<ファクトシート> 核兵器不拡散条約(NPT)2010年再検討会議 (2010年5月3日-28日、ニューヨーク)
プレスリリース 10-024-J 2010年04月29日
国際原子力機関(IAEA)
国際原子力機関(IAEA)は、原子力技術の平和的利用における科学技術協力に関し、世界で最も重要な役割を果たす政府間フォーラムです。1957年、国連傘下の独立機関として設立されたIAEAは、原子力技術の社会に対する有益な貢献を極大化しつつ、その平和的利用を検証するためのプログラムを実施しています。IAEAのトップを務めるのは天野之弥(あまのゆきや)事務局長です。
IAEAは151の加盟国および全世界の多様なパートナーとの連携により、安全で確実、かつ平和的な原子力技術の推進を図っています。また、技術協力プログラムを通じて加盟国を支援するとともに、加盟国間の科学技術情報の交換も促進しています。IAEAの活動には、国際的な核の安全保障体制を構築、強化するための協調的取り組みに向けた枠組みの設定や、各国による不拡散の約束履行状況の検証も含まれます。
IAEA事務局本部はオーストリアのウィーン国際センター内に設置されています。その他、スイスのジュネーブ、米国のニューヨーク、カナダのトロント、そして東京にも活動連絡事務所や地域事務所があります。さらに、オーストリアのウィーンとザイバースドルフ、モナコ、イタリアのトリエステでも、研究センターや科学研究所の運営または支援を行っています。
IAEA事務局は、90カ国以上から集まった各分野専門家および補助職員の2,200人から構成されるチームです。
IAEAと核不拡散条約(NPT)
IAEAはNPTの当事者ではなく、その規定により重要な役割と責任を託された機関です。IAEAの保障措置は、信頼醸成の手段や早期警報メカニズム、さらには、必要な時と場合に、国際社会によるその他の対策を発動するきっかけとしての役割を果たします。
IAEAはNPTに基づき、国際的な保障措置査察機関として、また、多国間で原子力の平和的利用技術を移転する経路として、具体的な役割を果たします。
NPT第3条:IAEAは「平和的用途から核兵器その他の核爆発装置への原子力の転用を防止するために」NPT非核兵器締約国による不拡散の約束履行を検証する国際的な保障措置を運用する。
NPT第4条:IAEAは「世界の開発途上地域のニーズを十分に考慮しつつ、特にNPT非核兵器締約国の国内において、平和目的での原子力利用をさらに発展させること」をねらいとした取り組みを促進するとともに、そのための経路を提供する。
原子力技術の平和的利用
IAEAはその技術協力プログラムを通じて、国、地域および地域間レベルで、持続可能な開発に向けた重要な優先課題に取り組む際、適切な原子力科学技術の活用を支援することにより、加盟国への具体的な社会経済的効果の促進を図っています。この技術協力プログラムは6つのテーマ、すなわち、人間の健康、農業生産性と食糧安全保障、水資源管理、環境保護、物理的・科学的応用、持続可能なエネルギー開発、および分野横断的テーマ領域、すなわち、安全性と安全保障を中心に、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成を支援するものとなっています。
保障措置の現状
最新版の「保障措置声明」(2008年)によれば、IAEAと保障措置協定を結んだ163カ国に保障措置が適用されています。2008年12月31日現在、包括的保障措置協定と追加議定書がともに発効しているのは84カ国です。このうち、活発な原子力活動を行っているのは44カ国です。
2008年末時点で、核兵器不拡散条約(NPT)の非核兵器締約国のうち30カ国が、同条約第3条で要求されるIAEAとの包括的保障措置協定の発効に至っていません。
核兵器国5カ国は、自発的保障措置協定を結んでいます。5カ国のうち4カ国では、主要施設の申告済み核物質に関し、保障措置が実施されました。
2009年末までに、包括的保障措置協定を結んだ国々の4分の3が追加議定書に署名したほか、包括的保障措置協定を結んだ国々の半数以上について、追加的議定書が発効しています。しかも追加議定書は、核物質が保障措置の対象となっている国々のほぼ4分の3について発効しています。
IAEAの保障措置について詳しくは、下記をご覧ください。
http://www.iaea.org/OurWork/SV/Safeguards/safeg_system.pdf
各国との保障措置協定に関する現状の総括は、下記でご覧になれます。
