この人に聞く:エボラ出血熱に関する国連システム調整官、デビッド・ナバロ博士
2014年08月29日
エボラ出血熱に関する国連システム調整官、迷信を払しょく 感染拡大を食い止めるための西アフリカの取り組みに支援を誓う
2014年8月20日-世界保健機関(WHO)が西アフリカにおけるエボラ出血熱の未曾有の集団感染への対応を強化するなか、国連はウイルスの蔓延阻止に向けたギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネの取り組みを支援するため、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の主導のもとでシステム全体を動員する協調的イニシアティブを立ち上げた。エボラウイルスはすでに1,000人以上の人々の命を奪っており、感染者数は西アフリカ地域全体で現在100万人を超えている。
先週、事務総長は医師で公衆衛生専門家のデビッド・ナバロ博士(英国)をエボラ出血熱に関する国連システム上級調整官に任命し、国連の取り組みに大きな弾みをつけた。ナバロ博士は、マーガレット・チャンWHO事務局長とそのチームによるエボラウイルス集団感染への対応の支援にあたる。エボラウイルスは今年の3月にギニアの農村地域で最初に確認され、その後WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。
「明言させていただきたいのは、現在エボラ出血熱の集団感染が起きている国々への渡航を制限する正当な理由はないということです。現時点で重要なのは、感染者との密接な接触、具体的には感染者への直接的な接触を避けるということです」
ナバロ博士は、最初の任務として西アフリカへと赴く直前に、UN News Centreのインタビューに答えた。感染拡大阻止に向けた世界的な取り組みに対して、国連システムが確実に、効果的かつ協調的な貢献を果たすことができるよう働きかける役割を担う。インタビューの中で博士は、感染国の保健部門の強化、最前線で闘う医療従事者の保護、そしてエボラ感染に付随する恐怖と偏見の払拭といった重要な課題に触れた。西アフリカ諸国の政府は国連機関の支援を受けて、今後数週間にわたりこれらの課題に取り組むことになる。
* * * * * * * * * * * * * * * *
UN News Centre:感染者が出ている国々(主に西アフリカ諸国)の現状について少しお話しいただけますか? この地域の医療従事者を守るために、WHOではどのような措置を講じていますか?
ナバロ調整官:エボラ出血熱は、この数カ月の間に西アフリカの4カ国に広がっています。そのうちの3カ国では非常に深刻な集団感染が生じています。最初に感染が発生した国はおそらくギニアであり、同国ではこれまでいくつかの感染の波がみられました。しかし現在、私たちが特に注目しているのはリベリアとシエラレオネの2カ国で、これらの国では感染率が上昇しつつあるようです。さまざまな地域、特にリベリアとシエラレオネの各地で、毎日新たな症例が報告されています。ギニアの状況はこれらの国に比べると若干安定しています。そして今後の見通しですが、この先も感染拡大が続くものと予想され、ただちにコントロールすることはおそらく難しいと思われます。
UN News Centre:西アフリカ地域の医療従事者を守るために、WHOでは何か具体的な措置を講じていますか?
ナバロ調整官:エボラ出血熱の集団感染は、保健部門にとって特に重大な懸念事項です。保健部門とは、保健省や、保健省と協力して人々の健康維持と疾病予防に取り組むパートナー機関、ならびにこの取り組みに特に深く関与しているWHOなどの国際機関のことです。そしてWHOやその他の各種機関は、2つのことの実現を目指して活動しています。1つ目は、保健部門がエボラ出血熱への感染が疑われる人々の診断を支援できるようにすること、2つ目は、感染の疑われる人々が必要とする適切な治療を受けられるようにすることです。
すべての感染国において、主導権を握るのは国の保健当局であり、パートナー機関やWHOがこれを支援します。WHOでは、医療従事者が適切な治療を行いつつ自らの感染を予防することができるよう、特別な措置を講じています。エボラウイルスは感染力が強いため、これは困難な課題です。しかし適切な予防措置をとれば、感染は起こりません。わかっているのは、ウイルスが体液を介してヒトからヒトへと伝播するということです。つまり、例えばおう吐物や排泄物、おそらく唾液でもウイルスが伝播するということです。つまり、感染者の体液との接触を防ぐことができれば、感染することはありません。
ですから保健部門は、さまざまなパートナー機関やWHOと協力して、感染を防ぐために講じるべき正しい予防措置について勧告を行っています。こうしたことが、この病気をコントロールし、適切な治療を提供し、同時に医療従事者やその他の人々の感染を防ぐ方法を見出すうえでカギとなるのです。
「国連システムのトップレベルは、(感染国と)ともに闘い続け、これらの国とその国民が今回のエボラ出血熱の集団感染に対処できるよう力になることを、固く約束しています」
UN News Centre:ウイルスが西アフリカ地域以外の国々に広がる可能性はどの程度ですか? また、そのような事態を避けるために国連はどのような措置を講じていますか?
