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この人に聞く:宇宙工学はよりよい世界づくりに貢献できる ― シモネッタ・ディ・ピッポ国連宇宙部長

2017年02月09日

シモネッタ・ディ・ピッポ国連宇宙部長は、宇宙部門で活躍する数少ない女性リーダーの一人です©UN Photo/ Runa A

2017113各国の宇宙機関の責任者や政府担当者、全世界の宇宙コミュニティーの代表者たちは、宇宙産業により多くの女性を迎え入れるという課題に立ち向かわなければなりません。

このように呼びかけているのは、宇宙部門で活躍する数少ない女性リーダーの一人で、天体物理学者でもあるシモネッタ・ディ・ピッポ国連宇宙部(UNOOSA)部長です。

ウィーンに本部を置く UNOOSA は、宇宙の平和利用と探査、および、持続可能な経済・社会開発に向けた宇宙科学技術の活用に関する国際協力を推進しています。

ローマ大学で天体物理学と宇宙物理学を学んだディ・ピッポ部長は、同じ年に同じ学科を卒業した10人の中で唯一の女性でした。その後、イタリア宇宙機関と欧州宇宙機関で要職を歴任する傍ら、宇宙産業における女性団体の共同設立者にもなり、2014年3月に国連に加わっています。

2016年の暮れには、全世界の宇宙関係者が一堂に会し、持続可能な開発の推進に貢献できる方法を探るための会合がドバイで開催されました。これを受け、宇宙工学が開発優先課題への取り組みを支援するために果たせる役割に対する認識が高まり、UNOOSA も最近は多忙を極めています。

UNOOSA とアラブ首長国連邦政府が開催した社会と経済の持続可能な開発の推進要素としての宇宙に関するハイレベルフォーラム(The High-Level Forum on Space as a Driver for Socio-Economic Sustainable Development)は、2018年6月に予定されている宇宙空間の探査と平和利用に関する国連会議50周年記念会合(UNISPACE+50)に向けた下準備となりました。この記念会合は、宇宙活動への関与を強める国や非政府主体が増える中で、グローバルな宇宙ガバナンスを充実させる取り組みを強化するものとして期待されています。

ディ・ピッポ部長はUN Newsのインタビューに応じ、開発途上国が宇宙にアクセスし、より多くの女性が宇宙部門で活躍できるようにするためのUNOOSAの計画について語りました。

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「宇宙からの観測データと宇宙インフラの整備は、画像や情報サービス、その応用を通じたものを含め、さまざまな形で持続可能な開発目標(SDGs)の実現を実質的に支援できます。…私たちは、ジェンダーの平等をはじめ17のSDGsに関連するトピックに数多く取り組んでいます。事実、世界をよりよくするために、私たちにできることはたくさんあるのです」

UN News:ドバイのハイレベルフォーラムでは、宇宙の4つの側面が中心的な議題となりました。その内容と、なぜそれらが持続可能な開発にとって大切なのかについて、聞かせていただけますか?

シモネッタ・ディ・ピッポ:今回のハイレベルフォーラムは、宇宙経済、宇宙社会、宇宙アクセス、宇宙外交という4本の柱で構成されました。私たちは、各国政府や民間セクター、学界、市民社会が、宇宙活動に大きな関心を向けるべき理由について、より深く理解できるようになったと確信しています。宇宙への投資が多くの理由から、不適切だとみなされかねないという点から考えても、この4本柱は、国連で私たちが行っていることの理由をよく説明しているといえます。

宇宙活動が本当に私たちの日常生活の一部となっていること、地球上の生活の質が宇宙活動や宇宙からの観測データによって改善していること、そして、多くの異なるプレイヤーを結集するという点で私たちに何ができるかを実証すれば、各国政府がこのプロセスのパートナーとなるだけでなく、開発途上国が地球上での宇宙関連技術の活用からより多くの利益と恩恵を得るきっかけにもなります。

UN NewsUNOOSA は国連初のミッションを宇宙に送ろうとしています。これについても聞かせてください。

シモネッタ・ディ・ピッポ:私たちは、開発途上国が宇宙コミュニティーの一員となり、このプロセスへの参加によってさらに大きな恩恵を受けるためには、宇宙へのアクセスが極めて重要だということを理解し始めました。

