「われら人民」
コフィー・アナン国連事務総長「ミレニアム報告書」要旨
プレスリリース 00/31 2000年03月31日
報道解禁:4月4日(火)午前0時(日本時間) |
I.新しい世紀、新しい挑戦
新たな千年紀、そして国連のミレニアム・サミットは、世界の人々に対し、自分たちがかつてないほどに互いの結びつきを強めていく中で、その共通の運命について考えるユニークな機会を提供するものです。世界の人々は、その指導者が、今後の課題を明らかにし、これに対処することを期待しています。加盟国がその使命感を新たに共有するならば、国連はこれらの課題への対処を助けることができます。1945年、国際関係に新たな原則を導入するために創設された国連は、いくつかの分野でよりよい成果をあげています。新世紀の人々の生活に現実的で目に見える変化をもたらすことができるよう、国連のこれからの方針を新たに決めるチャンスが訪れているのです。
II.グローバル化と統治
成長の加速、生活水準の改善、新たな機会など、グローバル化の恩恵は明らかです。しかし、これらの恩恵の分配は極めて不平等であり、しかも、グローバル市場は未だ共通の社会目標に基づく原則に支えられていないため、反発が生まれています。1945年、国連の創設者達は、「国際的な」世界のための開放的で協調的なシステムを作り上げました。このシステムは機能し、グローバル化の台頭を可能にしました。その結果、私たちは今、「グローバル」な世界に暮らしています。この変化への対応が今日、世界の指導者にとって中心的な課題となっているのです。
この新しい世界においては、集団および個人が国家を介することなく、国境を超えて直接に接触することがますます増えており、これには危険も伴っています。犯罪、麻薬、テロ、汚染、病気、兵器、難民、移住者など、すべてが過去よりも速く、そして大量に往来しているためです。人々は遠く離れた場所での出来事に脅威を感じています。人々はまた、遠い国での不正と残虐行為への認識を高め、加盟国に何らかの対応を期待してもいます。しかし、新しい技術はまた、相互理解と共通の行動の機会も創出しています。私たちがグローバル化を最大限に活用し、最悪の事態を避けるためには、よりよく統治することはもちろん、共によりよく統治することを学ばなければならないのです。これは世界政府や、国民国家の消滅を意味するものではありません。それどころか、国家は強化される必要があります。また、加盟国は共有された原則と価値観に基づいた、共通の制度の中で共に行動することにより、お互いからその力を引き出すことができます。この制度は権限の分配を含め、時代の現実を反映しなければなりません。また、この制度は国家が、グローバル企業を含めた非国家主体と協力する場として機能しなければならなりません。多くの場合、それは、刻々と変化するグローバルな課題により速く対応でき、より非公式な政策ネットワークによって補完されなければならないのです。
今日の世界における富の著しい不平等、10億を超える人々のみじめな生活状況、一部の地域における局地的な紛争の蔓延、そして、自然環境の急激な悪化 ―― こうしたことすべてが重なり、現在の開発モデルは、共通の合意によって修復措置が講じられない限り、持続不可能なものとなっています。最近、6大陸にまたがる史上最大規模の世論調査が行われましたが、ここでも、人々がこのような措置を望んでいることが確認されました。
III.欠乏からの自由
過去半世紀には、未曾有の経済成長が見られました。しかし、今でも12億の人々が、1日1ドル未満での生活を強いられています。極貧状態に国家間、さらにはしばしば国内の著しい不平等が結びついていることは、私たち人類に共通の恥辱と言えます。これにより、紛争をはじめ、その他の問題も深刻化しています。さらに、世界人口は依然として急増を続けていますが、人口増加は最貧国に集中して見られているのです。私たちは2015年までに、世界のあらゆる場所で、極貧状態を半減させるべく、行動を起こさなければなりません。その優先分野は以下のとおりです。
- 持続可能な成長の達成 これはとりわけ、すべての開発途上国の人々がグローバル化の恩恵を受けられるようにすることを意味します。
