海面上昇とは何か? 私たちの未来にどう影響するのか?(UN News 記事・日本語訳)
2024年09月04日
執筆者:ダニエル・ディッキンソン
2024年8月26日 ― 世界の海面水位は、その上昇のスピードも幅もかつてないほどに上がっていて、世界中の人々にとって「緊急かつ深刻化する脅威」であると国連が表現するまでに至っています。
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太平洋諸国のトンガとサモアを訪問中のアントニオ・グテーレス国連事務総長にとって、現地のコミュニティーと議論する中で最も重要な課題の一つとなっているのが海面上昇です。
この脅威にどう対処するのが最善かを議論すべく、来たる9月25日には世界の指導者や専門家たちが国連に集結します。
海面上昇について知っておくべきことは、次のとおりです。
最高水位線
海洋は、1880年以降、約20センチメートルから23センチメートル上昇したと推定されています。
2023年に、世界気象機関(WMO)は、1993年から続く衛星観測記録において、世界の平均海面水位が過去最高を記録したことを確認しました。
憂慮すべきことに、過去10年間の海面上昇率は、衛星記録の最初の10年間(1993年から2002年まで)の上昇率の2倍を超えています。
海面上昇の原因とは?
海面上昇は、海洋の温暖化と氷河や氷床の融解によって生じ、気候変動の直接的な結果としての現象です。
2015年のパリ協定の中で世界各国が掲げた目標である、地球温暖化を産業革命前の水準と比べて1.5℃に抑えられたとしても、地球の海水面は大幅に上昇することになります。
注目に値するのは、メキシコ湾流のような海洋循環パターンが、海面上昇に地域差をもたらす可能性があるということです。
その影響とは?
海面上昇は、物理的な環境だけでなく、世界中の脆弱な立場に置かれた国々の経済的、社会的、文化的基盤にも広く影響を及ぼします。
塩水の洪水は、サンゴ礁や魚業資源を含めた沿岸の生息地や、農地、さらには住宅などのインフラに被害をもたらし、沿岸コミュニティーが生計を維持する能力にも影響を及ぼす可能性があります。
洪水は淡水の供給を汚染し、人々の健康を脅かす水系感染症を拡大させ、ストレスやメンタルヘルス上の問題を引き起こすことがあります。
同時に、特に多くの小島嶼開発途上国(SIDS)において、ビーチやリゾート地、そしてサンゴ礁などの観光名所が被害を受けることで、経済の主要な原動力である観光収入が減少する恐れがあります。
さまざまな要因が重なることで、人々が住処を離れたり、可能な限り高台に移転したり、最終的には移住することにもなり、その結果として、経済、生計、そしてコミュニティーが破壊されるのです。
アントニオ・グテーレス国連事務総長がこの現象を「脅威を増幅する要因」と表現したのも、驚くことではないかもしれません。
海面上昇と気候変動との関係は?
端的に言えば、海面上昇は気候変動の兆候の一つです。
気候変動によって世界の気温が上昇すると、その余分な熱の多くを海洋が吸収します。温度が上昇した海水は、熱膨張と呼ばれるプロセスによって体積が増え、それが海面上昇の大きな要因となります。
海面上昇はまた、壊滅的な悪循環のフィードバックループを引き起こします。
例えば、沿岸の生息地を守り、気候変動の原因になる有害な炭素ガスを貯蔵するマングローブ林が、短期間で浸食され、保護機能を喪失することがあります。マングローブが減ると環境内に有害ガスが増え、気候変動が促がされ、気温の上昇とともに海面がさらに上昇するのです。
最も影響を受ける国は?
およそ9億人、つまり地球上の10人に1人が、海のすぐ近くに住んでいると推定されています。
バングラデシュ、中国、インド、オランダ、パキスタンなど、人口密度の高い国々の沿岸地域に住んでいる人々が、危険にさらされ、壊滅的な洪水に見舞われる可能性があります。また、バンコク、ブエノスアイレス、ラゴス、ロンドン、ムンバイ、ニューヨーク、上海など、それぞれの大陸の主要都市もリスクにさらされています。
低地の多い小さな島々は、間違いなく最も深刻な脅威に直面しています。フィジー、バヌアツ、ソロモン諸島といった太平洋諸国の人々は、海面上昇をはじめとする気候変動による影響によってすでに移転を迫られています。
海面上昇と闘うためにできることは?
私たちが取り得る最も重要な行動の一つは、気候変動の主要因である温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化を減速させることです。
一方、海面上昇の緩和とそれに対する適応が、新たに重要性を増しつつあります。
当然費用はかかりますが、洪水や浸食を防ぐための防波堤や防潮堤などのインフラの建設、排水システムの改善や洪水に耐えることのできる建物の建設、マングローブのような天然バリアの修復、波エネルギーを吸収し高潮の影響を軽減する湿地やサンゴ礁の保護など、幅広い解決策があります。
また、多くの国々が、災害リスク削減計画を強化するとともに、国連が支援する早期警報システムを通じて海面関連の事故に対処しています。
場合によっては、適応策の一環として脆弱な沿岸地域からコミュニティーを移転させることもあり、この手段は「マネージド・リトリート(管理された退避)」と呼ばれています。
国連による支援
海面上昇に対処するためには、包括的で、国際的に協調したアプローチが必要であり、それを主導できるのは国連しかありません。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)はパリ協定を通じ、将来的な海面上昇の度合いを抑える上で不可欠な、地球温暖化の抑制につなげています。
また、国連はSIDSに対する支援も行っており、国際社会と協力し、特に「損失と損害基金」を通じて最も脆弱な立場に置かれた国々に対する資金援助を行い、そうした国々が気候変動の影響に適応できるよう支援しています。
海面上昇の課題への対処における国連による支援の詳細については、こちらをご覧ください。
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原文(English)はこちらをご覧ください。
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