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関税:雇用の保護者か、貿易の破壊者か?(UN News 記事・日本語訳)

2025年04月17日

2024年、世界の貿易額は過去最高の33兆ドルに達した© Unsplash

執筆者:コナー・レノン

2025328日 — ここ数カ月、「関税」という言葉が新聞の経済面から見出しへと躍り出ています。これには経済大国・地域が他国に対して関税を課したり、またはそうすると脅したりしていることが背景にあります。しかし関税は、地政学的な瀬戸際外交で使用する乱暴な道具というだけではありません。効果的に用いれば、より貧しい国々が自国の経済を発展させる助けにもなるのです。

国連貿易開発会議(UNCTAD)は、毎月、世界貿易の中で起きていることについて、最新情報を提供しています。3月の報告書では関税に焦点が当てられています。それによると、世界貿易は昨年に過去最高の33兆ドルに達したものの、2025年の見通しは依然として不透明であり、高まる緊張、保護主義的な政策、貿易紛争によって、今後数カ月のうちに混乱が生じる可能性を示しています。

©UNCTAD

UNCTADのルス・マリア・デ・ラ・モラ国際貿易部門ディレクターは、世界貿易に関する最新情報の作成の責任者です。同氏はそのキャリアの初期において、北米自由貿易協定(NAFTA)を1992年にまとめたメキシコの交渉チームの一員を務めました。その後NAFTAを引き継いだ協定は、今もなお論争の的となっています。

デ・ラ・モラ氏はUN Newsに対して、関税そのものが必ずしも問題なのではなく、経済大国・地域が国際貿易のルールブックを破り捨てることで生じる不確実性が問題なのだと説明しています。

ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏:関税とは、基本的に輸入品に対する課税であり、80年近くにわたって実施されている国際貿易システムの一部です。

まず1948年にGATT(ガット)として知られる「関税及び貿易に関する一般協定」が締結され、1995年に設立された世界貿易機関(WTO)がこれを引き継ぎました。これらの組織は、基本的にルールを設けることで、生産者、投資家、輸出国に対して、関税が毎年変わることはないという確実性を与えてきました。

関税は広く実施されていますが、WTOや地域機関で交渉されたルールに従って課されています。

UN News最も高い関税は開発途上国間で課されていますが、それはなぜでしょうか。

ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏:通常、開発途上国では保護レベルが高くなる傾向にあり、そこにはいくつかの理由があります。その1つは、自動車や化学部門の特定の産業を発展させたいと考える場合です。ある産業を発展・成長させる1つの方法は、関税を通じて外国との競争からそれを保護することです。マイナス面としては、国内市場におけるそうした商品の価格が高騰し、競争阻害が起こる可能性があることです。

メキシコの加工工場でパプリカを選別する労働者たち© ILO/BMF Media

開発途上国が関税を課す2つ目の理由は、政府が歳入を必要とする場合です。関税とは税金であり、税金は政府が社会的支出、医療、教育、インフラ整備に使うことができる収入です。しかしここでも、それは消費者にとって輸入価格の高騰を意味しています。

UN Newsあなたは(米国、カナダ、メキシコ間における)北米自由貿易協定(NAFTA)に深く関わっていました。NAFTAは何を成し遂げ、なぜ物議を醸したのでしょうか。

ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏:当時NAFTAは、いくつかの理由から非常に大胆な提案ではありました。開発途上国と先進国の間で結ばれた初めての自由貿易協定であり、それまでにはなかった試みでした。3カ国間での関税は、実質的にすべて撤廃されたのです。

NAFTAは、メキシコの経済を大きく変革しました。製造部門への投資が増加し、多くの雇用が生まれました。今日、メキシコの製造部門は世界トップクラスとなり、メキシコは世界第4位の自動車生産国となったのです。統合は、経済をより効率化させ、より多くの機会を創出できるということが証明されたのです。

UN NewsNAFTAを批判する人々は、関税の引き下げが特定部門における保護の低下を意味し、損失を被った労働者たちもいたと主張しています。最終的には、それぞれの国の労働者たちは利益を得ることができたとお考えですか。

ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏:もちろん、どの自由貿易地域にも、常に勝者と敗者が存在します。私は、すべてが良好だったと主張しているわけではなく、いくつかの部門や企業は消滅しています。しかし、北米のサプライチェーンに統合できた国の地域や分野において起きた変革は、実に心強いものです。大局的に見れば、プラスの効果があったと言えるでしょう。

しかし、貿易政策は、損失を被った人たちが訓練を受けられるようにする政策と、一体で実施されなければなりません。労働力人口を維持するためには、政府による何らかの介入が必要なのです。

中国浙江省の工場で輸出用の木材を準備する労働者© ILO

例えばメキシコの農業部門では、米国やカナダとの競争に立ち向かう生産者たちを支援するために、多くの支援プログラムが実施されました。

また、それまでメキシコにはほとんど存在しなかった果物・野菜部門でも生産が拡大し、現在メキシコは、トマト、アボカド、ベリー類などの生鮮青果物の対米輸出国として第1位となっています。その結果として米国の消費者は、よりバランスの取れた健康的な食生活を送れるようになりました。逆にメキシコは、穀物、小麦、トウモロコシ、ソルガム、また一部の種類の牛肉、豚肉、鶏肉も簡単に入手できるという恩恵を受けています。

UN Newsこうしてお話をしている今も、国際貿易協定に対して多くの疑問が投げかけられています。世界貿易戦争が始まる瀬戸際にあると考えていますか。

ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏:米国、欧州連合(EU)、中国など、世界貿易において重要な国・地域の多くが、必ずしもWTOにおける約束に沿っていない関税や方策を実施しています。

そのことが、民間セクター側に不確実性と不安をもたらしています。なぜなら、主要な国・地域がWTOのルールに従わずに独自のルールを作り始めると、なぜそのようなことをするのか、なぜ問題に対処するために置かれたシステムやルールを使わないのか、といった疑念が生じるからです。

ある部門が他の部門よりも変化の影響を受けやすかったり、経済状況によってある種の介入が必要になったりするなど、事情は常に国によって様々なのです。

加盟国がWTOや国連システムを介さずに一方的な決定を下せば、不確実性が生まれ、最終的には民間セクターの投資決定や貿易、経済成長、雇用創出を鈍化させてしまう可能性があります。

マダガスカルのような開発途上国のコミュニティーは、生計を立てる上でロブスターなどの輸出に依存している©UN News/Daniel Dickinson

UN Newsもし世界経済が減速した場合、最も苦しむことになるのは誰でしょうか。

ルス・マリア・デ・ラ・モラ氏:開発途上国ですね。開発途上国のうち95カ国は輸出に依存しており、国際的な価格動向と世界経済の成長に翻弄されています。

こうした国々が必要としているのは、機能し、確実性をもたらす国際貿易システムです。そこでどの規制を受けるかを把握することができ、予告、交渉、事前の警告なしにルールが変更されるようなことがないシステムが必要なのです。

だからこそ、マルチラテラリズム(多国間主義)を維持し続けることが、極めて重要なのです。

関税について

  • 国連では、関税について「商品輸入において価格の一定のパーセンテージ、または(100キログラムあたり7ドルなどの)特定の基準で、通関時に課される税金」と定義しています。
  • 関税は、同種の国産品に価格優位を与えたり、政府歳入を増やしたりするために利用されることがあります。
  • 先進国は多くの場合、関税を広範な経済政策の一環として、特定産業の保護や国際貿易の動向への対応を目的にして用いています。これに対して開発途上国は関税を、さらに広範囲に新興産業の保護や経済発展の支援のために利用することがあります。
  • 先進国は、関税の引き下げなど貿易推進策を含む、複合的な国際貿易協定に関与する可能性が高くなります。開発途上国では、そうした協定を結ぶことはより少なく、より有利な条件で交渉するための手段として関税を利用することがあります。

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原文(English)はこちらをご覧ください。