IPCC 第5次評価報告書が完結:気候変動は取り返しのつかない危険な影響を及ぼすおそれがある一方で、その影響を抑える選択肢も存在
プレスリリース 14-073-J 2014年11月07日
第5次評価報告書が完結:気候変動は取り返しのつかない危険な影響を
及ぼすおそれがある一方で、その影響を抑える選択肢も存在
コペンハーゲン、11月2日 – 気候システムに対する人間の影響は目に見える形で増大しており、その様子はあらゆる大陸で観測されている。気候変動を放置すれば、人間と生態系に対する深刻で広範、かつ取り返しのつかない影響が及ぶ可能性が高まる。しかし、気候変動に適応するための選択肢は残されており、厳格な軽減活動を行えば、気候変動の影響を対応可能な範囲にとどめ、より明るく持続可能な未来をつくることもできる。
上記は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が11月2日に発表した「統合報告書」に盛り込まれた主な調査結果の一部です。統合報告書は、800人を超える科学者が作成し、過去13カ月にわたって発表された、これまでで最も包括的な気候変動評価「IPCC 第5次評価報告書」の調査結果の要点を取りまとめたものです。
ラジェンドラ・パチャウリIPCC 議長は「私たちには気候変動を抑える手段がある」と語ります。「経済開発と人間開発の継続を可能にする解決策は多くあります。私たちに必要なのは、変革の意志のみです。私たちは、気候変動の科学に関する知識と理解により、変革の意志が高まるものと信じています」
統合報告書は、気候変動の影響が世界各地で表れ、気候システムの温暖化がはっきりと進んでいることを確認しています。1950年代以来、観測された変化の多くは、過去数十年から数千年にわたって見られない規模に達しています。「私たちの評価によれば、大気と海洋の温暖化が進み、雪と氷の量は減少し、海水面は上昇し、二酸化炭素の濃度は少なくとも過去80万年で最高の水準にまで上昇しています」。こう語るのは、IPCC 第1作業部会のトーマス・シュトッカー共同議長です。
統合報告書は、これまでの評価よりもさらに明確に、温室効果ガスの排出をはじめとする人的要因が、20世紀中盤から観測されている温暖化の主因であるという事実を指摘しています。
気候変動の影響は最近の数十年間、すべての大陸と海洋で表れています。
人間の活動によって気候が混乱すればするほど、リスクも高まります。報告書は、温室効果ガスの排出が続けば、さらに温暖化が進むだけでなく、気候システムを構成する全要素の恒久的な変化が生じ、社会のあらゆるレベルと自然界に幅広く、深刻な影響が及ぶ公算が大きくなるという調査結果を示しています。
統合報告書は、対処能力が限られた後発開発途上国と脆弱なコミュニティにとって、多くのリスクが特に大きな課題となっていることを明確に論証しています。社会、経済、文化、政治、制度その他の側面で排除されている人々は、特に気候変動の影響を受けやすい立場にあります。
事実、気候変動の影響抑制は、公平、正義、公正という問題を提起するとともに、持続可能な開発と貧困根絶の達成にも必要となります。「気候変動の影響を最も受けやすい人々の多くは、過去も現在も、温室効果ガスの排出にほとんど寄与していません」。パチャウリ議長はこう語ります。「個々の主体が別々に自己の利益を追求していては、気候変動への取り組みはできません。そのためには、国際協力を含む協調的な対応が絶対に必要です」
「こうしたリスクを削減するうえで、適応は重要な役割を果たすことができます」。こう語るのは、IPCC 第2作業部会のビセンテ・バロス共同議長です。「適応は、開発の追求に統合できるという点でも重要であるほか、過去の排出や既存のインフラによって、私たちがすでに避けられなくなっているリスクに備えることにも役立ちます」
しかし、適応だけでは不十分です。気候変動のリスク抑制の中心となるのは、大幅かつ持続的な温室効果ガス排出量の削減です。また、緩和は温暖化のスピードだけでなく、その規模も縮小させることから、これによって、気候変動の具体的なレベルへの適応に使える時間も、場合によっては数十年単位で増加します。
温暖化を2℃以内に抑えるという各国政府が設定した目標を、66%以上の確率で達成するために必要な大幅な歳出量削減を、緩和によって今後数十年間で実現する道はいくつも存在します。しかし、報告書によると、追加的な緩和を2030年まで先延ばしにすれば、21世紀中の温暖化を産業革命前との比較で2℃以内に抑えるために取り組まねばならない技術的、経済的、社会的、制度的課題は大幅に増大することになります。
