなければならない課題はより困難なものでしょうか? また、軍縮部はこれらの課題にどのように対処しているのですか?

ケイン上級代表:課題は、任される仕事によってその中身が異なるだけで、課題であることに変わりありません。私はいつも仕事を大いに楽しんできました。それでも、特に対処に苦慮する課題もあります。来年の3月にこの2年間を振り返る頃には、軍縮問題は非常に興味深い局面を迎えているだろうと思います。武器貿易条約や化学兵器の問題だけでなく、中東非核・非大量破壊兵器地帯に関する会議の問題もあります。これはNPT無期限延長の条件の一つでした。私たちは、この取り組みの進行役であるフィンランド大使、ならびに共同スポンサーであるロシア、英国、米国と非常に緊密に協力しています。国連は4番目のパートナーです。この会議は、政治的に対立する当事者間、すなわちアラブ連盟とイスラエルとの間の連携が必要になるという意味で、開催が極めて困難です。当初の合意の通りに2012年に開催することはできませんでしたが、あと少しのところまでこぎつけており、2度の協議会が開かれました。2月の初めに再度協議会が開かれ、手順、議題、進行方法について話し合いが行われます。非核兵器地帯はすでに存在しますが、すべての大量破壊兵器が含まれる地帯はまだ存在しないので、これは前例のない会議なのです。

さらにもう一つ課題があります。それは、ジュネーブの私の同僚が国連事務総長特別代表を務める軍縮会議の問題です。この会議は交渉の場でありながら、交渉を進めることができない状態にあります。この2年間に進展は見られましたが、その進展は非常に遅く、漸進的です。新たな問題を話し合っている作業部会もあります。設立されたばかりの政府専門家グループもあり、来年、カナダを議長国として核分裂性物質生産禁止条約に関する作業を開始します。さらなる進展を求める声は高まっています。これらの取り組みのすべてが前進につながっています。目の前には立ち向かうべき課題があり、私は非常に頼もしいチームとともに一丸となってこれらの課題に取り組んでいく考えです。

UN News Centre:一般の人々にあまり理解されていないと思われる成果は他にありますか?

ケイン上級代表:通常兵器に関しては、ATTの他にも、小型武器・軽兵器などの分野で大きな進展が見られますが、これらは次第に脚光を浴びることが少なくなっています。これは悪いことではありません。なぜなら、脚光を浴びていないほうが国家がことを進められることも、よくあることだからです。私たちはさらに前進しなければなりませんが、重要なのは対話を続けること、会合を行ってこの問題に関心を集めることです。さらに、私たちがあまり言及していない課題がもう一つあります。それはテロ対策に関する(安保理)決議1540です。認識を高め、金融部門や関税の見直しを行うための非常に強力なプログラムがあります。テロ対策を本当に効果的なものにするため、加盟国やその他のパートナーと協力して行わなければならない作業がたくさんあります。経験を共有するため、例えば、クロアチアとポーランドの間などでピアレビューを行っています。こうした活動は皆、進展に大きく貢献していますが、常に脚光を浴びるわけではありません。

2008年、政治問題担当事務次長補として、中東に関する安保理会合で発言するケイン氏©UN Photo/Evan Schneider

UN News Centre:来年の注目すべき問題は何でしょうか?

ケイン上級代表:繰り返しになりますが、安保理決議1540は非常に重要な問題だと思います。また、ATT批准国では国内法を変更または修正する必要が生じるかもしれませんし、報告メカニズムの問題もあります。各国はそのための手助けを必要とするかもしれませんが、私たちは要請があれば喜んで支援を提供します。また、化学兵器も依然として非常に重大な関心事となるでしょう。なぜなら、単にシリアから化学兵器を排除するだけでなく、破壊する必要があるからで、その期限は6月末となっています。1月末にはジュネーブで軍縮会議が再び招集されます。核分裂性物質に関する政府専門家グループも作業を始めます。さらに今年、情報セキュリティ、またはサイバーセキュリティに関する政府専門家グループが作業を完了し、いくつかの重要な原則を明示した報告書を提出しました。これは軍事的側面を含んでいることから、軍縮分野に属します。この問題は非常に重要性が高いとみなされたため、加盟国は別の専門家グループによる来年からの活動継続を承認することを決定しました。

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アンゲラ・ケイン国連軍縮担当上級代表©UN Photo/Jean-Marc Ferré