ナバロ調整官:エボラウイルスへの感染に関するニュースが広まるにつれ、世界各国からWHOに対して、どのような措置を取るべきかに関する指針を出すように要請がありました。WHOは緊急委員会の会合を開き、西アフリカにおけるエボラウイルスの集団感染は世界的に重要な公衆衛生上の緊急事態であるという結論に達しました。つまり、感染拡大を阻止し、感染国の患者を救い、さらには地域内の他の国々への疾病の広がりを防止するために、一連の行動を講じることを意味します。これはすなわち、感染者の発見に努め、彼らが移動して他の人を感染させることのないよう、感染者の移動に何らかの制限を加えます。さらに適切な治療と支援を提供しつつ、感染者の移動とウイルスの他者への伝播を阻止するために、感染者を隔離するということを意味します。これが、蔓延防止に向けた取り組みの基盤となります。
もちろん、感染国からの渡航をすべて禁止するという意味ではありません。また、感染国へのすべての渡航を禁止するという意味でもありません。対象となるのは、感染の可能性のある人々、またはウイルスにさらされた可能性のある人々です。私たちはこのような人々の移動を制限しようとしており、集団感染発生時に隔離の対象となるのはこれらの人々です。
UN News Centre:今回の集団感染は、西アフリカでの国連平和維持活動(PKO)やその他の重要な活動にどのような影響を及ぼしていますか? 最も感染が多発している国々に国連職員が行き来することは可能ですか?
ナバロ調整官:明言させていただきたいのは、現在エボラ出血熱の集団感染が起きている国々への渡航を制限する正当な理由はないということです。現時点で重要なのは、感染者との密接な接触、具体的には感染者との直接的な接触を避けるということです。つまり、感染者を特定し、彼らが他の人々と接触することがないようにするということです。しかしこれは、感染国への渡航を何らかの形で全面的に制限するということを意味するものではありません。
そしてもちろん、国連職員は感染国での活動を続けることができますし、実際に続けます。平和維持要員も同じです。彼らはこの地域の一部の国で極めて重要な役割を担っています。当然ながら、私たちは平和維持要員に対し、感染者への無防備で密接な接触を避けるために、必要な予防措置を講じるよう働きかけています。しかしそれは、必要以上の渡航制限を行うという意味ではありませんし、感染国間の国連職員の往来が実際に禁止または制限されているという意味でもありません。この点については、明確にしておきたいと思います。
「エボラ出血熱と闘っている人々は勇敢な人々です。彼らをサポートしている人々は勇敢な人々です。もし、彼らを疎外したり、遠ざけたりするべきだという人がいるならば、私はその人たちにこう言いたいと思います。あなたがたは非常に大きな可能性を逃そうとしている、と。彼らは真の英雄なのです」
UN News Centre:感染国の代表の方々と会われたそうですが、主にどのようなことを話しましたか?
ナバロ調整官:今日、私は感染国の代表の方々とお会いしました。彼らは、自分自身も、そして国民も感染拡大の阻止に全力を尽くす覚悟だと述べました。そして、この病気をコントロールするための取り組みに関与したいと考えています。また、特にWHOが率いる国連システムに対し、感染者や感染リスクにさらされている人々により良いケアを提供することのできる強力な医療サービスの確立に力を貸すよう求めました。
感染国の代表者は、エボラ出血熱への対応が自国民に大きな経済的・社会的影響をもたらしているということを考慮してほしいと話していました。そして、この病気について、つまりその感染のしくみについて、また感染を防ぐ方法について正確な情報を把握するために全力を尽くすよう訴えました。国連システム全体が協調し、一丸となって支援すること、また、地域外のパートナーとも緊密に連携してその協力を仰ぐことを求めました。そして、今回のエボラ出血熱の集団感染を切り抜けられるよう協力するとともに、その後の復興にも力を貸してほしいとのことでした。
また、自分たちの国がつい最近内戦を脱したばかりであること、そしてその後、非常に順調な発展を遂げてきたことを指摘しました。今回の事態は深刻な後退であり、再びもとの成長軌道に戻れるよう力を貸してほしいとのことでした。私は、感染国とともに闘い続け、これらの国とその国民が今回のエボラ出血熱の集団感染に対処できるよう力になることを、国連システムの最高幹部が固く約束していることを再確認しました。
UN News Centre:一般の人々がパニックに陥ることのないようにするにはどうしたらいいですか? 国連のメッセージを伝えるために、ソーシャルメディアは活用されていますか?
