アース・デー:地球にもたらしたダメージを回復し、気候変動と闘うための、私たちの5つの取り組み(UN News 記事・日本語訳)
2022年09月20日
2022年4月22日 - 国際マザーアース・デー(以下、アース・デー)は、これまで人類が地球をどう扱ってきたかを省みる機会です。率直に言えば、私たちは劣悪な管理者だったと言わざるを得ません。次々に発表される「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書は、当然ながら地球の現状について憂慮すべき状況を描いています。しかし、希望を失ってはなりません。なぜなら、真剣に気候行動に取り組む上で、これまで見られなかったほど多くの革新的なアイデアがあり、私たちのこの壊れやすい家に与えてしまったダメージの修復を支援する解決策に、世界中で人々が協力して取り組んでいるからです。
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しかし、そうした胸躍らせる話へと進む前に、問題の重大さを否定することはできません。
地球はいま、気候崩壊、自然と生物多様性の喪失、そして汚染と廃棄物という「惑星としての三重の危機」に直面しています。
「この三重の危機は、世界の何百万もの人々の福祉と生存を脅かしています。幸福で健康な生活の構成要素である、安全な水、新鮮な空気、そして安定した予測可能な気候を乱し、持続可能な開発目標(SDGs)を危険にさらしています」アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2022年のアース・デーに寄せるビデオ・メッセージにおいて、このように警鐘を鳴らしました。
事務総長は希望がまだ残されていることは朗報であると強調し、50年前、極めて重要な国連人間環境会議のために世界がストックホルムに結集したことを私たちに思い起こさせました。同会議は世界的な運動に弾みをつけることとなりました。
「それ以来、私たちが一つになった時、何ができるのかを私たちは目撃してきました。私たちはオゾンホールを縮小させました。野生生物と生態系の保護を拡大してきました。私たちは有鉛燃料の使用を止め、数百万もの人々の早死を防ぎました。そしてつい先月、プラスチック汚染を防止し、根絶させるための画期的かつグローバルな取り組みを立ち上げました」
“一緒に取り組めば、途方もない課題に対処することができると、私たちは証明してきました”
前向きな動きはそれだけにとどまらず、最近認められた健康的な環境への権利が勢いを増し、地球への脅威に取り組む私たちの闘いに、若者たちがこれまでになく関与を強めています。
グテーレス事務総長は「一緒に取り組めば、途方もない課題に対処することができると、私たちは証明してきました」と語りました。
もちろん、私たちの家を守るためには、より多くのことをより迅速に行う必要があります。ここではアース・デーを記念するにあたって、私たちが引き起こしたダメージを修復するために、世界で今実施されている5つのプロジェクトを取り上げます。
これらの解決策は、私たちの地球を癒すべく昨年立ち上げられたグローバルな結集への呼びかけ、生態系の回復に関する国連の10年の最初の取り組みのごく一部にすぎません。生態系の回復に関する国連の10年は、すべての大陸と海洋における生態系の破壊を防止し、阻止し、逆転させることを目的としています。
それでは、病める地球を回復するために私たち人類が取り組んでいる、5つの方法を紹介しましょう。
1. 炭鉱を炭素吸収源に転換する
アパラチア山脈にちなんで名づけられたアパラチア地方は、ケンタッキー州、テネシー州、バージニア州とウエストバージニア州を含む米国東部の地理的・文化的地域であり、同地方では、NGOのGreen Forests Work(グリーン・フォレスツ・ワーク)(GFW)が石炭の露天掘り事業の影響を受けた土地に森林を復元する活動に取り組んでいます。
露天掘りは、石炭が地中(約60メートル)より浅い場所にある際に用いられる手法です。大型機械で表土や岩の層を除去し、炭層を露出させます。炭層を露出させるため、採掘業者は山頂をダイナマイトで爆破して除去することもあります。
採掘が終了すると、かつて森であった土地は外来種で構成された草原に姿を変えることがしばしばです。これはもちろん、大規模な森林地帯が失われ、種が生息地から追い出され、場合によってはその種が喪失することを意味します。
この途方もないダメージを逆転させるため、グリーン・フォレスツ・ワークは2009年から6,000エーカーを超える土地に400万本近い在来種の樹木を植えて採鉱跡地を回復させてきました。
「多くの採鉱跡地は、気候変動を緩和させるために植樹する土地としては最も優れた場所に含まれます。埋め立てられた採鉱跡地の土壌は元々、有機炭素をほとんど含まないため、森林が育って土壌を作る中で、何世紀とは言わないまでも、何十年にもわたって炭素吸収源として機能できるからです」マイケル・フレンチGFW事業ディレクターは、UN News にこのように説明しました。
フレンチ氏は、こうした土地に在来種による森林を回復することで、森林が社会にもたらす生態系の役割も回復していると付け加えました。その役割には、きれいな空気や水、野生生物の生息地の改善、炭素隔離を通じた気候変動の緩和、そして持続可能な経済資源基盤が含まれます。
