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国連中央緊急対応基金の気候行動アカウント:気候危機に直面する人々とコミュニティーを支援(UN Chronicle 記事・日本語訳)

2024年05月20日

複合的な人道緊急事態に直面しているエチオピア・アファール州のグヤ(Guyah)国内避難民キャンプで水を汲む13歳のケリア(左)。この給水ポイントは、子どもたちやその家族に救命支援を提供する国連児童基金(UNICEF)のCERF支援プロジェクトの一環としてもたらされものです(2022年5月10日)©UNICEF Ethiopia/2022/Zerihun Sewunet

*この記事は、国連人道問題調整事務所(OCHA)資金調達・パートナーシップ部門のディレクターを務めるリサ・ドーテン氏が、国連グローバル・コミュニケーション局の発行する『UN Chronicle(ユーエヌ・クロニクル)』に寄せた記事の日本語訳です。

2024年3月13日

気候危機は、人道の危機です。

洪水、暴風雨、干ばつ、その他異常気象など、気候関連災害がますます激甚化・頻発化し、毎年何百万もの人々が、愛する人々を失い、生活が破壊されるという現実に直面しています。

2000年以降、気候危機の深刻化によって、異常気象に関連した国連の人道アピールの資金要請額は8倍になりました。往々にして、気候関連災害は、紛争や疾病など人道ニーズを引き起こすその他の要因によって深刻化します。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は今後、気候関連災害に対処する上で、2030年までに年間200億ドルの追加資金が必要になると推計しています。

開発面で最も取り残されている人々は、災害の影響を受けた際に国連の支援を期待するものであり、その支援を受けてしかるべきです。そのためには資金が必要ですが、その資金はすでに悲惨なほどに不足しており、届くのが遅れることもしばしばで、複合的な緊急事態に見舞われている人々に届くとも限りません。

解決の一翼を担う

気候変動の緩和と適応のための資金調達は不十分であり、気候変動に最も脆弱でありながら、気候変動に最も寄与していない人々には届いていないばかりか、資金提供の速度も規模も必要な水準には達していません。だからこそ、2023年に開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で「損失と損害基金」とその資金調達の取り決めを稼働する決定が採択されたことが、極めて重要なのです。

国連人道問題調整事務所(OCHA)と人道支援コミュニティーは、すべての国々に対し、気候変動対策資金に関する約束を果たし、それが、私たちが期待するように、大規模で迅速で対応力のあるグローバルな「損失と損害基金」となるように、寛容な拠出を呼びかけています。

しかし、「損失と損害基金」はそれ自体が重要であるものの、気候危機によって必要となる人道活動のための資金調達において拡大を続ける資金不足を埋めるものではありません。この新たな「損失と損害基金」の対象範囲は、人道活動を補完するものです。さらに、最も脆弱な立場に置かれた人々、特に脆弱な立場に置かれたコミュニティーや紛争の影響を受けているコミュニティーに暮らす人々には、利用可能な緩和・適応資金が届かないことを示すエビデンスもあります。

国連がCOP28で国連中央緊急対応基金(CERF)「気候行動アカウント(Climate Action Account)」を設立した理由はここにあります。それは「脆弱な状況における気候ショックに対処する資金調達を、先見的、早期、柔軟に拡大することに役立てるとともに、適応のコベネフィット(共便益)とレジリエンス(強靱性)の強化を支援する」ことを目的としています。

気候行動アカウントは、CERFが利用する通常の人道資金の流れ以外から資金調達を呼び込むために、国、企業、慈善家、一般市民をはじめとするドナーが、CERFが気候危機の影響を受けたコミュニティーを支援するために資金を充てるという信頼をもって、当該のアカウントに直接資金を提供できるようにしています。

アントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉を借りれば、気候行動アカウントによって「ドナーは、追加の資金を気候関連災害のリスクと影響の対処に直接提供することができる」のです。

