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寄稿:やめよう、プラスチック汚染

2018年06月08日

文・国連環境計画(UNEP)アジア太平洋地域事務所
  化学品・廃棄物・大気汚染プログラム調整官
  吉田鶴子(よしだ・かくこ)

 

私たちの生活を快適・便利にしているプラスチックやビニール製品。とても安く手に入るし、様々な形状や色に加工できるので、自動車産業、農業、食品産業、医療にいたるまで本当に幅広く使われています。日本では、プラの分別をする時に位しか、特に意識することはないかもしれない現代社会におけるプラスチックの存在。実は、世界規模の環境問題を引き起こしていることを知っていますか? 6月8日の世界海洋デーに際して、使い捨てプラスチックの生産や過度のプラスシック依存を減らす取り組みを紹介します。

川や海に流れ込んでしまうプラスチックごみは、世界全体で毎年1,300万トン に上る©UNEP

国連環境計画(UNEP)環境技術センター(IETC)により今週発表されたレポートSINGLE-USE PLASTICS: A Roadmap for Sustainability(概要はこちら)によると、世界で生産されているプラスチックは年間約4億トンで(2015年データ)、その大半は使い捨て梱包・容器用です。世界全体では捨てられたプラスチックのほとんど(79%)がリサイクル、焼却されずに埋立地に廃棄されています。これは回収されたゴミだけが対象で、不法投棄されたり、回収されなかったゴミに入っているプラスチックは含まれていません。ですから、川や海に流れ込んでしまうプラスチックごみは毎年1,300万トンに上ると言われても驚くに値しないのかも。これは、日本で一般に走っている最大積載量2万トン前後のゴミ収集車に換算すると、ゴミ収集車650万台分のプラスチックを何十年も毎年海に捨てているのと同じなんですが! 

プラスチックが自然に分解するのには数十年から100年単位の時間がかかるので、プラスチック汚染が深刻な問題になってしまったのも納得がいきます。また、汚染は目に見えるビニール袋やボトルキャップに限りません。各地で市販のペットボトルの水や水道の水を調べたところ、なんと83-90%の水に肉眼では見えないプラスチックの破片が混入していました。プラスチックごみを餌と間違えて食べてしまったり、海洋投棄された漁業網に絡まって死んでいく野生動物も後を絶ちません。低地で常に洪水リスクの高い都市では、流れ出したプラスチックごみが排水路につまり、市民の生活や経済に悪影響を与えている懸念もあります。

インド最大の都市、西海岸のムンバイの浜辺©UNEP

この深刻な問題への取り組みが、やっと世界中に浸透し始めています。今週6月5日の世界環境デーにはプラスチック汚染をなくそうと#BeatPlasticPollution(#なくそうプラスチック汚染)をテーマに、様々なイベントが世界各国で盛大に執り行われました。メーン会場となったインドの首都ニューデリーでは、国連環境計画のエリック・ソルヘイム事務局長の見守る中、インド政府がタージマハルなど国内100の歴史遺産をゴミや汚染から守り、海洋保全の国際キャンペーン#CleanSeasに参加するつもりであると宣言しました。これまでに60カ国以上でビニール袋の廃止や課金、プラスチック製ストローの全廃、発泡スチロールの使用制限など、プラスチックの生産や使用を制限する政策や法律が施行されています。

企業の自助努力も加速しています。去年からコカ・コーラなどの清涼飲料水メーカー、ユニリーバなどの一般消費剤や化粧品メーカー、ヒルトンなどのホテル業界が使い捨てプラスチックの削減やリサイクル・プラスチックの使用を増やす計画を相次いで発表しました。国連環境計画アジア・太平洋地域事務所では、地域全体で政府・企業・市民が一体となったプラスチック汚染対策が広がるように後押ししています。

国境を越えた取り組みとしては、国連環境計画の北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)が日本・韓国・中国・ロシアのメンバー4カ国合同で海洋・沿岸環境の管理と保全に取り組んでいます。2014年には, 富山市にある公益財団法人環日本海環境協力センター (NPEC) とNOWPAPが協力し、海洋ごみに関するグローバル・パートナーシップ (GPML)の北西太平洋地域海センターを設置しました. 参加国の中央政府・沿岸都市の海洋ごみ対策の情報を公開・共有し、さらなる自助努力を促すほか、合同訓練や対策会議を定期的に開催し、プラスチックを含めた海洋ごみ全般を減らす活動を続けています。2017年9月に富山県射水(いみず)市で開催された六渡寺(ろくどうじ)の海辺の清掃活動では、一般社団法人JEAN を筆頭にした多くのNGOや市民・学生ボランティアの協力を得て、500 キロ以上の海洋ごみが回収されました。

富山県射水市で開催された海辺の清掃活動©UNEP-NOWPAP

プラスチックへの依存を製品レベルで減らしたり、ごみが河川に流れ込まないようにする活動に並行し、大きな改善が必要なのが増え続けるごみを適切に回収・処理する施設の増強です。例えば、タイでは2,800ある埋立地の300強でしか適切な処理が行われていません。2011年にあったような大洪水が起きると、多くの埋立地からごみが流出してしまう事態となります。廃棄物処理にもっと持続的な公的資金や企業融資を使った投資がされなければ、プラスチック汚染の現状を大きく変えていくことは難しいでしょう。

「世界の緊急事態だ」とも言われる、プラスチック汚染。インド、中国、東南アジアなどを含むアジアには主要な汚染源が集中しています。廃棄物処理の政策や技術の確立している先進地域とそうでない地域が混在しているため、アジア全体でプラスチック汚染のこれ以上の悪化を防止しなければなりません。現状維持では今後15年以内に2倍になると言われる世界のプラスチック生産量。海の生物や人の健康や生活を汚染被害から守るリーダーシップが今、求められています。

地球温暖化で水没の危機にあるといわれるモルディブ共和国の海岸で集めたプラスチック片、漂流物、ゴミを集めて作ったアート作品「サザレウオ」。小さな魚が約100匹集まって1匹の大きなカツオになっている(淀川テクニック2012年作)©UNEP-IETC

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