国連の独立専門家、ミッション終了ステートメント
プレスリリース 13-046-J 2013年07月19日
対外債務その他関連の国際的金融債務があらゆる人権、特に経済的、社会的及び文化的な権利の十全な享受に及ぼす影響に関する国連の独立専門家、セファス・ルミナ氏
日本へのミッション 2013年7月16-19日
ミッション終了ステートメント
2013年7月19日 東京
本日は、政府から招待を受けて行った日本への公式訪問の最終日となります。今回の訪問の主目的は、日本の政府開発援助が被援助国における人権とミレニアム開発目標(MDGs)の実現に及ぼす影響を評価する材料となる情報を、直接入手することでした。
外務省、財務省、経済産業省のみならず独立行政法人国際協力機構(JICA)、独立行政法人日本貿易保険(NEXI)及び国際協力銀行(JBIC)の代表者を含めた幅広いステークホルダーと、きわめて建設的で洞察に満ちた議論を行いました。日本に駐在している国連諸機関、学者や市民団体組織の代表者とも会合を行いました。
今回の招待および訪問中のご協力に対して、日本政府の皆様に感謝したいと思います。私と意見を交わした全ての方々に、また訪問の準備を支援してくれた国連開発計画(UNDP)にも、謝意を表します。
調査報告と勧告は2014年3月の人権理事会への総合報告書に示す予定ですが、予備的な所見と勧告を共有したいと思います。
日本の国際開発協力政策
日本の国際開発協力政策は、2003年8月の政府開発援助大綱を参考にしています。この大綱は、開発途上国の「自助」努力支援、「人間の安全保障」の視点、公平性の確保、日本の経験と知見の活用、国際社会における協調と連携の5つの基本方針によって支えられています。
「自助」の基本方針は、開発途上国による現地での主体的取り組みを重視し、開発パートナーにとっての優先課題と開発戦略を認めるものです。この観点から、ODAの支援を受けた取り組みが適切に実施され、生産能力と国際的競争力を高めることに焦点を当てていけば、パートナー国の対外援助への依存度を引き下げられると考えます。これは勿論、金融、貿易、投資や持続可能な開発の分野において政策に一貫性があるグローバルな経済環境にも左右されるでしょう。
「人間の安全保障」という概念は、国連の3つの柱、すなわち平和と安全保障、開発、及び人権尊重と共鳴し合うものですが、日本のODA政策の有効性に寄与させようとするのであれば、この概念についてのさらなる説明が必要であると確信しています。さらにこの概念は、法的拘束力又は強制力をもつ基準によって裏打ちされていないという点において、十分な説明責任を欠いています。この点で、日本のODA政策においては人権がより注目される可能性があると考えます。
ODA大綱は、「平和、民主化、人権保障のための努力や経済社会の構造改革に向けた取り組みを積極的に行っている開発途上国に対しては、これを重点的に支援する」ことを強調しています。個人の保護と能力強化、社会的弱者の状況への配慮や貧富の格差解消も強調しています。大綱はさらに、男女平等や女性の地位向上、及び開発への女性の積極的参加を明確に強調しています。しかし、日本政府は、オーストラリア(AusAID)、カナダ(CIDA)、フィンランド(外務省)、ドイツ(GIZ)、スウェーデン(Sida)、英国(DFID)及び米国(USAID)など、他の主要ODA拠出国同様、人権と開発協力に関する政策ステートメントを採択することにより、ODA政策の策定、実施および監視において、人権擁護の原則をより明確な姿勢で組み入れていく必要があります。このような政策ステートメントを、運用と実施のガイドライン、関連のマニュアルや実践的手段に加えて、開発協力の分野での業務に当たる日本の公務員への研修によって補うべきなのです。そうすれば、とりわけ国連憲章に示されている国際協力の基本方針、様々な国際人権条約及びアクラ行動計画にも合致するでしょう。
人権を基本とする包括的なアプローチが開発協力の政策やプログラムの指針となれば、平等、無差別、参画、権利拡張のみならず、十分な説明と透明性の促進にもつながることに着目すべきです。こうした基本方針と貧困や低開発の根本原因に集中することにより、人権に基づくアプローチは、日本の開発協力の持続可能性と有効性を向上させることになるでしょう。
ODAコミットメントの実施における透明性と説明責任