私たちは宇宙船「ドリームチェイサー」を開発したシエラネバダ・コーポレーションと連携しています。この宇宙船は、普通の宇宙物体として打ち上げられ、普通の飛行機として戻ってくるため、一般的な滑走路に着陸できるという興味深い性質を持っています。私たちは現在、2021年末までに打ち上げが可能なミッションを組み立てているところです。現時点の基本計画では、2週間ほど軌道を回り、25~30件の実験を実施することが予定されています。参加の機会については、2017年後半にも発表できると思いますが、実質的に開発途上国に加え、他の国も参加が可能です。実験の選定については、持続可能な開発目標(SDGs)に沿ったものであることを主な基準として判断します。


  • 1957年10月4日 – 第2次世界大戦の終結直後、宇宙は国連のアジェンダから姿を消していましたが、この状況は長く続きませんでした。1957年10月、ソ連が人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、宇宙時代の幕が切って落とされました。宇宙空間が人類の存在に新たな次元を加えたことを認識した国連は1958年、宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)を設置し、宇宙空間の平和的、かつ秩序ある国際開発に向けた第一歩を踏み出しました©Photo:NASA

  • 1959年5月6日 – 冷戦のさなか、宇宙探査が急速に進み、宇宙が新たな大国間の激しい競争の場と化したり、必要な資源をもつ少数の国が探査を独占したりしてしまうのではないかという国際社会の懸念が高まる中で、COPUOSの役割は特に重要となりました。写真は、ニューヨークの国連本部で開かれた会合に出席するCOPUOS委員©UN Photo/ MB

  • 1963年10月16日 – ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンは1961年、人類で初めて宇宙空間に到達し、歴史に名を刻みました。この歴史的な日は記憶にも留められています。国連はガガーリン氏の壮大な旅にちなみ、毎年4月12日を「国際有人宇宙飛行デー」に指定し、宇宙科学技術の開発に対する重要な貢献を改めて確認しています。写真に一緒に写っているのは、ともにニューヨークの国連本部を訪問した初の女性宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワ氏©UN Photo/ YN

  • 1964年8月19日 – 1964年、初の通信衛星「シンコム3号」が打ち上げられました。しかし、国連宇宙部(UNOOSA)は1962年から「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録簿」を管理しています。宇宙部は国連宇宙応用計画を通じ、リモートセンシングや衛星ナビゲーション、衛星気象学、遠隔教育、開発途上国を利する基礎的宇宙科学を含むトピックに関する国際的なワークショップや研修コース、パイロット・プロジェクトを実施しています。UNOOSAはまた、災害時の衛星画像提供要請を受け付ける国連のフォーカルポイントとして、24時間体制のホットラインを開設するとともに、国連防災・緊急対応衛星情報プラットフォーム(UN-SPIDER)の管理も行っています©Photo: NASA

  • 1967年1月27日 – 人間の宇宙空間での活動が、宇宙法によって律されることになりました。「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約」は、軍備管理、宇宙船や宇宙飛行士の安全と救出、探査の自由などの問題を取り扱う5つの国際条約の一つです。ロンドン、モスクワ、ワシントンで多くの政府が署名した同条約は、ソ連、英国および米国を含む5カ国の政府による批准を受けて発効しました。写真は、リンドン・B・ジョンソン米大統領、ソ連駐米大使および米英の国連常駐代表の同席のもと、米国ワシントンのホワイトハウスで開かれた式典で条約に署名するディーン・ラスク米国務長官(右から2人目)©UN Photo

  • 1968年8月14日 – 国連は、宇宙空間が世界各地の人々に及ぼす恩恵に対する認識を高めるため、3回にわたる世界会議を実施しました。写真は、第1回会議(UNISPACE I)と並行して開催された当時のソビエト連邦(ソ連)による展示会の様子。この会議では、宇宙科学技術とその応用の進捗状況が検討されました。会議は、UNOOSA内に国連宇宙応用専門家のポストを設置するよう提言しましたが、これがきっかけとなり、1971年にはUNOOSA宇宙応用計画が発足しました©UN Photo

  • 1970年7月20日 – 1969年7月、全世界の人々がテレビにくぎ付けになり、米国の宇宙飛行士ニール・アームストロングが月面に足を踏み出す瞬間の目撃者となりました。写真は、当時のウ・タント国連事務総長の家族と会見するアームストロング氏(左)と同僚のマイケル・コリンズ、エドウィン・E・“バズ”・オルドリンJr.の両氏©UN Photo

