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気候科学は再生可能エネルギーの次の原動力となるか?(UN News 記事・日本語訳)

2025年04月16日

欧州のエネルギー計画担当者は、冬に曇天・無風が続く期間である「暗い凪(dunkelflaute)」が、太陽光発電・風力発電の双方に悪影響を及ぼすことにますます懸念を強めている ©WMO/Pete Stevens

執筆者:ラウラ・キノニエス

2025326 太陽光、風力、水力発電が拡大する中、科学者たちは気候データや気候予測の組み込みが再生可能システムを強化する鍵であると指摘しています。

再生可能エネルギーに向けた競争が加速しています。そして、気候危機に関するさまざまな課題が迫る中、顕著な前進がみられます。炭素汚染を引き起こす発電は化石燃料を地球温暖化の最大の要因に位置付けていましたが、そうした汚染をもたらさずに発電するために、太陽光パネルが砂漠を覆い、風力発電機が海岸線のあちこちに建ち、水力発電ダムが河川の流れを利用するようになってきています。

実際に、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の新たなデータによると、世界の再生可能エネルギー容量は2024年に585ギガワット増加し、過去最大の伸びを記録しました。再生可能エネルギーは、世界の新規発電量の90%超を占め、年間成長率はこの20年で最も速くなっています。

費用の低下や石油、ガス、石炭の段階的廃止の必要性に迫られるなど、再生可能エネルギーを推進する機運が高まっています。しかし、専門家たちは、何十年にもわたる化石燃料の燃焼が主たる要因である気候変動が、今やますますクリーンエネルギーの生産方法に制約を課すようになっており、場合によっては脅威にもなっていると警鐘を鳴らしています。

こうした傾向は、2023年の不安定な気候によりさらに顕著になり、再生可能エネルギーの発電に世界的な混乱を引き起こしました。気温が産業革命以前の水準と比べて1.45°C上昇し、ラニーニャ現象からエルニーニョ現象への移行が、降水量、風向パターン、日射量に変化をもたらしています。

世界気象機関(WMO)の気候・エネルギー専門家であるハミド・バスタニ氏は、この影響の顕著な例として、「スーダンとナミビアでは、異常な少雨によって水力発電量が50%超低下した」とUN Newsのインタビューで述べています。

スーダンでは、2023年の降水量がわずか100ミリと、同国の長期平均の半分未満にとどまりました。

「この国では水力発電が電源構成のおよそ60%を占めています。こうした(降水量の)減少は、重大な影響を及ぼしかねません」バスタニ氏はこのように説明し、電力システムが約4,800万人と多数、かつ急速に増加する人口を支えていると指摘しました。

こうした変化は水力発電に限ったことではありません。風力発電についても気象条件の変化に伴う負荷の兆候が現れています。

世界の陸上風力発電容量の40%を占める中国でも、風の異常が発電に悪影響を及ぼしたことで、2023年の発電量の増加はわずか4%~8%にとどまりました。インドでは、モンスーンによる風力が弱まったことで発電量が減少しました。また、アフリカの一部地域はさらに深刻で、風力発電量が20%~30%も減少しました。

一方、南米では逆の傾向がみられました。晴天と日射量の増加に伴い、ブラジル、コロンビア、ボリビアなどの国を中心に太陽光パネルの発電量が増加したのです。

そのため、この地域では太陽光発電量が4%~6%増加しました。この気候に伴う増加は、約3テラワット時の追加発電量に相当し、これは平均的な電力消費量の家庭200万世帯超が1年間に使用する電力を賄うのに十分な量です。

「これは、気候変動が時に機会を生み出す場合もあることを示す好例です。欧州でも日射量が多い日が増えてきており、太陽光発電の効率が徐々に高まっているということです」WMOニューヨーク事務所の所長で、過去には気候・エネルギー業務を担当していたロベルタ・ボスコロ氏はこう説明しています。

ボスコロ氏、バスタニ氏は共に、最近のWMO-IRENAによる研究の寄稿者に名を連ねており、これはエルニーニョ現象、地球温暖化、地域的な異常気象によって形成された2023年の気象条件が、世界の再生可能エネルギー発電量とエネルギー需要にどのような影響を及ぼしたかを検討する内容となっています。

太陽光発電は、2023年の世界の再生可能エネルギー新規発電量の73%超を占めており、世界で最も急速に成長しているエネルギー源だ ©ADB/Patarapol Tularak

システムは安定に基づいて作られたが、世界は安定とは程遠い

気候科学とエネルギー政策が重なる領域で長年働いてきたボスコロ氏は、再生可能エネルギーインフラの脆弱性をいち早く指摘しています。ダムや太陽光発電所、風力発電機はいずれも、過去の気象パターンに基づいて設計されたものであることから、気候変動の影響を受けやすいのです。

