犯罪です!人身取引 (第13回国連犯罪防止刑事司法会議)
2015年03月26日
第13回国連犯罪防止刑事司法会議 2015年4月12日~19日 ドーハ (カタール)
「生命が取り引きされ、売買され、搾取され、虐待され、破壊される無情な人権侵害である人身取引は、世界で最も恥ずべき罪悪の一つです。影響を受けていない国は一つもなく、数百万の生命が危機に瀕しています。私たちは団結して立ち向かい、問題にスポットライトを当て、人身取引業者を刑務所に送り、被害者と危機にさらされている人々を保護し支援を提供しなければなりません」 - 潘基文(パン・ギムン)国連事務総長
何十億ドルもの利益を生み出す実入りのいい商売。人間という尊い存在が商品として売られ、その多くが売春を強要されます。国連のカメラは、人権特別報告者として人身取引撲滅に力を注ぐ、たぐくいまれな女性の姿を追いました。
人身取引は何世紀にもわたって行われてきました。人身取引は世界中で数百万人の立場の弱い女性、子ども、男性を容赦なく搾取する無慈悲な犯罪です。秘密裏に行われるという性質から、現在でさえ、問題の規模を判断するのは非常に困難です。世界中ほぼすべての国々が犠牲者の出身国、通過国、到達国のいずれかとしてかかわっています。毎年数十億ドルもの巨額の不正な利益を生む、世界的な犯罪活動になっています。この世界的な犯罪は、より利益が多く、検挙されくにい場所を求めて移動し、現地の状況やビジネスチャンスに合わせて、常に変化し、進化しています。
「搾取の目的で、脅迫、暴力その他の強制力、誘拐、詐欺、欺もうなどにより、人を支配下に置き、輸送し、引き渡し、かくまい、又は引き取ることをいう」(人身取引議定書)
人身取引は、国内、地域内、または大陸間でも行われます。人身取引と無縁の国はありません。ヨーロッパが、最も幅広い地域から来る被害者の到達国になっています。アジア出身者が最も多くの国々に人身取引で送られており、アメリカ大陸が人身取引の被害者の出身国および到達国として目立ちます。最もよく見られる人身取引の流れは、同じ地域内での人身取引です。
人身取引で搾取が行われる分野は多岐にわたります。2011年に見つかった被害者のうち53パーセントは性的搾取、40パーセントは農業、園芸、建設、劣悪な環境での繊維生産、ケータリングやレストラン、娯楽サービス、家庭での強制労働などに従事していました。強制結婚、臓器の摘出、非合法の養子縁組、物乞いや子ども兵士としての子どもの搾取など、他の形態の搾取も見られます。
大多数の国々では、現在、国連の人身取引議定書に従って、具体的な違反を伴う人身取引を犯罪としています。しかし、処罰されることが少ないという深刻な問題が残り、2010年から2012年にかけて、毎年10件以上の有罪判決が報告されているのは10カ国中わずか4カ国であり、ほぼ15パーセントの国では、同時期に有罪判決が全くありません。
人身取引は、開発をどのように妨げていますか
貧困と不平等は人身取引を含む組織犯罪の増加と結びついています。国連のポスト2015年開発アジェンダの一部として、人身取引される人々の数を減らすことを目指す目標が討議されています。
持続可能な開発が人身取引によって直接影響を受けることは明らかです。贈収賄や腐敗によって、人身取引業者の組織犯罪グループは、政府と法の支配を弱体化させます。
人身取引は、経済に悪影響を与えます。税収と移住者からの送金が減るからです。社会の構造も打ち砕きます。家族の絆や地域社会が破壊され、子どもたちは教育を受ける機会を失い、HIVやエイズなど、公衆衛生の問題が増加します。
しかし、圧倒的な影響を受けるのは被害者自身です。生き残った被害者は、精神的にも、肉体的にも、一生残る傷を負うことになります。地域社会で生産的な生活に戻れないこともあります。持続可能な開発を達成するには、人身取引に取り組み、被害者が生き残れるように力を与える必要があります。
国連は、人身取引とどのように闘っていますか
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、犯罪の防止と訴追や被害者の権利の保護を行う加盟国を支援し、加盟国間の協力を推進する人身取引防止に関するグローバル・プログラム(GPAT)を運営しています。
UNODCのHuman Trafficking Case Law Database(人身取引判例法データベース)は、83カ国の1,000件を超える起訴と有罪判決の成功例に関する情報を提供しています。このデータベースによって、加盟国による人身取引犯罪の捜査と訴追の能力が向上します。
