この人に聞く:紛争下の性的暴力を担当する、ザイナブ・ハワ・バングーラ事務総長特別代表
2015年04月14日
2015年4月14日 – 性的暴力の問題を扱っているザイナブ・ハワ・バングーラ事務総長特別代表によれば、性的暴力は宗教的・民族的少数派およびLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人々を標的にする「テロの戦術」として利用されています。
このことは、紛争下の性的暴力担当 国連事務総長特別代表を務めるバングーラ氏の最新の報告書に示されています。特別代表はUN News Centre のインタビューにおいてこの報告書の内容を明らかにしており、その中で、イラクおよびレバントのイスラム国(ISIL)、ボコ・ハラム、アル・シャバブなどの非国家主体による女性や少女の拉致、レイプ、奴隷としての人身売買をはじめとする犯罪にも注目しています。これらの組織は、資源豊富な土地から利益を搾取するため、または土地を利用して麻薬植物を栽培するために、大勢の人々を強制的に立ち退かせる手段としても性的暴力を利用しています。
国際社会はまだこれらの非国家主体に対処する手段をもたないと話すバングーラ特別代表は、安全保障理事会が国連の全ての加盟国と緊密に協力のうえ、増大する脅威への最も効果的な対処方法を見い出す必要があると強調します。性的犯罪が発生している国々では、政治的意志がその惨劇に立ち向かう鍵となります。その点では、コンゴ民主共和国(DRC)、ソマリア、コロンビア、コートジボワールにおいて進展があったと特別代表は指摘しています。以下のインタビューは、内容をより明確にするために編集が加えられたものです。
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「性的暴力はテロの戦術として用いられており、その原因は過激派組織およびテロ組織の台頭にあります」
ザイナブ・ハワ・バングーラ特別代表へのインタビュー抜粋(Credit: United Nations)
UN News Centre:4月15日に安全保障理事会で発表するこの新しい報告書の内容は、どのようにしてまとめたのですか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:報告書は、平和維持ミッション、政治ミッション、国連カントリーチームから寄せられた情報をもとに作成されました。加盟国や、時には非政府団体(NGO)からの情報を含めたこともあり、入念かつ真剣な精査を要する作業でした。性的暴力が特定の国で発生したと具体的に述べるのは非常に難しく、かつ非常にデリケートな問題であるため、収集する情報には検証が必要となります。そのため、収集する情報は、国連の平和維持ミッションと政治ミッション、加盟国、国連のNGOの仲間たちからの情報を組み合わせたものになっています。
UN News Centre:今年の傾向にはどのようなものがありましたか? 新たに得られた知見はどのようなものですか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:私たちが直面した最初の、そして最も重要で難しい傾向としては、性的暴力がテロの戦術として用いられており、その背景には過激派組織とテロ組織の台頭があるということです。この種の組織は複数の国にわたって移動し、国境を越え、地域を超える性質をもっています。このため、対応が非常に困難なものとなっています。テロ戦術としての性的暴力はマリで見られたほか、ナイジェリアではボコ・ハラムによるものが確認されました。アル・シャバブによってソマリアでも起こり、現在ではイエメン、シリア、そしてもちろんイラクでも起きています。
私たちが気づいた第2の傾向は、宗教的・民族的少数派およびLGBTの人々が標的にされていること、そしてこれらの犯罪が増加していることです。また、第3の傾向として、紛争下の性的暴力が住民の強制退去の手段として用いられる点があげられ、これは非常に明確化しているように思われます。人々が地域社会を追われ、住んでいた土地を奪われるのは、その土地に天然資源が豊富なため、あるいはコロンビアのように、組織がその土地を利用して麻薬植物を栽培したいためです。一部の組織は、ISILのように、単に土地を占拠したいために住民を強制的に立ち退かせています。
UN News Centre:ご指摘のように、性的暴力の首謀者として非国家主体(ボコ・ハラム、アル・シャバブ、ISIL)が台頭することで、犯罪に対する責任を追求することが難しくなっています。国連は被害者を救うために何ができますか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:私たちにとって最大の課題は、これらの人々が用いる戦略への理解が不足していることであり、そのために、彼らに近づくこと、彼らを引き込むこと、何が彼らを駆り立て、彼らが何をしているのかを理解することが極めて難しくなっているのだと、私は考えています。最も重要なのは、私たちが地域社会への関与を強めること、また、この犯罪に巻き込まれている地域社会と、地域社会のリーダーおよび宗教的指導者たちから、犯罪の程度、標的にされた人々、被害者サービスを提供すべき人々について、私たちがもっとよく把握できるような情報を伝えてもらうようにすることです。それは私たちにとって最大の課題ですが、私たちが関与したいと望んでいることであり、私自身が実現したいと望んでいることの一つでもあります。
UN News Centre:この状況を緩和するために、加盟国にはどのようなことが可能でしょうか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:これまでに、加盟国からのコミットメントが増大したほか、正しい理解、性的暴力が犯罪であるとの認識、否定と沈黙の文化の後退が進んできました。そこで今こそ加盟国がしなければならないのは、リソース投入することで、また必要な行動を起こしてコミットメントを確実なものとすることでで、関与と支援を実質的に増やしていくことです。
しかし、他の加盟国がリソースを投入できることも重要です。性的暴力への対処は簡単なものではありません。能力開発が求められるだけでなく、技術的補助と支援の提供、法の改正、司法と協力してこの犯罪を捜査の対象とし、加害者が起訴されるようにすることが必要になるからです。被害者には、精神的、医学的、法的支援および生活支援といった必要なサービスを提供しなければなりません。