「技術的に見て、低炭素経済への移行は実現可能です」。IPCC 第3作業部会のユバ・ソコナ共同議長は、こう述べています。「しかし、適切な政策と制度が欠けています。行動を遅らせれば遅らせるほど、気候変動に適応し、これを緩和するための費用は高くつくことになります」。統合報告書は、緩和費用の推計には開きがあるものの、世界経済の成長に大きな影響は出ないだろうという調査結果を示しています。緩和措置を講じない場合のシナリオによると、経済成長を示す指標としての消費は、21世紀全体で年率1.6%から3%の成長を遂げることになります。意欲的な緩和措置を講じた場合、この成長率は約0.06ポイント低下すると見られています。ソコナ共同議長は「取り返しのつかない気候変動の影響という甚大なリスクに比べれば、緩和のリスクは対応可能」だと語っています。
こうした緩和費用の経済的推計は、気候変動削減による利益も、健康や暮らし、開発に関連する数限りない副次的利益も考慮していません。「気候変動対策を優先課題とすることの科学的論拠は、これまで以上に明確になっている」とパチャウリ議長は語ります。「温暖化を2℃以内に抑えるチャンスが潰えるまで、残された時間はほとんどありません。対応可能な費用で、温暖化を2℃以内に抑えられる可能性を十分に保つためには、2010年から2050年までに全世界の排出量を40~70%減少させるとともに、これを2100年までにゼロとすべきです。私たちにはそのチャンスと、選択の余地が残されているのです」
包括的評価
ラジェンドラ・パチャウリ IPCC 議長のリーダーシップにより執筆された統合報告書は、IPCC 第5次評価報告書の集大成となるものです。IPCC のメンバー195カ国の政府が2009年10月に承認した概略に基づき、過去14カ月の間に、『自然科学的根拠』(2013年9月)、『影響・適応・脆弱性』(2014年3月)、『気候変動の緩和』(2014年4月)という3つの作業部会報告書がすでに発表されています。
IPCCの報告書は、気候変動を調査する学術関係者による長年の研究を基に作成されています。3つの作業部会による報告書は、幅広い科学的、技術的、社会経済的な見解と専門知識を有する80カ国以上の830人を超える調整担当主執筆者、主執筆者、レビュー担当編集者が、1,000人を超える寄稿者の支援を受け、また、反復的な査読、見直しのプロセスで2,000人を超える査読専門家から提供された知見を取り入れながら作成しました。第5次評価報告書の著者は、3万件を超える学術論文を評価しています。統合報告書の執筆には、IPCC ビューローと作業部会著者チームから選ばれた約60人の著者と編集者が携わりました。その作業を可能にしたのは、統合報告書技術支援ユニットによる貢献と熱心な取り組みでした。
「これまでで最も包括的な気候変動の評価に対し、時間と専門的知識を自発的に提供していただいた、全世界数百人の学術専門家の方々に感謝いたします」。パチャウリ議長はこう語っています。「この報告書が世界各国の政府のニーズを満たし、新しいグローバルな気候協定に向けた交渉に学術的根拠を提供できれば幸いです」
さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。
IPCC Copenhagen Press Office, +45 45 99 00 77、Email : ipcc-media@wmo.int
Jonathan Lynn, +41 22 730 8066または Nina Peeva, +45 23 49 75 94
IPCC Press Office in Geneva, +41 22 730 8120
報告書へのリンクを含む、IPCC に関するさらに詳しい情報については、www.ipcc.ch をご覧ください。
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編集者向け注記
IPCC とは
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動関連の科学的評価を行う国際機関です。IPCC は1988年、気候変動の科学的根拠、その影響と将来的なリスク、そして適応と緩和に向けた選択肢の定期的評価を政策決定者に提供することを目的に、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立され、国連総会による承認を受けました。
IPCC は、毎年発表される数千件の学術論文を評価し、私たちが気候変動について何を知っているか、そして何を知らないかに関する情報を政策決定者に提供します。IPCC は、学術関係者の間で合意が見られる点、意見の相違が見られる点、されに調査が必要な点を明らかにしています。
IPCC は政策決定者に対し、気候変動について学術関係者が理解している内容を取りまとめて報告します。IPCC の報告書は政策の参考とはなりますが、具体的な政策を命じるものではありません。また、特定の見解や行動の推進も行いません。IPCC は政策決定者にとっての選択肢を評価しますが、何をすべきかについて政府に指示を出すことはありません。
