潘基文(パン・ギムン)事務総長が訪日、福島へ
2011年08月12日
潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が2011年8月7日から9日にかけて、日本を公式訪問しました。前回の訪日からちょうど1年ぶり、5度目の訪問となりました。滞在中、潘事務総長は東日本大震災の被災地である福島県を訪れ、被災者の暮らす福島市内の避難所や高校を訪れて励ましのメッセージを伝えると共に、相馬市を訪問して津波による被災の現場を視察しました。
また東京では、菅直人総理大臣、松本剛明外務大臣、北沢俊美防衛大臣をはじめ、鳩山由紀夫前総理大臣、岡田克也民主党幹事長、近衛忠輝国際赤十字赤新月社連名総裁との会談を行いました。
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8月7日(日)夕方にニューヨークより成田空港に到着した潘事務総長一行は、そのまま東京駅経由で福島に直行しました。翌8日(月)はまず、高橋千秋外務副大臣の主催する朝食会に出席し、佐藤雄平福島県知事、佐藤憲保福島県議会議長と意見交換を行いました。地震と津波、原子力発電所事故などに見舞われた福島が復興に向けて取り組んでいる様子について説明を受けた事務総長は、「国連は日本政府と日本の人々、特に福島の被災者と共にあるという連帯を示すために福島を訪れた」と述べると共に、「日本人の平静さ、規律をもってこの危機を必ず乗り越えられる」と激励しました。そして、「日本は世界の中でも自然災害への備えが最も優れているが、今回の津波と原発事故の規模は非常に大きく、私たちはこの経験から将来に向けて更に何が必要なのかを学ばなければならない」としました。
-朝食会での事務総長の挨拶(英文)はこちら
今回の福島訪問は事務総長自身の強い要望で実現したものです。被災者と直接ふれあって激励し、国際社会は日本を支援するという気持ちを伝えることを何よりも大切にしたいと考え、訪問するに至りました。
朝食会を終えた潘事務総長一行は、福島市内のあづま総合運動公園に設けられた避難所を訪れました。体育館内に入った潘事務総長と潘敦沢夫人は、仕切りで区切られたブースを一つひとつ訪れ、被災者とひざを突き合わせて言葉を交わし、「国連も世界も皆さんを応援しています」と日本語で激励のメッセージを送りました。これに応えて被災者の方々からも笑みがこぼれるなど、和やかな雰囲気の中での訪問となりました。
次に訪れた福島県立福島南高等学校では、ブラスバンド部の演奏と共に総勢100名を超える高校生が事務総長を迎えました。同校は、福島第一原発が立地する双葉町の県立双葉高校サテライト校でもあり、避難を余儀なくされている双葉高の生徒も事務総長との対話に参加しています。はじめに、事務総長が「まずは福島代表の甲子園一回戦突破、おめでとうございます。なでしこジャパンのW杯優勝もおめでとうございます。同じアジア人としてとても嬉しいです」と日本語で呼びかけると、緊張した雰囲気が一気に解け、生徒たちからは驚きの声が上がりました。
そして事務総長は、「今回の東日本大震災で皆さんは大きな影響を受けました。しかし、日本は必ず立ち上がると信じています。皆で力を合わせてがんばってください」と激励しました。そして、対話にあたっては「国連事務総長として皆さんのために何ができるのか、国連が皆さんのために何ができるのか是非聞きたい。国連に持ち帰って世界のリーダーたちと話し合いたい」と述べました。事務総長は、福島第一原発の影響を調査するよう国連の諸機関に指示しており、9月にはハイレベル会合を開いて世界のリーダーとこの問題について協議すると述べました。
この後、生徒を代表して福島南高校の尾久千夏さん、双葉高校の渡邉美波さんが英語でスピーチを行い、震災と原発事故の影響によって生活が一変し困難に直面する一方、国内をはじめ海外からも多くの支援を受けたことへの感謝を伝えました。続いて行われた質疑応答でも活発なやり取りが行われ、予定時間を大幅に超えて対話が終了し、高校生から記念品として東北の伝統こけしと福島の郷土玩具あかべこが手渡され、事務総長からは国連のピンバッジがプレゼントされました。
-福島の高校生との対話での事務総長の挨拶(英文)はこちら
高校を後にした事務総長一行は、車でおよそ1時間半をかけ、甚大な津波被害を受けた相馬市原釜・尾浜地区へと向かいました。35度近い猛暑の中、海岸に降り立った事務総長は立谷秀清相馬市長、佐藤清孝新地副町長、相馬市応急仮設住宅組長会および消防団の代表らの出迎えを受けました。事務総長一行は犠牲者を悼む黙とうを捧げた後、市長の案内により、津波で住宅や商店が押し流され建物の土台だけが残る被災現場を視察しました。
その後、事務総長は現場に集まった大勢の取材陣を前にスピーチを行い、「津波による破壊の状況と失われた多くの命を思うと、その悲しみを表現する言葉が浮かばない。同時に、この困難を乗り越えようとする日本政府そして人々の決意、揺るぎない意志、回復力を目の当たりにして非常に勇気づけられた」と述べました。そして、「日本は必ず立ち上がると信じている。国際社会も国連も応援しています」と結びました。
