ファクトシート:ミレニアム開発目標
プレスリリース 02/091-J 2002年10月10日
2015年までに達成すべきミレニアム開発目標 極端な貧困と飢餓を半減させること 初等教育の完全普及を達成すること 女性のエンパワーメントを図り、男女の平等を促進すること 5歳未満の死亡率を3分の2低下させること 妊産婦死亡率を4分の3低下させること HIV/エイズとマラリアをはじめとする致死病の蔓延を逆転させること 環境の持続可能性を確保すること 援助、貿易および債務救済の目標を伴った開発のためのグローバル・パートナーシップを構築すること |
2000年9月の国連ミレニアム・サミットで、世界の指導者たちは、貧困、飢餓、病気、非識字、環境破壊および女性差別と闘うため、期限付きの測定可能な一連の目標と目標値に合意しました。グローバルな課題の中心に据えられたこれら目標は、今では「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals = MDG)」と呼ばれています。同サミットでのミレニアム宣言もまた、人権、よい統治および民主主義をさらに重視しながら、合意された今後の進むべき道のりを示しました。
今年、メキシコのモントレーで開催された国際開発資金会議では、先進国、途上国双方の指導者が、これらの誓約に見合った資源と行動を提示し始め、開発途上国による持続的な政治・経済改革に応じて、先進国が援助、貿易、債務救済および投資の形で直接的支援を提供するというグローバル取り決めが緒に就きました。
MDGは、国連システム全体が共通の目標に向け、一致団結して取り組むための枠組みを提供するものです。UNDPのグローバルな開発ネットワークは、国連開発グループ(UNDG)を構成するその他の機関と協力しながら、これらの取組みを中心となって進めています。事実上、あらゆる開発途上国で実地に活動するUNDPは、変革を唱道し、各国を知識および資源と結びつけ、各国レベルでのさらに幅広い国連の取組みの調整を助ける上で、独特の立場にあります。
世界はMDGに向けて前進してはいますが、その足取りは一様でなく、また、あまりにも遅いものです。大多数の国々は、唱道、専門知識、資源など、外部から多くの支援を受けなければ、MDGを達成できないでしょう。先進地域・途上地域を問わず、国際社会にとっての課題は、資金援助と政治的意志を動員すること、政府を再び関与させること、開発の優先課題と政策の方向転換を図ること、能力を建設すること、および、市民社会と民間セクターのパートナーに手を差し伸べることにあります。
国連のコフィー・アナン事務総長はUNDPのマーク・マロック・ブラウン総裁に対し、UNDG議長として、MDGキャンペーンおよび各国レベルでの監視活動を調整するよう要請しました。このことはUNDPにとって、4つの重要な側面での活動を意味します。
各国の優先課題を支援する実務的援助:UNDPはUNDGを通じ、各国が明らかにした優先課題に応じて、国内レベルでの国連システムの活動の全側面にMDGを組み込む手助けを行っています。UNDP自体の職員は、その他国連機関の職員、および、着実な拡大を続けるパートナーの輪との関係を深めながら、開発途上国が目標達成に到る自らの道のりを描く上で、政策とプログラムの立案、能力建設および革新的措置のテストを行うための実務的な助言と援助をこれらの国々に提供しています。
私たちとしては、貧困の削減、民主的統治、危機防止と復興、エネルギーと環境、情報通信技術、および、HIV/エイズの諸課題に関する各国による解決策の構築と共有を助けることに主眼を置いています。
監視:UNDPは国連システムのその他機関、OECD/DAC、ならびに、多くの場合は世界銀行および国際通貨基金とも協力し、各開発途上国に関するMDG報告の作成を支援しています。各国政府、民間セクターおよび市民社会の協力の産物であることが多くなっているこれらの報告は、各国について目標達成のめどがついているのはどの点か、どの点で緊急な取組みが必要とされているか、および、どれだけの資金が費やされたかを明示するものです。すでに9件のMDG報告が完成し、2002年末までにさらに約40件が作成予定であるほか、2004年末までには、ほとんどすべての開発途上国が初回の報告を作成する見込みです。これらの国別報告書は、国連事務総長のミレニアム目標に関するグローバルな報告を補完し、かつ、その基礎となる情報を提供するものとなります。第1回の事務総長報告は、2002年9月に発表予定です。
研究の指導役:UNDPは「国連ミレニアム研究プロジェクト(United Nations Millennium Research Project)」の立上げを行っているところです。このプロジェクトは、先進国および途上国の学識者のネットワークを動員し、国連システム内部の専門家と協力してもらうことで、新たな研究とアイデアをもたらすものとなります。MDGに関する事務総長特別顧問を務めるジェフリー・サックス教授を長とするこのグローバルな取組みは、各国がすべての目標を達成するための政策、能力の拡充、必要とされる投資およびその資金調達という点で、何が必要かを見極める一助となります。