- 若者のための機会創出 2015年までに、あらゆる教育レベルで男女の機会平等を実現し、すべての子供が初等教育を修了できるようにしなければなりません。また、若者に見合った仕事を提供する方法も見出さなければなりません。
- 健康増進とHIV/エイズ対策 全世界の人々の90%に影響する問題に対処するよう、保健研究の方向性を転換しなければなりません。2010年までに、私たちは若者のHIV感染率を25%低下させなければなりません。
- スラムの改善 私たちは、2020年までに1億人のスラム住民の生活改善を目指す「スラムのない街」行動計画を支援しなければなりません。
- アフリカの包含 今回の報告書は専門家および慈善財団に対し、アフリカにおける低い農業生産性の問題に取り組むよう求めています。報告書はまた、アフリカ各国の政府が貧困緩和の優先度を上げること、および、その他の国々がこれを援助することを促しています。
- デジタルの架け橋の構築 新たな技術は、開発途上国にとって発展の初期段階を「飛び越す」という、これまでにない機会を提供します。新しい情報ネットワークに対するこれら国民のアクセスを極大化させるため、あらゆる努力を行わなければなりません。
- グローバルな連帯の立証 豊かな国々は、貧困国の産品に対する市場開放を進め、債務救済の金額とペースを高め、より的確な焦点を備えた開発援助を提供しなければなりません。世界から極貧という惨禍を排除することは、私たち一人ひとりにとっての課題となっています。その達成を怠ってはなりません。
IV.恐怖からの自由
国家間の戦争の頻度は低下したものの、過去10年間には、内戦によって500万人以上が命を失い、その数倍の人々が故郷を追われました。同時に、大量破壊兵器は恐怖の影を投げかけ続けています。私たちは今、安全保障を領土の防衛よりも、「人間」の保護という観点で捉えています。残虐な紛争の脅威には、あらゆる段階で対処しなければなりません。
- 予防 紛争は貧困国、特に統治状態が悪く、民族あるいは宗教集団間に際立った不平等が存在する国でもっとも頻発しています。これを防止する最善の方法は、人権、少数者の権利、および、すべての集団が公平に代表される政治的仕組みを備えた、健全でバランスの取れた経済発展を促進することにあります。また、武器、資金あるいは天然資源の不正な移転を暴かなければなりません。
- 弱者の保護 私たちは国際法および人権法のよりよい実施方法を見出し、重大な違反が不処罰で終わることのないようにしなければなりません。
- 介入のジレンマへの取組み 国家主権は、仲間である人間の権利と生活を悪意で侵害する者の隠れみのとして用いられてはなりません。大量虐殺に直面した場合、安全保障理事会が認める武力介入は、放棄できない選択肢なのです。
- 平和活動の強化 ミレニアム総会は、平和活動のあらゆる側面を再検討するために事務総長が設置したハイレベル・パネルによる勧告を検討するよう求められます。
- 制裁の目標限定 最近の研究では、目標を絞り込むことで制裁を「巧妙化」するる方法が模索されています。安全保障理事会は、今後の制裁体制を立案、適用する際、この研究に依拠すべきです。
- 軍縮の追求 事務総長は加盟国に対し、小火器の移転の取締りを厳重にするとともに、現存する核兵器および今後の拡散双方の危険を軽減することを再び公約することを訴えています。
V.私たちの将来の維持
私たちは今、将来の世代が地球上でその生命を持続する自由を緊急に確保する必要に迫られています。しかし、私たちはこれを実現できないでいます。私たちは持続不可能な慣行のツケを、子供たちが受け継ぐべき遺産から支払っているのです。これを変えていくことは、豊かな国、貧しい国の双方にとっての課題です。1992年のリオ会議はその基盤を提供し、オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書は、重要な前進となりました。しかし、これ以外の分野における私たちの対応はあまりにもお粗末で、手遅れになっています。2002年までに、以下の分野に関する討議を再開し、決定的な行動を取る用意を整えなければなりません。
