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目に見えぬ殺し屋:「薬剤耐性」とは何か?(UN News 記事・日本語訳)

2024年10月22日

カルバペネム耐性腸内細菌目細菌のメディカルイラストレーション© CDC/Dan Higgins/James Archer

執筆者:エイリーン・トラバース

2024925 「薬剤耐性(AMR)」は「目に見えぬ殺し屋」とも呼ばれ、毎年130万人の死の直接的な原因となっているほか、それ以外にも500万人の死の要因の一つとなっています。多くの人が、家族や友人の中に、感染症にかかった際に処方された薬が効かなかったために容体が重症化したり、死亡したりした人がおり、その根本的な原因が薬剤耐性であることが多くあります。しかし、衛生管理からワクチン接種、薬の乱用・誤用の回避など、この脅威に対応する方法は数多くあります。

9月26日に開催される国連総会のAMRに関するハイレベル会合を控え、知っておくべきことを以下にまとめました。

「薬剤耐性(AMR)」とは何か?

 抗微生物薬は、およそ1世紀前に発見されて以来、抗生物質から抗ウイルス薬に至るまで、平均寿命を大幅に伸ばしてきました。これらの必須薬は、その有効性を失うまでは何百万もの命を日夜救っています。

AMRは細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの微生物に対して抗微生物薬が効かなくなるときに起こります。薬剤耐性が生じると、抗微生物薬の有効性が失われ、感染症の治療が困難あるいは不可能となり、そのため、疾病の拡大や重症化、障害、死亡などリスクの高まりが生じていると国連の世界保健機関(WHO)は説明しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)同様に、薬剤耐性感染症に国境はなく、誰もがその影響を受けますが、発生率は低・中所得国で高くなっています。

薬剤耐性の脅威が高まっている© WHO/Quinn Mattingly

WHO:「誰にでも起こりうる」

AMRを追跡する一つひとつの数字の裏で、実際に人々が被害を受けています。増大している負担としては、限られた治療の選択肢、入院の長期化、常時投薬、収入喪失の長期化、医療費負債、貧困、家族の喪失とその悲しみなどが挙げられます。生命に深刻な影響を及ぼし、場合によっては命を落とすこともあるのです。

WHOによれば、「それは誰にでも、どこででも起こりうること」なのです。

たとえ健康であっても、軽度のけがや定期的な手術、一般的な肺感染症が思いがけず命を脅かす病状へ深刻化するおそれがあります。がん、HIV、糖尿病などの持病がある人にとっては、危険な第二の脅威として、思いもよらない時に治療できない感染症に襲われる可能性があるのです。

AMRの原因とは?

AMRの出現・拡大を早める要因はいくつかありますが、抗生物質の過剰使用が主な要因となっています。

抗微生物薬の過剰使用・誤用:必要でないときの抗生物質の使用、医療提供者による過剰な処方、治療過程の未完了は、いずれも耐性につながるおそれがあります。

農業利用:家畜の成長促進や病気予防に抗生物質を使用すると、人間に伝染し得る耐性菌が発生するおそれがあります。

ずさんな感染対策:医療現場やコミュニティーにおいて衛生状態が不十分な場合、耐性微生物の拡大が助長されます。

国際貿易や海外旅行:人とモノの移動が増えると、耐性微生物がより容易に国境を越えて広がります。

ナイジェリアにある教育病院の微生物学研究室で検体を確認する医師© WHO/Etinosa Yvonne

AMRの影響

AMRの増加は、個人の健康や公衆衛生に深刻な影響を及ぼします。

AMRは、何百万もの生命と私たちの経済の行方の両方を脅かします。さらに、食料システムや開発、安全保障にも影響を及ぼします。

世界銀行によると、AMRによって2030年までに世界全体で年間最大3兆4,000億ドルの費用がかかると推計され、2050年までにおよそ2,800万人が貧困に陥るおそれがあります。

グローバル・アクション・プラン

朗報としては、AMRは100%予防可能であるということです。国際パートナーたちは2015年にグローバル・アクション・プランを採択し、一般市民への啓発活動や責任ある抗微生物薬の使用、継続的な研究を強化してきました。

もう一つの効果的な手段は、感染の予防と管理、予防接種、水と衛生(WASH)プログラムを優先するユニバーサル・ヘルス・カバレッジUHCを通じて保健医療システムを強化し、抗微生物薬の必要性を減らすことです。

WHOは、薬剤耐性微生物に関する監視、報告、最新情報の提供を行っています。例えば、今年初めには人の健康に最も脅威となる薬剤耐性菌のリストを更新しています。

「2017年に細菌優先病原体リストの初版が発表されて以来、薬剤耐性の脅威が深刻化し、数多くの抗生物質の有効性が損なわれ、現代医学がもたらした多くの成果を危機にさらしています」WHOの中谷祐貴子事務局長補(薬剤耐性担当)は今年5月、最新版のリストの発表にあたりこのように述べました

「このリストは、薬剤耐性菌がもたらす様々な世界的な負担を明らかにし、それらの負担が与える公衆衛生への影響を評価することで、投資を誘導し、抗生物質の開発やアクセスの課題に対応していく上での鍵となるものです」と事務局長補は強調しました。

AMRを食い止めようと行動しているのは誰か?

アルゼンチンの科学者たちは、薬剤耐性(AMR)の出現を追跡・抑制するために細菌の検体を調査している©WHO/Sarah Pabst
  • 世界の指導者たちは、9月に開催される国連総会のAMRに関するハイレベル会合で一堂に会し、政治宣言を承認する予定です。
  • AMRに関する四者共同事務局では、「ワン・ヘルス領域にわたってAMRへの世界的な対応を支援するために、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、WHO、国際獣疫事務局(WOAH)がそれぞれの中核的なマンデートを活用しながら、四者間の協力を集約しています。
  • WHOは啓蒙活動の一環として、2024年に入って「AMR is invisible. I am not.(AMRは目に見えないが、私はそうではない)」キャンペーンを展開するとともに、毎年11月18日から24日まで「世界AMR啓発週間を開催しています。
  • WHOはまた、薬剤耐性感染症の合併症を経験した人々のためにプラットフォームを提供し、そうした人たちの声を高めるために、「サバイバーたちのタスクフォースを立ち上げました。
  • WHOによるAMRに関するファクトシートは、こちらをご覧ください。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

【関連記事】薬剤耐性は「無視できない危機」と国連が警告 抗生物質の責任ある使用を呼びかけ(UN News 記事・日本語訳、2017年11月)