続いて行われた質疑応答で、今後の原子力エネルギーの方向性について問われた事務総長は、「原子力エネルギーの安全利用については世界中で議論が行われている。原子力であれ、水力、火力、あるいは再生エネルギーであれ、それを決めるのは各国政府だ。しかし、福島第一原発の事故は地域的、国家的レベルで協力体制を築くことの重要性を認識する機会となった」と述べました。そして、9月22日に国連で開催予定の原子力の安全に関するハイレベル会合に菅総理が出席することを望んでいると話しました。また、「福島で地元の人々と触れ合って最も印象に残ったことは何か」との質問に答えて、「今朝、避難所で被災した方々と言葉を交わした際、困難に直面する人々が福島第一原発のような事故が二度と世界のどこかで起こることのないよう、日本政府と国連に対して真剣に訴える表情だ。本当に心を動かされる想いだ」と述べました。
-相馬市での事務総長のプレス発言(英文)はこちら
福島の被災地訪問を終えた潘事務総長と一行は同日夕方に東京に戻り、首相官邸において菅直人総理大臣と会談しました。会談後、記者団に対して事務総長は「絆(きずな)」という言葉を用い、被災した日本の方々と国連をはじめとする国際社会とが強い連帯で結び付いていることを強調しました。「地震、津波、原発事故という三重苦にあえぐ被災地の状況に大きな衝撃を受けたが、日本の人々の強い意志と立ち直ろうとする揺るぎない決意をじかに見て、日本はこの災害を克服できるだろうと確信した」と事務総長は述べました。
また、「特に災害のリスク軽減とその予防、および、原子力の安全基準の強化という面において、日本がこの震災から得た貴重な経験と教訓を国際社会と共に分かち合うという菅総理の言質に大いに励まされた」と語りました。9月22日に開催予定の「原子力の安全に関するハイレベル会合」に日本が積極的に参加することにより、会合を成功に導くことができるのではないか、と高い期待を表明しました。
潘事務総長は、注視すべき国際情勢として1,200万人に上る被害者が出ているアフリカの角(ソマリア)の人道状況の深刻さを指摘すると共に、日本政府がすでに行ってきた寛大な支援に加え、追加的支援を検討していることに感謝の意を表しました。また、この7月に独立を果たした南スーダンに対しては、日本政府が陸上自衛隊の施設部隊を派遣することを通して当地で展開する国連平和維持活動(PKO)を支援するよう強い期待を示しました。「ハイチの大地震の際には、日本の自衛隊が現地のPKOに派遣されました。自衛隊は主にインフラ整備に貢献し、国際社会に深く感謝されています。今回、アフリカの南スーダンに対して日本からの同様の支援が望まれている」と事務総長は述べました。
-菅総理大臣との会談後の記者発表(英文)はこちら
-菅総理大臣との会談について(日本文)はこちら(外務省ウェブサイトへ)
同日夕に松本剛明外務大臣との会談、共同記者会見、そして夕食会を行いました。そこでも菅総理との会談同様、東日本大震災から得た教訓を国際社会と共有する重要性、アフリカの角への支援、南スーダンPKOへの参加、そして原子力の安全性について活発な意見交換が行われました。その他の国際社会の主要な課題についても広範囲に両者の間で意見が交換されました。その後、鳩山由紀夫前総理大臣との懇談が行われ、事務総長の長い外交の一日が締めくくられました。
-松本外務大臣との会談後の記者発表(英文)はこちら
-松本外務大臣との会談後について(日本文)はこちら(外務省ウェブサイトへ)
訪日最終となる9日(火)、出発直前までの短い間に北澤俊美防衛大臣、岡田克也民主党幹事長、近衛忠輝国際赤十字連盟総裁との会談を行いました。特に防衛大臣との会談において事務総長は再度、南スーダンに対して陸上自衛隊員の派遣を強く要請しました。その後、事務総長は訪日を終え、羽田空港から次の訪問地となる韓国に向けて離日しました。
今回の訪日は、6月に潘氏が事務総長として2期目を確実にした直後に実施されたもので、再任にあたって日本政府の強い支持を得たことに感謝を示しました。こうした中、潘事務総長が国連そして国際社会を代表する形で被災地福島県を訪問したことは大きな意義があるといえます。特に、福島県知事、相馬市長、高校生や避難している被災者の方々との交流を通して、震災の被害が深刻であるにも関わらず、復興に向けて前進する人々の熱い思いを事務総長は共有することができました。
また、東京では政府要人との会談において、日本政府の復興への固い決意に心を動かされたと事務総長は述べています。国連は、災害のリスク軽減とその予防、および、原子力の安全基準の強化という面で、日本が東日本大震災で得た経験と知見を国際社会と共有する上で貢献できると考えています。
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