障害者インクルージョンへの取り組みを 国連システムに呼びかけ(UN Chronicle 記事・日本語訳)
2022年01月24日
国連グローバル・コミュニケーション局が発行する『UN Chronicle(ユーエヌ・クロニクル)』は、2021年の国際障害者デーを記念し、国連事務局のマーサ・ヘレナ・ロペス人的資源担当事務次長補と、国連ボランティア計画(UNV)のトイリー・クルバノフ事務局長による2つの寄稿をご紹介しています。両氏からはそれぞれ、国連システムへの障害者インクルージョンと、その早期実現のために乗り越えなければならない障壁について自らの意見を共有してもらいました。クルバノフ事務局長による寄稿(日本語訳)はこちらをご覧ください。
国連ボランティア計画(UNV)は、ボランティアリズムを通じて平和と開発に貢献することを使命としています。UNVは、国連システムのパートナーや国連加盟国と協力しながら、ダイバーシティー(多様性)やインクルージョン(包摂性)のアジェンダを展開しています。具体的には、ボランティアリズムを通じて障害のある中堅のプロフェッショナルを国連内でより積極的に採用することを主流化させるという緊急の課題に取り組んでいます。
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2021年12月1日
国連は2015年に「誰一人取り残さない」という革新的な約束をしました。持続可能な開発のための2030アジェンダとその持続可能な開発目標(SDGs)は、人々のより良い生活につながるインクルージョンと平等を促進するという、この約束のまさに核となるものです。
障害者と共に働くことは、国連システムにとって目新しいことではありません。障害者権利条約(CRPD)は障害者の権利を特定して保護します。私たちは、国連の平和、開発、人道活動においてこれらの権利を守らなければなりません。
ダイバーシティーとインクルージョンに関しては、私たちは従来のジェンダーや地理を焦点とする姿勢を乗り越えなくてはなりません。障害者を含め、雇用数が不当に少ないその他の集団を、より意識的に組織のメンバーに組み入れなければなりません。
世界の人口の約15%が何らかの障害がありながら生活しています1。世界人口の増加に伴って、世界の障害者の数も増え続けています。私たちは、国連で働く人々が障害者数の比率を正しく反映していないこと、そうした人々が加盟国の多様性や国連が活動する世界を反映しなければならないことを認めています。
国連総会は2019年12月末、国連システムの会議と会合への障害者のアクセシビリティー向上に関する国連合同監査団(JIU)の報告書(JIU/REP/2018/6)に関する決議74/253を採択しました。
ゴピナサン・アチャンクランガレ監査官は、UN Chronicleとのインタビューで「組織の活動における分野横断的な課題としてのアクセシビリティーの浸透がいかに限定的であったか」を語りました。報告書はまた、何も対応がとられない言い訳に資金調達と費用が挙げられることが多いものの、ほとんどの場合、問題は認識不足であること明らかにしました。
私たちは、組織のメンバーの多様性がより効果的な成果をもたらすこと、そして障害者がユニークな意見や視点をもたらすことを知っています。これは、私たちがより良い組織となり、共に活動する国々や人々にとってより効果的なパートナーとなることに貢献します。さらに、障害者が持つ知識や技能、才能、経験を国連システムが見逃してきたことも認識しています。
「障害者は、サービスを利用したり効果的な社会参加を果たす上で、依然として非常に多くの障壁、固定観念、スティグマ(偏見)、差別に直面しています。私が参加して有意義な貢献ができれば、他の障害者に刺激を与えることができます。すべての人にとって包摂的でアクセス可能な社会を実現する上で、誰もが重要な役割を果たすことができるのです」
― ギフト・ゴヴェレ氏(ジンバブエの国連開発計画(UNDP)に所属する国連ボランティア・プロジェクト・オフィサー)
国連ボランティア計画(UNV)は、有能で献身的なプロフェッショナルの人材を国連システムに提供しています。国連ボランティアとして活動する人々は、国連諸機関の活動を支援します。そのため、UNVはインクルージョンの課題を前進させる最適なパートナーになります。
ここ数年、UNVはボランティアリズムを通じて開発分野の仕事により多くの障害者がつくことに注力してきました。そして、国レベルやグローバル・レベルでSDGsの達成に貢献でき、高い能力を有する、障害のあるプロフェッショナルの人材パイプラインを着実に構築しています。例えば、UNVとUNDPは「障害のあるヤング・プロフェッショナルのためのタレント・プログラム」で連携しています2。
UNVが障害のあるボランティアの採用と適切な環境整備を求める障害者ニーズに意識的に取り組むことで、より広範囲の国連システムに重要なシグナルを送ることになります。これは、多様で包摂的な人員を構築して維持するには、2方面からの体系的なアプローチが必要であるとする私の見解の正しさを裏付けるものです。すなわち、雇用数が不当に少ない集団からの候補者を積極的に募集し採用するとともに、誰もが平等に参加の機会を持てるようにする包摂的な文化を構築するという側面からのアプローチです。
「ボランティアとして国連システムに参加したことで、自立や自己改善、個人的成長の促進や、生産性、モチベーション、インスピレーション、能力開発の向上が図られ、私自身が家族や社会に貢献できるようになりました。これは、私と組織の両方にとっての挑戦であり、互いに適応し合わなければなりませんでした。しかし、適切な環境整備(机を必要な高さに合わせる、スロープを設置する、移動の管理や補助を行う)が実施されたおかげで、私は自らの役割を十分に果たすことができています」
― オルガ・アルトマン氏(ドミニカ共和国でUNDPに所属する、インクルージョン、イノベーション、2030アジェンダ担当国連ボランティア)
障害者権利条約(CRPD)は、障害者の生活と機会を向上させるにはさらに多くのことをしなければならないことを認識しています。SDGsは5つの目標の7つのターゲットにおいて障害に言及しており、さらにその他の6つの目標で障害者インクルージョン開発に関連するターゲットを掲げています。
方向性は明らかです。国連システムは、困難であるという理由だけで、国連のグローバルな活動におけるアクセシビリティーの改善を躊躇することはできません。課題が存在しており、国連はそれらに対処しなければなりません。国連には障害者権利条約、SDGs、そしてそれを支える枠組があります。私たちは今行動しなければならないのです。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまん延する状況下でさらに緊急性を帯びています。
私たちは、多様性や、社会から取り残された集団が十分に代表される必要性を真剣に受け止めています。それは国連に寄せられる信頼と国連の正当性の認識を証明しています。国連が信頼を維持するには、国連の国際的な任務において言動を一致させるようにしなければなりません。
私たちはそれを「国連の人々」に負っているのです。
注
1 世界保健機関(WHO)および世界銀行、『障害に関する世界報告書』 WHO/NMH/VIP/11.01。
2 ドイツとスウェーデンは「UNDP/UNV障害を持つヤング・プロフェッショナルのためのタレント・プログラム」に寛大な財政支援を行いました。
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執筆者について
マーサ・ヘレナ・ロペス
マーサ・ヘレナ・ロペス氏は国連事務局管理戦略・政策・コンプライアンス局人的資源担当次長補です。
UN Chronicle(ユーエヌ・クロニクル)は、公式記録ではなく、国連の高官や、国連システム以外の著名な寄稿者が意見を述べる場であるため、ここで表明された意見は必ずしも、国連の立場を示すものではありません。同様に、地図や記事に示されている国境や名称、呼称は、国連による支持や承認を受けて使われているものとは限りません。
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原文(English)はこちらをご覧ください。