この人に聞く:ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを担当する、プムズィレ・ムランボ=ヌクカ UN Women 事務局長
2014年03月07日
2014年3月7日-プムズィレ・ムランボ=ヌクカ氏は、2013年8月19日にUN Womenの事務局長に就任し、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを推進する国連の活動の主導役として2010年に創設されたこの機関の2代目のリーダーとなった。
南アフリカ共和国出身のムランボ=ヌクカ氏は、1983年からNatal Organization of Women(ナタール女性組織)の初代会長を、2005年から2008年にかけては南アフリカ初の女性副大統領を務めた、女性リーダーの先駆け的存在である。2008年には、貧困地域の教育を改善するため、Umlambo Foundation(ウムランボ財団)を設立した。
UN News Centreは、国連女性の地位委員会(CSW)第58回会合の開催直前に祝われた2014年国際女性の日の前日に、ムランボ‐ヌクカ氏にお話を伺った。CSWは今年、女性の前進のための北京行動計画の見直しを開始し、2000年から国際的な開発努力の指針となってきたミレニアム開発目標(MDGs)が2015年に期限を迎える後の女性の目標について議論を行う。
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UN News Centre:事務局長に就任されてから今回が初めての国際女性の日となりますが、この日は事務局長にとって個人的にどのような意味がありますか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:そうですね、今年の国際女性の日は、MDGsの期限が近づき、ポスト2015年開発アジェンダの検討が行われる時期に開催されるという意味で、特に重要な機会と言えます。変化をもたらす時、大きな、そして大胆な決断を下すべき時です。
私個人としては、ようやくここまで来たかという思いがあります。活動家としての経験を通じて、私はジェンダーによる抑圧のあり方に現場で取り組み、これを理解することができました。女性組織に参加してその基本方針の強化に携わるとともに、さまざまな機関と関わることで、例えば女性議員数の拡大を推進するイニシアティブなどを通じて多くのものを得ることができました。もちろん望みがすべて実現したわけではありませんが、活動の過程で多くのことを学びました。
こうした経験の中で得られた教訓は、関与し、積極的に取り組むことが重要だということです。関与することによって私は、女性たちの闘いに男性を本格的に巻き込むことの重要性に気づきました。また、ジェンダーの問題に対処する立法を行う政府に加わったことも、私にとって重要な経験でした。それらの法律が女性に与える影響と波及効果をこの目で見ることができたのです。
女性たちが自らこの日を祝うことも重要ですが、仲間内での啓発だけに終わらせず、外に出て行って、私たちの闘いを支持してくれる仲間をさらに増やすことも重要です。
UN News Centre:活動家と言われましたが、南アフリカのアパルトヘイト政策に対する反対運動のことですね?
ムランボ=ヌクカ事務局長:そうです。アパルトヘイト反対運動には、ジェンダー平等を求める運動も含まれていました。それは人種差別をめぐる闘争であるとともに、ジェンダーや階級に基づく抑圧をめぐる闘争でもありました。これらすべての問題を同時に見据える能力が常に求められるのです。
UN News Centre:現在までにどのような進展がありましたか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:この日を迎えることができたのは、1900年代の労働運動に参加した女性たちのおかげです。彼女たちはパンを求めて、また、より良い労働条件や平和を求めて闘いました。そしてどうでしょう? 私たちは今また、同じものを求めて違う方法で闘っているのです。私たちは今再び、現代の闘いに全力を尽くしています。例えば、女性は依然として経済活動のピラミッドの底辺に位置しており、女性の多くはあいかわらず非正規・低賃金の仕事についているため、私たちは今、ディーセントワークを求めて闘っています。
私たちはさらに、女性が同一価値の労働に対して同一の賃金を受けられるよう求めていますが、お年寄りや子どもの世話など、家庭での無償労働の多くは依然として女性が担っています。つまり女性たちは、労働市場に参入することも、正規経済に参加することもできずにいるのです。ですから私たちはある意味では、今も同じものを求めて運動しているのです。紛争国の女性たちは、平和を求めて運動しています。また女性たちは、女性に対する暴力をなくすための運動をしています。家庭の中や外で暴力を受けている限り、女性たちは安らかに暮らすことができないのです。
UN News Centre:今年のテーマは、「Equality for women is progress for all(女性が平等を享受することは、全ての人々にとっての前進である)」というものですが、このテーマについて少し説明していただけますか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:わかりました。女性にとっての前進はあなたにとっての前進です。なぜなら、中等学校を卒業する女性が増えれば、乳児死亡率は大幅に低下します。また、女性農業従事者に同じ物資(肥料や機械)が提供されれば、食料生産高は大幅に増加し、より多くの人々に食料が行き渡るようになるということが明らかになっています。
また、上級職に女性を置き、彼女たちの全面的な関与を促している企業は、競争力と収益性において他社よりもはるかに秀でているということもわかっています。事実、フォーチュン500にランキングされている企業のうち、上述したような企業は株主への利益還元の面で、競争力が他社に比べて34%高いと言われています。このように、女性を全面的に関与させることは、実際に目に見える影響をもたらします。女性にとってだけでなく、影響を受けるすべての人にとって、状況が改善するのです。
