この人に聞く:平和維持活動を担当し、退任を控えた、エルベ・ラドスースPKO局長
2017年04月19日
2017年4月4日 – 新たな紛争地域に60日以内に展開できる国連平和維持要員「先遣隊」は、ほんの2年前でも「不可能」な構想だったことでしょう。
しかし、今は違います。退任を控えたエルベ・ラドスース平和維持活動担当事務次長は、UN Newsとの最後のインタビューで、平和維持活動局(DPKO)が近年、全世界で多く命を救っているサービスの「質を低下させる」ことなく、その効率を高めていると語っています。
現在、10万人を超える要員を展開中の DPKO には、およそ126カ国が文民、兵員および警警察官を提供しています。
ラドスース事務次長はUN Newsに対し、2011年に同氏が局長に就任して以来、DPKO がいかにして予算額を82億米ドルから72億米ドルへと切り詰めることができたのかを説明しました。
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UN News:3月31日の記者会見では、全世界の平和維持活動予算の総額が72億米ドルへと削減され、平和維持要員一人あたりの費用も近年、16%低下しているとのお話がありました。日常業務に支障を来たさずに、この削減をどのように達成したのですか。
エルベ・ラドスース:単に効率を改善しただけです。しかも、私たちが提供する装備の質も、サービスの質も低下していません。このことからも、私たちが与えられた資源の良き管理者になろうとしていることがわかると思います。
UN News:これ以上の予算削減があった場合、国連にはどのような影響が出ますか。
エルベ・ラドスース:まず、私たちのマンデート、そして要員数の上限を定めるのは安全保障理事会だということを申し上げておきます。削減によって実地の活動に影響が出る場合があり得るということは、強調しなければならないでしょう。しかし、私たちはこれまでと同じく、安保理の全理事国、そしてさらには第5委員会(行政と予算問題に関する諮問委員会)とも密接な連絡を取っていきます。
UN News:テクノロジーの進歩が平和維持要員の実地活動の改善に貢献したということを強調されていますが、具体的な例を挙げていただけますか。
エルベ・ラドスース:はい。明らかな例は、無人航空機(UAV)です。大型のドローンと小型機がともに、私たちのほとんどの活動に標準装備されるようになっています。しかし、私が強調したいのは、戦術的なドローンではなく、無人偵察機です。その他にも、兵器による攻撃を検知するレーダーや、カメラや温度検出器を搭載してバンギのような都市を監視する繋留気球があり、私たちはこれによって、実際に起きていることを把握できるようになっています。
UN News:各地で起きている紛争を見ると、平和維持活動はこれらすべての危機に対応するため、能力の限界に近づいているようにも見えます。実際のところはどうですか。
エルベ・ラドスース:もちろん能力の限界はありますが、2年前の平和維持サミットでは、新旧の兵力・警察要員提供国から、多くの申し出もありました。
私たちは、こうした申し出を現実に活用する方法を考えねばなりませんでしたが、今では30日から60日以内に先遣隊を派遣できる能力を確保できるところまで来ています。わずか2年前、これはまったく不可能なことでした。よって、能力の限界という表現が当たっているのかどうか、定かではありません。
むしろ問題は、任務遂行を促進する機材と一部部隊の装備に関係しています。私たちは関係国とともに、常に支援と改善への取り組みを行っています。私たちはクリエイティブなやり方で、こうした課題に最も効果的に取り組もうとしています。
UN News:平和維持活動局(DPKO)は、長年にわたって兵員を多く提供してきたグローバル・サウス(開発途上国)よりも、グローバル・ノース(先進国)から多くの新規要員を集めることに成功しています。何が変わったのでしょうか。
エルベ・ラドスース:これは私が過去5年間、大きな力を注いできた課題の一つです。現状は不公平に思えたからです。負担が平等に共有されていませんでした。まだ目標が達成されたと言えるところまで来ていませんが、トレンドができ上がっていることは確かであり、国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)を見ても、欧州連合(EU)に加盟する17カ国がミッションに要員を派遣しています。
