COP27:損失と損害に対する補償に合意して閉幕 「正義に向けた一歩」と国連事務総長(UN News 記事・日本語訳)
2022年12月23日
2022年11月20日 – 今回の国連気候変動会議(COP27)において、20日の早朝まで延長されたシャルム・エル・シェイクでの厳しい交渉を経た各国は、気候変動に起因する災害によって脆弱な立場に置かれた国々が被る「損失と損害(ロス&ダメージ)」を補償するための資金提供メカニズムを設けるという成果に合意した。
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「今回のCOPは正義に向けて、重要な一歩を踏み出しました。私は、損失と損害の基金を設立し、今後運用するという決定を歓迎します」国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、エジプトの会議場から発信したビデオ・メッセージの中でこのように述べ、気候危機の最前線にいる人々の声を聞かなければならないと強調しました。
事務総長は、今回のCOP(毎年開催される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議の略称)で最も難しい問題となった点について言及しました。
開発途上国は、気候危機の原因にほとんど関与していないにもかかわらず、気候災害に対し最も脆弱な立場に置かれた国々を補償するため、損失と損害の基金の設立を繰り返し強く訴えました。
「明らかにこれは十分ではありませんが、壊れた信用を再構築するために非常に必要とされてきた、政治的なシグナルです」グテーレス事務総長はこのように語り、国連システムがあらゆる局面で取り組みを支援すると強調しました。
エジプト外相でもあるサーメハ・シュクリCOP27議長は、成果文書案の採択に先立ち、同文書は「実施規模を拡大し、私たちが気候(カーボン)ニュートラルや気候変動にレジリエント(強靱)な開発に進む未来に変われるよう導く扉である」と各国代表に語りました。
「私はこの文書案を、単に紙に書かれた言葉ではなく、パリ協定の実施とその目標の達成に向け、正しい速度と方向性を定めるよう求めた首脳たちや現在・将来世代の呼びかけを聞き入れたことを示す、世界に対する共同メッセージとして皆様に捉えていただきたいのです」
「世界が見ています。私は、国際社会、特に気候変動の原因に最も関与していないにもかかわらず最も脆弱な立場に置かれている人々から託された期待に応えるよう、全員に呼びかけます」シュクリ議長はこのように付け加えました。
18日夜の期限を過ぎた後、交渉官たちは議題の中で最も困難な項目について遂に結論に達することができました。そうした項目には、最も脆弱な立場に置かれた国々に対する資金援助の仕組みを2023年の次回COPまでに立ち上げると約束した「損失と損害」の制度、2025年以降の資金的目標、そしていわゆる緩和作業計画が含まれます。この計画は、排出削減を加速し、インパクトのある行動を促進するとともに、野心を高めて1.5℃への道筋を辿り続けるための行動を直ちに起こすという言質を主要国から得るものです。
しかし、これらの問題に合意したことは正しい方向に向けた歓迎すべき一歩であるとみなされるものの、特に化石燃料の段階的廃止や、地球温暖化を1.5℃に抑える必要性に関する文言の強化など、その他の主要な問題についてはほとんど前進が見られませんでした。
オブザーバーたちは、再生可能エネルギーと共に「低排出」エネルギーを将来のエネルギー源として含める新たな文言は重大な抜け道だとして警鐘を鳴らしました。それは、未定義の用語を使用することで、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国際エネルギー機関(IEA)の明確なガイダンスに反する化石燃料の新規開発が正当化されるおそれがあるからです。
気候変動との闘いは続く
グテーレス事務総長は、世界の温室効果ガス排出量を削減し、パリ協定の1.5℃の上限を維持し、人類を「気候の崖から引き戻す」野心など、気候行動に関する優先課題として残されているものを世界に思い起こさせました。