「私たちGFWは、今年のアース・デーも、そしていつの日も、誰もが外に出て自然界の奇跡を体験し、それぞれが身の回りの世界をより良くするために貢献することを願っています」フレンチ氏はこのように強調しました。
2. 生態系の連結性を回復する
20年前、オーストラリア南西部を撮影した衛星画像から、ヨーロッパ人による入植以降、人類の活動によって広大な自然植生が失われていることが判明し、活動家のグループがゴンドワナ・リンクを設立するきっかけとなりました。
衛星画像から、同地域の植生の3分の2が数千キロメートルにわたりどのように伐採されたか、そして農業地域の大半において、多くの区画で元の低木林地(未開発の自然の区画)が5%から10%未満しか残っていないことがわかりました。
しかし一方で、保護区内には、途切れ途切れながらも、1,000キロメートルにわたって多くの生物多様性の宝庫が手付かずのまま残っていることもわかりました。
互いに隔絶されたままでは、たとえどれほど広大な自然の生息地であっても、種の存続や持続的な進化を保証することはできません。例えば、多くの鳥類と動物の種が小規模な孤立した個体群にまで減少し、緊張状態にあります。
これらの区画を再び連結しなければ、多くの種が失われるおそれがあります。ゴンドワナ・リンクは、そのような事態を防ごうと取り組んでいるのです。
「気候勾配のある全域を通じて、生息地を保護、管理、回復し、再び連結することで、気候変動に直面した野生生物が勾配に沿って半乾燥の森林から高木の多雨林へと移動できるようにします。この取り組みは、ニュンガル族とガジュ族の希望を支援する形で実現されつつあります。これらの先住民族は植民地時代に土地を奪われましたが、現在は再び土地の管理者になる権利と能力を回復しつつあります」キース・ブラッドビー最高経営責任者(CEO)は UN News にこのように説明しました。
ブラッドビー氏は、現在はグレート・ウエスタン・ウッドランズとして知られている1,600万ヘクタールの生息区域に貢献した、幅広い団体、企業、個人の活動によって、いかに大きな前進を遂げたかを説明しました。
ブラッドビー氏はさらに「重要な生息地の狭間にある2万ヘクタールを超える農地を購入し、広大な土地で回復のため植樹を行い、野生生物がすでに戻りつつあります。私たちの州政府は、天然林における伐採を止めることを発表しました」と付け加えました。
同団体の活動は大規模な生態系回復のあり方の例として、世界的に知られています。
「毎日がアース・デーになり得るのです。私たちはそうできるし、増えれば増えるほどよいのです」とブラッドビー氏は述べました。
3. 「生き残った」サンゴ断片を移植する
上の写真は、国連教育科学文化機関(UNESCO)に登録された世界遺産であるベリーズの、ラフィング・バード・ケイ国立公園で撮影されたものです。画像にはかつて白化現象の被害を受け、死に瀕しながらも回復したサンゴ礁が映っています。
サンゴ礁は地球において生物学上最も多様性がある貴重な生態系に含まれ、すべての海洋生物の25%がサンゴ礁を生息地としています。
サンゴ礁は気候変動の結果としての海水温の上昇と海洋酸性化により、今世紀末までに世界中で消滅の危機に瀕しています。
サンゴ礁の喪失は海洋生物のみならず、サンゴ礁から直接的・間接的な恩恵を受けている世界で10億を超える人々にとって破壊的な結果をもたらします。
Fragments of Hope(フラグメンツ・オブ・ホープ)は、ベリーズ南部で遺伝子学的に堅固かつ多様で、レジリエンス(強靱性)のあるサンゴを植えることで、大きな被害を受けたサンゴ礁を再生することに成功しています。
ダイバーであり団体の設立者であるリサ・カルネ氏は、同地域における大規模なサンゴの白化現象とハリケーンにもかかわらず、一部のサンゴが復活したと説明しました。
カルネ氏は「これらのサンゴは、私たちが繁殖させて岩礁に植え直している、より強い生き残りたちです」と UN News に語りました。
2000年代初頭以降、カルネ氏や他の女性ダイバー、そして同NGOの海洋生物学者は、苗床で健康なサンゴを育てた後、浅瀬において手作業で移植を行っています。
「私たちの活動は重要です。というのも、私たちは、野生絶滅一歩手前の絶滅危惧IA類に分類された、カリブ海ミドリイシサンゴの絶滅を防ぐために努力しているからです。私たちは人々を啓発し触発することで、サンゴ礁と気候変動などのサンゴ礁への脅威を理解するためにもっと行動してもらうことも重要だと考えています」カルネ氏はこのように説明しました。
今日では、苗床で育てられた4万9,000超のサンゴ断片をラフィング・バード・ケイ国立公園において移植することに成功し、同国立公園は再び、成長するサンゴと豊かな海洋生物が生息する活気ある観光地へと変わりました。これらのサンゴは6年超にわたって生き延びており、カリブ海で記録されているものとして最長と考えられています。
新たな苗床と移植拠点には、モーホー・ケイ(1万1,000超のサンゴを移植)とサウス・シルク・ケイ(2,000超のサンゴを移植)が含まれます。
