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国際麻薬統制委員会(INCB)

プレスリリース 00/15 2000年02月22日

報道解禁:2000年2月23日18:00hrs.(日本時間)

 

国際麻薬統制委員会(INCB)
議長メッセージ

 例年どおり、1999年度INCB年次報告書は国内的・国際的薬物統制問題を幅広く取り扱っていますが、その発表に際し、私は次の4つのメインテーマをご紹介したいと思います。

薬物乱用は解決を諦めることも、社会的に受け入れることもできない

  1. 私の意見としては、薬物問題を過度に騒ぎ立てる必要はありません。この問題の封じ込めに成功した国もあります。薬物統制は魔術ではありません。国際薬物統制条約の規定の完全な履行、ならびに、薬物問題の原因と結果、および、これに対処する方法をオープンに検討し、話し合う用意を通じて、進歩が達成できるのです。残念ながら、多くの国では、薬物乱用に対する無関心な、さらには諦めの態度が蔓延してきています。場合によっては、条約の目標達成がもはや図られておらず、薬物を伴う生活は如何ともし難い現実として受け入れられています。薬物乱用者の運命に対するこのような無関心を受けいれることはできません。人間が自分自身を破壊し、あらゆる社会の未来である若者が薬物で身を滅ぼしているのを、手をこまねいて見ているべきではありません。無策でいることは、薬物の密売者をはびこらせ、薬物中毒者を見捨てることに他ならないのです。

医療目的の薬物をどこでも入手できるようにする

  1. 不正市場では大量の薬物が入手できる一方で、このグローバル化の時代に、開発途上国の多くの人々が苦痛を和らげるために不可欠な薬物を手に入れられないことは、信じがたい事実です。国際社会は必要とする人々が麻薬を入手できるようにするため、グローバル化の恩恵を活用しなければなりません。委員会はその報告書において、国際援助プログラムに対し、国際医薬品市場から不可欠な薬物を確保できない国々にこれを寄贈するよう呼びかけています。通常であれば未使用に終わる麻薬を利用する非営利機構も有益と考えられるため、これを検討すべきです。

薬物マネーに逃げ場なし

  1. 1988年の不正取引防止条約の中でもっとも革新的な条項の一つは、資金洗浄 (マネー・ローンダリング)対策に関するものです。進展は見られるものの、不正収益を犯罪捜査から隠す人々を助ける精緻な機構を備えた「金融天国(ファイナンシャル・ヘイブン)」は存在し続けているばかりか、繁栄を極めています。事実、長年にわたり、これらの場所は国際的な法律・税務制度の巨大な抜け穴となり、全世界の国際的薬物統制努力に挑戦を突きつけています。金融システムの不正利用を防止するため、積極的な行動をとらなければなりません。さもなければ、犯罪組織はその資金により、合法的な経済活動を害し、政治的影響力を買収し続けるでしょう。

司法当局の協力を緊密化する

  1. 薬物密売組織や資金洗浄組織を効果的に取り締まるためには、当局が国境を超えて協力しなければなりません。取締当局にとって、この協力は日常茶飯事となっていますが、薬物密売組織を起訴し、その収益の没収を可能にできるのは、司法協力のみであることから、司法当局間の協力を強化する必要があります。司法協力は必ずしも、交渉による複雑な2国間合意を必要としません。1988年条約の司法共助あるいは犯罪者引渡しに関する条項は、薬物密売組織の首領を裁く上で、各国が指針とできる「ミニ条約」となっています。

 

報道解禁:2000年2月23日18:00hrs.(日本時間)

 