  • 1995年11月17日 – 国連創設50周年記念行事の舞台は、宇宙空間へも広がりました。写真は、テレビ中継でミール宇宙基地のコアモジュールに勢揃いした第2回スペースシャトル・ミール・ドッキング・ミッション(STS-74/Atlantis)の乗組員と、国連本部からビデオ会談する当時のブトロス・ブトロス=ガーリ国連事務総長。乗組員はカナダ、ロシア連邦、米国、欧州宇宙機関の宇宙飛行士で構成されていました©UN Photo/ Milton Grant

  • 2004年5月19日 – 宇宙飛行士が国連事務総長と会見する伝統は、新千年紀に入ってからも続きました。写真は、当時のコフィー・アナン国連事務総長とあいさつを交わす中国初の宇宙飛行士、楊利偉(ヤン・リィウェイ)少将。アナン事務総長は1999年7月の第3回国連宇宙探査・平和利用会議(UNISPACE III)で、次のように述べています。「国連のあらゆる重要かつ困難を伴う課題の中で、宇宙空間ほど私たちの想像力をかき立てるものはおそらくないでしょう」©UN Photo/Eskinder Debebe

  • 2012年7月24日 – 米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士と会見するカシムジョマルト・トカエフ国連ジュネーブ事務局(UNOG)局長(中央)。写真左から、マーク・E・ケリー、グレゴリ・エロル・チャミトフ、アンドリュー・J・フォイステル、グレゴリー・H・ジョンソン、エドワード・マイケル・フィンク、ロベルト・ヴィットーリの各氏©UN Photo/ Jean-Marc Ferré

  • 2016年3月2日 – NASAの宇宙飛行士スコット・ケリーは、歴史的な「宇宙での1年(A Year in Space)」ミッションを終え、カザフスタンのジェスカスガンに着陸しました。ケリー氏は宇宙飛行士のミハイル・コルニエンコとともに、国際宇宙ステーションに340日間滞在し、長期にわたって無重力状態にさらされた人体がどのように反応するかに関する理解を深めるため、400回を超える実験を行いました。ケリー氏の活動は科学だけにとどまらず、宇宙滞在期間中には#whyspacemattersキャンペーンにも参加し、ソーシャルメディアを使って、宇宙関連技術が持続可能な開発目標(SDGs)の達成に果たす重要な役割を世界と共有しました©Photo: UNOOSA

  • 2016年11月20日 – ケリー氏は地球に戻ってからも、宇宙関連問題に関する活動を続けています。写真は、元NASA宇宙飛行士であるケリー氏の「宇宙のための国連チャンピオン(UN Champion for Space)」就任を祝うシモネッタ・ディ・ピッポUNOOSA部長。ケリー氏は、2030年までに貧困に終止符を打ち、地球を守り、すべての人に豊かさを確保することを目指す持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた手段として、宇宙開発の振興を支援する役割を担うことになっています©UN Photo/ Runa A

    UN News:あなたは宇宙部門への女性の関与とリーダーシップを前進させるという目標も掲げています。また、STEM分野(科学、技術、工学、数学)を学ぶ女性の数が極めて少ないことから、その数を増やすことも望んでいます。女性の関心をこの分野に向けることは、なぜ難しいのでしょうか?

    シモネッタ・ディ・ピッポ:はっきりした理由は分かりません。世界規模で多くの研究が行われているところです。修士号を取得する女性の数が増えているとしても、宇宙空間の分野を専門とする女性の割合は極めて低いのが現状です。しかも、レベルが高くなり、リーダーシップのポジションになると、女性の数は皆無に近くなります。

    それはなぜでしょうか。理由は多くあります。難しい分野であることは確かです。強い決意と集中力が必要ですが、女性はその能力に長けています。宇宙空間の分野でのジェンダー・バランスとジェンダー構成は、私にとって常に最優先課題の一つになってきました。21世紀のための能力構築は、私たちが UNISPACE+50 に向けて対処せねばならない重要な優先テーマの一つになっており、加盟国は私たちにSTEM教育に向けた取り組みを要請していますが、中でも女性、特に開発途上国の女性に特に配慮することが求められています。

    そこで私たちは「スペース・フォー・ウィメン(Space for Women)」というプロジェクトを立ち上げているところです。お気づきのとおり、この「スペース(space)」という言葉には二重の意味があります。私は2018年6月の UNISPACE+50で、「スペース・フォー・ウィメン」に対する加盟国の関心を喚起したいと思っています。このプロジェクトを適切なレベルに引き上げるために必要な資金という点からも、加盟国の支援が得られることを期待しています。

    シモネッタ・ディ・ピッポ部長はUN Newsに対し、宇宙工学は持続可能な目標の達成に向けた前進と、世界をよりよい場所にすることに貢献できると語りました。Credit: UN News

    UN News:女性にSTEMの研究を奨励したり、すでに宇宙産業で活躍している女性を支援したりするためには、他に何ができるでしょうか?