ニジェールの乾燥地域ドッソ州では、世界食糧計画(国連WFP)が「グベの庭(the garden of Goubey)」という先行的行動プロジェクトを実施している。WFPは、ニジェールのNGOギャクア(Garkua)と提携し、国連中央緊急対応基金(CERF)の資金提供の下で、干ばつが現地のコミュニティーに及ぼす影響の緩和を図っている(2023年5月15日)©OCHA/Michele Cattani

このように、気候行動アカウントは、世界的な資金調達の取り組みにおいて既存の人道資金調達手段を上手く活用することで、小規模ながらも不可欠な一部として、気候変動の影響に伴う損失と損害を回避し、最小限に抑え、対処することを目指しています。

気候危機に対処する

災害から人々を守ることは、複雑かつ困難であり、リスクを伴います。アフリカ東部の乾燥地では、干ばつや洪水、家畜疾病、武力紛争によって遊牧民コミュニティーの生計が破壊されています。

サヘル地域では、相次ぐ干ばつと洪水によって、コミュニティー全体が解決困難な貧困と苦境に直面しています。ハイチでは、国内避難民の子どもたちの大半が、洪水と作物を失ったことで故郷を離れました。

国連総会は2005年、事務総長権限で運営されるCERFを設立しました。その目的は、早期の行動と対応を可能にすることで、人命損失を減らし、緊急に必要な対応を強化し、資金不足の危機において人道対応の根幹を担う活動を強化することを目指しています。

設立以降、CERFは資金の4分の1を超える21億ドル超を、86カ国・2,300件のプロジェクトを通じて、気候関連災害に巻き込まれた4億6,200万人超を支援するために充当してきました。

CERFの気候行動アカウントは、緊急に必要とされる資源を最も必要とされる場所に届けるための、効率的でインパクトのある手段を提供しています。言い換えれば、この新しい気候行動アカウントは、気候関連災害に伴う目前の損失や人道的影響への対処に資金を活用することを確実にするものです。

気候関連災害に先手を打つ

近年、CERFは予測可能な気候関連災害に先立って資金を提供する、グローバルな主要手段ともなっています。この先見的なアプローチは、人道活動の大幅な迅速化につながるとともに、人道活動がより尊厳を保ち、効果が高く、開発の成果を守ることにもつながっています。

先行的行動は、予測されるハザードが本格化する前に実施することで、深刻な人道的影響を予防・軽減します。このアプローチを取ることで、危機に見舞われる前に、災害に対処する行動への資金の充当を確実にすることができます。

効果的に実施するためにはスピードが肝心です。そのスピードこそがCERFを特徴づけるものであり、CERFならではの付加価値の重要な部分を占めています。CERFの資金提供を受けた活動は、平均で要請から4日以内に開始されています。先行的行動でCERFは、予測に基づいて事前に取り決めた資金を、気候関連災害の影響が及ぶ前に、さらに速く充当しています。

例えば2020年に、CERFはバングラデシュにおいて洪水の警報発令から4時間以内に、そして水位上昇が始まる数日前に資金を提供しています。2023年にはネパールで、警報から資金提供までに要した時間は、わずか14分でした。

今日、CERFは、気候関連災害に対処するための先行的行動に向けて事前に取り決めた資金の最大の供給源となっています。2023年に、CERFは早期行動に1億2,400万ドル超を提供しましたが、そのほとんどが、食料不足の深刻化、エルニーニョ現象、そして洪水に先立った予測に基づいたものでした。

CERF気候行動アカウントは、気候関連災害の発生前に、人々がその影響を最小限に抑える上で役立つ先行的行動を拡大するために、さらに多くの追加資金を使用できるようにするものです。

人々の未来をより良いものに

人道性、中立性、公平性、独立性に基づいて救命支援を提供するという、人道上のマンデートからCERFが逸脱することはありません。しかしながら、人道支援機関は長年にわたり、将来のショックに対するコミュニティーのレジリエンスに資する形で、この救命のためのマンデートを実施することを目標としてきました。例えば、干ばつが発生している間にも、CERFは干ばつに強い農業活動に対し資金提供をしばしば行いますが、それにより農家が受ける緊急支援は、眼前の危機を乗り越えるのに役立つだけでなく、将来の干ばつショックへの適応能力の強化にもつながっています。