- 気候変動への対処 地球温暖化の脅威を軽減するためには、炭素その他の「温室効果ガス」排出量を60%削減する必要があります。エネルギー効率を向上させ、再生可能なエネルギー源への依存度を高めれば、これは達成可能です。1997年の京都議定書の履行は、その第一歩となるでしょう。
- 水危機への対策 報告書は、2015年までに安全で供給可能な水へのアクセスを持たない人々の割合を半減させるという、世界水フォーラム閣僚会議の目標を支持するよう求めています。報告書はまた、水1単位あたりの農業生産性を向上させながら、河川の流域および氾濫原の管理を改善する「青の革命」を求めます。
- 土壌の保護 増大する世界人口が必要とする食糧を、減少しつつある農地で賄う上での最善の希望は、バイオテクノロジーにあるといえますが、その安全性と環境への影響が激しい議論の対象となっています。事務総長は、貧しく飢える人々が損をすることのないよう、これら論争の解決を図るためのグローバルな政策ネットワーク作りを呼びかけています。
- 森林、漁場および生物の多様性の保全 これらすべての分野において、保全は不可欠です。政府および民間セクターは、その保全のために協力しなければなりません。
- 新たな管理倫理の構築 事務総長は以下の4つの優先分野を提案します。
1)一般の人々の教育
2)環境を経済政策に統合する「緑の会計処理」
3)規制とインセンティブ
4)より正確な科学データ
政府はもちろん、人々も保全と管理という新たな倫理を守っていかなければなりません。
VI.国連の再生
強い国連がなければ、これらすべての挑戦に立ち向かうことははるかに困難となります。国連の強化は政府、特に民間セクター、非政府機関および多国間機関などの他者と協力して、合意による解決を探るその意志にかかっています。国連は他者による行動を刺激する触媒としての役割を果たさなければなりません。国連はまた、情報通信技術をはじめとする新技術を十分に活用しなければなりません。事務総長は以下の分野での行動を勧告します。
- 国連が持つ主たる利点の認識 国連の影響力は権力から派生するのではなく、それが体現する価値観、グローバルな規範の設定、維持を助ける役割、グローバルな関心と行動を刺激する能力、および、人々の生活改善を図る実際的活動に基づく信頼から生まれています。私たちは特に、法の支配の重要性を主張することにより、これらの強みを生かさなければなりません。しかし、私たちはまた、特に安全保障理事会を改革することにより国連自体を適応させていく必要があります。これにより国連は実効的な活動と異議を差し挟む余地のない合法性を享受することができるからです。私たちはさらに、市民社会組織をはじめ、民間セクターおよび財団と国連の関係も広げなければなりません。
- 変革のためのネットワーク構築 私たちは共通の目標の達成を目指し、国際機関、市民社会および民間セクターの組織、ならびに、各国政府を結集した非公式な政策ネットワークを構築し、公式な制度を補完しなければなりません。
- デジタルの連携の構築 私たちは新しい情報通信技術を利用し、国連の効率を向上させ、世界の他の部分との相互作用を改善することができます。しかし、このために私たちは、変革に抵抗する文化を克服しなければなりません。事務総長は情報通信産業に対し、この点での援助を要請します。
- 静かな革命の前進 21世紀のニーズを充足させるため、私たちは真の構造改革、加盟国間での優先課題に関する合意の明確化、および、日常的管理に対する事細かな監督の緩和を必要としています。例えば、新たな委任事項に「サンセット(終焉)規定」を設けたり、結果指向の予算編成を導入したりするためには、総会による決定が必要です。
VII.ミレニアム・サミットでの検討事項
事務総長は、国連憲章の精神を反映し、新世紀において特に重要となる6つの共有の価値を掲げます。「自由」、「公平性と連帯」、「寛容」、「非暴力」、「自然の尊重」および「責任の共有」がそれにあたります。事務総長はミレニアム・サミットに対し、これらの価値観に従って行動する意志の証として、報告書の趣旨に基づく一連の決議を採択するよう促します。