「私たちは直ちに排出量を劇的に削減しなければなりませんが、この問題は今回のCOPでは取り上げられませんでした」事務総長はこのように失望を表明し、世界は気候野心において大きな飛躍を遂げるとともに、再生可能エネルギーに「大規模な」投資を行うことで化石燃料への中毒的な依存を断ち切る必要が依然としてあると述べました。
事務総長はまた、開発途上国に年間1,000億ドルの気候変動対策資金を提供するという大幅に遅れている約束を履行し、適応資金を倍増させるための透明性を確立して信頼できるロードマップを策定する必要性についても強調しました。
事務総長はさらに、多国間開発銀行や国際金融機関のビジネス慣行を変えることの重要性についても、改めて述べました。
「これらの機関は、より多くのリスクを受け入れ、開発途上国向けの民間資金を合理的な利率で体系的に活用しなければなりません」事務総長はこのように述べました。
私たちの地球はいまだ緊急治療室にいる
グテーレス事務総長は、損失と損害の基金は欠かせないものの、気候危機が小島嶼国を地図上から消し去り、アフリカの一国全土を砂漠に変えてしまうようであれば、それは解決策にはならないと語りました。
事務総長は、石炭の段階的廃止と再生可能エネルギーの拡大を加速させる「公正なエネルギー移行パートナーシップ」を重ねて訴えるとともに、COP27の開会挨拶で述べた「気候連帯協定に関する呼びかけを繰り返しました。
「すべての国が1.5℃目標に従って、この(2030年までの)10年間で、排出削減に向けた一層の努力をする協定。そして、主要新興国が再生可能エネルギーへの移行を加速できるよう、国際金融機関や民間セクターと共に、財政的・技術的支援を動員する協定」とグテーレス事務総長はこのように説明し、これは1.5℃の上限を実現可能なものとする上で不可欠であると強調しました。
「私はあなた方のいらだちを分かち合います」
グテーレス事務総長はまた、COP27の開催初日から積極的に声を上げてきた市民社会と活動家に向けて「私はあなた方のいらだちを分かち合います」とメッセージを送りました。
事務総長は、気候擁護者たちが、若者たちの良心の声に導かれ、最も日の当たらない日々にもこの課題を進めており、そうした人々を守らなければならないと述べました。
「世界で最も重要なエネルギー源は、人々の力です。気候行動の人権の側面を理解することが非常に重要である理由は、ここにあります」グテーレス事務総長はこのように語り、この先の闘いは困難であり「私たち一人ひとりが、日々前線で闘わなければならないのです(中略)私たちは奇跡を待つことはできません」と付け加えました。
ケニアの若き環境活動家であるエリザベス・ワトゥティさんは、こうした考えに共鳴しつつ、次のように述べました。「COP27は終わったかもしれませんが、安全な未来のための闘いは終わりません。モントリオールで間もなく開催される生物多様性条約締約国会議において、政治指導者が自然を保護し回復するための強力な国際合意の採択に向けて取り組むことが、今ほど喫緊の課題になったことはありません」
「相互に関連した食料、自然、気候の危機が、今まさに私たち全員に影響を与えています。そして、私のコミュニティーのように最前線にあるコミュニティーが最も大きな打撃を受けています。一体、何度警鐘が鳴ったら、私たちは行動を起こすのでしょうか」ワトゥティさんはこのように付け加えました。
時間切れが迫っている
グテーレス事務総長はビデオ・メッセージの中で、COP27は「多くの宿題」を残して閉幕したが、それをこなすための時間はほとんど残されていないと強調しました。
「私たちはすでに、(2015年の)パリ協定と2030年期限の中間点にいるのです。私たちは総力を挙げ、正義と野心を推進しなければなりません」事務総長はこのように語りました。
さらに、これには、気候危機を深刻化させ、生物種を絶滅に追いやり、生態系を破壊している、自然との「自滅的な戦争」を終わらせるという野心も含まれると付け加えました。
「来月の国連生物多様性条約第15回締約国会議は、自然に基礎を置く解決策の力と先住民のコミュニティーの重要な役割を活かした、次の10年に向けた、野心的でグローバルな生物多様性の枠組みを採択する時です」事務総長はこのように訴えました。
成果として挙げられること
