マルチラテラリズム(多国間主義)とは何か? なぜ大切か?(UN News 記事・日本語訳)
2025年03月13日

2025年2月18日 — 「マルチラテラリズム(多国間主義)」は国連で頻繁に用いられる用語ですが、それは国際外交が行われる廊下や会議室においてのみ使われる概念ではありません。
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マルチラテラリズムは、国連の枠を超え、人々の日常生活にもさまざまな形で影響を及ぼします。紛争の軽減や経済の発展に貢献し、私たちが安全に世界を旅することも可能にしています。また、気候変動や規制のない人工知能(AI)といった重要なグローバル課題に取り組む上でも極めて重要です。
「マルチラテラル」とはどういう意味か?
もともと、「マルチラテラル(multilateral)」とは「多辺からなる」を意味する幾何学用語でした。
今では、異なる見解や目標を持つ多くの国々が協力し合う国際政治や外交を表します。
国連システムは、世界的な課題の解決に向けて各国が集う主要な多国間(マルチラテラル)フォーラムです。重要課題に取り組むために、さまざまな大規模な会議や首脳級会合(サミット)、ミーティングなどを主催します。

協力、譲歩、そして調整
国際社会においては、各国が協力(Cooperation)し、譲歩(Compromise)し、取り組みを調整(Coordination)することで、一国では対処できない課題の解決に当たります。
これら3つのCは、信頼を築き、争いを平和的に解決するのに役立ちます。
現代世界を成り立たせる
想像してみてください。もし各国が、電話、航空、輸送、郵便のシステムを独自に開発し、他国と調整しなかったとしたら。世界の旅行、通信、貿易は混乱を極めるでしょう。マルチラテラリズムのおかげで、これらを成り立たせる国際的なシステムが存在しているのです。
医療から郵便制度、旅行に至るまで、私たちの日常のさまざまな活動に関して世界標準が設けられているのは、マルチラテラリズムと一連の多国間組織の設立によるものです。そうした組織の多くは19世紀に設立され、今では国連システムの一部となっています。
国連が創設される前からあった多国間組織は、次の2つです。
国際電気通信連合(ITU):電信網の標準化を目的として1865年に設立。現在は、無線周波数、衛星、インターネットのガバナンスを支援しています。
国際労働機関(ILO):労働者の権利を促進し、働きがいのある雇用機会を奨励し、社会的保護を向上させ、労働関連の課題に関する対話を強化することを目的に、1919年に設立。

多国間政策の立案
1945年以来、国連は、各国が協力して重要な合意を結ぶ支援を行ってきました。
国連の政策決定における中心的な機関は、国際問題を多国間で議論する他に類を見ないフォーラムである国連総会です。
193の国連加盟国のそれぞれが、経済規模、人口、軍事力に関わらず平等な投票権を有しています。モナコの1票は、中国の1票と同じ重みを持ちます。
国連が成し遂げてきたこと
マルチラテラリズムのもう一つの機能は、(道徳的)規範の設定です。総会はこの規範的役割を担い、軍縮、人権、環境保護に関わる多くの国際法や国際条約を制定してきました。
その最大の功績の一つは、包括的な人権法体系への道を開いた、画期的な世界人権宣言の起草と採択です。
世界人権宣言は、異なる法的・文化的背景を持った、世界のあらゆる地域からの代表者たちによって起草され、1948年に総会が宣言しました。
世界人権宣言は、普遍的に保護されるべき基本的人権を初めて定めたものであり、多くの新興独立国や新たな民主主義国家の憲法に着想を与えました。

冷戦期
冷戦時代(1940年代後半から1990年代初期まで)のさなか、国連は平和維持と軍備管理において重要な役割を果たしました。
核戦争の脅威にもかかわらず、第3次世界大戦を回避できたのは、国連が議論と意思決定の場を提供したことが一因です。
現在の国連
創設からおよそ80年が経った今も、国連は世界の主要な多国間機関として、世界各地で平和維持から経済開発、貿易に至るさまざまな分野で、国際行動を調和させ、調整しています。
国連が提供・調整している人道支援により、紛争地域や災害地域に食料、医療、避難所が提供され、何百万もの人々の命が救われてきました。
多国間の枠組みは、国家の枠に留まらず、市民社会、若者、企業などの代表たちも参加するものへと拡大しています。

これからの課題
壊滅的な内戦や国境を越える紛争から国家間や国家内で拡大している経済的不平等、規制のないAIや気候変動といった人類の存亡に関わる脅威に至るまで、国連加盟国は今日のグローバルな脅威や課題に効果的に対処するのに苦慮しています。
国連が今後数十年にわたって世界におけるマルチラテラリズムの卓越したフォーラムとして、その目的にかなった存在であり続けるために、加盟国は2020年にアントニオ・グテーレス国連事務総長に対し、現在および将来世代のためにグローバル・ガバナンスを強化する構想の策定を求めました。
平和維持から国際金融アーキテクチャ、教育、政策決定への若者の参画に至るさまざまな分野の政策改革が、国連改革に向けた勧告を網羅した『私たちの共通の課題(Our Common Agenda)』にまとめられました。やがてそれは、2024年9月にニューヨークの国連本部で開催された「未来サミット」の会合で世界の指導者たちによって採択された、画期的な「未来のための協定」に反映されました。
国連事務総長による行動の呼びかけ
アントニオ・グテーレス事務総長は、就任した最初の年に、法や協定があるというだけでは不十分だと述べました。
そして次のように促しました。「国連を中心として、国連憲章を実現するさまざまな制度や機関、条約により、ルールに基づいた秩序に対するコミットメントを強化する必要があります」
グテーレス事務総長が呼びかけたのは、他の国際機関や地域機関とネットワーク化されたマルチラテラリズム、そして、今日および未来の試練や脅威に耐え得る包摂的なマルチラテラリズムなのです。
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原文(English)はこちらをご覧ください。