ラテンアメリカ、中東、北アフリカ、アフリカの角、湾岸諸国、南アジアおよび西アジアなどの主要な国と地域の政府と協力し、人身取引に対抗する意欲的なプログラムを展開しています。
過去2年間だけで、UNODCは捜査当局者を含む1,300人を超える実務者を育成し、技術支援活動を通じて76カ国と連携しました。人身取引業者の訴追を成功させるため、判事、検事、弁護士のための模擬裁判も行っています。
UNODCの現地事務所は、アフリカ、中東(ベナン、チャド、コートジボワール、エジプト、ガンビア、ヨルダン、コンゴ共和国、セネガル、スーダン、トーゴ、ジンバブエ)とラテンアメリカ(ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ)で研修、模擬裁判、ワークショップを実施しています。
さらに、他の国連機関、国際組織、関係団体とも連携することで、人身取引に対して協調的なアプローチをとるようにしています。
知っていますか
- 発見された被害者に占める子どもの割合は増加しており、3人に1人が子どもで、その大多数は女児です。つまり、人身取引されたすべての子どもの3人に2人は女児ということになります。
- 世界中で発見された人身取引の被害者のうち、70パーセントが女性と女児です。
- 2014年11月にUNODCが発行した「人身取引に関するグローバル・レポート」によれば、124カ国にわたって152の国籍を有する被害者が見つかっており、これは非常に大きな氷山の一角であると考えられます。
- 146の国と地域で、人身取引のあらゆる側面を犯罪とする法律が制定されているものの、部分的に法整備されている国が18カ国、人身取引を禁ずる法律が全く存在しない国が9カ国存在します。
- 一部の地域では子どもの人身取引が大きな問題になっており、アフリカと中東では判明した被害者の62パーセントが子どもです。
(統計データは2010年~2012年を扱ったもので、2014年の人身取引に関するグローバル・レポートから引用)
人身取引と闘うために何ができますか
主要なソーシャルメディアプラットフォームとUNODCのウェブサイトから、世界的なブルーハート・キャンペーン(Blue Heart Campaign)に参加できます。人身取引に対する認識を高めるための青いハートを「身に付ける」ことで、被害者との連帯感を表明し、この犯罪と闘うキャンペーンに加わることができます。
人身取引の被害者のための国連信託基金(United Nations Voluntary Trust Fund for Victims of Human Trafficking)は、毎年2,000人ほどの人身取引の被害者に人道面、法律面、財政面の支援を与えることで、その人たちが自らの人生を取り戻し、未来を再構築することができるように支えており、寄付金を受け付けています。UNODCが管理するこの信託基金は、政府、民間部門、国際組織、非政府組織だけでなく、個人からも寄付を募っています。
被害者の物語 (HEAR THEIR STORIES: Help Us Change Their Lives より )
人身取引の被害者のための国連信託基金(United Nations Voluntary Trust Fund for Victims of Human Trafficking)によって運営されているNGO(被政府機関)のプログラムから3人の人身取引被害者の物語をご紹介します
アメリカ「Coalition to Abolish Slavery and Trafficking(奴隷制・人身取引廃絶のための連合)」
リサールの物語
フィリピンで中等学校を卒業した後、リサールは大学に進学したいと思っていましたが、家族は大変貧しく、働かなければなりませんでした。ホテルで仕事を見つけましたが、数年後に一時解雇されました。家族を助けたくてたまらず、アメリカで良い仕事を紹介してくれるという職業斡旋所のことを知り、稼いだお金ですぐに返せると信じ、お金を借りて代理手数料を支払いました。
アメリカではレストランの仕事を約束されていましたが、代わりにホテルの客室の掃除をさせられたのです。長時間労働にもかかわらず、ほとんど支払いはありませんでした。辞めたいと思いましたが、上司からは逮捕され本国に送還されると脅されました。
