国際司法裁判所(ICJ)とは? その重要性とは?(UN News 記事・日本語訳)
2024年02月14日
2024年1月10日 — イスラエルがジェノサイド条約における義務に違反しているとして南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)への提訴を決めたことで、ICJは世界的に大きな注目を集めています。ICJとその活動に関する基本情報を解説します。
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国際司法裁判所(ICJ)の目的と仕組みとは何ですか?
オランダの都市ハーグにある平和宮(ピース・パレス)に本部を置く国際司法裁判所(ICJ)は、国家間の紛争を解決する手段として、1945年に設立されました。ICJはまた、正当な権限を与えられた他の国連機関から諮問された法的問題について勧告的意見を与えることもあります。
「世界法廷」として広く知られるICJは、総会、安全保障理事会、経済社会理事会(ECOSOC)、信託統治理事会、事務局と並ぶ国連の6つの「主要機関」の一つであり、ニューヨーク以外に本部を置く唯一の主要機関です。
欧州司法裁判所と異なり、ICJは、各国の裁判所が付託できる最高裁判所ではなく、1カ国以上の加盟国からの要請があった場合にのみ、紛争について審理を行うことができます。
ICJは15名の裁判官で構成され、その全員が9年の任期で、総会と安全保障理事会によって選出されます。3年ごとに裁判官の3分の1が改選され、任期を迎えた裁判官は再選が可能です。裁判官は、自国の政府を代表するのではなく、独立した裁判官であり、1つの国籍から1人しか選出されません。
裁判ではまず、各当事者が依拠する事実上・法律上の論点に関する詳細な記述を含む訴答書面の提出・交換が行われ、代理人や補佐人が法廷で陳述する公開審理からなる口頭弁論が開かれます。
当事国は、自国を弁護する代理人を指名します。代理人は各国の裁判所において弁護士が有するものと同じ権利・義務を有します。2020年の「ガンビア対ミャンマー事件」(下記参照)のように、時には主要な政治家が自国を弁護することもあります。
この段階の後、裁判官はインカメラ(非公開)審理を行い、判決を下します。この手続きに要する期間は、数週間から数年に及ぶこともあります。
なぜICJが重要なのですか?
ICJは、193の国連加盟国間の紛争を解決する、唯一の国際法廷です。つまり、紛争に訴えることなく問題を解決する手段を各国に提供することで、ICJは世界の平和と安全に重要な貢献を果たしています。
どのような事案が提起されるのですか?
ICJは2種類の案件について判断を下すことができます。すなわち、国家間の法的紛争である「係争事件」と、国連の機関や特定の専門機関から諮問された法的問題に関する勧告的意見を求める「勧告的意見手続」です。
2023年12月29日に南アフリカがイスラエルを提訴した訴訟は、ICJでイスラエルが提訴された初めての係争事件です(2004年の勧告的意見では、東エルサレムの内部およびその周囲を含むパレスチナの被占領地におけるイスラエルによる壁の建設とそれに関連する制度は、国際法に違反すると判断されました)。
南アフリカは、「イスラエルによる作為および不作為は(中略)より広範なパレスチナの国民的・人種的・民族的集団の一部としてのガザ地区のパレスチナ人を破壊するために(中略)必要な具体的意図をもって行われたものであり、その性質上ジェノサイドにあたる」と主張しています。
南アフリカは、南アフリカ・イスラエルの双方が締約国である1948年のジェノサイド条約に基づいたICJの管轄権を確立することを求めています。イスラエルは南アフリカの申し立てを退けるよう求めています。
国際的な関心を集めた、もう一つの比較的最近の訴訟は、2020年1月にミャンマーに対して行われた裁定に関するものです。同裁定は同国に対し、少数派のロヒンギャの人々を保護し、ジェノサイドの申し立てに関する証拠を保全するよう命じました。ガンビアによって提起されたこの訴訟は、当時ミャンマーの事実上の指導者であったアウン・サン・スー・チー氏がハーグに出廷し、自国を弁護したことで注目を集めました。
「勧告的意見手続」については、2023年1月20日に国連総会が「東エルサレムを含むパレスチナ被占領地に住むパレスチナの人々の人権に影響を及ぼすイスラエルの行為」に関して、ICJに勧告的意見を求めました。
2023年3月には、国連総会が、気候変動に関する加盟国の義務に対する勧告的意見をICJに求める決議を採択し、その結果行われた討論では、気候正義を求める数十年来の闘いにおける画期的な出来事だとして、多くの発言者がこの動きを称えました。どちらの勧告的意見手続も、現在進行中です。
誰がICJに提訴できるのですか?
国連加盟国であれば、紛争に直接関わっているか否かによらず、国際社会の共通の利益がかかっている際に、他の加盟国を相手取って訴訟を提起できます。
例えば、「ガンビア対ミャンマー事件」では、ミャンマーに対するジェノサイドの申し立てについて、ガンビアは直接関わっていませんでしたが、同国がイスラム協力機構を代表して行った提訴が阻まれることはありませんでした。
判決の後はどうなるのでしょうか?
ICJの判決は確定判決であり、上訴は認められていません。
ICJの判決を国家管轄権内に適用するか否かは当事国次第ですが、ほとんどの場合、当事国は国際法に基づく義務を受け入れ、それに従います。
もしある国が、判決に基づいて課された義務を履行しなかった場合、唯一残された手段は、国連憲章に従って決議を採決できる安全保障理事会に訴えることです。これは、1984年に提訴された、反政府勢力コントラへの米国による支援について賠償を求めた「ニカラグア対米国事件」において実際に行われました。
ICJはニカラグアに有利な判決を下しましたが、米国は事実認定を拒否しました。その後ニカラグアは、この問題を安全保障理事会に付託しましたが、米国は関連決議に対して拒否権を行使しました。
ICJとICCは、どう違うのですか?
国際刑事裁判所(ICC)と国際司法裁判所(ICJ)は、よく混同されます。
その違いを最も簡単に説明すると、ICJの訴訟では国が当事者となりますが、ICCは、戦争犯罪や人道に対する罪について個人が提訴される刑事裁判所であるということです。
また、ICJが国連の機関である一方、ICCは国連総会の承認を受けているものの、法的には国連から独立しています。
193の国連加盟国すべてがICCの締約国であるわけではありませんが、ICCは、締約国やその管轄権を受諾した国の領域内において、またはそれらの国の国民によって行われた犯罪の疑いに関する捜査を開始し、裁判を開くことができます。
これまでに、レイプを戦争の武器として利用した事例から、子どもを戦闘員として徴用した事例に至るまで、さまざまな違反行為について審理が行われ、判決が下されています。
ICJの誕生の経緯と国連の活動においてICJが果たす重要な役割については、毎週公開される「国連アーカイブ・ストーリーズ」シリーズの一環として新たに公開された国連の動画をご覧ください。
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原文(English)はこちらをご覧ください。