http://www.iaea.org/OurWork/SV/Safeguards/es2008-tables.pdf
http://www.iaea.org/OurWork/SV/Safeguards/sv.html
保障措置の実施状況
保障措置の実施活動は、現地とウィーンのIAEA本部の両方で行われます。本部での活動としては、核物質計量報告書、その他の包括的保障措置協定と追加議定書で各国に要求される情報の評価や、他の情報源から得られた保障措置関連情報の評価があげられます。現地での活動として、事務局は該当する国々で1,691回の査察、473回の設計情報検証および122回の追加立入調査を行いました。現地での検証活動は延べおよそ1万1,359日に及んでいます。
包括的保障措置協定
包括的保障措置協定に基づき、IAEAには、対象国内、その法的管轄権が及ぶ地域、またはその他支配下にある地域でのあらゆる平和的原子力活動に用いられたあらゆる核物質に関し、かかる物質が核兵器その他の核爆発装置に転用されていないことを検証する目的でのみ、協定で規定する保障措置の適用を確保する権利と義務が与えられています。
追加議定書
包括的保障措置協定により、IAEAには、ある国でのあらゆる核物質の平和的利用(すなわち、当該国による申告の正確性と完全性)を検証する権限がありますが、この協定に基づきIAEAが利用できる手段は限られています。
保障措置の実効性と効率を高めるためには、追加議定書の履行が欠かせません。未申告の核物質や原子力活動を発見することは、IAEAにとって最大の課題の一つだからです。包括的保障措置協定があっても、追加議定書が発効していなければ、IAEAがこの任務を達成する能力は限られてしまいます。
モデル追加議定書はIAEAに対し、より幅広い情報や場所にアクセスできる重要な補完的手段を与えるものです。よって、追加議定書に規定された措置により、包括的保障措置協定を結んだ国でIAEAがあらゆる核物質の平和的利用を検証できる能力は、大幅に高まることになります。
統合保障措置
統合保障措置とは、IAEAの保障措置義務履行の実効性と効率を最大限に高めるため、包括的保障措置協定と追加議定書でIAEAに認められたすべての保障措置を最適な形で組み合わせたものを指します。
2008年全体について統合保障措置が実施されたのは、オーストラリア、オーストリア、バングラデシュ、ブルガリア、カナダ、チェコ共和国、エクアドル、ガーナ、ギリシャ、バチカン市国、ハンガリー、インドネシア、アイルランド、ジャマイカ、日本、ラトビア、リトアニア、マリ、ノルウェー、ペルー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、ウズベキスタンの計25カ国です。チリ、クロアチア、フィンランド、イタリア、マルタ、モナコ、パラオおよび韓国については、2008年中の一部について統合保障措置が実施されました。また、統合保障措置のアプローチはキューバ、ルクセンブルクおよびウルグアイについて策定、承認済みであるほか、アルメニア、デンマーク、スロベニアおよびスウェーデンについても策定中となっています。
保障措置の実施動向
朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)
2002年12月以来、IAEAは朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)での保障措置を実施していないため、これに関する結論は出すことができません。DPRKがIAEAとの協力をすべて打ち切ったのを受け、IAEA査察官は2009年4月、DPRKから退去しました。IAEAはDPRKでアドホックな監視・検証取極めを実施できなくなりました。
イラン
IAEAはイランとの包括的保障措置協定に基づき、同国での申告済み核物質の非転用検証を続けていますが、イランがIAEAに必要な協力を提供していないため、国内の核物質がすべて平和的活動に用いられているとの確認はできません。
必要な協力としては、IAEA理事会と国連安全保障理事会の関連決議履行、追加議定書と修正コード3.1の履行、イランの原子力計画が軍事的側面を有する可能性に関連する問題の解明などがあげられます。
シリア
シリアは2008年6月以来、デリゾールの施設その他関連場所に関する未解決の問題につき、IAEAとの協力を行っていません。IAEAはこのため、理事会に対する前回の報告以降、これら施設に関連する懸案事項の解決に向けた前進を実現できていません。小型中性子源炉に関する問題の解決を促進する上でも、シリアの全面的協力が必要です。