IPCC の報告書は、気候変動を取り扱う学術関係者全体の英知と熱心な研究に基づくものですが、その作成にはすべての地域から、学術的背景を異にする専門家が参加しています。議長その他の選任役員を含め、IPCC の著者とレビュー担当者は、ボランティアとして活動しており、IPCC での活動について報酬を受け取っていません。ジュネーブの IPCC 事務局で働く常勤職員も、わずか12人にすぎません。
IPCC のメンバーである195カ国の政府は、パネルを構成しています。パネルはコンセンサスにより、科学的、技術的、社会経済的文献の包括的でバランスの取れた評価として、IPCC の報告書を承認します。パネルの手続きと予算は、その本会議で決定されます。IPCC の名称にある「政府間」という語は、この役割を反映するものです。IPCC 自体は国連の機関ではなく、WMO と UNEP という2つの国連機関によって設立された組織です。
IPCC の報告書はパネルの要請により、学術関係者の中から選ばれた著者が、起草、レビュー、見直しを繰り返す広範なプロセスを経て作成します。このレビュー・プロセスでは、科学者その他専門家の参加を受け付けています。パネルは、執筆を担当した科学者との対話を経て、これら報告書を承認します。この議論においては、科学者が科学的正確さについて最終的判断を下します。
第5次評価報告書
IPCC はおよそ6年に1度、包括的な評価報告書を作成します。その他、メンバーの要請に応じた具体的なトピックに関する特別報告や、メンバーによる温室効果ガス・インベントリ(排出量から除去量を差し引いたもの)の報告を支援する方法論報告とソフトウエアも発表しています。
統合報告書の発表により、IPCC は第5次評価報告書(AR5)を完結させました。AR5 は、これまでで最も包括的な気候変動評価となっています。80カ国以上から830人を超える科学者が、報告書を作成する著者チームに選出されました。こうして結成された著者チームは、1,000人を超える寄稿者と2,000人を超える査読専門家の作業に依拠しました。AR5では、3万件を超える学術論文の評価を行っています。
1,535ページからなるAR5第1作業部会報告書(『自然科学的根拠』)は2013年9月に完成し、発表されました。「A:グローバル、部門別の諸相」(1,132ページ)、「B:地域別の諸相」(688ページ)の2部からなる第2作業部会報告書(『影響・適応・脆弱性』)は2014年3月に完成し、発表されました。約1,500ページの第3作業部会報告書(『気候変動の緩和』)は2014年4月に完成し、発表されています。
第1作業部会の技術支援ユニットは、スイス政府の資金提供により、ベルン大学に設置されています。共同議長を務めるのは、中国の秦大河(チン・ダヘ)氏とスイスのトーマス・シュトッカー氏です。第2作業部会の技術支援ユニットは、米国政府の資金提供により、カリフォルニア州スタンフォードのカーネギー研究所に設置されています。共同議長を務めるのは、ビセンテ・バロス氏とクリス・フィールド氏です。第3作業部会の技術支援ユニットは、ドイツ政府の資金提供により、ポツダム気候影響研究所(PIK)に設置されています。共同議長を務めるのは、ドイツのオットマール・エーデンホーファー氏、キューバのラモン・ピチス=マドルーガ氏、マリのユバ・ソコナ氏です。
統合報告書
統合報告書は、評価報告書の集大成となるものです。その名称が示すとおり、統合報告書は各作業部会報告書を約100ページの簡潔な文書に取りまとめ、統合しています。
この総合的なアプローチにより、統合報告書は3つの作業部会報告書だけでなく、2011年に発表された2つの特別報告書の調査結果にも依拠できるようになっています。統合報告書は、各作業部会による調査結果の差異を際立たせ、その比較を行っていますが、こうした比較対照が、政策決定者にとって必要不可欠な情報を提供しています。
統合報告書は、ラジェンドラ・パチャウリIPCC 議長が主執筆者となっています。その他、コア執筆チームには、作業部会報告書の執筆者や、IPCC 執行委員会のメンバーも含まれています。統合報告書は、政策決定者向け要約と報告書本体からなっています。2014年10月の最近の会合で、パネルは政策決定者向け要約を1行ずつ承認し、報告書本体を1節ずつ採択することで、その根底をなす作業部会報告書との整合性を確保しました。統合報告書技術支援ユニットは、ノルウェー環境庁の資金提供により、オランダ環境評価庁(PBL)に設置されています。
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