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国際刑事裁判所(ICC)とは?(UN News 記事・日本語訳)

2024年06月11日

オランダのハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC) © UN Photo/Rick Bajornas

2024年5月20日 — もっとも重大な犯罪を裁くこと、被害者が確実に司法にアクセスできるようにすること、公正な裁判を執り行うこと、国内裁判所を補完すること。これらは、国際刑事裁判所(ICC)の主な役割の一部です。

2002年に設立され、ハーグに本部を置くICCは、戦争犯罪や人道に対する罪で個人を訴追できる刑事裁判所です。

最新の事例では本日(5月20日)、ICCはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防相、そしてガザを事実上統治しているハマスの指導者3名に対して逮捕状を請求しました

逮捕状は、今後ICCの判事らによって正式に承認される必要があります。その内容は、ハマスが主導したイスラエルへの攻撃に端を発した、7カ月にわたるガザでの戦争によって生じた戦争犯罪の疑いに関するものです。

以下に、ICCに関する5つの事実と、ICCがより公正な世界の構築にどのように貢献しているのかについて紹介します。

2023年9月、国連総会で演説するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 © UN News

1)もっとも重大な犯罪を裁く

ICCは、「多数の児童、女性及び男性が人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶する残虐な行為の犠牲者となってきたこと」を念頭に創設されました。

ICCは、人道に対する罪、戦争犯罪、ジェノサイド、侵略の罪を犯した加害者を捜査し、訴追するための、世界初の条約に基づいた常設の国際刑事裁判所です。

これまでに、スレブレニツァを含む旧ユーゴスラビアで行われた戦争犯罪に問われた個人の訴追に成功しており、国際司法にとって重要な事件を解決し、少年兵の利用、文化遺産の破壊、性的暴力あるいは罪のない市民への攻撃といった犯罪に光を当ててきました。代表的な事件において下した判決を通じて、同裁判所は徐々に権威ある判例法を構築しつつあります。

ICCは、ダルフール、コンゴ民主共和国(DRC)、ガザ、ジョージア、ウクライナでの紛争を含め、世界でもっとも暴力的な紛争のいくつかを捜査してきました。現在、31の事件に関して開審理を開催中で、逮捕状の対象者にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領リビアの個人数名も含まれています。

しかし、逮捕状を発付し、容疑者を逮捕することは困難を伴います。ICCは令状を執行する警察を持っておらず、加盟国がその命令を実行することに依存しています。これまでに同裁判所に起訴された個人の大半が、アフリカ諸国の出身です。

2024年4月、ガザ南部の野戦病院で深刻な急性栄養失調と脱水症状によって治療を受けている子ども © WHO

2)被害者の参加を支える

ICCの訴訟手続きを傍聴してみると、いつであれ法廷では、目撃者の証言や弁護士が被害者の見解を代弁するのを耳にすることでしょう。そうした人々の説明は、裁判の進行に不可欠なものです。

ICCは、もっとも重大な罪の責任を負う加害者を裁き、処罰するだけでなく、被害者の声が確実に届くように努めています。ここでいう被害者とは、ICCが裁判する権限を有する犯罪が行われた結果として、被害を受けた人たちのことです。

被害者は、ICCの司法手続きのすべての段階に参加します。これまでに1万人を超える残虐行為の被害者たちが手続きに参加し、ICCはアウトリーチ活動を通じて、裁判する権限を有する犯罪によって被害を受けたコミュニティーとの直接的な接触を保っています。

同裁判所はまた、被害者や証人の安全と、身体および心理的な健全性の確保に努めています。被害者は提訴することはできませんが、捜査を開始するか否かを決定するための情報も含め、検察官に情報を提供することができます。

ICC被害者信託基金TFVは、現在、コンゴ民主共和国における被害者とその家族たちに対する賠償の請求を含め、ICCによる初の賠償命令が履行されるよう動いています。また、信託基金では、支援プログラムを通じて、45万人を超える被害者たちに身体的、心理的、社会経済的支援を提供してきています。

多数の集団埋葬地が確認された、リビアのタルフナにある埋立地を訪問したICCのカリム・カーン検察官(file) © ICC

3)公正な裁判を保証する

ICCにおいては、すべての被告人は、合理的疑いの余地なく有罪であると証明されるまでは無罪と推定されます。いずれの被告人も、公開かつ不偏的な審理を受ける資格を持ちます。

ICCでは、容疑者および被告人は、重要な権利を持っています。そうした権利には、罪状を知らされること、弁護の準備のための十分な時間と設備を与えられること、不当な遅延なく裁判を受けられること、弁護人を自由に選ぶこと、そして被告人に有利な証拠を検察官から受け取れることが含まれます。

また、被告が完全に理解できる言語で審理を受ける権利も含まれています。そのため同裁判所では、40超の言語の専門的な通訳と翻訳者を雇い入れ、時には同じ審問で4つの言語を同時に使用することもあります。

関係者は、ICC設立後の最初の20年間は、犯罪現場から遠く離れた場所でさまざまな実質上および手続き上の新たな困難に直面しました。さらに、ICCが訴追する犯罪は特殊で、しばしば大規模な犯罪であるため、大量の重要証拠とともに、証人の安全を確保するための多くの取り組みが必要です。手続きは複雑であり、舞台裏では訴訟期間を通して解決しなければならない問題も多く存在するのです。

コンゴ民主共和国北キヴ州のレイプ・サバイバーである、ドリカ (file) © Finbarr O’Reilly

4)国内裁判所を補完する

ICCは、各国の国内裁判所に取って代わるものではなく、最終手段としての法廷です。もっとも重大な犯罪の加害者を捜査し、裁き、処罰する一義的な責任は、各国にあります。

ICCが介入するのは、同裁判所が裁判する権限を有する重大な犯罪が発生した国が、その犯罪に真摯に対処しようとしない、あるいは対処できない場合に限られます。

重大な暴力行為は、世界中で急速に深刻化しています。ICCの資源は依然として限られており、一度に扱える案件の数も限られています。同裁判所はまた、各国の国内裁判所および国際法廷と協力して活動しています。

2015年の国連総会で演説するロシアのウラジーミル・プーチン大統領 © UN Photo/Cia Pak

5)司法の強化を後押しする

ICCは、すべての大陸の120を超える締約国の支援により、常設の独立司法機関としての地位を確立してきました。

しかし、国の司法制度とは異なり、ICCは独自の警察組織を持ちません。逮捕状や召喚状の執行を含め、各国の協力に依存しているのです。

ICCはまた、危険にさらされている証人を移動させるための領土を持っていません。そのため、各国の支援と協力に大きく依存しているのです。

ICJICCは、どう違うのですか?

国際刑事裁判所(ICC)と国際司法裁判所(ICJ)は、よく混同されます。両者の違いは、概ね以下のとおりです。

UNODC
  • 両者の違いの最も簡単な説明としては、ICJの訴訟では当事者は国となりますが、ICCは戦争犯罪や人道に対する罪について個人を訴える刑事裁判所であるということです。
  • ICJが国連の機関である一方、ICCは国連総会の承認を受けているものの、法的には国連から独立しています。
  • 193の国連加盟国すべてがICCの締約国であるわけではありませんが、ICCは、締約国やその管轄権を受諾した国の領域内において、またはそれらの国の国民によって行われた犯罪の疑いに関する捜査を開始し、裁判を開くことができます。
  • ICJの詳細については、こちらの解説をご覧ください。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

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