水力発電を例にとってみると、ダムは想定される季節ごとの流入量に基づき運用されており、多くの場合は雪解け水や氷河の融解水の流入を受けてます。「氷河の融解に伴って短期的には水力発電量が増加しますが、そうした氷河が消滅してしまうと、水も消滅してしまいます。そしてそれは、少なくとも人類の時間軸では不可逆的なものなのです」ボスコロ氏はこのように語りました。

こうしたパターンはアンデス山脈やヒマラヤ山脈のような地域において、すでに進行しています。雪解け水が消滅すれば、各国は発電方法を変えるか、長期的なエネルギー不足に直面することになるでしょう。

例えば、国連環境計画(UNEP)の最近の報告書によると、海面上昇や暴風雨の激甚化によって、海岸線に近い太陽光発電所などのエネルギー生産施設におけるリスクが高まっています。

同様に、山火事の激甚化・頻発化は、送電線を破壊して地域全体に停電を引き起こす可能性があるほか、猛暑は、冷房の需要がピークに達するまさにその時期に、太陽光パネルの効率を低下させ、送電インフラに負荷をかけるおそれがあります。

原子力発電所もまた、気候変動によって危険にさらされています。

ボスコロ氏は「冷却用の水が不足して、原子力発電所が稼働できなくなった事例がある」と述べています。熱波が頻発化し、河川の水位が低下すると、一部の古い原子力施設は現在の場所ではもはや存続不可能になるかもしれません。

「この点も、これまでとは異なる視点で未来を考える必要のある新たな課題です。発電インフラの設計、建設、計画においては、過去の気候ではなく、将来の気候がどうなっているかを真に考えなければならないのです」

2023年に世界の再生可能エネルギーの発電容量は50%近く増加し、年率ではこの20年で最大の伸びを見せた。その大半が太陽光・風力発電によるものだ©IMF/Crispin Rodwell

データ、AI、テクノロジーを通じて未来に適応する

私たちの地球が、特に再生可能エネルギーによる電力が中心になる未来に向かっているということは間違いありません、とボスコロ氏は言います。

「私たちの輸送も、調理も、暖房も電化されます。したがって、信頼できる電力システムがなければ、すべてが崩壊してしまいます。エネルギーシステムをどう転換していくのか、そして将来のエネルギーシステムの信頼性やレジリエンス(強靱性)を考える上で、これらを扱う気候インテリジェンスが必要となります」

実際、適応するにはエネルギー計画のあらゆる段階に気候予測、気候データ、気候科学を組み込む、いわゆる気候インテリジェンスを採用する必要がある、と2人の専門家は強調しています。

「以前は、エネルギー計画担当者は、過去の平均値を用いて作業をしていました。しかし、もはや過去は信頼できる指針ではありません。私たちは、10年前の状況だけでなく、来シーズンの風はどう吹くのか、来年の降水量はどうなるのかを知る必要があるのです」バスタニ氏はこのように説明しています。

例えばチリでは、2023年11月に異常なほどの降水量の増加によって、水力発電量が80%も急増しました。こうした増加は気候変動によるものですが、専門家たちは、高度な季節予報によって、ダム事業者が将来における同様の事象をより正確に予測し、より効果的にダムに貯水するための管理が可能になるだろうと述べています。

同様に、風力発電所の作業員は予報を活用して、風が弱い時期にメンテナンスを予定することで、稼働停止時間を最小限に抑え、損失を避けることができます。送配電事業者もまた、熱波や干ばつの時期のエネルギー需要の急増に向けて計画を立てられるのです。

「今や数秒から数カ月先までの予報が可能です。それぞれの予報に、当面の電力網の調整から長期的な投資決定に至るまで、具体的な活用法があるのです」バスタニ氏はこのように述べました。

気候予測の改善により、エネルギーシステムは数日先から数シーズン先の計画をも立てられるようになる©WMO/Sandro Puncet

人工知能(AI)は助けになります。気候・エネルギーデータで訓練された機械学習モデルは、現在、より詳細かつ高精度にリソースの変動を予測できるようになりました。こうしたツールは、バッテリー貯蔵を展開する時期やエネルギーを地域間で移行する時期を最適化するのに役立ち、システムの柔軟性と対応力を高めることができます。

「これらのモデルにより、事業者は風、降水量、日射量の変動をより正確に予測できるようになります」バスタニ氏はこう説明しています。

例えば、最近WMOが実施した2件の小規模プロジェクトは、現実の再生可能エネルギー計画にAIをどのように適用できるかを示しています。コスタリカでは同国のエネルギー当局と協力し、AIによる短期風速予測モデルを開発・導入しました。このツールは現在、コスタリカ電力機関内部のエネルギー予測プラットフォームに組み込まれており、一部の風力発電所における稼働の最適化に寄与しています。

