この人に聞く:人権を担当する、イワン・シモノビッチ国連事務次長補
2014年09月24日
2014年9月24日 ― 国連総会年次閣僚会議の開催にあわせて相次いで実施される一連のイベントの一つとして、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、死刑廃止に必要な政治的リーダーシップに重点を置きながら、加盟国間の議論に情報を提供することを目的としたハイレベル・イベントを主催する。
9月25日に開催予定のこのイベントの司会を務めるのは、2010年に国連人権担当事務次長補に就任し、ニューヨークのOHCHR事務所のトップを務めるイワン・シモノビッチ氏である。
元ザグレブ大学法学教授のシモノビッチ氏は、現職に就く前はクロアチアの法務大臣を務めていた。それ以前は、外務省次官とニューヨーク国連本部のクロアチア政府常駐代表を務め、2001年から2003年にかけて国連経済社会理事会の副議長と議長を歴任した。
死刑廃止の強力な支持者であるシモノビッチ氏は、「21世紀においては、人の生命を奪う権利は、市民と国家の間の社会契約にもはや含まれない」と述べている。国連本部で開催されるハイレベル・イベントに先立ち、シモノビッチ氏はこの問題に関する自身の考えを UN News Centre に語った。
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死刑は非人間的な刑罰とみなされており… その抑止効果は証明されていない。
UN News Centre:今回のハイレベル・イベントで、OHCHRは “Moving away from the Death Penalty, Arguments, Trends and Perspectives”(死刑廃止をめぐる議論、傾向、および展望)と題した出版物を新たに発表します。まずは議論についてお聞きします。なぜ死刑を廃止するべきなのでしょうか?
シモノビッチ事務次長補:一つ目の理由は冤罪の可能性です。法制度には間違いが付き物です。死刑にしてしまってからでは取り返しがつかないため、とても容認できません。二つ目は、かつて取りざたされていた抑止力の問題です。「かつて」とする理由は、死刑に抑止効果があることを示す信頼できる証拠は一切ないということが、今では科学的に十全に証明されているからです。
三つ目は、差別の問題です。死刑にされているのはどのような人々でしょうか? その多くは社会的弱者です。死刑にされる人々はほとんど例外なく貧しく、大半がマイノリティ、すなわちその国の少数民族や移住者です。ですからその意味でも、死刑の適用は全く正義に適いません。
被害者やその家族のための報いとして死刑は必要だという主張をよく耳にします。しかし実際のところ、それは違うようです。多くの被害者は報復ではなく、和解を望んでいます。そして報復を望む人々も、実際には報復を遂げられずにいます。なぜなら、誤審や冤罪を避けるためにはとてつもなく長い訴訟手続きが必要で、ほとんどの法制度においては最終的に死刑になる人はごく少数だからです。例えばここ米国では、意図的な殺人のうち、加害者が死刑となるのは1パーセント未満です。ですから報復を望んだとしても、被害者や被害者家族の99パーセントは思いを果たすことができずに終わるのです。
そして最後に、人権の問題があります。現代の民主主義社会においては、人権の発展に伴い国権が縮小し、国家にはもはや国民を苦しめたり屈辱を与えたりする権利がありません。ですから人権の観点から見ても、死刑は容認できないという時代になっているのだと思います。
UN News Centre:加盟国においてこの種の刑罰の廃止を妨げている障害は何でしょうか?
シモノビッチ事務次長補:一部の加盟国は、固有の理由があるから死刑の存続が必要である、と主張しています。テロとの闘いのために、または麻薬密売との闘いのために死刑が必要だと考えている国もあります。しかし、繰り返しになりますが、死刑に抑止効果があることを示す決定的な証拠はないのです。一部の加盟国は、世論が死刑を支持していると主張しています。しかしそれはリーダーシップの問題です。
このため、私たちは9月25日に、死刑廃止に大きく貢献した3人の偉大なリーダー、すなわちベナン、モンゴル、チュニジアの各国大統領を迎えてイベントを開催します。ベナンは、死刑廃止を推進しているアフリカの国です。モンゴルでは、大統領の主導により死刑が廃止されました。その大統領がパネルディスカッションに参加します。また、チュニジアの大統領も同じく死刑廃止を主導しており、今回のイベントに参加します。
また、OHCHR、ならびに欧州理事会議長を務めるイタリア首相が出版物を発表する今回のイベントを主催します。
UN News Centre:今回のイベントには、まだ死刑を行っている国の代表も出席しますか? それとも、すでに廃止している、または廃止に動いている国の集まりに終わるのでしょうか?
