この人に聞く:気候変動に取り組む、パトリシア・エスピノーサ UNFCCC 事務局長
2017年04月12日
2017年3月31日 – 2015年、すべての国による普遍的な支持を受けて採択された気候変動に関するパリ協定は、非常に大きな意義のある外交的成果であり、現在までに発効に必要な数を超える141カ国が批准しています。
各国の野心的で刺激的な取り組みにより、危険な気候変動を回避し、未来の地球のあるべき姿と、将来の世代に残していく遺産を決定づける道へと世界を導くグローバルな行動計画ができ上がりました。
国連は、各国政府による革新的な気候対策の事例報告を受け続けています。この数週間だけでも、インドが汚染物質を多く排出する車両の禁止を発表したほか、全世界の太陽光発電能力が2016年、米国と中国を中心に50%増大したことを示す新たな調査結果が出るなどの動きが見られています。
こうした政府の取り組みは、企業や投資家、都市、地域、地方自治体によって引き続き支えられています。例えば、多くの大手石油会社のCEOは最近の数週間に、パリ協定に対する支持を公言しています。
世界の気候アジェンダに対する国連の枠組み支援は、締約国に対し、パリ協定に基づき、それぞれの目標に向けた取り組みを実施し、これを達成するよう促し続けています。
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長を務めるパトリシア・エスピノーサ・カンテリャーノ氏(メキシコ)は、気候変動やグローバル・ガバナンス、持続可能な開発、ジェンダーの平等、人権の擁護を専門に、国際関係の最高レベルで30年にわたる経験を積んでいます。
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“141カ国による批准は、パリ協定のような多国間条約にとって、まさに未曽有の成果です”
UN News:パリ協定の採択と発効を促した勢いと熱意は、まだ続いているとお考えですか。
パトリシア・エスピノーサ:それは間違いありません。パリ協定の採択によって、状況は大きく好転しています。協定批准国の数も実に多くなっています。現時点の141カ国による批准は、パリ協定のような多国間条約にとって、まさに未曽有の成果といえます。
採択後わずか16カ月で、世界の全地域からこれだけ多くの批准が得られていることは、非常に心強い兆候です。最高レベルで政治的な支持があることを意味するからです。それだけではなく、企業や市民社会団体、科学者など、あらゆる人々がパリ協定に関連するアジェンダに極めて積極的に関与しています。
UN News:パリ協定履行のために、各国はどのような措置を講じているのですか。
パトリシア・エスピノーサ:それは状況によって異なります。パリ協定は極めて複雑な条約であるため、どのような措置が必要となるかは、各国の事情に応じて異なってくることに留意する必要があると思います。第1のステップが批准であることは確かですが、その次に来る活動の程度はまちまちです。一部の国々は、自国が決定する貢献案(INDC)を直ちに、自国が決定する貢献(NDC)へと転換しています。現時点で130カ国以上がNDCを設定していますが、これはパリ協定に基づく約束を履行するための国内計画に相当します。これを実際に履行するためには、民間セクターの参加を得て、こうした約束を国家開発計画や投資計画に盛り込むことが必要になります。つまり、このような必要とされるステップの実施状況や実施方法は、国によって異なっているのです。
動画:エスピノーサUNFCCC事務局長は、世界がパリ協定の履行を各地で加速し、投資計画を策定する必要があると述べています。事務局長はUN Newsのインタビューに答え、パリ協定は「さらなる高みを目指すための明確なロードマップ」であると語りました。
UN News:パリ協定はどのようにして、地球の平均気温上昇を摂氏2度よりも大幅に低く抑えようとしているのですか。
パトリシア・エスピノーサ:パリ協定は、この目標の達成に向けた枠組みを定めています。なぜ2度という目標が立てられているのかと言えば、それは科学者が、健全な環境状況下で人間のニーズにうまく対処すること、すなわち環境バランスを保つことを可能にするためには、気温をこの水準に抑えなければならないと結論づけているからです。パリ協定は、この目標を達成するために必要な取り組みの枠組みを定めるものです。それはまた、各国がその野心、つまりパリ協定に基づく約束の水準を段階的に高めていくための枠組みでもあります。これが実現すれば、私たちは今世紀の半ばまでに気候中立性(climate neutrality)を達成し、今世紀の後半には、この目標を達成するめども立つでしょう。