私は、JICA、NEXI、JBICすべて、環境と社会的な留意事項に関するガイドラインを有していることに注目しています。世界銀行のセーフガード方針と概ね一致するこれらガイドラインは、日本支援による開発プロジェクトの環境や社会への悪影響を回避または軽減することを目的としています。にもかかわらず、効果的な説明責任メカニズムにはなっていません。一例を挙げれば、JICAのガイドラインでは、影響を被る人が独立の審査官パネルに対して懸念を提起できる手続きを定めている一方で、審査官はJICAの幹部に勧告を行うことしかできず、JICAの幹部はこうした勧告には拘束されないのです。
私は日本政府に対して、とりわけ人権に及ぼす影響の包括的評価を(環境及び社会への影響評価に加えて)義務付け、影響を被るコミュニティに ― 単なる協議ではなく ― 自由で積極的かつ有意義な参加を保証することで、これらのガイドラインを強化することを促します。
注目を要するもう一つの問題点は、上記の諸機関とそのクライアントの間の契約に関する透明性の欠如です。こういった契約の非開示は、商業的な守秘義務を引き合いに出して正当化されてきました。しかし私は、これら機関は公益団体であるため、日本国民及びその融資先のプロジェクトの所在国の市民に対して説明を行う責務を負っていると考えます。輸出信用に関しては、最終的に、プロジェクト所在国の納税者が負担する公的債務になる場合があります。このような状況においては、透明性は、こうした機関が日本の納税者と被援助国の国民の双方に対して負う説明責任を高めることになるでしょう。
人権の規範と基準は、主に国及び国家機関に対して拘束力を有するものの、NEXIやJBICなどの国有、又は国から財源を得て対外投資への金融支援を行う開発機関、及び支援を受ける民間企業にとっての法的枠組みをも確立することに注目すべきです。このことは、2011年に人権理事会によって承認されたビジネスと人権に関する国連の指導原則から自明です。
債務救済の取り組み
私は、日本の二国間債務救済の取り組みおよびマルチ債務救済イニシアティブ(MDRI:Multilateral Debt Relief Initiative)への貢献を称賛しています。日本政府に対しては、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)などの国際機関への影響力を行使し、重荷となる政策の実施を融資あるいは債務救済の条件としないと保証するよう要請します。こうした義務負担が付いた政策の実施は、被援助国の開発努力の持続可能性と主体的取り組みを損なう可能性があるためです。この点に関して、日本政府に対して、2012年6月に人権理事会により承認された「対外債務および人権に関する国連ガイドライン」を十分考慮するよう求めます。
民間部門の参画
日本の国際協力政策における優先事項は、民間部門主導による成長の促進です。この点に関しては、2013年6月に開催されたアフリカ開発会議(TICAD)でも、開発に寄与する海外直接投資の役割が強調されました。これは賞賛すべきことです。しかしながら、これと同様に重要なのは、パートナー国の地元企業の能力を高め、国際競争力を養うことに注意が向けられていた点です。
日本が対外投資を促進していくにあたっては、『対外債務および人権に関する国連ガイドライン』など関連する国際人権基準や、『企業と人権に関する国連ガイドライン』などの国際労働基準に沿ったものでなければなりません。また、十分な国内資源を開発に投入する妨げとなる、脱税その他の資本逃避という問題に対応するために、日本の海外事業活動に関するより包括的な規制を設けることも検討すべきです。このアプローチは、日本のODA政策における最も重要な理念である「自助」努力支援にも合致するものです。
対GNI比0.7%という国連目標値の達成
近年、日本のODA、予算は減少しています。「2013年度のODA予算は、1997年比で52.3%削減されています。国民総所得(GNI)のうち、開発協力に投じられた割合はわずか0.17%でした。これは、同年における米国のODA目標値(対GNI比0.7%)、OECD開発援助委員会(DAC)平均値(GNIの0.29%)を大幅に下回りました。
日本は、世界経済危機や、2011年3月の東日本大震災など、近年日本を襲った自然災害の影響により、経済、財政面での課題を抱えています。こうした中でODA計画を継続してきた日本政府を高く評価しています。
こうした点を踏まえた上で、日本政府に対して、国内経済、財政状況の回復と足並みを合わせて、ODAの対GNI比0.7%という国連目標達成に向けた明確なロードマップを策定するよう求めます。