「COP27で(中略)私たちは、損失と損害への資金拠出に関する10年来の議論を前進させる方法を決めました」サイモン・スティルUNFCCC事務局長は、閉会挨拶でこのように語りました。その他の前進として、20日午前に採択された文書では、「後戻りする余裕がないことの再確認が得られました。これは、あらゆる化石燃料の段階的削減が行われていることを示す重要な政治的シグナルを発しています」スティル事務局長はこのように述べました。
COP27の交渉は、容易ではありませんでした。「(中略)まったくもって容易ではありませんでしたが、この歴史的成果により私たちは前進し、世界中の脆弱な立場に置かれた人々に恩恵を与えます」事務局長はこのように語りました。
また、事務局長はそのことを念頭に置きつつ、「カメラが離れた瞬間に集団的な記憶喪失に陥るのであれば、私たちが今まで取り組んだことはまったくする必要がないのです」と述べ、採択されたばかりの決定に対する説明責任を相互に果たすよう、すべての当事者と各国代表に呼びかけました。
そして、パリ協定の中核であり、各国がその排出量を削減して気候変動の影響に適応する取り組みを具体化した、自国が決定する貢献(NDC)を自ら前進させると付け加えました。
スティル事務局長はさらに、気候変動との闘いにおいて国際社会がこの歴史的な瞬間に至ったのは、市民社会の功績によるところが大きいとも語りました。
「活動家であれ、科学者、研究者、若者、先住民であれ、個人が声を上げなければ、私たちがこれほど成功することはなかったでしょう(中略)私たちが多国間レベルで前進する方法を見つける上で、あなた方の声が直接的な影響を与えたのです」
COP27には、各国政府代表、オブザーバー、市民社会を含む3万5,000人以上が結集しました。
会合のハイライトとしては、とりわけ「非国家主体の排出量正味ゼロ・コミットメントに関するハイレベル専門家グループ」による初めての報告書が公表されたことが挙げられます。
報告書は、グリーンウォッシング(ある企業や主体が、実際よりも環境保護のために多く貢献していると信じさせて世間を誤解させること)と根拠の薄弱な排出量正味ゼロの誓約を非難するとともに、産業界、金融機関、都市、地域が掲げる排出量正味ゼロ・コミットメントに誠実さをもたらし、持続可能な未来へのグローバルで公平な移行を支えるためのロードマップを提供しています。
また会合では、国連は、2023年から2027年までの間に31億ドル(1人あたり年間わずか50セントに相当)の的を絞った新規初期投資を行うよう求めた行動計画である「すべての人に早期警報システムを」も発表しました。
一方、元米国副大統領で気候活動家のアル・ゴア氏は、国連事務総長の支援を受けて、気候TRACE連合が創設した温室効果ガス排出量の新たな独立インベントリ(排出目録)について紹介しました。
このツールは、衛星データと人工知能(AI)を組み合わせて、中国、米国、インドの企業を含む世界中の7万以上の拠点での施設レベルの排出量を表示するものです。これにより、リーダーたちは大気中に放出されている炭素やメタン排出の場所や規模を特定することができます。
会議のもう一つのハイライトは、COP27の議長国であるエジプトが提示した、電力、道路輸送、製鉄、水素、農業の主要5分野のいわゆる脱炭素化加速マスタープランでした。
エジプトのリーダーはまた、2030年までに農業・食料システムを変革するための気候変動対策基金への拠出を量的・質的に改善する、「持続的な変革のための食料・農業に関するイニシアティブ(FAST)」の立ち上げも発表しました。
今回は、温室効果ガス排出量の3分の1を占めており、問題解決の重要な要素とすべき農業に特化した日が設けられた、初めてのCOPとなりました。
COP27で発表されたその他のイニシアティブは、以下のとおりです。
- シャルム・エル・シェイク適応アジェンダ
- 水の適応とレジリエンス(強靱性)のための行動(AWARe)イニシアティブ
- アフリカ炭素市場イニシアティブ(ACMI)
- 保険適応加速キャンペーン
- グローバル再生可能エネルギー連合
- ファースト・ムーバーズ・コアリション(FMC)セメント・コンクリート・コミットメント
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原文(English)はこちらをご覧ください。