核不拡散条約(NPT)再検討会議
プレスリリース 00/41 2000年04月28日
以下は2000年4月24日、国連ニューヨーク本部で開幕したNPT再検討会議でのコフィー・アナン国連事務総長の冒頭演説です。
現在、国家間および国内の関係において大きな変革と挑戦が起きています。私たちは、共通の未来にとって死活的な重要性を持つ問題、すなわち、核不拡散条約(NPT)に体現された不拡散と軍縮という約束をどのように実現していくかという問題の進展を図るため、ここに集っているのです。
平和と安全への新たな脅威が生まれているこの時代に、私たちは以前にも増して、地球上の人類の生命存続それ自体を相変わらず脅威にさらしている大量破壊兵器の拡散を食い止め、削減することに傾注する必要があります。新たな千年紀の最初の年を迎え、NPTの必要性はかつてないほど高まっています。しかし、今日ではそこにいささかの逆説が見られます。締約国が187カ国に及んでいることが、NPTの地球的なアピールの証ですが、これでの実施状況は、満足できるものではありません。
皆様にとっての今後の課題は、すべての締約国による条約のすべての条項の完全な実施を確保するプロセスに着手することにあります。これからの道程は遠いものの、私は最近の5年間に真の意味での前進が見られたと信じています。この前進が、皆様の努力に確信と着想を与える源となるべきです。冷戦の終結以来、核兵器の数は減少を続けています。ほとんどの核兵器保有国は、兵器用の核分裂性物質を製造していないことを宣言しました。これまで敵対してきた核保有国も、その兵器がもたらす脅威を軽減すべくお互いに協力しています。核の保障措置は強化されました。非核地帯加盟国の数も増えています。包括的核実験禁止条約(CTBT)の交渉が行われ、条約自体はまだ発効していないものの、事実上の実験停止が続いています。さらに今年4月、ロシア議会はSTART・条約とCTBTを批准しました。私は、これらの決定を歓迎するとともに、これら条約の発効の見通しが強まるものと期待しています。
これは間違いなく、成果と苦心の前進を示すあかしです。しかし、核戦争の脅威に対して、今は手を緩める時ではありません。この21世紀の幕開けにおいて、核戦争は極めて現実的で、しかも非常に恐ろしい可能性を持っています。皆様はきょう、この厳しい現実と対峙しています。それは私たちに、利用できるあらゆる手段を用い、同等の揺るがぬ決意を持って、不拡散と軍縮という条約の目標を追求する義務を課す現実なのです。秘密裏に進められていた核兵器開発プログラムの発覚を目の当たりにしただけでも、この挑戦の大きさは把握できるはずです。核兵器をはじめとする大量破壊兵器の拡散は依然として、平和への重大な脅威であるとともに、各加盟国にとっての重大な挑戦でもあります。事実、NPTの不拡散義務の遵守は引き続き不完全であり、必ずしも満足できるものではありません。私はきょう、すべての締約国に対し、この共通の脅威と闘う努力を一層強めるとともに、遵守に関する保障の強化を図るIAEA議定書に署名し、これを発効させるよう呼びかけます。1998年のインドとパキスタンによる核実験は、核実験と核拡散を禁止するという地球的規範にとって深刻な打撃であり、拡散と闘う必要性を誰の目にも明らかにしたものといえます。
私たちはまた、NPTの軍縮目標を達成する上で、大きな挑戦に立ち向かっています。核保有国の手には3万5,000発の核兵器が残っており、うち数千発は依然として、即時発射が可能な警戒配備の状態にあります。戦略核兵器や戦術核兵器についても、長年にわたって軍縮交渉は途絶えたままです。軍縮会議は引き続き、軍縮を目指す唯一の多国間交渉機関となっていますが、核軍縮その他の問題についての前進を図るその努力は、コンセンサスの欠如によって妨げられています。極めて正直なところ、既存の多国間軍縮機構の多くは、衰弱し始めています。問題は機構それ自体にあるのではなく、これを利用する政治的意志が明らかに欠如していることにあります。
事実、ここ数年間、すべての核保有国が核兵器保有政策の再確認を行っています。核による先制攻撃の可能性を温存している国もあれば、非核保有国に対しても核兵器の使用を辞さないとしている国もあります。また、一部の国がその核兵器に関する新たな情報を提供してはいるものの、核兵器の数および核物質の保有量については、透明性の欠如という問題が残っています。
私はここで、核軍縮の分野で私たちが直面するもっとも新しい挑戦について触れたいと思います。それは国家のミサイル防衛を図ろうとする圧力の強まりです。この圧力は、「戦略的安定性の礎石」と呼ばれている対弾道ミサイルシステムの制限に関する条約(ABM条約)を危機に陥れるばかりでなく、新たな軍拡競争、さらには核軍縮と核不拡散の頓挫をもたらし、ミサイル拡散への新たなインセンティブを生みかねません。私は、地球の安全を高めるどころか、これを損いかねないプロセスに着手する前に、すべての国々がこうした危険と挑戦を慎重に検討するものと期待しています。
私がこうした挑戦に言及したのは絶望からではなく、これにうまく立ち向かい、過去5年間に達成された前進をさらに深める能力が皆様にあると信じるからです。私は、これを達成するためのもっとも効果的な方法は、特定の指標に焦点を絞った結果志向の条約再検討プロセスに着手することではないかと考えます。CTBTの発効はその一つの指標といえましょう。さらに、2つ目の指標は、場所に関係なく、核兵器の備蓄量の大幅な不可逆的な削減、3つ目は既存の非核地帯の足固めと新たな非核地帯に関する交渉、4つ目は非核保有締約国に対する拘束力のある安全の保障、そしてさらにもう一つは、核兵器と核物質の所有に関する透明性の向上であるといえます。
皆様、私は最後に、加盟国が最高の政治レベルで、既存の核兵器とさらなる拡散の双方から生じる危険を低めることに対するコミットメントを再確認することを提案します。
私たちがこうした側面で前進することができれば、条約の将来はまさに明るいといえるでしょう。もしそうできなければ、新たな千年紀は不吉な予感でスタートしたといわざるを得ないでしょう。