COP27:「グリーンウォッシングは断じて許されない」と国連事務総長が訴え ~新たな報告書、見せかけの排出量正味ゼロの排除を提言~(UN News 記事・日本語訳)
2022年11月16日
2022年11月8日 ―ますます多くの国の政府と非国家主体が脱炭素を誓約している一方で、排出量正味ゼロ・コミットメントの基準には「ディーゼルトラックが通れるほど」の大きな抜け道がある。アントニオ・グテーレス国連事務総長はこのように述べ、この問題に取り組むべく自身が任命した専門家グループが一次報告書を公開するにあたって、現状を批判した。
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報告書は、グリーンウォッシング(ある企業や主体が、実際よりも環境保護のために多く貢献していると信じさせて世間を誤解させること)と根拠の薄弱な排出量正味ゼロの誓約を非難するとともに、産業界、金融機関、都市、地域が掲げる排出量正味ゼロ・コミットメントに誠実さをもたらし、持続可能な未来へのグローバルで公平な移行を支えるためのロードマップを提供しています。
専門家たちの訴えは、各主体が新たな化石燃料の供給やいかなる環境破壊的な活動を行ったり、それらへの投資を続けたりしながら、「排出量正味ゼロ」を主張するといったことは許されないということです。各主体自らもしくはそのパートナーが、気候変動への取り組みに反するロビー活動に従事することや、保有する資産の一部についてのみを報告して他の部分を隠ぺいすることもまた許されるものではありません。
「私たちは、排出量正味ゼロのグリーンウォッシングを、決して許してはならない。本日発表された専門家グループの報告書は、信頼性と説明責任を備えた排出量正味ゼロの誓約を確保するための手引きである」アントニオ・グテーレス国連事務総長は、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催中のCOP27で、報告書の発表にあたりこのように述べました。
非国家主体に向けたガイドラインと明確化
昨年グラスゴーで開かれたCOP26で、グテーレス事務総長は、非国家主体の排出量正味ゼロ目標をめぐる「過剰なまでの混乱と信頼性の欠如」に対処すべく、専門家グループを任命すると発表しました。
専門家グループの一次報告書は、7カ月にわたる集中作業と協議の結果であり、事務総長によって選ばれた17名の専門家の最善の助言を反映しています。
この報告書は、事務総長が定めた4つの主要分野、すなわち環境に関する誠実性、信頼性、説明責任、各国政府の役割を、10の実践的提言を通して明確にしています。
国連事務総長が説明する報告書の提言
1)約束は「有害な隠ぺい」であってはならない
報告書によると、排出量正味ゼロの誓約は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の気温上昇を1.5℃に抑えるというシナリオに合致するものでなければなりません。
「これは、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに少なくとも45%削減し、2050年までに排出量正味ゼロを達成しなければならないことを意味する。2025年以降、誓約には5年ごとの中間目標が求められる」と事務総長は説明しました。
またこれらの目標は、すべての温室効果ガス排出、すべての活動領域をカバーするものでなければなりません。金融機関であればすべての金融取引、企業や都市であれば直接的か間接的かを問わずすべての排出が、サプライチェーンに起因する排出も含めて、問題となります。
「既存の自発的なイニシアチブに取り組むすべての主体にとって、また排出量正味ゼロを約束するCEOや市長、知事たちにとって、このメッセージは明白である。この規範に従って、これまでのガイドラインをただちに更新してほしい。しかも、確実にCOP28の開催までに」と事務総長は強調しました。
事務総長はさらに、地球を汚染する主力製品や活動を含めない誓約を掲げる化石燃料企業とその「財政的な支援者たち」に対して強いメッセージを送り、約束を見直し、それを報告書の助言と一致させるよう要請しました。
「偽りの『排出量正味ゼロ』の誓約を、化石燃料使用の大幅な拡大の隠ぺいに利用することは、非難に値する。それは、ひどい欺瞞である。この有害な隠ぺいは、世界を気候問題の崖っぷちから突き落としかねない。こうしたごまかしは、終わらせなければならない」