同僚が逃げてロサンゼルスから連絡があったとき、リサールと他の同僚たちは逃げてその同僚の後を追う決心をしました。そのとき、リサールがホテルと仲介者に対して法による正義を求める手助けをしたのが「Coalition to Abolish Slavery and Trafficking (CAST)」です。現在、リサールの人身取引業者は投獄されています。
28歳になったリサールに対して、CASTはアメリカの永住権も確保しました。現在は企業経営を学んでいて、会社を立ち上げたいと考えています。「従業員を公正に、敬意を持って扱う管理者になります。」
「Coalition to Abolish Slavery and Trafficking (CAST)」は、カリフォルニア州ロサンゼルスで、人身取引の犠牲者に法律扶助、避難所、社会福祉などの包括的なサービスを提供しています。また、人身取引の対象となった人々を扱う警察当局、医療や人的サービスの提供者、弁護士に対して、それらの人々が犯罪の犠牲者として公正な扱いを受けられるよう、研修や技術支援も提供しています。
フランス「Hors la Rue」
グロリアの物語
ロマ族の家庭に9人の子どもの1人として生まれた14歳のグローリアは、ルーマニアで幼少期を過ごし、児童保護サービスに出たり入ったりしていました。12歳のとき、両親はグローリアを施設から退所させ、家族はフランスに移住しました。両親はグローリアに携帯電話を盗ませたり、パリの街で物乞いをさせたりしていました。グローリアは盗みが悪いことだと理解していましたが、拒否すると母親にたたかれていました。
パリ警察はグローリアを車で拾い、安全を確保して、緊急避難所に入れました。ロマ族の子どもたちを扱った経験のある「Hors la Rue」という組織にグローリアの支援を要請したのです。「Hors la Rue」のデイケアセンターには、グローリアが母国語でコミュニケーションを取れる、安全で快適な環境がありました。グローリアは家族を恋しいと思いましたが、両親の元には戻りたくないと確信したのです。「Hors la Rue」は、両親の悪影響から遠く離れたフランスの州でグローリアの里親を見つけました。現在、グローリアは職業訓練学校に通い、フランス語を勉強しています。素晴らしい進歩を遂げていますから、すぐに通常クラスに移ることができるでしょう。
「Hors la Rue」はパリ周辺で、人身取引の犠牲になっていたり、危険にさらされている移民の子供たちに特殊で個別的な介護や支援を提供しています。教育活動やカウンセリングで子供たちの幸福を支援し、ニーズに合わせて適切な国営のサービスを確保しています。「Hors la Rue」は、フランス当局と連携して、人身取引の対象にされている子供たちをより適切に識別しています。
アルバニア 「Different and Equal」
エリーラの物語
「良かったことは思い出せません。」アルバニアでの子ども時代について訊かれ、19歳のエリーラはこう語ります。家族はあまりにも貧しく、空腹でいることがよくありました。両親、特に母親から虐待を受けていました。
「14歳の頃、私の人生のすべてが崩壊しました」エリーラは記憶をたどります。両親の離婚の後、エリーラは母親と共により良い生活を求めてコソボに移住します。「私はウエイトレスとして働き、それ以外の時間はダンサーとして働いていました。母と母の友人は私を様々な男性に紹介し、私は彼らと性的関係を持ちました。当時、私には今のような考え方はできませんでした」とエリーラは言います。「今になってやっと、自分が搾取の被害者だったことを理解したのです。」
最終的に、エリーラはアルバニアに戻りました。ギリシャで働きたいと思っていましたが、書類が足りず、国境で拘留されてしまいます。警察に事情を話すと、人身取引の犠牲者のための国立アルバニア受け入れセンターに送られました。そこで、エリーラは「Different and Equal」について聞き、カウンセリングと仕立屋として仕事を見つけるための技能訓練を受け、今では生活も正しい方向に向かっています。エリーラはこう言います。「今は問題にもっとうまく対処できるようになりました。仕事もしていますし、とても楽しいです」
「Different and Equal」は、人身取引の犠牲者となったアルバニア人と家族に包括的で持続可能な社会復帰のための支援を行っています。一時的な宿泊施設、医療や心理療法、教育や職業訓練、家族との調停、住宅用の資金援助、雇用の確保や小規模な事業開始の支援などのサービスを提供しています。