ミレニアム開発目標(MDGs)達成のための支援
日本は、ミレニアム開発目標(MDGs)を推進する国際的リーダーの役割を果たしています。2010年9月、MDGsに関する国連首脳会合中、日本は保健衛生部門に50億ドル、教育部門に35億ドルの支援を発表し、MDGs達成に向けた取り組みに貢献しています。また、2011年6月、日本は国連とMDGフォローアップ会議を共催しました。この会議は、2015年以降の開発の枠組みを確立するための国際的な話し合いの出発点となるものでした。
日本はまた、2015年以降の開発課題に関する討議にも積極的に参加しています。この点に関しては、人間の安全保障の原則に基づく新しい開発の枠組みが提案されています。この原則は、平和、開発、および人権が相互に関連していることを認めたものですが、その意味あいはまだ曖昧な面もあり、それにより原則の運用およびコミットメント実現に向けた十分な説明責任という点で問題が発生しています。
MDGに関して国際社会が作成した、宣言的、非拘束的な政治的努力を実現するための十分な説明責任メカニズムが欠如していることが、目標達成に向けた進捗状況が思わしくない主な理由として挙げられています。そのため、2015年以降の開発課題は、尊厳ある暮らしの最低要件を具体化する普遍的、規範的かつ法的に拘束力のある枠組みとしての人権に裏打ちされたものである必要がある、という議論もありますが、私も全面的に賛成です。
私は、人間の安全保障の原則の価値を減ずるものではありませんが、人権の枠組みに根ざした説明責任のメカニズムを十分に考慮するよう推奨します。この枠組みは、貧困や剥奪に喘ぐ人々が、積極的かつ有意義に様々な活動に関与する後押しとなるものであり、国家や関係当局の対応力を向上させることにもつながります。
日本は、国連組織や人間の安全保障アプローチを実行に移すことを目的とする特定の非国連組織の活動への財政援助という形で、「国連人間の安全保障基金」への支援を行なっています。同活動は、とりわけ気候関連の脅威、貧困削減および社会参加といった課題の解決に注力しています。
独立した「国内人権機関」の必要性
日本はOECD加盟国中、独立した「国内人権機関(NHRI)」を未だ設立していない数少ない国の1つです。アジア太平洋諸国の間だけでも、パリ原則に完全に準拠した15のNHRIがあります。2012年8月の人権理事会における普遍的定期審査(UPR)のレポートによれば、日本政府は、「パリ原則に基づく国の人権機関としての人権委員会を設立する法案を国会に提出するために必要な準備を進めている」と繰り返し主張していました。
私は、日本政府はこの公約を果たすよう要請いたします。独立したNHRIは、日本が国際的な人権義務に順守することを支援するだけでなく、人権に基づいた開発アプローチを開発協力政策に組み込む取り組みにも役立つものと考えられます。例えば、ドイツの場合、NHRIはドイツ開発協力公社および国際協力公社(GIZ)を支援し、人権を国の開発協力政策およびその運用手順に組み込みました。また、同機関は、ドイツの開発協力政策を実行する担当者に助言と研修も行っています。
NGOとの連携
私は、日本政府が、外務省と国内NGOの定期的対話に向けた枠組みを確立したことを賞賛いたします。こうした交流の場を見学する機会を与えて頂いた外務省に感謝いたします。
また、日本政府がNGOに対する財政支援を増額したことも称賛に値すると考えます。2012年、日本の財政支援は、60億円に達しています。それでも、NGOに支給されるODAの総額は、まだまだ相対的に低い状況です。2011年のOECDデータによれば、日本のODA全体のわずか約3%しかNGO等の民間団体に支給されていません。また、被援助国のNGOへは支援していない模様です。さらに、日本のODAの援助を受けている国の市民社会団体との交流もないようです。
被援助国の市民社会団体、特に社会に脆弱あるいは不利な立場にある人々が政策立案者と対話を行い、国さらには国際的なレベルで既存の司法手続き等を通じて自らの権利を主張する力を高められるよう、彼らを代表している関係者を支援することは非常に重要です。
最後に、私は、今回の訪問をきっかけに、日本政府の皆様と開始した建設的な対話を自分の使命として、今後も継続していきたいと願っています。
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