2)計画は詳細で、具体的でなければならない
グテーレス事務総長は、排出量正味ゼロの誓約は、その移行方法の説明を伴うべきだと述べました。
「経営者たちは、これらの誓約の実行に説明責任を負わねばならない。そのためには、確固たる気候行動を公に提唱し、すべてのロビー活動を開示する必要がある」と指摘し、さらに自発的に市場で取引される炭素クレジットに関して、基準や規制、厳密さがないことが深く懸念されると付け加えました。
また、排出量に関する誓約は、化石燃料産業の労働者と、再生可能エネルギーへの移行によって影響を受ける部門のニーズに、移行の過程でどう対応するかの詳細を示さなければなりません。
報告書はさらに、石炭、石油、天然ガスの使用を段階的に廃止するために、企業、金融機関、地方当局が何をすべきかについても、明確化し詳述しています。
3)約束は説明責任と透明性を伴わねばならない
事務総長は、すべての排出量正味ゼロの自発的イニシアチブに対し、オープンフォーマットで、公共のプラットフォームを介して、国連の気候変動に関する世界気候行動ポータルサイトにデータを送ることで、経過報告の標準化を加速するよう求めました。
「私たちは、普遍的に認められた、信頼のおける第三者機関が存在しないことに起因するギャップを埋めるために、協力しなければならない。そして、この検証と説明責任確保のプロセスのために設置された仕組みを、強化しなければならない」と事務総長は説明しました。
4)自発的イニシアチブをニューノーマル(新常態)に
事務総長は最後に、各国政府は現在の自発的イニシアチブを、確実に「ニューノーマル(新常態)」にするよう努めるべきだと述べました。
「私は、すべての国の指導者たちが、公正な排出量正味ゼロの未来へ移行するための公平な機会を非国家主体に提供するよう要請する。気候危機を解決するためには、強力な政治的リーダーシップが必要である」と事務総長は強調し、先進国も脱炭素化を加速させ、自ら模範となるべきだと繰り返しました。
専門家たちの声
報告書は、今年、パキスタンで起きた未曽有の洪水や、アメリカで壊滅的な被害をもたらした干ばつなど、間断なく続くと思われる気候変動の被害だけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻を引き金とするエネルギー危機に世界が苦しんでいる中で公開されました。
現在、世界の温室効果ガス排出量の80%以上が、排出量正味ゼロの誓約の対象となっています。
「今や、地球には遅滞や言い訳、あるいはこれ以上のグリーンウォッシングを受け入れる余裕はない」カナダの閣僚経験者で、ハイレベル専門家グループの議長を務めるキャサリン・マッケナ氏は、このように述べました。
マッケナ議長は、この決定的に重要な時期に排出量正味ゼロの誓約をするということは、実際に排出量を削減することであり、ごまかすことではないと説明しました。
マッケナ氏は、イノベーションに投資している企業や、環境を汚す事業から資金を引き揚げてクリーンな事業へ移している投資家、エネルギー供給網を再生可能エネルギーへ転換している都市など、進展を見せている一部の主体を称えました。
「しかし残念なことに、余りに多くの排出量正味ゼロの約束が… 空虚なスローガンや誇張と大差ないものとなっている。グリーンウォッシングは、なぜそれほど悪しきものなのか。理由の一つは、その代償があまりに大きいということです。偽りの排出量正味ゼロの主張は、(うその)広告であるだけでなく、最終的にすべての人が払うことになる代償をつり上げている。それに関わっていない人々も含めて、甚大な被害や気候変動による移住、そして生命そのものという代償を支払うことになる」とマッケナ氏は語りました。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領とマイケル・ブルームバーグ国連気候問題担当特使がこのたび排出量正味ゼロのデータを作成する取り組みをローンチし、今後、企業に説明責任を課すために検証済みデータが提供されることについても、マッケナ氏は言及しています。
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原文(English)はこちらをご覧ください。
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