「2022年のアース・デーに寄せる私たちのメッセージは、国際社会として、私たちはもっとうまく行動する必要があるということです。私たちがこれまでとってきた行動は、地球のためになっていません。私たちは生態系や生物群系を小規模なレベルで考えがちですが、規模がより大きくなると、これまでと同じやり方ではうまくいかないのです。したがって、地球を守る方法を根本的に変えるために、私たち全員が自分の役割を果たす必要があるのです」とカルネ氏は強調しました。
4. アンデスで気候危機の影響を受けた流域を回復する
大規模な回復と保全の取り組みのもう一つの例が、南米アンデス山脈で行われています。そこでは、5カ国にまたがる現地のコミュニティーが協力して在来種を植林して育て、水源を保護しています。
「アンデス山脈ではスペインによる征服後、過去500年で天然林の大半が消失しました。アンデス山脈最後の氷河が急速に融解するにつれ、今や水の確保は現地のコミュニティーのみならず、南米の主要都市にとってさえ重要な問題となりつつあります」NGOであるAcción Andina(アクシオン・アンディナ)のコンスタンティーノ・アウッカ・チュータス共同設立者は UN News にこのように述べました。
アウッカ氏によると、天然林、特にポリレピス種(熱帯アンデスの中高地地域に固有の低木と樹木)と湿地は、その根、土壌、コケの周囲に大量の水を作って貯める助けとなっています。
「これらは気候変動に適応する上で、私たちにとっての最高の仲間です。今後数十年にわたって私たちの生活用水の確保に役立ちます。しかし、私たちはそれを回復させなければならないのです」アウッカ氏はこのように強調しました。
そしてそれこそがまさに、アクシオン・アンディナが行っていることです。同団体は2022年末までに、アンデス山脈全体で600万本を超える在来種の樹木を植える予定です。同団体の目標は今後25年間でアンデス高地の森林100万ヘクタールを保護し、回復することです。
「私たちはそのための独自の方法を見つけ出しました。現地のケチュア文化において協力とコミュニティーへの奉仕を意味する、Ayni(アイニ)とMinka(ミンカ)という古代インカの伝統の復興に取り組んでいます。現地のNGOパートナーのネットワークが拡大している中で、私たちは、コミュニティーが残っている森林を保護する支援をしています。現地の苗床に投資し、在来種による新たな森林を育てようとしています。コミュニティーの植樹祭、有名なQueuña Raymi(ケーニャ・ライミ)を開催し、1日で最大10万本の木を植えます。そしてコミュニティーを支援し、こうした新たな回復の機会によってさらに収入を得られるようにしています」アウッカ氏はこのように説明しました。
アウッカ氏は、世界の指導者はいまだに気候変動の可能な解決策について話し合っているだけだが、数千の人々がすでに現場で行動を起こしている、と語りました。
アウッカ氏は、アース・デーに寄せるメッセージの中で「数千の人々を動員して森林を回復し、ただちに気候行動を起こすことが可能です(中略)私たちの母なる地球は、地球を健康にするための解決策を決定し実施できる指導者によるこうした偽善、安住、そしてエゴにうんざりしています。現地のコミュニティーと地球はより多くの行動を求めており、今こそ私たち全員のために行動を起こす時なのです」と強調しました。
5. 炭素を吸収する海草を回復する
海草は多くの海洋生物に食料と住処を提供しています。海草は多機能な生態系であり、通常、稚魚や小さな種類の魚と無脊椎動物の生息地となることから、しばしば保育生息地と言われます。
海草は植物であるため、地上の植物と同様に光合成を行い、太陽光を利用して二酸化炭素と水から栄養素を合成し、酸素を放出します。
このことはその生物学的機能に加えて、海草が気候変動に立ち向かう上で不可欠な存在であることを意味します。
沿岸部の開発、水質の悪化、そして言うまでもなく気候変動による継続的な圧力により、過去40年間で、世界では海草藻場の3分の1が失われました。
英国のProject Seagrass(プロジェクト・シーグラス)はこの10年間、こうした傾向を逆転させるために活動してきました。
同団体は、3,000を超える人ボランティアの支援を得て100万個超の海草の種をまき、これらの海草が重要であるという意識を根付かせてきました。
「2ヘクタール分の海草の回復に成功したことで、私たちの団体は、英国において海草の大規模な回復が可能であることを証明しました。私たちは場所を評価し、現地での試験を計画するにあたり、最新技術を組み合わせて実施しています」同団体はこのように説明しました。
これですべてではない
これらは「生態系の回復に関する国連の10年」に登録された50件を超えるプロジェクトのうちの、5つの例にすぎません。何千もの人々と団体がすでに現場で、地球を守るための変化を起こしています。
生態系を破壊と喪失の瀬戸際から回復させることは可能なのです。しかも、世界中の人々がすでにそれを実現させようと取り組んでいるのです。
グテーレス事務総長は「母なる地球は一つしかないのです。私たちは地球を守るために、全力を尽くさなければなりません」と改めて指摘しました。
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原文(English)はこちらをご覧ください。