中央アフリカ共和国では、ヨーロッパ諸国がアフリカ連合(AU)と国連部隊の全面展開とのつなぎ役を果たしたことを忘れてはなりません。10年前、これら国々の多くがアフガニスタンに大規模な関与を行っていたことを考えれば、この動きは奨励されるべきだと思います。
もちろん、こうした関与が現在ではほとんど目立たない存在となっていることから、ヨーロッパ諸国が国連の関与する平和維持への回帰を望ましいこととして認識するようになったとも考えられます。
“軍当局者、つまり参謀将校についても、できるだけ早い時期に20%以上を女性にするという目標を定めています”
UN News:DPKOは平和維持活動への女性の参加を増やそうとしていますが、女性の要員はまだ少ないのが現状です。それはなぜでしょうか。
エルベ・ラドスース:確かにそのとおりで、私が望むほどの進展はまだ得られていませんが、世界の主要国の軍では、まだ女性が進出できる環境が整っていないということも併せて考える必要があります。要員を提供する加盟国で実現できていないことを、私たちが実現することはほとんど期待できないからです。ただし、警察要員については、わずかながら成果が上がり始めています。現時点で、女性警察官の割合は12%程度だと思います。目標は20%に定められていますが、その達成は可能だと考えています。私はまた、軍当局者、つまり参謀将校についても、できるだけ早い時期に20%を女性にするという目標を定めています。しかし、そのためには多くの取り組みのほか、兵員や警察官を提供する国々の積極的な協力も必要となります。
動画:退任間近のエルベ・ラドスース国連平和維持担当事務次長は UN News とのインタビューに応じ、性的搾取と虐待については「ゼロ容認」だけでなく、「ゼロ発生」も必要だと述べました。事務次長はまた、この問題に関する訓練の重要性と、兵員提供国による協力の必要性にも触れています。
“ごくわずかな人間が大多数の平和維持要員の評判に傷をつけているのは残念なことです。私たちはもちろん、兵員や警察官を提供する加盟国がその責任を果たさねばならないことを忘れるべきではありません。事務局だけの責任ではないのです”
UN News:マリや南スーダンなど、維持すべき平和がないケースは、DPKOにとっていら立ちが募る状況ではないかと思われますが…。
エルベ・ラドスース:確かにそのとおりです。私は先週、南スーダンを訪れましたが、ここでも状況は同じでした。安全保障理事会は、私たちが必ずしも活動すべきでない状況の中で、マンデートを与えることが多くなってきています。マリの場合にも、そして現在の南スーダンの場合にも当てはまることですが、平和維持ミッションの恒久的目標の一つは、和平合意の成立を目指す地域内のこれら具体的な国々に支援を提供すべく努めることです。もちろん、こうした合意の実施は、私たちの責任にもなります。しかし、極めて微妙な移行を要する状況や、平和維持要員を明らかに大きなリスクにさらすような状況で、部隊が展開されることもあります。
私は、2012年にシリアに派遣され、短命に終わった監視ミッションのことを忘れていません。4カ月後、私たちはミッションを打ち切りました。それは明らかに私たちの役割ではなかったのです。平和が存在しなかったばかりか、和平プロセスが進展するという見込みさえもなかったからです。
UN News:中央アフリカ共和国(CAR)、コンゴ民主共和国(DRC)、ハイチなど、多くの国々では、国連職員による性的搾取と虐待の問題が大きなニュースとなり、平和維持要員に対する信頼に傷がつくことになりましたが、これはシステム全体の問題です。DPKOはこの問題にきちんと対処したとお考えですか。国連からこのような大変痛ましい問題を一掃する取り組みは進んでいるのでしょうか。
エルベ・ラドスース:私たちはいつも、この問題に真剣に取り組んできたと思います。新任の事務総長は、私たちがすでに着手していた多くのことを土台に、これをさらに拡充する行動計画を提示することにより、問題解決にさらに力を入れて取り組んでいます。これは絶対に必要なことだと思います。ごくわずかな人間が大多数の平和維持要員の評判に傷をつけているのは残念なことです。私たちはもちろん、兵員や警察官を提供する加盟国がその責任を果たさねばならないことを忘れるべきではありません。事務局だけの責任ではないのです。
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