IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約を 締約国が承認(2018年10月8日付 IPCC プレスリリース・日本語訳)
プレスリリース 18-072-J 2018年10月16日
IPCC プレスリリース
仁川(韓国)10月8日 – 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は本日、新たな評価報告書を発表し、地球温暖化を1.5°C以内に抑えるためには、社会のあらゆる側面で急速かつ広範な、これまでに例を見ない変化が必要だと述べました。IPCCによると、地球温暖化を2°Cでなく、1.5°Cに抑えれば、人間と自然生態系にとって明らかな利益となり、より持続可能で公平な世界を確保することにも資する可能性があります。
特別報告書『1.5°Cの地球温暖化』は昨日、韓国の仁川でIPCCによって承認されました。報告書は12月、ポーランドで開催されるカトヴィツェ気候変動会議で、各国政府が気候変動対策に関するパリ協定を再検討する際の重要な科学的資料となります。
李会晟(イ・フェソン)IPCC議長は「6,000点を超える科学的な文献を参考に、全世界で数千人の専門家と政府査読者の熱心な貢献により作成されたこの重要な報告書は、IPCCのすそ野の広さと政策的妥当性を立証しています」と述べました。
このIPCC報告書は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が2015年にパリ協定を採択した際に行った要請を受け、40カ国91人の執筆者と査読者が作成したものです。
報告書の正式な名称は『1.5°Cの地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5°Cの地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する IPCC 特別報告書』となっています。
第1作業部会共同議長の翟盘茂(パンマオ・ジャイ)氏は「この報告書から強く感じ取られる重要なメッセージの1つとして、私たちがすでに、異常気象の頻発、海水面の上昇、北極海氷の後退といった変化を通じて、1°Cの地球温暖化の影響を目の当たりにしているということが挙げられます」と語りました。
特別報告書は、地球温暖化を2°C以上ではなく、1.5°Cに抑えることによって、多くの気候変動の影響が回避できることを強調しています。例えば2100年までに、地球温暖化を1.5°Cに抑えた場合、世界の海水面上昇は2°Cの温度上昇の場合に比べて10cm低くなります。夏季に北極海が氷結しない可能性も、気温上昇2℃の場合の10年に1回以上に対し、1.5°Cの地球温暖化の場合には1世紀に1回となります。1.5°Cの地球温暖化の場合、サンゴ礁は70~90%減少しますが、気温上昇が2°Cに達した場合、サンゴ礁は事実上全滅(99%超が死滅)してしまいます。
IPCC第2作業部会共同議長のハンス=オットー・ポートナー氏は「特に、1.5°C以上の温暖化が一部の生態系の喪失など、恒久的または不可逆の変化と関連づけられるリスクを増やすことを考えれば、ほんの少し温暖化が進むだけでも、大きな問題だと言えます」と語っています。
地球温暖化を抑制すれば、人間と生態系が適応し、妥当なリスクの範囲内に留まれる余地も広がると、ポートナー共同議長は付け加えました。報告書はまた、温暖化を1.5°Cに抑えるために利用できる経路、その達成に必要な要素、それによってもたらされるであろう結果についても検討しています。
第1作業部会共同議長のヴァレリー・マッソン=デルモット氏は「地球温暖化を1.5°Cに抑えるために必要な類の行動の中には、すでに全世界で進められているものがあるという良い知らせがある一方で、こうした取り組みはさらに加速する必要もあるでしょう」と述べています。
報告書によると、地球温暖化を1.5°Cに食い止めるためには、土地、エネルギー、産業、建築、輸送、都市のそれぞれで「急速かつ広範な」移行が必要となります。全世界の人為的な正味二酸化炭素(CO2)排出量は、2030年までに2010年の水準から約45%減少させ、2050年頃に「正味ゼロ」を達成する必要があります。つまり、その時点で残る排出量はすべて、大気からCO2を除去することによって相殺しなければならないのです。
IPCC第3作業部会共同議長のジム・スキー氏は「化学や物理学の法則上、温暖化を1.5°Cに抑えることは可能ですが、そのためには、これまでにない変革が必要となるでしょう」と語りました。
地球の気温上昇が一時的に1.5°Cを超過、すなわち「オーバーシュート」することを許してしまった場合、2100年までにこれを1.5°C未満に戻すためには、大気からCO2を除去する技術への依存度がさらに高まります。報告書によると、このような技術の有効性は大規模には証明されておらず、中には持続可能な開発にとって大きなリスクを伴いかねないものもあります。
IPCC第3作業部会副議長のプリヤダルシ・シュクラ氏は「地球温暖化を2°Cではなく、1.5℃に抑えれば、生態系のほか、人間の健康や福祉に対する厳しい影響は緩和され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成も容易になるでしょう」と語っています。
IPCC第2作業部会共同議長のデブラ・ロバーツ氏によると、私たちが現時点で下す決定は、今後とも、あらゆる人に安全で持続可能な世界を確保するうえで、極めて重要となります。
「この報告書は政策決定者と実務者に対し、気候変動に取り組みながら、各地の文脈と人々のニーズも考慮に入れた決定を下すために必要な情報を提供するものです。これからの数年間はおそらく、私たちの歴史上、最も重要な時期となるでしょう」ロバーツ共同議長はこのように述べました。
IPCCは、気候変動に関連する科学、その影響と将来の潜在的リスク、および、可能な対応オプションの評価を主導する世界機関です。
この特別報告書は、3つのすべてのIPCC作業部会による科学的リーダーシップの下で作成されました。第1作業部会は、気候変動の自然科学的根拠を評価し、第2作業部会は、影響や適応、脆弱性に取り組み、第3作業部会は気候変動の緩和を取り扱っています。
2015年12月、UNFCCC第21回締約国会議で195カ国が採択したパリ協定には「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2°Cより十分低く保つとともに、さらに産業革命前より1.5°Cに抑える努力を追求すること」により、気候変動の脅威に対するグローバルな対応を強化するというねらいが含まれていました。
