世界情報社会サミット:
合意と約束で、より公平な情報社会への道開く
プレスリリース 05/100-J 2005年12月09日
世界情報社会サミット(WSIS)第2フェーズ(段階)が2005年11月16-18日、チュニジアの首都チュニスで開催されました。サミットには約1万9,000人が参加し、8回の本会議が開かれたほか、264の組織が308件の並行イベントを開催し、記者会見も33回行われました。
174カ国の代表団と、国連機関、民間企業、市民社会団体を含め、800を超える組織からの参加者は、サミットをめざましい成功と評しています。今回のサミットは「デジタル・デバイド」問題に取り組み、情報通信技術(ICT)の潜在能力を経済社会開発の推進に活用することを目的に、チュニスで開催されたものです。
サミット最終日の最終本会議で、世界の指導者は「チュニス・コミットメント」と「情報社会に関するチュニス・アジェンダ」という2本の最終文書を承認しました。
サミット事務局長を努めた内海善雄・国際電気通信連合(ITU)事務局長は、第8回の最終本会議で各国代表に対し、ITUミネアポリス全権委員会議でサミットのアイデアが初めて採択されてから、7年という長い道のりがあったことを指摘し、次のように述べました。「サミットのプロセスは、ここチュニジアで始まりました。その首都チュニスは、私たちの旅を一段落させるのにふさわしい場所といえます。WSISは2段階開催という、サミットとしてはユニークな形をとりました。このアプローチにより、WSISは先進国で1回、途上国で1回の会合を開くことができました。それはまた、情報社会の問題全体に取り組む一方で、デジタル・デバイドを埋めるという喫緊の課題を際だたせることにも役立ちました」
内海事務局長は、この2段階プロセスにより、国内、地域、国際レベルで実施すべき具体的計画が策定でき、表明された公約の履行が確保されることになったと付け加えました。「WSISは本当の意味で、新たな機会と新たなツールを最大限活用する場となりました。WSISは、21世紀の新たな課題に取り組むためのグローバルな対話と協力の価値をさらに高めたのです。正しい行動さえとれば、情報社会は全員が勝者となれる可能性を秘めています」
全世界的な参加
サミットには1万9,401人が参加しました。その内訳は以下のとおりです。
- 国家元首、政府首脳、皇太子および副大統領46人、ならびに、大臣・副大臣および次官197人。
- 174カ国と欧州共同体を代表する参加者5,857人。
- 92の国際機関を代表する参加者1,508人。
- 606の非政府組織(NGO)と市民社会団体を代表する参加者6,241人。
- 226の企業体を代表する参加者4,816人。
- 全世界のテレビ、ラジオ、活字メディア、オンラインメディアの特派員979人を含め、642の報道機関の認定ジャーナリスト1,222人。
重要問題に関するグローバルな合意
チュニス・サミットの準備プロセスでは、インターネット・ガバナンス、資金調達戦略、および、2003年のジュネーブでのWSIS第1フェーズで開発された行動計画のための実施メカニズムの3つが中心的議題となりました。
インターネット・ガバナンス
チュニスで成立したインターネット・ガバナンスに関する画期的な合意は、政府に能力を与えるために協力の強化が必要であることを認めていますが、これは新たに合意された数多くの原則と将来的メカニズムに基づくものとなっています。
- あらゆる政府は、インターネット・ガバナンスに平等な役割と平等な責任を果たす一方で、安定、安全、継続性の維持を確保すべきである。
- 各国は、他国の国別ドメイン名(ccTLD)に関する決定に関与すべきではない。
- 汎用トップレベルドメイン名(gTLDs)に関する公共政策について、ステークホルダー間の協力強化を図る必要がある。
この協力には、重要なインターネット資源の調整と管理に関連する公共政策について、グローバルに適用可能な原則の開発が含まれることになっています。このような協力強化に向けたプロセスは、2006年第1四半期末までにスタートする予定です。
チュニス・サミットの最終文書でもうひとつ重要な要素となっているのは、インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)の設置です。IGFは、公共政策と開発の問題に関するステークホルダー間の対話を促し、可能にすることを目的に、国連事務総長が招集するものです。このフォーラムは、現行のメカニズムで十分に取り組めていない分野横断的な公共政策問題を話し合う場となるでしょう。IGFは2006年前半に設立される予定ですが、第1回会合はギリシア政府の招請により、アテネで開催されることになっています。