シモノビッチ事務次長補:まあ、様子を見ることにしましょう。死刑を実施している国の代表も参加してくれることを期待します。自分たちの国でどのようにして死刑廃止にこぎつけたのか、その経験を仲間たち、すなわち国や政府の最高レベルの指導者たちや大臣たちと共有したいと考える大統領が地域をまたがって集まるという事実は非常に重要だと私は思います。これはいわば、同じ立場にある者の体験共有の場であり、これまでに開催された死刑関連のイベントの中で最もハイレベルなものです。
死刑にされる人々はほとんど例外なく貧しく、大半がマイノリティ、すなわちその国の少数民族や移住者です。ですからその意味でも、死刑の適用は全く正義に適いません。
UN News Centre:現在、時代の流れは死刑廃止へと向かっているのですか? また、それはなぜだと思いますか?
シモノビッチ事務次長補:まさにその通りです。第二次世界大戦の頃の状況と比較すると、当時は死刑を廃止した国はわずか8カ国しかありませんでしたが、現在では法律で死刑が廃止されている国が98カ国、法律上または事実上死刑が廃止されている国が160カ国となっています。ですから、時代の流れが死刑廃止へと向かっていることは明らかです。死刑は非人間的な刑罰だと考えられています。また死刑は人権の侵害とみなされており、これを正当化する現実的な根拠はなく、抑止効果も証明されていません。
死刑を行うことでコストの削減になるという主張が通用するのは、死刑に異議を申し立てるための法的手続きがしっかりと整備されていない場合のみです。例えば米国では、仮釈放なしの終身刑よりも死刑執行の方がはるかに多くの費用が掛かります。ですから、この主張も成り立ちません。
しかし、こうした死刑廃止という望ましい傾向が見られるものの、依然として懸念材料があります。2013年には、それまで死刑廃止へと向かう傾向が何年も続いていたにもかかわらず、死刑を執行した国の数が、前年の21カ国から22カ国に増加したのです。また死刑が執行された人の数も、記録に残っている分だけを見ても、前年より増加しています。死刑を執行してもデータを公表しない国もあります。
記録に残っている死刑執行件数は、2013年に前年比で12パーセント増加しました。2012年の約700件から2013年には約800件となっています。ですから、長きにわたって良い傾向が続いた後で、今は反動が生じているのです。さまざまな分野で反動が見られていますが、これもその一つでしょう。経済の分野では不況があり、安全保障の分野では紛争の急増がありました。死刑をめぐるこの前向きな傾向が妨げられるようなことはあってはなりません。
UN News Centre:弁護士としての、また法務大臣としての経歴の中で、死刑に関連した個人的な経験を何かお持ちですか?
シモノビッチ事務次長補:私が法務大臣に就任した時には、クロアチアではすでに死刑は行われていませんでした。ですから、この問題に関して私は何もする必要がなく、死刑がすでに廃止されていることにただ満足していました。しかし、それよりもはるか昔の高校生の頃に、私は卒業研究のテーマとして死刑の問題を取り上げ、死刑廃止を主張しました。当時、私の祖国だったユーゴスラビア社会主義連邦共和国では死刑が行われていました。
当時も死刑に関する情報がありました。卒業してから何年も経つので詳しいことは思い出せませんが、もちろん他のすべての社会と同様、死刑囚に占める社会的弱者の割合が不釣り合いに大きいことなど、死刑にはいくつかの疑問点がありました。
UN News Centre:近年のOHCHRの取り組みによって、死刑に対する考え方に変化が生じていますか?
シモノビッチ事務次長補:私たちが貢献できているよう願っています。私たちの活動がもたらす効果を測定することはできません。この2年間で私たちは、冤罪、抑止効果の有無、差別と死刑、および死刑廃止におけるリーダーシップの重要性をテーマとして、死刑廃止に関する6つのパネルディスカッションを開催しました。
25日に発表される本には、これらのパネルディスカッションに寄せられた寄稿文が収められています。記事を書いたのは、専門家や市民社会団体、活動家、被害者本人、ならびに冤罪を着せられて死刑囚監房で何年も過ごした後で、最先端技術のDNA分析によって無罪が確定した2人の方々です。今もたくさんの人が、何も罪を犯していないにもかかわらず死刑判決を受けているのです。
私たちは、今回の大規模なイベントを始めとするこれらのすべての取り組みが、果たして何らかの成果を生むのか否かをまもなく知ることになります。というのは、11月にここニューヨーク(の国連総会)で、死刑廃止決議の賛否を問う投票が行われるからです。死刑継続へと後戻りする傾向に歯止めをかけるために私たちが貢献できたのかどうか、結果を待つことにしましょう。
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