唱道:UNDPは国連システムおよび国際・市民社会パートナーと協力しながら、各国の戦略と各国のニーズに基づき、国内における唱道と啓発を図る一連の「ミレニアム・キャンペーン」を推進しています。先進国でのキャンペーンは、MDGの達成に必要な開発援助、貿易、債務救済、技術およびその他の支援を後押しする手段として、世論の啓発と喚起を主眼としています。開発途上地域では行動に向けた連合を構築するとともに、政府が優先課題(予算上の優先課題を含む)を設定し、より効果的に資源を利用する手助けを行うことが狙いとなっています。
Q&A:ミレニアム開発目標
MDGとは何ですか。
- MDGとは、1990年代の国際会議と世界サミットで合意された開発目標をまとめたものです。90年代を終えるに当たり、世界の指導者たちは、主要な目標と目標値を選りすぐり、2000年9月に「ミレニアム宣言」を採択しました。
- こうして新たに設定された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)」には、8つの目標、18の目標値および40以上の指標が盛り込まれています。ミレニアム開発目標に対する政治的な支持は普遍的で、189カ国が支持を表明しています。国連総会は事務総長の「ミレニアム・ロードマップ」の一環として、これら目標を採択しました。
- 1990年から2015年にかけて達成すべきMDGには、以下が含まれています。
- 極端な貧困と飢餓を半減させること。
- 初等教育の完全普及を達成すること。
- 男女の平等を促進すること。
- 5歳未満の死亡率を3分の2低下させること。
- 妊産婦死亡率を4分の3低下させること。
- HIV/エイズ、マラリアおよび結核の蔓延を逆転させること。
- 環境の持続可能性を確保すること。
- 開発のためのグローバル・パートナーシップを育成し、援助、貿易および債務救済に関する目標値を設けること。
2015年までにMDGを達成するめどはついていますか。
- 1990年以降の貧困動向から単純に推測すれば、2015年までに世界が所得による貧困を半減させるめどはついているといえるでしょう。しかし残念なことに、現実はより複雑であり、これほど満足できるものでないことは確かです。中国を除けば、必要とされる進歩の半分も達成されていないのが現状です。所得による貧困層は、サハラ以南アフリカ、南アジアおよびラテンアメリカ合計で、1990年以降、毎年約1,000万人ずつ増加しています。
- 現在のところ、1日あたり1ドル未満で生存を強いられている人々は12億人に上ると見られますが、この数は10年前とほとんど変わっていません。
- その他の目標に向けた進捗状況も一様ではありません。1990年には、2000年までに「万人に教育を」という目標が設定されました。教育における男女格差が半減したというのはよい知らせですが、1990年代には必要とされる進歩の10分の1しか達成されなかったという悲しい現実もあります。目標達成期限が2015年に延期されたのも無理からぬことです。しかし、前進の速度を4倍に加速しない限り、現在のペースでは、すべての子どもに教育を確保するというこの約束も達成されないでしょう。
- 安全な水を利用できない人々を2015年までに半減させるという目標については、達成のめどがついているものの、最近の統計を見ると、人口増加、浪費、都市化および産業汚染により、この進歩が持続できない可能性もあります。
- 幼児・妊産婦死亡率、栄養不足、安全な飲料水へのアクセス、および、十分な衛生設備に関する進歩も、それ以前の数十年間に比べ、1990年代にはそのペースを落としています。エイズの蔓延、他の病気の復活(マラリア、結核など)、および、保健サービスの破綻により、1990年代に状況は急激に悪化したのです。
MDGは達成できるものなのですか。
- はい。金銭的にも技術的にも実現可能です。しかし、一部の国については、開発援助の大きな増額、政策の改善、および、制度の強化が必要です。
- 開発途上国については、基本的社会サービスへの投資不足、および、あまりにも視野の狭い公的措置により、状況が悪化していることが多くなっています。基本的社会サービスは、基礎教育、プライマリー・ヘルス、リプロダクティブ・ヘルス、栄養、水および衛生の総合的パッケージから構成すべきです。
- 最貧国が追加的な国際支援なしにMDGを達成できると考えるのは非現実的です。サハラ以南アフリカはさらに進歩から取り残されています。また、HIV/エイズも人間開発を根底から損なっています。
MDGには経済性があるのですか。
- 低所得国での人間開発投資は、極めて高い収益を上げます。劣悪な健康、栄養の不足、低い教育水準、安全な水へのアクセス不足、および、しばしば急激な人口増加により、貧困の罠にはまる経済が多くなっています。最貧国の多くは、内陸国や小島嶼国であること、世界市場から離れていること、熱帯病、極端な環境破壊、気候変動など、極端な地理的制約を受けています。