ナバロ調整官:まず、すべての医療従事者たちが伝えようとしているメッセージは、エボラ出血熱がコミュニティを襲い、蔓延することのないよう、私たち全員が協力しなければならないということです。協力とは、この病気の感染のしくみを私たち全員が理解し、感染者が適切な治療を受けられるよう私たち全員が努力し、感染者が他の人にうつすことのないよう私たち全員が力を尽くすことを意味します。そのためには社会全体の関与が必要です。社会運動によって事態をコントロールすることが必要です。白衣を着た医師や看護師だけでこれを成し遂げることはできません。
ここでカギを握るのはコミュニケーションです。社会の動員が極めて重要です。ソーシャルメディアはコミュニケーションの重要な手段です。一部の慣行、とくに感染者の世話や死期の迫った患者の介護にかかわる慣行の中に、ウイルスの伝播を促す重要な要因となっていることが、コミュニティとの話し合いから分かっています。したがって、コミュニティと協力し、感染を防ぐ方法について正確な情報を広めることによって、感染を避けることが可能です。
この点で、ソーシャルメディアは極めて重要な手段となります。この地域の医療従事者はソーシャルメディアをすでに活用しています。また、WHOやその他の国連機関、すべての平和維持活動を含め、ラジオやその他のメディア、および直接的な対人コミュニケーションによってこれをサポートしています。
UN News Centre:エボラの未承認薬についての最新情報を教えてください。新薬に対して、国連はどのような立場をとっていますか?
ナバロ調整官:最近、一部の研究所で製造されたエボラ出血熱の未承認薬が大きな関心を集めています。また、ワクチンの使用にも関心が寄せられており、その一部については試験が進められています。はじめに断っておかなくてはならないのは、これらの薬やワクチンは、市場で売り出されるために必要な、あるいは、治療や予防の手段として推奨されるために必要な、生産開始前の臨床試験をすべて完了してはいないということです。
しかしWHOは先日、複数の機関と共同で、エボラ出血熱に感染したコミュニティや患者がこれらの試験的治療法により早くアクセスできるようにするための倫理指針を出しました。道のりはまだ遠く、すべきこともたくさんあります。しかし、WHOの同僚たちは新薬へのアクセスの加速に努め、さまざまな生産業者と協力し、その実現に必要な資金の動員を進めています。ですから、この分野における今後の展開に注目しましょう。これがまさに喫緊の関心事であることは間違いありません。
UN News Centre:エボラウイルスに付随する偏見や恐怖にかんがみて、生還者の社会への再統合を促すにはどうしたらよいと考えていますか?
ナバロ調整官:エボラ出血熱と闘っている人々は勇敢な人々です。彼らをサポートしている人々は勇敢な人々です。これは実に並外れた勇気です。エボラ出血熱からの生還者は、大変な勇気を示しただけでなく、非常に大きな潜在力を持った人だと私は思います。ますます多くの生還者が、エボラウイルスに今も感染している他の人々の治療の支援に自主的に携わるようになっています。そして彼らは徐々に、エボラ出血熱の感染リスクにさらされているコミュニティの“大使”となりつつあります。
彼らは真のパートナーです。もし、彼らを疎外したり、遠ざけたりするべきだという人がいるならば、私はその人たちにこう言いたいと思います。あなたがたは非常に大きな可能性を逃そうとしている、と。彼らは真の英雄なのです。彼らこそ、私たちがともに力を合わせるべき人々なのです。なぜなら彼らは、エボラウイルスへの感染を予防し、治療施設の改善を促すコミュニティベースの活動において主力となっていく人々だからです。
このテーマに関する過去の記事:
Ebola: UN health agency reports encouraging signs in Nigeria, Guinea