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第4回交通安全に関するグローバル閣僚会議への寄稿(日本語訳):「人、地球、繁栄のために交通安全を強化しよう」

2025年04月25日

©WHO / Asad Zaidi

人、地球、繁栄のために交通安全を強化しよう

世界の指導者たちは、道路での大量死を止めるための緊急かつ協調的な行動を起こさなければならない

2025年2月21日

世界中の子どもや若者たちの死因の第1位を聞かれたら、あなたは何と答えますか。

マラリア? 肺炎? 自殺? いずれも上位ではありますが、違います。正しくは交通事故です。

自動車がこの世界に登場してから120年余り、私たちはどうしたら交通事故という悲劇を防げるかを知っています。それでも依然として、交通事故によって1分間に2人超、毎年120万人近くが命を奪われています。

もしこれらの死因がウイルスであれば、それはパンデミック(世界的大流行)と呼ばれ、世界は致死を防ぐためのワクチン開発を急いだでしょう。

しかし、交通事故死を減らすことは長らく見過ごされ、誤解され、十分な予算が充てられてきませんでした。

人は常に道路上でミスを犯すものですが、、交通システムがそうしたミスを吸収し、死亡リスクを大幅に減らすようにできる、証明されたソリューションがあります。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)と「交通安全のための行動の10年(2021年~2030年)」の一環として、各国は2030年までに世界の交通事故死を半減させるという野心的な目標を掲げています。

交通事故死を10年間で50%超減らせた国は、特に困窮している低所得国や中所得国を含め、わずか10カ国にとどまり、そのほか30カ国超がそれに近いという状況です。これは、目標の達成は可能ではあるものの、達成までには依然として程遠いことを示しています。緊急の行動が必要です。

この目標を達成する鍵は、自動車のためではなく人のために交通システムを設計・構築し、あらゆる決定と行動において安全を最優先すると、決断することにあります。

このことは、歩行者や自転車利用者、バイク利用者など、往々にして危険にさらされている最も脆弱な道路利用者たちにとって、特に重要です。

交通安全の推進は、それ自体が極めて重要なものですが、持続可能な開発全体にとっても鍵となります。

世界はかつてないほどのモータリゼーション(車社会化)の波に直面しています。道路には10億台を超える車が走行しています。それが持続不可能な状態であるからこそ、私たちは自動車やバイクやトラックではなく、人の移動に焦点を当てる必要があるのです。

輸送部門は、世界の炭素排出量の4分の1を占めており、都市における混雑を助長しています。しかし、安全でアクセス可能なモビリティ(移動利便性)があれば、人々は公共交通機関、徒歩、自転車など、よりグリーンな選択肢を選びます。

自転車レーン、歩行者専用ゾーン、アクセス可能な公共交通機関など、持続可能な交通を中心に都市を設計することは、空間をより安全でより住みやすくすることでコミュニティーを強化し、あらゆる人々にとっての適切な住居や基本的サービスへのアクセスを改善することにもつながります。

安全な道路は経済も発展させます。交通事故死は各国の国内総生産(GDP)を約3%~5%押し下げるおそれがあり、より多くの人々が職場、学校、必要不可欠なサービスへと安全に移動できるようにすることで、発展が促進されます。

安全で利用しやすく手頃な価格の交通機関は、不利な立場に置かれた人々の雇用、学校、機会に対する障壁を取り除くことにもつながります。そうして、誰もが自身の潜在能力を発揮できるようになります。

ジェンダー平等についても同様です。一部の国では、80%近い女性が公共交通機関でハラスメント被害を受けたと報告しており、私たちは交通機関を女性や女児たちにとって安全なものにしなければなりません。

交通安全はあらゆる人々の問題であり、安全を実現させるには、さまざまなセクターからの関与が必要です。

都市計画担当者や技術者は、インフラに安全性を確実に組み込まなければなりません。学術界や市民社会は、エビデンスを提示することができます。メディアは何が機能していて、何が機能していないのか、それはなぜかを深掘りすることができます。

民間セクターの影響力は絶大です。企業は、実証済みの原則や慣行をバリュー・チェーン全体に適用することで、安全で持続可能なモビリティに貢献できるのです。国連の安全基準を満たした自動車のみを販売すべきです。

何よりも、政府の役割が最も重要です。各国政府は、戦略的で十分に調整されたアプローチ、安全基準や安全行動を徹底する強力な政策および法的枠組み、そして十分な資金を提供しなければなりません。法執行や教育もまた鍵となります。

こうしたビジョンは、各国政府が交通事故死を減らす上での青写真となる「グローバルプラン:交通安全のための行動の10年(2021年~2030年)」の中核をなすものです。

2月18日から20日にかけてモロッコのマラケシュで開催される「道路の安全に関するグローバル閣僚会議」には、世界中の指導者たちが集い、進捗を評価し、知見を共有し、2030年までに交通事故死を半減させるための行動を推進します。

指導者たちは、新たなマラケシュ宣言を採択する予定です。この宣言は、交通安全が公衆衛生および開発上の喫緊の優先事項と捉え、私たちの取り組みが公平性、アクセス可能性、持続可能性という原則を指針としなければならないとしています。

また同宣言は、指導者たちに対し「グローバルプラン:交通安全のための行動の10年」を実行する取り組みを強化するよう求めています。私たちに必要なのは、政治的意志の大幅な改善、危機感、コストを明確にした上で実施される、エビデンスに基づいた戦略、強力な調整、そして十分な資金です。

交通安全の危機は、あまりにも長く続いています。いかなる交通事故死も、必要でも、受け入れられるものでもありません。

しかし、交通安全はそれだけにとどまりません。安全で持続可能なモビリティは、私たち全員にとってより良い未来への原動力となるのです。

* *** *

2025年2月18-20日にかけて、モロッコのマラケシュで「第4回交通安全に関するグローバル閣僚会議」が開催されました。交通安全が公衆衛生および開発上の喫緊の優先事項と捉え、2030年までに世界の交通事故死を半減させるための行動を促進することを目指しています。本寄稿は会議に先立ち、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長、および交通安全に関する国連事務総長特使を務めるジャン・トッド氏を含む16名の国連機関/部局の長と、会議のホスト国であるモロッコの担当大臣が連名で発表したものです。

寄稿の原文(English)はこちらをご覧ください。