IGFは情報とベストプラクティスの交換を促し、インターネットの使用と悪用から生じる日常的利用者の懸念に対応する解決策の発掘を助けるとともに、新たに生じつつある問題を洗い出して関連の政策決定機関に注意を促し、適切な場合には勧告を行うことになるでしょう。フォーラムはITUの実証済みノウハウをはじめ、関連するステークホルダー全体の資源を動員するものとなります。
IGFに監視の役割はないため、既存の取り決め、メカニズム、制度あるいは組織に代わることはありません。また、インターネットの日常的運営や技術運用にも関与しません。
チュニスで合意された原則と諸要素は、進展しつつあるインターネット・ガバナンス国際化の新たな1ページを開くものです。今後は地域的、国内的なインターネット資源管理の継続的強化により、各国の国益、および、そのインターネット資源管理にあたっての権利が保障されると同時に、グローバルな調整も維持されることでしょう。
資金調達メカニズム
WSIS最終文書は、ICTが各国の開発戦略の鍵を握るツールであるというジュネーブ合意を再確認しています。こうした理由から、ICT展開の資金調達は、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成にとってきわめて重要といえます。
最終文書は「デジタル連帯基金」の創設を歓迎しています。また、すべての市民に金銭的に利用可能な良質のアクセスを提供することの重要性を強調するとともに、現状における不平等も指摘しています。
最終文書はまた、既存の資金調達メカニズムの中で改善の余地がある個所、および、モントレー合意をはじめとする現行の財政的コミットメントに基づき、先進国も途上国パートナーもICTの優先度を高められる分野を明らかにしています。ICTインフラ整備の資金は公共投資のみに依存できないとする認識とともに、民間投資や市場原理だけでは、開発途上国のICTサービス市場への全面参加は確保できないことも認識されています。こうした理由から、条件整備と競争的環境を支援する各国の開発政策に加え、協力と連帯の強化が促されています。
前途:フォローアップと実施
チュニスはWSISプロセスの終着点ではありません。解決策を探るためのサミットの最終文書として、「情報社会に関するチュニス・アジェンダ」は、原則を行動に移すときが来たとの認識を示しています。
WSISの第1フェーズから第2フェーズまでの間に、2,500件以上のプロジェクトがデジタル・デバイドの縮小に取り組んできましたが、チュニス最終文書は、これをさらに、しかも迅速に進める必要性を明確に強調しています。ITUはすでに、WSISの現状把握プロセスを管理し、ICT整備活動のデータベース創設を目指しているところです。また、第2フェーズについては、チュニス・サミット中に発表されたプロジェクトを登録する、いわゆる「ゴールデン・ブック」の発足も発表しました。現在までに登録済みのプロジェクトは200件を超えていますが、その中には数百万ドル規模の事業も多くあります。
当初のジュネーブ行動計画に盛り込まれた11の行動方針では、情報社会構築に際する4つの主要要素が定められていました。今回のチュニス・アジェンダは、これら行動方針のそれぞれについて調整・仲介役となれる機関を具体的に掲げています。
今後数ヵ月の間に、ジュネーブとチュニスでの決議を組織的に実施するための大がかりな取り組みが行われる予定です。
この作業を調整するため、また、チュニス・アジェンダで要請されるところに従い、内海事務局長は、ITUが近いうちに行動方針調整機関の会合を開くと発表しました。この会合は国連教育科学文化機関(ユネスコ)および国連開発計画(UNDP)との共催となる予定です。この3つの機関は、インフラ、コンテンツ、開発という情報社会の3つの柱を代表する存在だからです。
行動方針の実施作業は、ITUが継続中の現状把握作業によって補完されることになります。また、共通する一連の主要指標と総合指数の使用に基づき、デジタル・デバイドの縮小を図る作業の進展状況を評価するための方法論について、最終的な合意が出来上がれば、これも追い風となるでしょう。
WSISの最終文書実施を促進するため、国連事務総長も最高執行委員会(Chief Executives Board = CEB)と協議し、情報社会に関する国連グループを設置するよう求められています。CEBは主要な国連機関の最高責任者からなり、半年に1回の会合を開く機関です。国連グループの創設、機能、目的および作業方式に関する計画は、今後数カ月間で策定されることになります。この計画は、2006年4月にマドリードで開催される次回のCEB会議に提出予定です。国連グループの創設にあたっては、ITU、ユネスコ、UNDPにいずれも主導的な役割が期待されています。