チリで実施された別のプロジェクトでは、浮体式の太陽光テクノロジーに注目し、貯水池の蒸発率の推計にAIを活用しています。推計の結果、浮体式太陽光パネルによる水の蒸発量は、全国平均の77%削減と比べ、夏季で最大で85%削減できていることが示されました。このデータは、現在、チリの公式ソーラー・エナジー・エクスプローラー・プラットフォームに組み込まれています。

実際、気候変動対策も備わった再生可能エネルギー計画の見込みと課題は、グローバル・サウスにおいて最も顕著に表れています。例えばアフリカは、地球上で最も太陽光発電の可能性を持っている地域の一つですが、世界の再生可能エネルギー設備容量にアフリカ大陸が占めている割合は、わずか2%にすぎません。

なぜこうしたギャップが生じているのでしょうか。ボスコロ氏はデータと投資の不足を指摘しています。

「グローバル・サウスの多くの地域では十分な観測データがないために、正確な予測を立てたり、エネルギー・プロジェクトに収益性を持たせたりすることができていません。投資家が必要としているのは信頼性の高い長期的な見通しであり、それなしではリスクが高すぎるのです」ボスコロ氏はこのように語りました。

WMOは支援が行き届いていない地域での気象やエネルギーの監視の改善に取り組んでいますが、その前進にはばらつきがあります。同機関では、現地のデータ・ネットワークや国境を越えたエネルギー計画、地域ニーズに沿った気候サービスに対する、さらなる資金提供を呼びかけています。

「これは気候変動の緩和の問題にとどまりません。これは開発の機会なのです。再生可能エネルギーは、システムが適切に設計されれば、コミュニティーに電気をもたらし、産業の発展を推進し、雇用を創出することができるのです」ボスコロ氏はこう付け加えました。

バスタニ氏は、エネルギー企業と気候科学者たちが世界規模でデータを共有することが必要だと考えています。

「民間セクターが収集しているデータは、活用されずにいる莫大な可能性を秘めています。太陽光、風力、水力、場合によっては原子力をも含めて、発電所の過去の観測データとリアルタイムの観測データを統合することで、気象・気候モデルを大幅に改善することができます。それは、企業にとっても科学者にとっても有益なのです」

気候予測は、エネルギー企業が天候による需給の変化を予測し、信頼性を高め、リスクを軽減するのに役立つ©IMF/Lisa Marie David

適応に向けた、エネルギー・ポートフォリオの多様化

近い将来にクリーンエネルギーを確保する上で鍵となるもう一つの行動が、多様化です。一つの再生可能エネルギー源に過度に依存してしまうと、各国が気候の季節的・長期的な変化にさらされることになるとバスタニ氏は説明しています。

例えば欧州のエネルギー計画担当者たちは、冬に曇天・無風が続く期間である「暗い凪(dunkelflaute)」が、太陽光発電・風力発電の双方に悪影響を及ぼすことに懸念を強めています。高気圧性の曇天(anticyclonic gloom)として知られる高気圧に関係するこの現象により、エネルギー貯蔵とバックアップ電源のさらなる導入を求める声が広がっています。

「太陽光、風力、水力、蓄電池、場合によっては(地熱などの)低炭素電源を含めた電源構成の多様化が不可欠です。異常気象がより頻発に起こるようになることを考えればなおさらです」バスタニ氏はこのように述べました。

未来に向けて

世界が再生可能エネルギーの未来に向けて突き進む中、気候変動がもたらす課題に対処することが不可欠です。2023年に経験した不安定な気候によって、気象パターンにおける予測不可能な変化にも耐えうる気候変動対策も備わった計画とインフラの必要性が浮き彫りになりました。

再生可能エネルギーが真にその可能性を発揮するためには、世界は発電容量の拡大にだけでなく、レジリエントで適応性があり、利用可能な最善の気候科学に基づいたシステムの構築にも投資しなければなりません。

WMOの専門家であるハミド・バスタニ氏とロベルタ・ボスコロ氏は、気候インテリジェンスをエネルギーシステムに組み込み、そうしたシステムの信頼性とレジリエンスを確保することが重要だと強調しています。高度な予測とAIを活用することで、私たちは、上述のような変化をより正確に予想し、それらに適応し、再生可能エネルギー生産を最適化して、私たちの未来を守ることができるのです。

エネルギーの未来とは、風力タービンや太陽光パネルの数を増やすということにとどまりません。そうした設備で緩和しようとしている「(気候変動の)力」そのものに、それら再生可能エネルギーが耐えられるようにすることでもあるのです。

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原文(English)はこちらをご覧ください。