リビアに訪れた「アラブの春」。いま、第一歩を踏み出そうとしています。
2011年09月02日
今年1月初め、チュニジアの大規模デモを発端として始まった「アラブの春」。より自由で公正な社会を求める人々の動きは、北アフリカ、中東へと広がり、リビアではカダフィ政権が崩壊しました。そして、反体制派による一からの国づくりが始まろうとしています。
潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は「中東でのこうした動きは歴史的なもので、私たち国際社会にはそれを支援する義務がある」と述べました。
歴史的な一歩を踏み出すリビア。これまでの国連の動きを振り返ります。
-リビアの地図はこちらをご覧下さい。
(出典:UN Dept. of Field Support/Cartographic Section)
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リビア国民を守るための歴史的な決議
エジプトのムバラク大統領退陣が決まった2月11日頃、リビアでも反政府デモが大規模化していました。カダフィ大佐は、デモを行う市民を武力行使で制圧し、多くの死者が続出しました。
2月24日、人権理事会の特別会合が開かれ、調査委員会の設置を決定しました。調査委員会は、武力紛争において大規模に生じた人権、人道法の重大な侵害について客観的に調べる機関です。
市民に対する武力弾圧が一向に収まらない状況を受け、2月25日、国連安全保障理事会(安保理)の特別会合が緊急に開催されました。この席上でリビア大使は「同志カダフィに告ぐ、リビア国民に手を出すな」「国連よ、どうかリビアを救ってください。虐殺が起きないように、無実の人々が殺されないように。我々は、国連の迅速で勇敢な、断固たる決議を要請します」と異例の演説を行いました。安保理は26日、カダフィ政権関係者に厳しい制裁を課し、リビアにおける状況を国際刑事裁判所(ICC)に付託する決議を採択しました。さらに安保理は3月17日、リビア国民を守るため、外国軍による占領以外の武力行使を認める歴史的な決議を採択し、2日後には、北大西洋条約機構(NATO)主導の多国籍軍による空爆が始まりました。そして6月27日、国際刑事裁判所はカダフィ大佐とその関係者に対して逮捕状を発行しました。
-安保理決議1973(2011)の日本語訳はこちら
続く戦闘、急がれる支援
以降も反体制派とカダフィ政権の衝突で市民の死傷者が相次ぐ中、8月23日、反体制派がカダフィ大佐の拠点を攻略し、42年間もの支配を続けたカダフィ政権は事実上崩壊しました。これを機に、国民評議会など反体制派は首都トリポリに本拠地を移し、政権移行に着手。25日には、安保理が2月に凍結したリビアの資産の一部、15億ドルを解除することを決めました。また、リビア・コンタクト・グループ(国連、EU、NATO、アラブ連盟などにより構成)の会合では、国連主導でリビアに対する国際的な援助を行っていくことにも同意しました。
しかし、依然としてリビア各地で戦闘が続き、カダフィ支持派の報復行為により多くの虐殺が行われたとの報道もあります。首都・トリポリでは、市民に対する物資の供給が戦闘により途絶え、水や食料の援助、医療支援が緊急に必要とされています。
潘事務総長は8月26日、アフリカ連合(AU)、アラブ連盟、イスラム協力機構、欧州連合(EU)の各代表とテレビ会議を行い、緊急援助および民主化移行の支援に向けて、力を結集する必要を訴えました。記者会見を行った事務総長は、国民評議会が国連に対し、選挙支援や社会経済の復興支援を求めていることを明らかにしました。そして、安保理の承認を得た上で、リビアへ国連ミッションを早い段階で送りたいと述べました。29日には、国連児童基金(ユニセフ)が、9万本のペットボトル水を追加で輸送することを決めています。また、9月1日には、フランス政府の呼びかけによる「新生リビア支援国会議」がパリで開催されるなど、リビアの民主的な政権づくりに向けて、国際社会の動きも本格化しています。
今後は、カダフィ政権側と国民評議会との間に停戦合意と和平合意が早急に締結されることが望まれます。国連および関係諸国には、リビアの持続的に平和な社会づくりを目指し、統治、法整備、人道支援や貧困対策などに対する支援が強く求められます。
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