ベテラン職員、国連ラジオの過去・現在・未来に思いを馳せる(UN News 記事・日本語訳)
2022年02月12日
2022年2月12日 ― デマや偽情報が拡散し、公衆衛生に関連する命を救う事実の流れが歪められ、ヘイトスピーチが煽られる中、2月13日に迎えた今年の「世界ラジオ・デー」では、「ラジオと信頼」という時宜にかなったテーマに焦点を当てています。
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1946年に国連ラジオ・サービスが誕生した日を記念して、このほど UN News を退職した2人のベテランアナウンサー兼ジャーナリストに話を聞きました。
ロシア語ユニット担当チーフを務めたエレーナ・ヴァプニチュナイア氏と、フランス語ユニット担当チーフを務めたジェローム・ロンゲ氏は、長年にわたり国連ラジオで勤務し、その後は統合された UN News 部門に所属していました。
今年の「世界ラジオ・デー」にあたり、ラジオ業務に携わった思い出と、インターネット時代におけるデマのパンデミック(世界的流行)に立ち向かうために、ラジオの将来性とラジオの持つ力について見解を語ってもらいました。
歴史を垣間見る
1946年2月13日の国連ラジオ初の公式放送以来、番組は、国連発足当初の5つの公用語である英語、フランス語、中国語、ロシア語とスペイン語で放送され、後にアラビア語が追加されました。
国連ラジオは1950年までに33言語で放送されるようになり、1980年には国連平和維持活動ミッションが独自のラジオ局を発足させました。
国連の言語ネットワークは、ニューヨークの国連本部に勤めるさまざまなチームから、毎日15分間のニュース番組、インタビュー、特集番組を提供しました。
21世紀の最初の20年間で、国連ラジオの業務は劇的な変化を遂げました。フィルムリールやカセットはデジタルメディアに置き換えられ、音声放送はマルチメディア機能により拡充・強化され、SNS の爆発的普及を通じてテキスト、音声、画像、動画やその他のウェブベースのグラフィックが融合されるようになりました。
国連ラジオ・サービスは、独自のウェブサイトを運営する多元的な情報発信主体へと変貌を遂げました。
❝ 国連ラジオには、いつの時代も、ジャーナリズムでの豊富な経験と広い視野を持ち、世界に目を向け、常にお互いに助け合い必要な情報を共有する用意があるプロフェッショナルが勤務していました ❞
― エレーナ・ヴァプニチュナイア氏
今日、国連ラジオでは、デジタルコンテンツを制作し、マルチメディアストーリーを配信し、それらの制作物や番組、そしてますます多くのポッドキャストを多様なプラットフォームで発信しています。これらのプラットフォームには、国連の6つの公用語だけでなく、ポルトガル語、スワヒリ語、ヒンディー語による SNS も含まれています。
国連ラジオの各言語サービスは、ニューヨークの国連事務局の建物内にあるニュース編集室で、常に隣り合って業務を行ってきました。30年にわたり国連ラジオと UN News で勤務した元フランス語ニュースサービス担当チーフのジェローム・ロンゲ氏は、次のように回想しています。「私たちのオフィスの両隣には、ロシア語サービスのジャーナリストとポルトガル語サービスの同僚がいました。同僚たちが働く様子がいつも耳に入り、時間がたつにつれて、『ドーブラエ・ウートラ』(ロシア語で「おはよう」)や『オブリガード』(ポルトガル語で「ありがとう」)など、それぞれの言葉をいくつか覚えるようになりました」
ヴァプニチュナイア氏とロンゲ氏は、ニュース業界にいるとそのような多文化主義やコスモポリタニズムが役に立つと考えています。
元ロシア語サービス担当元チーフのエレーナ・ヴァプニチュナイア氏は、次のように強調しています。「国連ラジオには、いつの時代も、ジャーナリズムでの豊富な経験と広い視野を持ち、世界に目を向け、常にお互いに助け合って必要な情報を共有する用意があるプロフェッショナルが勤務していました。そのようなチームで働くことができたことを嬉しく思います」
「世界ダウン症の日に開催された会議に参加した、あるキルギス人女性を例に挙げましょう。彼女は、活動家であるとともにダウン症の子どもを持つ母親でした。さらに、ダウン症の女児を養女に迎えていました」
国連ラジオやそのほかの報道機関は、事務総長の公務出張に同行することも多く、幾度となく世界の主要な出来事の証人となってきました。
❝ ラジオは、依然として最もよく使われる通信手段です。他の通信手段が機能していないときにも利用できるのです。それが明らかになった事例は、2010年のハイチ地震です ❞