- 人為的なもの、物理的なものを含め、これらさまざまな諸条件により、民間の資金フローと外国直接投資は概して、多くの低所得地域を素通りしてしまいます。各国をこの貧困の罠から解き放つためには、追加的な援助が必要となるでしょう。
- 人間開発投資は、MDGに向けた進歩を加速するとともに、経済成長を刺激し、雇用を創出し、人々の生産性を向上させ、追加的な税収をもたらします。これにより、マクロ経済の安定という目標の実現可能性は高まります。MDGは高い経済性を有しているのです。
資金不足は解消できるのですか。
- ユニセフ、世界銀行および世界保健機関(WHO)によるコスト推計によれば、2015年までにほとんどのMDGを達成するためには、開発援助を毎年500億ドルずつ増額する必要があります。これは現在の援助額の倍増を意味します。
- 絶対額からすれば、この数字は大きな額に見えるかもしれませんが、援助国における所得の0.2%程度に過ぎません。
- 貧困を克服し、数百万人の健康、寿命および生産性の向上を可能にするという意味での恩恵を考えれば、MDGは優れた投資機会を提供するものといえましょう。
政府開発援助(ODA)と債務救済は状況を変えることができるのですか。
- 開発ニーズに沿った援助は効果的です。カーター・センターの支援による疾病予防プログラム(トラコーマ、ギニア虫症、オンコセルカ症、住血吸虫病など)、天然痘とポリオの根絶、および、予防接種普及キャンペーンといった例が示すとおり、保健プロジェクトは次々にこのことを証明しています。
- 特に後発開発途上国にとって、ODAと債務軽減は不可欠です。ODA総額は現在、先進国の国民総所得合計の0.7%という合意された目標値の3分の1に過ぎません。不足額は年間約1,250億ドルに及んでいます。目標値を達成していない国々が過半数を占める中で、デンマーク、オランダ、ノルウェーおよびスウェーデンはそれぞれ、国民総所得の0.7%を拠出しています。
- 30カ国を超える開発途上国の歳出に関する最近の調査によれば、その3分の2は、基本的社会サービスよりも債務返済により多くを費やしています。中には、債務返済のほうが3倍から5倍も多い国があります。サハラ以南アフリカでは、国民に対する社会的義務を果たすよりも、外国の債権者に対する金銭的約束を果たすほうに約2倍の資金を割り当てている政府があります。債務返済は国家予算の3分の1から半分を占めることが多く、マクロ経済の安定という目標の実現を困難にしています。
- 重債務貧困国(HIPC)イニシアチブは引き続き、債務危機解決の最有望策となっていますが、その実施の足取りは極めて重くなっています。イニシアチブ自体をより広く深いものとすべきです。1999年には拡大HIPCイニシアチブが発足しました。HIPC支援の最初の裨益国となったウガンダが、この債務の配当を基礎教育とエイズ孤児に分配していることは、心強い限りです。私達は、債務の持続可能性が、現実的な人間のニーズ、特に各国がMDG達成に必要な資源を動員できる能力に照らして測定されるようにする必要があります。
援助よりも貿易が重要ではないのですか。
- その通りですが、2つはともに必要です。農業、衣料および繊維など、貧しい国からの輸出品の豊かな国の市場に対するアクセスは、成長を加速し、雇用を促進することによって、人間開発の促進と貧困の削減につながります。しかし、貿易の活発化はそれ自体、最貧国による目標の達成を可能にするために十分な資源を生み出すものではありません。
- 保健、教育および環境という重要分野に取り組むためには、さらに多額の資金が必要となるでしょう。資金の増額がなければ、最貧国が保健・教育サービス、衛生と水、および、その他の重要課題のニーズを充足することは不可能なのです。
- 繊維・衣料および農産物加工品など、最貧国の特定的な優先関心分野では、市場が依然として閉ざされています。例えば、ガーナがヨーロッパにココア豆を輸出する場合に関税はかかりませんが、加工済みチョコレートを輸出しようとすると25%以上の関税がかかります。このため、食品加工拠点はヨーロッパへとシフトし、ガーナでは、貧困から抜け出すための製造業の基盤が育たないのです。
- 人的・制度的能力は、各国が自由貿易から受益するために必要とされる補完的要素です。貧困国にはこれら要素が欠けていることが多いため、民間資本の流れと外国直接投資が増大を続けたとしても、「貿易のための援助」は引き続き重要となるでしょう。
各国には、追加的資金を取り扱うのに十分な能力があるのですか。
- 貧困国による目標達成を確保するには、資源があれば十分とは考えられませんが、援助国からの資金提供は、資源を効果的に利用する能力を強化する上で、重要な役割を果たすことができます。政府、援助国および市民社会とのパートナーシップにより、UNDPが多くの国々で行っている活動は、この点を重視しています。