    シモネッタ・ディ・ピッポ:それは複雑な問題です。私の経験からお話ししましょう。数年前、私がある女性と話をしていた時に「あなたは本当に私たちの手本となる人だ」と言われたことがあります。私はその時、辺りを見回してから「それは私のことですか」と聞き返してしまいました。

    その時以来、私は若い女性に対しても他の女性に対しても、より大きな責任を感じるようになりました。仮にお手本と見なされているのなら、本当に役に立つように行動しなければなりません。私たちに何かができれば、それは社会全体をよくすることに役立つからです。そして私は、多様性を問題とすべきではなく、多様性は逆に財産であると強く確信しています。私たち一人ひとりの実質的な能力こそが重要なのです。

    私たちが平等に扱われ、同じ機会を得ることができるとすれば、自分たちが求めるものを目指して懸命に努力することは私たち自身の責任となります。そこに男女の違いはありません。原則的に、違いを認めるべきではありません。男性にも女性にも、偏見というものが確かにありますが、私たちはこれに取り組まねばならないと思います。この意味で、極めて多文化的でオープンな国連は、明らかに最高の環境と言えます。まさに適切な場所なのです。

    「私は、多様性を問題とすべきではなく、多様性は逆に財産であると強く確信しています。私たち一人ひとりの実質的な能力こそが重要なのです。私たちが平等に扱われ、同じ機会を得ることができるとすれば、自分たちが求めるものを目指して懸命に努力することは私たち自身の責任となります。そこに男女の違いはありません」

    UN News:「女性のための宇宙」と宇宙分野に取り組む女性というお話がありましたが、あなた自身はどのような道を歩んで来たのですか?

    シモネッタ・ディ・ピッポ:私が宇宙という分野に関心を持つきっかけの一つとなったのは、10歳の時に人類が初めて月面に降り立った姿を見たことです。私はその時すでに、理科が得意だったので、自分の頭を使うことがしたいと思っていました。それがまさに今の仕事になっています。

    宇宙船を開発し、宇宙飛行士を宇宙基地に送り、現実的なプロジェクトで協力する仕事を30年も続けてきましたが、今は宇宙の反対側の側面、つまり、人類のために宇宙をどのように活用できるか、宇宙はいかにして地球上の生活の質的向上に貢献できるのかという問題に関心があります。ですから、私が国連に加わり、国連のすべての加盟国にとって恩恵となる大型プロジェクトの開発に自分の専門知識を生かすには、ちょうどよい時期だったと言えます。今ここにいられることが最高に幸せです。

    UN News:「宇宙は持続可能な開発にとって重要である、なぜなら…」という文を、あなたならどのように続けますか?

    シモネッタ・ディ・ピッポ:宇宙からの観測データと宇宙インフラの整備は、(衛星)画像や情報サービス、その応用を通じたものを含め、さまざまな形で持続可能な開発目標(SDGs)の実現を実質的に支援できます。元NASA宇宙飛行士のスコット・ケリー氏を「宇宙のための国連チャンピオン(UN Champion for Space)」に任命したのもそのためです。その役割は、SDGs に関する私たちの啓発活動を支援することにあります。さらに、私たちの一人ひとりが毎日、20から25の衛星を利用して暮らしているという事実を示し、これに対する認識を高めることにも貢献します。こうした事実は知られていません。確かに私たちは知ってはいますが、一般の人々にはほとんど知られていません。スコットは宇宙に出て、地球を外側から眺め、地球がいかに脆い存在かということや、気候変動と地球を取り巻く宇宙ゴミ(スペースデブリ)だけでなく、グローバル・ヘルス、宇宙天気、水と食料の安定確保といった問題も体感しています。私たちは、ジェンダーの平等をはじめ17の SDGs に関連するトピックに数多く取り組んでいます。事実、世界をよりよくするために、私たちにできることはたくさんあるのです。

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    原文(English)はこちらをご覧ください。