パリ協定を採択する決定の一環として、IPCCは2018年に、産業革命前の水準から1.5°Cの地球温暖化と関連の温室効果ガス排出経路に関する特別報告書を作成するよう招請されました。IPCCはこの招請に応じるとともに、特別報告書では、気候変動の脅威に対するグローバルな対応の強化、持続可能な開発および貧困根絶への取り組みとの関連で、これらの問題を検討する旨を付け加えました。
『1.5°Cの地球温暖化』は、IPCCの第6次評価サイクルで作成が見込まれる一連の特別報告書のうち、第1弾となるものです。来年、IPCCは『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書』および『気候変動と土地』を発表し、気候変動が土地利用に及ぼす影響を取り上げる予定です。
政策決定者向け要約(Summary for Policymakers, SPM)は、1.5°Cの地球温暖化について入手可能な科学的、技術的、社会経済的文献の評価に基づき、特別報告書の主な調査結果を提示するものです。
特別報告書『1.5°Cの地球温暖化』(SR15)政策決定者向け要約は、http://www.ipcc.ch/report/sr15/ または www.ipcc.chで入手できます。
特別報告書『1.5°Cの地球温暖化』 主な統計
40カ国に居住し、44カ国に市民権を有する91人の執筆者
- 調整役代表執筆者(CLAs)14人
- 代表執筆者(LAs)60人
- 査読者(REs)17人
寄稿者(CAs)133人
引用参考文献6,000点以上
専門家と政府からの査読コメント計4万2,001件
(1次ドラフト1万2,895件、2次ドラフト2万5,476件、最終政府ドラフト3,630件)
さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。
IPCC Press Office, Email: ipcc-media@wmo.int
Werani Zabula:+41 79 108 3157またはNina Peeva:+41 79 516 7068
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編集者向け注釈
特別報告書『1.5°Cの地球温暖化』、通称SR15は、パリ協定に合意した2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の招請に応じて作成されたもので、第24回締約国会議(COP24)における「タラノア対話」の参考資料となります。タラノア対話では、パリ協定の長期目標達成に向けた前進に関する締約国の集団的取り組みの現状を把握するとともに、自国が決定する貢献の作成に役立つ情報提供を行います。承認された要約を含む特別報告書の詳細は、報告書のページでご覧になれます。特別報告書は、第1作業部会技術支援ユニットの援助を得て、3つのIPCC作業部会すべての科学的共同リーダーシップの下に作成されました。
IPCCとは
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に関連する科学的評価を担当する国連機関です。気候変動、その影響と将来的なリスクの可能性に関する科学的評価を政策決定者に定期的に提供するとともに、適応と緩和の戦略を提案することを目的に、国連環境計画(UN Environment)と世界気象機関(WMO)が1988年に設置しました。IPCCには195カ国が加盟しています。
IPCCによる評価報告書は、あらゆるレベルの政府に対し、気候変動政策を策定するために利用できる科学的情報を提供します。IPCCの評価は、気候変動に取り組むための国際交渉で重要な参考資料となります。IPCCの報告書は数段階に分けて起草、審査されることで、客観性と透明性が保証されています。
IPCCは、毎年発表される数千点の科学的論文を評価し、気候変動関連のリスクについて分かっていることと、分かっていないことを政策決定者に伝えます。IPCCは、科学界で合意が見られる点、意見の相違が見られる点、そしてさらに研究が必要な点を明らかにします。独自の研究は行いません。
IPCCはその報告書を作成するため、百人単位の科学者を動員しています。これらの科学者や担当者は、多種多様な背景から選ばれます。IPCC事務局の常駐スタッフはわずか10人余りです。
IPCCには3つの作業部会があります。第1作業部会は気候変動の自然科学的根拠を、第2作業部会は影響、適応および脆弱性を、そして第3作業部会は気候変動の緩和をそれぞれ取り扱います。また、排出量と除去量測定の方法論を開発する国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースも設けられています。
IPCC評価報告書は、3つの作業部会それぞれによる報告と統合報告書から成っています。特別報告書は、複数の作業部会にまたがる学際的課題の評価に取り組むもので、評価報告書よりも短く焦点を絞ったものとなっています。
第6次評価サイクル
IPCCは2015年2月の第41会期において、第6次評価報告書(AR6)の作成を決定しました。2015年10月の第42会期では、この報告書と、第6次評価サイクルで作成すべき特別報告書に関する作業を監督する新たなビューローを選出しました。2016年4月の第43会期では、AR6のほか、3件の特別報告書と1件の方法論報告書の作成が決定されました。
2006年の「国別温室効果ガス・インベントリーに関するIPCCガイドライン」の精緻化を図る方法論報告書は、2019年に発表される予定です。『1.5°Cの地球温暖化』に加え、IPCCは『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書』と『気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書』という、さらに2件の特別報告書を2019年に取りまとめることになっています。AR6統合報告書は、2021年に3つの作業部会からの報告を受け、2022年の前半にまとめれらる予定です。
IPCC報告書へのリンクを含め、さらに詳しい情報については、www.ipcc.chをご覧ください。
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原文(English)はこちらからご覧ください。
特別報告書の発表に関するグテーレス事務総長の声明はこちらからご覧ください。