国際麻薬統制委員会(INCB)
世界の薬物情勢に関する年次報告を発表

 2000年2月23日に発表された今年度の国際麻薬統制委員会(INCB)年次報告書は、特に開発途上国において、医療用の合法的な麻薬供給を十分に確保するため、協調的な努力を行う必要性に重点を置いている。不正な薬物使用と、一部の当局による妥協的な態度が広がる一方で、末期ガンの痛みに苦しんでいる人々など、薬物が大きな恩恵をもたらしうる人々が、モルヒネやその他の麻酔剤のような確立された鎮痛剤を利用できないという現実は、ウィーンに本部を置くINCBにとって、大きな懸案事項となっている。
 開発途上国におけるこうした鎮痛剤の不足とは対照的に、先進地域では過剰投与の問題が生じている。米州におけるアンフェタミンその他覚せい剤の大量消費、ならびに、ヨーロッパにおけるベンゾジアゼピン系睡眠薬および覚せい剤への過剰依存もまた、INCBにとって大きな懸念の材料である。
 委員会によれば、規制、十分な情報および各国の実際のニーズを推計する信頼できる手段の欠如は、医薬品会社の積極的なマーケティング戦略および不適切な医療慣行とも相俟って、開発途上国における必要な麻薬の供給不足と、先進国における向精神薬の過剰使用をもたらしている。
 委員会は政府に対し、現行の国際規則と手続に従いながらも、特に開発途上国向け、および、人道的緊急事態などの特殊な状況において、医療用に取締り対象薬物の入手可能性を確保できる機能的な薬物供給管理システムに基づき、柔軟でより人道的なアプローチを採用するよう促している。(詳しくはプレスリリース第3号を参照)
 委員会の年次報告書で取り扱われているその他の問題の中には、一部の先進国において中毒者が利用できる政府公認の薬物注射室(いわゆる「シューティング・ギャラリー」)の利用が含まれている。このような施設は薬物統制条約に違反するものであり、委員会はこれを、違法行為が処罰されない場所と見なしている。委員会はその代替策として、政府に対し、中毒者が適切な監督の下で治療と処方薬投与を適切に受けられる治療センターを設置するよう呼びかけている。(詳しくはプレスリリース第5号を参照)
 若者の間での大麻乱用の広がりは、特に懸念すべき動きである、と報告書は指摘する。若者の乱用者が増大していること、および、効能の高い薬物が容易に入手できることは、一部政府の寛大な態度とあいまって、大麻対策を一層重要なものとしている。委員会は大麻が「無害な」薬物であるというイメージを是正しようと努めており、その医学的恩典について、実話的ではなく、科学的な証拠を再び要求している。医学的に有用であることが証明されれば、大麻はモルヒネなどその他の薬物と同様に取り扱われ、その医学的利用は医療当局によって厳重に監督されることとなろう(詳しくはプレスリリース第7号を参照)。
 薬物の不正製造に用いられるいわゆる「原料物質」という化学品の追跡は引き続き、委員会の主たるねらいとなる。コカインの密造に用いられる重要な化学品の一つ、過マンガン酸カリウムは、新しい国際共同事業「オペレーション・パープル(Operation Purple)」によって追跡と差押えに成功した。委員会は、参加政府および国際当局とともに、この作戦を拡大する一方、ヘロインの不正製造に用いられる無水酢酸など、その他の原料物質を追跡する同様のプロジェクトを発足させる予定である。

地域別ハイライト
(1999年度INCB報告第・章を参照)

  • アフリカにおける薬物密売、および、麻薬と向精神薬の乱用は、継続中のさまざまな内戦および紛争後の事態によって強い影響を受けており、特に子供と若者の間で麻薬の乱用に火をつけている。
  • 中米およびカリブ海における一部政府のオフショア・バンキングとギャンブル産業に対する寛容なアプローチは、マネー・ローンダリングにとってあつらえ向きの条件を整備しているため、委員会にとって大きな心配の種となっている。
  • 過去2年間には、ボリビアとペルーで、不正コカ樹栽培の減少に顕著な進展が見られているが、これはコロンビアにおけるコカ葉生産の増大によって相殺されているものと見られる。
  • アンフェタミン型覚せい剤の乱用と密売は、東アジアと東南アジアで急激に広まっており、中国が密造のアンフェタミン型覚せい剤の主要な供給源となっている。
  • アフガニスタンでは、タリバンがケシ栽培とヘロイン製造を禁止することを公約しているが、その一方で、ケシの収穫とヘロイン製造に係る税金を徴収し続けており、この約束は疑わしいものとなっている。世界のアヘン生産の約75%はアフガニスタンで行われており、栽培は新しい地域にも広がりを見せている。1999年の生産量は約4,600tと、過去最高を記録した。
  • 中央アジアとカフカスでは、不法作物の栽培、および、ヘロインをはじめとする薬物の密売と乱用が急速に広がっており、犯罪件数も増大している。
  • 西欧で大麻の室内栽培が増大していることと、アルバニアをはじめとする南欧で栽培が集約化されていることにより、大麻の入手可能性は急激に高まり、大麻に対する寛容な態度ともあいまって、乱用が増加している。
  • オーストラリアでは、ヘロイン乱用初心者の平均年齢が18歳を割り込み、地域によっては、注射によるヘロイン乱用初心者の平均年齢が、十代半ばにまで下がっている。

注:国際薬物統制条約、INCBの活動および乱用薬物に関する背景情報は、INCBのウェブサイト:http://www.incb.orgで閲覧できます。