コフィー・アナン国連事務総長「ミレニアム報告書」
21世紀行動計画を提示
グローバル化を人々の手に、と各国に要請
プレスリリース 00/30 2000年04月03日
報道解禁:4月4日(火)午前0時 (日本時間) |
貧困軽減、教育改善、安全強化、HIV/エイズ抑制、環境保護
ニューヨークの国際連合総会議場において、4月3日、コフィー・アナン国連事務総長は自らの21世紀行動計画を提示し、グローバル化の恩恵を各国国民に行き渡らせるよう世界の指導者に促しました。この詳細な報告書では、国連ミレニアム・サミットに向けた課題が定められています。行動計画は全加盟国に対し、貧困と不平等の終焉、教育の改善、安全の強化、HIV/エイズの抑制および環境の保護を求めています。
「私たちのなすことすべての中心に人々を据えなければなりません」とアナン事務総長は述べています。「世界中の都市と農村に住む男女および子供の生活を改善することこそ最も高邁な使命であり、大きな責任となります。それが現実となってはじめてグローバル化が真に行き渡り、各人がその機会を共有できるようになったと感じられるのです。」
事務総長の報告書は、2000年9月6日から8日にかけて特別に開催されるミレニアム・サミットで検討されます。新千年紀の最初の国連総会の直前に予定されたこのサミットは、世界中の首脳が一堂に会する史上まれに見る会合となります。「われら人民:21世紀の国連の役割」と題するこの報告書は、アナン事務総長が世界の指導者に検討を要請する多くの具体的な目標とプログラムのイニシアチブを含め、その55年の歴史の中で国連の使命を最も包括的に提示するものです。
アナン事務総長の提案の中核にあるのが、グローバル化は各国政府や人々に独特の機会と挑戦をともにもたらす絶大な力である、という見解です。アナン事務総長は報告書の中で、「経済成長の加速、生活水準の向上、技術革新の進展、科学技術および管理技能の普及、個人と国家双方にとっての新たな経済的な機会など、グローバル化の恩恵は明らかです」と指摘しています。しかし、このような恩恵は、「依然として比較的少数の国々に極端に集中し続けており、しかもそうした国々の中でも不平等に分配されています。」また、現在では「グローバルな市場の拡大を容易にする強力で強制力のある規則」が存在する一方で、労働基準、環境、人権あるいは貧困軽減など、「同様に有効な社会的目標」を確保する努力は「立ち遅れて」います。
その結果、グローバル化には「反発が生まれ始めて」います。アナン事務総長は、私たちにつきつけられた課題は「明確」とした上で、「私たちがその悪影響を抑えながらグローバル化の将来性を生かすためには、よりよく統治することはもちろん、共によりよく統治することを学ばなければなりません」と結論づけています。アナン事務総長は、過去50年における大きな前進にもかかわらず、恐怖や欠乏のなかで生活を送る人々が依然として数十億人もいることを指摘しています。報告書によれば、主としてHIV/エイズによって、2010年までに孤児となるであろう4,000万人にも及ぶ子供たちを含め、世界でも貧しい人々が住むアフリカは、グローバル化から取り残されています。しかも、アフリカは成長力に乏しく、貿易と投資の額は低く、国家は債務の重圧で押しつぶされています。
報告書はまた、世界人口の90%を占める人々の健康問題についての研究は全体の10%にも満たず、数百万人の人々が慢性疾患にかかったり、肺炎や下痢、結核、マラリアその他の容易に予防できる病気で死亡していると指摘しています。 紛争と平和維持の問題に関しては、アナン事務総長は、各国が旧来の脅威と新たな脅威にともに取り組まなければならないと考察しています。事務総長の説明によれば、核兵器の数は依然として多すぎるのに加え、小火器の拡散が進んでいることで、すでに残虐な紛争がさらに長期化・深刻化しています。事務総長はまた、平和活動を強化する一方で、制裁の焦点を絞り、これを「罪のない人々にはより軽く、罪のある統治者の処罰にはより効果的に」すべきであると付け加えています。