― ジェローム・ロンゲ氏
ジェローム・ロンゲ氏は、次のように振り返ります。「私たちはカダフィ大佐との会談や、チャドとスーダンの大統領との会談に同席したり、シエラレオネの少年兵の復帰プロセスに参加したり、エチオピア―エリトリア間などの和平協定の調印も報道しました」
もちろん、毎年の総会の開幕には、国連加盟国の国家元首と政府首班がニューヨークに集まります。
UN News のスタッフにとって、一般討論演説のハイレベル・ウィークはニュースコンテンツの宝庫であり、国際舞台の重要人物との得難いインタビュー機会なのです。
信頼できる情報源
多くの評論家は、80年代の古いヒット曲『ラジオ・スターの悲劇』を引き合いに出し、ラジオが終わりを迎えるという誤った予測を立てました。この予測が誤りであることが証明されたのは、ラジオ局であれ、インターネットのプラットフォームであれ、スマートフォンのポッドキャストであれ、情報と教育の主要な情報源として、世界中の数百万人がラジオを主として大きく頼り続けているからです。
ラジオは「デジタルアバター」へと変容し、忠実なリスナーをつなぎ留めるだけでなく、新しいリスナーや若いリスナーをも惹きつけました。
「ラジオは間もなく消滅するという考えが、テレビの誕生以来長らく語られてきました。しかし、ラジオが消滅することはないと私は思っています」とロンゲ氏は語りました。
また、「その上、ラジオは、依然として最もよく使われる通信手段です。他の通信手段が機能していないときにも利用できるのです。それが明らかになった事例は、2010年のハイチ地震です」とも述べました。
比類なき到達力
2015年にネパールで発生した地震では、BBCラジオなどの従来型の音波を利用した放送局は問題なく稼働し続け、他のメディア形態が利用できるようになるずっと前から、首都から遮断された遠隔地のコミュニティーにとって非常に重要なライフラインとして機能していました。
さらにロンゲ氏は、ラジオは、高価な機器に投資したり、メディアストリームをオンラインで別途制作したりする必要がないため、少数派や個々のコミュニティーの声を伝える最善の方法であるとも述べました。
ヴァプニチュナイア氏は、テレビやその他のメディアと異なり、ラジオがリスナーとラジオから流れる声の間に、より親密な関係を築くと考えています。
「テレビと異なり、ラジオやポッドキャストは家族全員で、あるいは大勢の友人と一緒に聞くことはそれほどありません。ラジオは、車の中で、散歩しながら、運動しながら聴くことが多いのです」。ラジオが依然としてこれほどの影響力を持ち、信頼でき、維持され、常に利用できる理由はそこにあるのかもしれません。
偽情報の時代におけるラジオ
SNSとその他のメディアにおいて、フェイクニュースや誤ったニュースが急速に拡散する時代が到来した中で、信頼できる情報源としてのラジオの重要性は、近年大きく増しています。
「私たちの誰もが、この災難と闘わなければなりません。そして当然ですが、音声インタビューや現場からの生中継のおかげで、ラジオは、通信チャンネルとして、より信頼できる確かな情報を提供します」とロンゲ氏は確信しています。
ヴァプニチュナイア氏は、UN News が客観性、中立性、不偏性、正確性、そして信頼性という、非常に厳格なジャーナリズムの基準に従っていることも付け加えました。
これらの原則は、平等に加え、中立、公平であるという国連の立場と相まって、近年の出来事の報道、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以来、検証されていない偽の情報が、SNS やその他の情報プラットフォームに氾濫したときに重要な役割を果たしてきました。
ストレートニュース
「COVID-19 のパンデミックの間、私たちは世界保健機関(WHO)の勧告に基づいて、多くの番組を制作してきました。それらは無味乾燥な数字や統計だけでなく、例えば、子どもと一緒に自主隔離中の親が隔離期間中にどのように健康を管理するかといった提案や、初期のワクチンに関する情報、特にどのように開発されて、徹底的に検証されてきたのかといった、安心をもたらす情報の普及でした」
ロシア語ニュースサービスの元チーフは語ります。「私たちは、そうした発信や番組制作がデマとの闘いを助け、リスナーに役立ったことを心から願っています。そして引き続き、UN News の音声番組や放送を、ラジオ、オンラインプラットフォーム、ポッドキャストで聴いてもらいたいと思います」
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原文(English)はこちらをご覧ください。