ネパール西部バルディア郡ラジャプールの漁師バギラム・スナハ(右)は、CERFからの充当によりWFPの先行的行動への現金支援の恩恵を受けた。同支援は、モンスーン期における洪水のピークに先んじて、脆弱な立場に置かれたコミュニティーを支援する(2022年9月10日)©WFP/Srawan Shrestha

掘り井戸の復旧についても同様に、人々と家畜が安全な水をすぐに利用できるようにするとともに、今後長期にわたって水を持続可能に利用できるようにもしています。食料安全保障、水と衛生、医療分野にまたがる人道活動にも同じことが言えます。

人々が人道的状況において気候変動に適応できるようにする上で、無条件の現金給付が貴重な手段となりうることを示すエビデンスも増えています。CERFによる現金プログラムへの投資は、2017年の6%から2022年には16%へと3倍近く増加しています。

この点については、ジョイス・ムスヤ人道問題担当国連事務次長補がCOP28で強調しています。ムスヤ事務次長補は、CERF気候行動口座を通じた寄付によって、「気候変動によって世界が多くの人々にとって『ダモクレスの剣』のような危険と背中合わせの状況に移りつつある中で、国連とそのパートナーたちは、発生場所や原因を問わず、人道災害に対応し、あるいはそれを見越して迅速な救援を続けることができる」と述べています。

このように、CERF気候行動アカウントは、気候変動への適応を支援し、適応を併せ持つ人道活動を通じた、より効率的で、より尊厳ある対策の実施へのさらなる動機を生み出します。

選択肢は明白

CERF気候行動アカウントの設立にあたり、OCHAは気候変動の被害に対する各国政府や被災したコミュニティーの対応を支援する取り組みが、より広範で野心的なものとならざる得ない中で、人道的ツールがそれを補完する、ほんの一部分に過ぎないものであることを十分に認識しています。

人道活動は気候危機の解決策とはなりませんが、それでも人道支援従事者たちは、損失と損害を最小限に抑えながら、コミュニティーが気候ショックに立ち向かう能力の構築を支援し、気候危機の影響に対処する自らの役割を果たし続けなければなりません。

気候危機が大きく立ちはだかっている一方で、希望を持てる理由もあります。CERF気候行動アカウントの設立は、複数の気候変動対策資金の取り決めがモザイクのように存在する中でその重大なギャップを埋めるものだからです。

気候行動アカウントは、脆弱な立場に置かれたコミュニティーを気候関連災害の破壊的な影響から守る上で、極めて重要な一歩となります。気候行動アカウントは、災害に対する先行的行動と緊急支援を提供することで、人道支援とレジリエンスの間に横たわるギャップを埋めるスマートな人道活動を実現し、コミュニティーが気候危機により良く対処できるようにします。

CERF気候行動アカウントは、すでに実績のある手段を用い、深刻化する気候危機に対処するためのグローバルな連帯を目指します。重要なことは、気候行動アカウントが「誰一人取り残さない」という国連のコミットメントを明確に示し、最も取り残された人々に対して、繁栄するために必要な資源を利用できるようにするものでもあるということです。

UN Chronicle(ユーエヌ・クロニクル)は、公式記録ではなく、国連の高官や、国連システム以外の著名な寄稿者が意見を述べる場であるため、ここで表明された意見は必ずしも、国連の立場を示すものではありません。同様に、地図や記事に示されている国境や名称、呼称は、国連による支持や承認を受けて使われているとは限りません。

執筆者について

リサ・ドーテン

リサ・ドーテン氏は、国連人道問題調整事務所(OCHA)資金調達・パートナーシップ部門のディレクターを務めています。

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原文(English)はこちらをご覧ください。