UN News:気温上昇1.5度に抑えるという目標は、現時点で現実的なのでしょうか。
パトリシア・エスピノーサ:現時点の科学研究や技術的ソリューション、表明された約束は、目標を達成できる水準にまだ達していません。しかし、その一方で、技術革新や行動、さらには政府だけでなく地方自治体も含む各国の関係者全体による取り組みという点で、心強い動きも見られています。こうした変革は、私たちが数年前に予測したよりもはるかに速いスピードで進展しています。これは正しい方向性が設定され、しかもその方向で取り組みが前進していることを示す明らかな兆候だと言えるでしょう。
UN News:気候中立性というお話がありましたが、その意味を簡単に説明していただけますか。
パトリシア・エスピノーサ:気候中立性とは、私たちの社会から排出される二酸化炭素を、世界が自然に吸収し続けられる状態を指します。例えば農業について言えば、飢餓に終止符を打つことが持続可能な開発目標(SDGs)の重要要素にもなっていますが、農業は同時に、二酸化炭素の排出源でもあります。つまり、農業は排出量を完全に吸収できていない分野の一つだということです。ですから、私たちは環境がこの排出量を自然に吸収できる状況を実現する必要があります。
排出量を吸収できる天然資源には、どのようなものがあるでしょうか。例えば、土壌は排出量を吸収できます。森林も吸収源です。海洋もその可能性を備えています。現在のところ、排出量があまりにも多いため、環境がそれをすべて吸収できていません。私たちはその意味で中立性、つまりバランスを達成する必要があるのです。
“私たちは現場で履行をスタートさせるか、これをできるだけ加速する必要があります”
UN News:では、パリ協定を履行するために、国際レベルでは今後、どのようなステップを踏んでいくのですか。
パトリシア・エスピノーサ:国際レベルでは、多くのことを同時にこなす必要があります。また、一つの作業を終えてから次の作業にかかるという余裕もありません。交渉プロセスに関しては、できるだけ早く、遅くとも2018年中に、いわゆるパリ協定「ルールブック(rule book)」を完成させることが必要です。これは、協定の実質的な履行を図るために必要な基本的ルールとなるものです。各国政府が約束の履行に関して報告する際、どのようなルールを適用するのか、技術面や金銭面での支援を開発途上国に提供する場合には、どのようなルールを適用するのか、といった類のルールを策定する必要があります。
同時に、パリ協定は野心的な目標を定めるための極めて明確なロードマップも提示しています。例えば、私たちは2018年に、いわゆる「促進的対話(facilitative dialogue)」の実施を予定していますが、これは、各国がパリ協定に基づくそれぞれの約束履行について、どれだけの前進を遂げているかを評価する最初の機会となります。私たちはさらなる高みを目指せるよう、この評価作業から、さらに野心的な目標を設定できる分野を特定できればと考えています。その一方で、私たちは現場で履行をスタートさせるか、これをできるだけ加速する必要もあります。よって、輸送や住宅、エネルギー部門といった分野での行動も必要になります。私たちは極めて具体的な計画やプログラムのほか、極めて具体的な投資計画の策定にも着手する必要があります。
UN News:先進国はパリ協定に基づく資金拠出の約束を守ると思われますか。
パトリシア・エスピノーサ:マラケシュ会議では、パリ協定に盛り込まれた1,000億ドルの拠出に向けたロードマップに関する初の報告がありましたが、ドナー・コミュニティーとOECD(経済協力開発機構)が共同で行ったこの報告を見る限り、いまのところ取り組みは順調に進んでいるようです。また、資金はすべてが公的資金源から調達されるわけではなく、民間からの資金も実質的に重要な役割を果たすことに留意する必要があります。この意味で、民間投資の役割は大きいと言えます。よって私は、パリ協定に盛り込まれた1,000億ドルという金額は極めて重要な目標ではあるものの、私たちの経済に要求される変革を果たすためには、はるかに多くの資金が必要となることを知るとともに、これに留意する必要があると考えています。
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