しかし、報告書の中でもっとも注目すべきは、環境を取り扱った章であるといえるでしょう。アナン事務総長は、欠乏と恐怖からの自由に加え、世界は今、国連の創設者達が予期し得なかった第3の自由、すなわち「将来の世代が地球上でその生活を持続する自由」を実現する緊急の必要性に私たちが迫られていると述べ、「私たちはこの自由の実現を怠っている」と指摘して います。気候変動、水不足、土壌浸食、ならびに、森林、漁場および生物の多様性の破壊という多面的な脅威について詳しく述べた上で、事務総長は、「新たな管理倫理」および、「緑の会計処理」システムを導入し、環境面での費用と利益を経済政策に組み込むよう求めています。
報告書は各国に対し、以下を含む野心的な21世紀の課題に対するコミットメントを行うよう促しています。
- 2015年までに、極貧状態に暮らす人々、および、安全かつ供給可能な水を得られない人々の割合を半減させること
- 2015年までに、すべての子供が初等教育を修了できるようにし、あらゆる教育レベルで男女格差を解消すること
- 10年以内に、15歳から24歳のHIV感染率を25%低下させること
- 2020年までに1億人のスラム居住者の生活改善を目指す「スラムのない街」行動計画を支援することにより、スラムの改善を図ること
- 貧困国の産品が、先進国市場に自由にアクセスできるようにするとともに、その第一歩として、来年3月までに、事実上、後発開発途上国からの全輸出品に対して、無関税かつ無制限のアクセスを認める政策を採用すること
- 昨年合意された「重債務貧困国」プログラムを拡大し、貧困軽減に対する目に見える形のコミットメントを行うことと引換えに、これら重債務貧困国の公的債務全額を帳消しにすること
- 国際人道・人権法の実施強化を通じ、国家はもちろん、人々およびコミュニティーの安全確保に一層の努力を行うこと
- 兵器取引の透明性を高め、地域的軍縮措置を支援するとともに、モザンビーク、パナマ、エルサルバドルおよびアルバニアで成功を収めた「兵器・物資交換」プログラムをその他の地域にも拡大すること
- 温室ガスの排出量を低下させ、危険な地球温暖化を防止するため、京都議定書を履行すること
報告書において、アナン事務総長はまた、新しい情報通信技術に強い支持を表明し、国連活動の改善はもとより、貧困対策と人間開発促進においてもその大きな役割を期待しています。アナン事務総長はこの趣旨に沿い、いくつかの新たなイニシアチブを発表しました。第1に、事務総長は1万ヵ所のオンラインサイトのネットワークを構築し、開発途上地域全体の病院およびその他の医療施設に最適な医療情報と資源を提供することを提案しています。このイニシアチブは、財団および企業パートナーとの協力の下、WebMD財団が主導することになります。第2に、事務総長は「国連情報通信技術サービス(UNITeS)」の開発を表明しています。これはネットコア・カナダおよびネットコア・アメリカを含むハイテク・ボランティア組織の連合体であり、情報通信技術の利用と機会に関し、開発途上国で集団研修の実施を予定しています。第3に、事務総長はL.M.エリックソン社主導による災害対応イニシアチブ「最初に現地へ(First on the Ground)」を発表しています。これは自然災害や緊急事態に見舞われた地域に対し、中断のない通信アクセスを提供するものです。
アナン事務総長はまた、国連自体に関する一連の野心的な変革も提案しています。国連のスリム化と実効性向上のためにすでに講じられた多くの改革措置に基づき、事務総長は安全保障理事会を改革し、特定のイニシアチブに対するサンセット(終焉)規定を採択する時が来た、と述べています。事務総長はさらに、国連が市民社会との関係を広げる道を見出さなければならないとした上で、これを達成する一つの方策として、すべての関係者が参加するグローバル政策ネットワークの構築を提案しています。
アナン事務総長はミレニアム・サミットを加盟国が国連の使命を刷新し、それに貢献する意志を新たにする機会として利用しようと計画しています。事務総長は彼自身が国連の中心的価値と考えるもの、すなわち自由、寛容、公平性、非暴力、自然の尊重および責任の共有へのコミットメントを新たにするよう加盟国に訴えています。
しかし、アナン事務総長は、過去50年間の進歩を単に繰り返すだけで満足すべきではないと信じています。事務総長の報告書は次のように宣言しています。「世界の人々は、立ち向かうべき挑戦の大きさからすれば、これまでの成果が十分ではないことを私たちに教えています。私たちはより多くのことを、よりよく行っていかなければならないのです。」