また、国連事務総長は経済社会理事会(ECOSOC)を通じ2006年6月までに、実施面での機関間調整のやり方について総会に報告することになっています。この同じ会合で、内海善雄氏もサミット事務局長として、その成果に関する報告を行う予定です。
ITUは2006年11月、トルコのアンタリヤで全権委員会議を予定しており、この場でも引き続き、情報社会の要請に対する任務の適応を図ります。
対話は継続
ICTの世界の特徴として、急速な絶え間ない技術変革があげられます。ITUがチュニス・サミットで新たに発表した報告書『The Internet of Things(あらゆる物のネット化)』で明らかにしたとおり、将来のインターネットは現在のインターネットと様相を異にするでしょう。
WSISが確立したフォローアップ・プロセスには、政策批評と政策協議を続けることで、サミットの成果をICT世界の変化に対応させるようにするための「道しるべ」が、いくつか組み込まれています。
すべての国々は国内レベルで、国家開発計画および貧困削減戦略と不可分の一体をなすものとして、国家的なe戦略を策定するよう求められています。策定の期限は2015年ですが、このような計画の実施をすでに始めている国々も多くあります。
デジタル・デバイドを埋めるうえで、安価なアクセスは欠かせない要素です。サミットからの委任を受け、ITUは引き続き、国際的インターネット接続性の問題を緊急課題として、その調査に取り組んでゆきます。
チュニス・アジェンダはECOSOCに対し、ジュネーブとチュニスの成果を国連システム全体でフォローアップするうえで、監督役を務めるよう要請しています。9月のニューヨークでのサミットで世界の指導者が要請したECOSOC改革に沿い、チュニス・サミットの最終文書はECOSOCに対し、多数のステークホルダーが参加するアプローチを含め、開発科学技術委員会(Commission on Science and Technology for Development)の権能を再検討することも求めています。
こうした取り組みの総仕上げとして、国連総会は2015年、WSISの成果の実施状況全般を審査することになっています。この期限は、インターネット未接続のコミュニティをなくすためにジュネーブ行動計画が定めた期限と一致しています。
最後に、国連総会に対しても、5月17日を「世界情報社会デー」とするよう要請が行われています。5月17日はすでに「世界電気通信デー」にも指定されているため、ITUは同時に、このイベントの重要性を高めるための共同作業も行うことになるでしょう。
第8回の最終本会議の閉会にあたり、内海事務局長は各代表に対し、WSISプロセスによってICTが各国の開発計画の中心に据えられたことに満足感を表明。「今回のサミットの結果、世界の指導者はICTがきわめて重要であることを完全に認識するようになった」と述べました。事務局長によれば、WSISは結局のところ「単なる技術に関するものではなく、何よりも人間とその潜在能力に関する」会議だったのです。
◎ チュニス・コミットメントの全文は
http://www.itu.int/wsis/docs2/tunis/off/7.htmlでご覧になれます。
◎ 情報社会に関するチュニス・アジェンダは
http://www.itu.int/wsis/docs2/tunis/off/6rev1.htmlでご覧になれます。
WSISについて
世界情報社会サミットは、すべての重要なステークホルダーにとり、共通のビジョンと理解を育て、情報社会関連の幅広い問題に取り組むうえで、またとない機会です。サミットは2段階で計画されています。第1フェーズのジュネーブ・サミットは2003年12月に開催されましたが、175カ国が原則宣言と行動計画に合意し、すそ野の広い公平な情報社会の基盤を作り上げました。2005年11月16日から18日にかけ、チュニスで開催されるWSIS第2フェーズでは、ジュネーブでの成果の足固め、行動計画の実施、さらには、すそ野の広い開発志向型情報社会の展望を図ることになっています。
WSISは各国首脳、国連機関の執行責任者、NGO、市民社会団体、業界指導者、メディアが一堂に会し、開発のための情報、知識、コミュニケーションに対するすべての人々のアクセス改善を話し合うという、真の意味で多数のステークホルダーが関与するプロセスを目指しています。
サミットは国連事務総長の主催で行われますが、その準備作業では国際電気通信連合(ITU)が主導的役割を演じます。
WSISのウェブサイトhttp://www.itu.int/wsis/tunis/newsroom/もご覧ください。