- 人的・制度的能力を強化する必要があります。効率的かつ公平に税を徴収し、予算上の優先事項がMDGを反映しながら実際の支出に影響を与えることを確保し、ジェンダーを考慮した予算作成を行い、援助と国内および地方の優先課題との整合を図るためにはいずれも、強力な国家能力が必要です。これらは政治的な目標であると同時に、多額の資金を必要とする管理ニーズでもあります。援助国からの支援はサービス提供を劇的に改善するとともに、これらの国々がその状況改善に力を集中させる助けとなりえます。
ミレニアム開発目標国別報告(MDGR)とは何ですか。
- UNDPは、その他国連機関と協力しながら、各国政府が主導する取組みを支援し、市民社会と民間セクターを関与させることにより、各国レベルでのMDGの監視を支援しています。これは、国別報告が前進の加速に貢献し得ることを前提としています。グローバルな目標値の設定と国内的優先順位の設定との関連づけが不十分であることから、国別報告はMDGをグローバルなレベルから各国レベルに転換させる助けとなることができるのです。
- ミレニアム開発目標国別報告(MDGR)の目的は、各国による世論の啓発を支援すること、重大な開発課題にまつわる研究、学問および討論を促進すること、より強力な連携を構築すること、政治的公約を新たにすること、ならびに、貧困国と援助国が成功に必要な深くよりよい資金供与と信頼のパートナーシップを構築する手助けをすることにあります。
- MDGRは、国内での議論の焦点を具体的な開発優先課題に絞る手助けとして、進捗状況を一目でわかるように示すものです。これにより、政策改革、制度的変革および資源配分という点での行動が促されることになります。
- この報告は主としてメディアと一般市民向けに作られています。MDGRは、メッセージを平易な表現で迅速に伝達する簡潔で読みやすい報告書を目指しています。また、各国レベルでのさらに詳細な分析を促すものともなるでしょう。MDGRは、各国の報告負担を最低限に抑えるため、各国共通アセスメント(Common Country Assessments)、貧困削減戦略ペーパー(Poverty Reduction Strategy Papers)あるいは国内人間開発報告(National Human Development Reports)など、既存の報告書をたたき台としています。
- これまで、ボリビア、カンボジア、カメルーン、チャド、マダガスカル、モーリシャス、ネパール、セネガル、タンザニアおよびベトナムの10カ国に関するMDGRが発表されています。これらの報告は、MDGに向けた進展がまちまちであることを確認するものです。2002年末までに、ほぼ40件の報告書ができ上がることになっています。計画としては、2004年末までに、各国少なくとも1件ずつの報告が出揃う予定です。
なぜグローバルなMDGキャンペーンを行うのですか。
- 唱道のために必要な単純なメッセージ(1日1ドル未満で暮らす人々の数など)と、より複雑な貧困の現状との格差を埋めるためには、グローバルなキャンペーンが必要です。「紙切れに書かれた目標」を数百万人の人々にとっての現実とするためには、世論の関心と行動の焦点を、貧困削減と人間開発に絞り込む必要があります。
- このキャンペーンの目的は、世界の関心と行動の焦点をMDGに集めることにあります。先進国でのキャンペーンでは、明確な結果証拠に基づき、援助と緊急債務救済を呼びかけること、援助をMDGに関係のある部門とサービスに配分させるようにすること、および、開発途上国、特に後発開発途上国に対し、市場をより広く開放することを主眼とします。
- 開発途上国でのキャンペーンは、国内の資源を動員すること、MDGに従って歳出に優先順位をつけること、ならびに、ミレニアム宣言に規定されるとおり、人権、民主主義およびよい統治を強化することを主眼とします。これらの目標はそれぞれ、各国の事情と対象集団に配慮した形で達成を目指さなければなりません。キャンペーン活動を各国特有の事情に応じて調節することは絶対に不可欠です。
- 2015年まで続く「継続的キャンペーン」は、国内およびグローバルなレベルでの政治的・知的議論を変容させ、MDGを最優先課題とする一助となること、根拠に基づいて、目標達成の方法に関する事業計画を策定すること、保健と教育への支出がもたらす膨大な利益の実証により、このような支出増大の賢明な支持層を作り上げること、ならびに、MDGの一環として公平性と人権を重視することを目指します。
- 1日1ドル以下の貧困を終焉させるといった単純なスローガンで取組みを始めることはできますが、キャンペーンを維持し、政治的議論、すなわち公共政策の優先順位を変容させるためには、20世紀初頭の英国におけるラウントリーの例にならい、事実と調査結果を詳細に見極め、MDGに関する学術的、公共政策的および政治的議論を喚起しなければなりません。これが成功すれば、キャンペーンはすぐに当初の単純性を脱し、私達が全力を傾けることで、どれほど素晴らしいことが達成できるかを世界に証明することでしょう。