UN News Centre:全体として、ジェンダー平等に向けた現在の進捗状況はどうですか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:まちまちといったところです。進展はありましたが、非常にむらがあります。例えば、女性議員の数は増えました。この10年足らずの間に、女性議員の割合は10人中1人から5人中1人にまで増加しました。まだあるべき姿とは言えませんが、大きな進歩です。同時に、ルワンダなどの国では特に大きな進展が見られており、同国では議員の半数以上が女性です。もちろんこれは珍しい例です。また、学校に通っている女子の数も増えましたが、依然として男女ともに非常に多くの子どもたちが学校に通っていません。職場でも上級職に就く女性の数は増えましたが、やはりまだあるべき姿には到達していません。このように、現状はまちまちです。
UN News Centre:UN Womenは、さらなる進展を妨げるものに対して、どのように取り組もうとしているのですか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:一部の障壁については、UN Womenの標準的な活動、すなわち私たちが提唱する政策、私たちが安全保障理事会や国連総会で推進する決議、その決議に基づいて国レベルで制定される法律、その法律を実施できるよう各国政府を支援するUN Women国別事務所の働き―こうした標準的な活動を通じて取り組みます。UN Womenは、ジェンダーに対応する予算の策定について、各国政府を積極的に支援しています。関連省庁に専門家を派遣し、支援にあたらせています。また、例えば女性に対する暴力が多発している国など、さまざまな国での政策提言にも加わっています。それぞれの国で何ができるのかということを考慮しながら、さまざまな方法で活動を進めています。
UN News Centre:男性の態度やいわゆる「伝統的価値観」は、UN Womenの取り組みにどのような影響を及ぼしますか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:非常に大きな影響を及ぼします。その一因は、おそらく私たちが男性を十分に巻き込んでいないということにあるでしょう。女性たちが運動を主導し、非常に大胆で非常に勇敢です。しかし求められる変化、すなわち女性の人権の尊重は、女性だけが責任を負うべきものではありません。ですから男性を動員し、巻き込む必要があるのです。女性は世界人口の半数以上を占めると言いますが、ということは残りの半数は男性です。その半数を放っておくわけにはいきません。
私たちは男性にこの問題を自分のこととして考えてほしいのです。男性たちに私たちを助けてくれるように頼んでいるのではありません。彼らは自分たちのするべきことをしなければならないのです。男性が突如として女性の組織に参加するということではありません。男性には男性の組織を率い、自分たちの考え方について相互に意見をぶつけ合ってもらいたいのです。男女平等を支持する男性の意見に耳が傾けられ、彼らの声が、男女平等を支持しない男性たちの声をはるかにしのぐようになってもらいたいのです。大半の男性はより良い世界を望んでいるに違いありませんが、女性にとっての前進がすべての人にとっての前進だということを理解していない人もいます。ですから対話をさらに進め、これはすべての人に勝利をもたらす闘いであるということを絶えず訴えていかなければなりません。
UN News Centre:北京行動計画がまもなく20周年を迎えますが、この機会をどのように生かしていく予定ですか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:このプロセスの一環としてすべきことは、(各国政府が)自国でうまくいったこととうまくいかなかったこと、格差の見られる分野、異なる方法で取り組む必要のあるものを正確に評価することです。その後で、私たちが取り組みをさらに強化するとともに、格差の縮小により一層注力できるようにします。私たちは各国に対して、全国的・地域的評価を実施し、達成した進展についての総合的な報告書を作成するよう要請しています。そして私たちはすべての地域の報告書をまとめて、(1995年の)北京会合以降、世界で何が起こり、今後何が改善できるかを示した包括的な報告書を作成する予定です。私たちは改善可能な分野にもう一度取り組み、力を注ぐ必要があります。その一つが、女性に対する暴力です。
UN News Centre:ポスト2015の女性に関する目標において、変えなければならない点は何でしょうか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:権利の側面を強化する必要があります。MDGsでは、開発の側面ほどに権利の側面は重視されませんでした。また、平等を妨げる構造的障壁にも取り組む必要があります。私たちがどれほど努力しても、基盤となる構造がジェンダー不平等の再発を生み続けているのです。例えば、家父長主義については、私たちはまだあまり力を入れておらず、これに関連した政策もありません。これは人々の心に訴える必要のある問題、価値体系に関わる問題であるため、容易ではありません。しかし私たちはこれらの問題について話し合い、一層具体的に立ち向かうことで、再発を防ぐ必要があります。また、女性の生活の質を改善する機会へのアクセスにかかわる法律の実施にも取り組む必要があります。
UN News Centre:最後に、大人になろうとしている女性に向けて、女性の前進をとりまく現在の状況についてどのようなことを伝えたいですか? 何かアドバイスはありますか?
ムランボ=ヌクカ事務局長:女性たちにとって、目の前にある機会をつかむことが重要だと私は思います。若い女性たちはもっと長く学校に通わなければなりません。子どもを育てる金銭的余裕ができ、子どもの世話ができるようになるまで、子どもを持つべきではありません。自己主張し、恐れることなく意見を言い、参加することです。なぜならこの世界は男性のものであるのと同様に、女性のものでもあるからです。ポスト2015アジェンダに含めたいと私たちが考えているジェンダー平等に向けた目標の一つは、若い女性が、新たな制度の恩恵を受けるだけでなく、その主体となって大きな役割を果たすことです。
UN News Centre:国際女性の日を迎えるにあたり、メッセージをお願いします。
ムランボ=ヌクカ事務局長:女性たちが自らこの日を祝うことも重要ですが、女性同士での話し合いや仲間内での啓発だけに終わらせず、外に出て行って、私たちの闘いを支持してくれる仲間をさらに増やすことも重要だと思います。
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