「クジラを守り、地球を守ろう」 レオナルド・ディカプリオ氏による寄稿
2017年06月05日
「国連海洋会議」が2017年6月5日から9日にかけてニューヨークの国連本部で開催されます。この問題に関するものとしては初の国連会議。広報局の季刊誌 “UN Chronicle” は最新号で、課題解決に取り組む専門家や著名人による寄稿を特集しています。その中から、気候変動担当の国連ピース・メッセンジャーを務めるレオナルド・ディカプリオ氏の寄稿「クジラを守り、地球を守ろう」を日本語でお届けします。
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1997年、ロサンゼルス近郊のマリーナデルレイに生後間もないコククジラの赤ちゃんが迷い込み、大騒ぎになりました。毎年、アラスカからメキシコに回遊する群れにいたこのクジラは、母親からはぐれてしまったのです。数百人のボランティアがボートや引っ越しトラックを急いで調達し、間に合わせの担架を使って迷子のメスクジラを100マイル以上も離れたサンディエゴまで移動させ、命を救おうとしました。
救助者によってJJと名付けられたこのクジラは、弱って脱水症状を起こし、方向感覚がなくなっていましたが、18カ月にわたる世話の甲斐もあって健康を取り戻し、自然に戻されました。多くの人々はこの日、成果を祝いましたが、JJが克服した課題は、20年後の現在、コククジラという生物種全体が直面する脅威とは比べ物にならないほど小さなものでした。
その脅威とは、気候変動です。
私たちの海はいま、巨大な圧力にさらされています。人間の活動によって大気中に放出された二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを海水が大量に吸収し、酸性度が30%も増しているからです。特に産業革命以来の人類の進歩は、地球の気候全体に破壊的な影響を及ぼし、しかもこの影響は特に、私たちの海に広がっています。
貝は弱くなり、古代にでき上がった巨大なサンゴ礁は白化し、必要不可欠な生態系は死にかけています。海洋食物連鎖も危機に陥っています。アシカやカワウソ、セイウチなどの大型海獣の主食となるハマグリ、カキ、ロブスター、そしてカニが絶滅の脅威に晒されているからです。最も気がかりなのは、プランクトン、アンフィポッド(小さなエビに似た生物)など、大型のクジラや大小のあらゆる種類の魚の生命を維持する微生物が、見つかりにくくなっていることです。この恐るべき傾向は、JJが寿命を全うする前に餓死する可能性が高いこと、そして、数十億の人類が依存する海洋生物の多くが消滅することを意味します。
プラスチック汚染や魚の乱獲など、海に対するその他の脅威とは違い、こうした変化は目に付きやすいとは限りませんが、明らかな警告は見て取ることができます。世界のペンギン全17種のうち過半数は、気候変動の影響で食料供給が減ったことにより、絶滅が危惧されています。二枚貝はこれまでになく小型化し、文字どおり私たちの視界から消えていますが、その損失は人間にも影響を与えます。二枚貝に含まれるタンパク質には、がんの治癒効果があることがわかっているからです。これがなくなった場合、私たちはどうしたらよいのでしょうか。
気候変動の結果、世界の海はすでに、私たちの汚染を吸収できないところまで温暖化しています。つまり、最も破壊的な影響を避けるためには、2015年パリ協定で定める水準をはるかに超える炭素排出量削減の取り組みが必要となるのです。
海水面の上昇や、暴風雨の激化と長期化による沿岸部への損害はすでに、脆弱な低地にあるコミュニティーを壊滅させ、地元の漁民や観光業労働者、農民など、多くの人々の生計手段を奪い去っています。私たちの石油に対する飽くなき需要は、大量の原油流出事故につながり、これがさらに被害を大きくしています。
しかし、望みはあります。
パリ協定は地球、特にその海洋にとって、より持続可能な未来を実現するための道を開きました。私の財団では、2050年までに全世界の電力の100%をクリーンな再生可能エネルギーで賄えることを証明する「ソリューションズ・プロジェクト」(http://thesolutionsproject.org)による研究を支援しています。ベトナムでは、炭素を吸収し、数限りない魚種に育成の場所を提供し、沿岸部を激しい暴風雨から守るため、海岸線に沿ったマングローブの復旧も行われています。そして、20年前にJJが発見されたロサンゼルス近郊の水域では、ボランティアたちが、800の動植物種の住処として、また、地球上のあらゆる生き物の酸素源として欠かせない巨大なコンブ棚の再生に取り組んでいます。
それで十分でしょうか。JJを救うために、あらゆる職業、年齢、そして背景を持つ数百人のボランティアが結集しました。自分たちのエゴやこだわりをビーチに脱ぎ捨て、まさに文字どおりに飛び込んで、死にかけたクジラの命を救ったのです。私たちの海に対しても、私たち自身に対しても、そして私たちの未来に対しても、同じことができるはずです。しかし、私たちはいま、かつてJJを救うために意識的な決断をした時のように、JJに寿命を全うさせることができるのか、それとも海洋を劣化させ、年老いる前に餓死させてしまうのかという、同じく根本的な選択をしようとしています。もし後者のようなことになれば、私たちは子どもに対しても、私たちがいま当たり前のものと思っている生活の質をはるかに下回る暮らしを強いることになるのです。
私たちは、人類が地球全体の3分の2の組成を変えてしまうほどの力と、そしておそらくは愚かさを持っていることを知っています。1997年にJJを救うために盛り上がった警戒感と切迫感を、クジラだけでなく、海洋生物多様性全体に対する脅威が増している今こそ、再び取り戻す必要があります。国連の持続可能な開発目標(SDGs)14は「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」ことを私たちに求めています。この目標は単に、私たちが海から漁獲する魚の数を制限したり、沿岸水域でのリスクの高い石油探査に終止符を打ったりすることだけで達成できないことを忘れないでおきましょう。気候変動や、私たちが陸上で進めている炭素排出が海に突きつけている脅威をなくすことも必要なのです。
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著者紹介
レオナルド・ディカプリオ氏は、アカデミー賞受賞経験のある俳優、プロデューサー兼活動家。1998年には、生物多様性と生息環境保護、気候変問題の解決を目指す「レオナルド・ディカプリオ財団」を設立しました。ディカプリオ氏は気候変動担当国連ピース・メッセンジャーで、クリントン・グローバル・シチズン・アワードと世界経済フォーラム・クリスタルアワードも受賞しました。また、世界自然保護基金(WWF)、天然資源保護協議会、ナショナルジオグラフィック「原始の海」プロジェクト、Oceans 5、国際動物福祉基金で理事も務めています。