そのために私は、これらの犯罪が起きている国々は政治的意志とコミットメントを明確にすべきであると考えています。そして彼らを支援しているドナー国は、これらの国々が必要な行動をとることができるようにサポートするリソースを確実に提供する必要があります。
UN News Centre:中東ではISILが、アフリカではボコ・ハラムが、少女や女性を拉致し、レイプし、奴隷としての人身売買を行いながら、ほとんどの場合、何ら制裁を受けずにすんでいるという状況を耳にします。彼らは国際協定も規範も無視しています。国際社会には、これらの非国家主体に対処する手段がありますか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:これまでの数年間に安保理と国連は、多くの国と政府とともにこの問題に取り組んできました。私たちはそれらの国と政府をよく知っています。私たちは長期間にわたって協力し、彼らの戦略を理解し、その命令系統を熟知しています。残念ながら、これはもう通用しません。国連がこれまでに関わってきた非国家主体は地元の市民軍なので、彼らへの対応はもっと容易です。たとえば、DRCでは彼らを否定的勢力と呼び、それらの勢力に対処する特別な対応が安保理で策定されました。
ところが新しい非国家主体は、まったく異なります。非常に巧妙で、高度に組織化されていて、体制が複雑で、[広大な]土地を支配し、一つの国の中にとどまっていません。互いに連絡を取り合い、現代的テクノロジーを駆使しながら、女性に対して実に中世的な考え方を強要しています。私たちには手段がないため、安全保障理事会と緊密に協力し、彼らが何者なのか、彼らがどこから来るのか、私たちはどのように対応できるかについて、よりよく理解できるように努力しています。そこでご質問への答えですが、私たちには今のところ手段がなく、彼らと向き合うために、よりよい手段を開発する必要があります。私たち皆が共に学んでいるところです。
UN News Centre:中には明るいニュースもあります。報告書には、いくつかの国が紛争下の性的暴力への取り組みにおいて前進を果たし、生存者の支援を行っていると記載されています。最も大きく前進したのはどの地域ですか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:最大の前進があったのは、これらの犯罪が起きている国による政治的コミットメント、当事者意識、国家的リーダーシップが高まったという点です。最も大きく前進したのはコンゴ民主共和国、ソマリア、コロンビア、コートジボワールでした。その要因として、これらの国々のリーダーは、紛争下の性的暴力が今起きている犯罪であり、これらの犯罪に対処するためには私たちがリーダーシップを発揮しなければならないと判断し、それに合意したからです。そのような場合には、実に大きな前進がありました。
UN News Centre:あなたは被害が発生しているこれらの国々を訪問し、性的暴力の被害者の多くに直接会って、彼女たちの痛ましい話を聞いています。どのように触発され、勇気づけられますか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:私が驚いたのは、私が出会った被害者たちの立ち直る力です。これらすべての国々を私が訪問して、この犯罪を理解しようと努めることによって希望を与えているのだと考えています。そして多くの場合、女性たちはただ誰かに理解してほしいのだと感じます。1カ月ほど前にはコロンビアを訪問し、何人かの被害者たちとテーブルを囲んで昼食をとりました。彼女たちは私にすべてを話し、私は彼女たちの話を聞いて、話しかけたのですが、ほとんど全員が涙を流しながら、私たちの話にじっくり時間をかけて耳を傾けてくれたのはあなたが初めてだ、これで闘う気持ちになれたと言いました。彼女たちは再び立ち上がり、自分の人生を歩んでいく心の整理をつけました。ですから、私にとってそれが重要なことです。
紛争がある限り犯罪の発生をなくすことはできないので、紛争を終わらせる必要がありますが、当面はこれらの女性に希望を与えることも必要です。私は彼女たちが準備を整え、人生を修復し、事業を始める姿を見てきました。私の祖国であるシエラレオネでは、被害者が自分に被害を与えた加害者を雇うという事例まで目にしました。これらは私にとって本当に感慨深い話であり、自分の職務を遂行するよう鼓舞される思いがします。
UN News Centre:紛争下の性的暴力の被害者は女性だけではありません。あなたの報告書は、男性に対する性的被害を実際よりも少なく報告する危険性について警鐘を鳴らしています。被害者はなぜいまだに、被害者であることを汚名と感じるのだと思いますか?
ザイナブ・ハワ・バングーラ:性的暴力には一般的に汚名がつきまとい、被害者は汚名という重荷に耐えていかざるを得ない状況にあります。時には排斥され、地域社会から追われることもあります。男性にとっても、女性にとっても、少年にとっても、少女にとっても、被害者に汚名を着せる犯罪なのです。しかし、これまで女性に対する性的暴力への対応に力を注ぎすぎるあまり、男性に対する性的暴力にはほとんど注意を払ってきませんでした。
しかし、それは常に発生しています。ボスニアの戦争では、自分がレイプされ、自分の息子をレイプするよう強制された被害者に会いました。男性に対する性的暴力は、一般的には刑務所や拘置施設の中で起こり、多くの男性は自ら進んでその経験を語ろうとはしませんでした。私たちは、刑務所内で標的にされた男性について人々が話す時、それは性的暴力でありながら、いつも拷問と見なされてきたことに気づきました。
確かに言えることは、男性の場合も女性の場合も、紛争下における性的暴力の被害者の年齢が非常に低くなったということです。私は生後3カ月と6カ月という被害者に会いました。しかし、被害を受けた70歳と80歳の女性にも会いました。こうしたことが報告書で明らかになり、私たちの対応がさらに協調的になっていくものと期待しています。
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