国連事務総長、「政治的緊張の高まり」の中、G20のリーダーに気候変動や経済協力に対するコミットメント強化を呼びかけ(UN News記事・日本語訳)
2019年06月29日
アントニオ・グテーレス国連事務総長が指摘する「政治的緊張の高まり」を背景に、今年のG20サミットはきょう、世界最大の経済規模と成長率を誇る国々のリーダーを迎え、大阪で開幕しました。
「地球温暖化が進む中で、世界政治の過熱も進んでいます。それは貿易やテクノロジーをめぐる紛争、そしてペルシャ湾岸をはじめ、世界各地の情勢にも表れています」事務総長はサミットでの発言に先立つ記者会見でこのように語り、ホルムズ海峡とオマーン湾周辺での最近の石油タンカー攻撃によって、イラン・米国間の緊張が高まっていることに言及しました。
また、事務総長は「グローバル経済に関する不透明感」に関し、貿易紛争や債務累積、潜在的に不安定な金融市場、世界的な成長減速のリスクにも触れました。
国連事務総長は「国際社会が直面している最も困難な課題には、突破口を見出すことが極めて難しいものもある」との見解を示しています。
「地球を救え」
事務総長は、重要な優先課題として気候変動に取り組むことの緊急性を明らかにしました。
事務総長は「ヨーロッパでの熱波、アフリカでの干ばつ、アフリカやカリブ海でも発生している暴風雨」と、より激しく、より頻繁な自然災害の「多発」によって「人道的影響の悪化」が見られるという実態を述べたうえで、「気候変動が私たちよりも速く進んでいる」ことを改めて力説しました。
事務総長は「どのような分析を見ても、現状は実際のところ、私たちが予測しえた状況よりも悪くなっており、政治的意志も弱まっています」と語り、この現状を「取り組みが必要なパラドックス」と形容しました。
グテーレス事務総長は、気候科学に対する信念を表明するとともに、昨年10月の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書による画期的報告書が、21世紀末までの気温上昇を、産業革命以前との比較で摂氏1.5°C以下に抑えなければならないと明言していることを指摘しました。
世界が2050年までにカーボンニュートラルを達成せねばならない理由はここにありますが、そのためには、政府などの野心をさらに高めることが必要です。
事務総長は、ニューヨークで9月に開催予定の国連気候行動サミットで、世界のリーダーに対し、「炭素に価格を付け、化石燃料に対する補助金を廃止し、石炭火力発電所の建設を加速できるという考えを受け入れないこと」など、いずれも「地球を救うために絶対的に不可欠」な行動により、気候変動対策を進めるという決意を固めるよう呼びかける予定だと述べました。
2030アジェンダ
グテーレス事務総長によると、持続可能な開発のための2030アジェンダも「私たちが後れを取っている」大きな課題です。
各国はそれぞれの内部資源を動員し、ガバナンスを改善し、腐敗を削減し、法の支配を実現するため、さらに取り組みを強化する必要があります。— 国連事務総長
「持続可能な開発目標(SDGs)発足時から現在までの進捗状況を基に、2030年の状況を予測すると、私たちは2030アジェンダ承認の際に国際社会が決定した目標の達成に向け、半分程度しか進んでいないということになります。各国はそれぞれの内部資源を動員し、ガバナンスを改善し、腐敗を削減し、法の支配を実現するため、さらに取り組みを強化する必要があります」事務総長はこのように語り、資源の動員を加速する必要性を主張しました。
グテーレス事務総長は、G20諸国が温室効果ガス排出量の80%を占めることを指摘し、国際的な金融・経済協力へのコミットメントの強化を呼びかけました。
イラン、中国、米国とデジタル経済
グテーレス事務総長は、用意していた原稿を読み終わると、さまざまな問題に関する質問を受け付けました。米国・イラン間の緊張の高まりに関し、事務総長は包括的共同作業計画(JCPOA)、通称イラン核合意に対する支持を改めて表明しました。
事務総長は「私は常に、JCPOAが極めて重要な手段であると確信してきました。その確信は今後も変わりません。また、JCPOAは安定要因にもなっており、これを維持してゆくことは極めて重要となるでしょう。湾岸情勢の緊張を緩和し、世界が許容しえない対立を回避するためにも、それが欠かせないことは明らかです」と語っています。
国連として、G20リーダー間の意見の食い違いに関し、トランプ大統領にはどの程度の責任があると考えているか、という質問に対し、事務総長は、米中両国首脳間の対話の重要性を強調したうえで、この対話が「恐らく、サミットで最も重要な二国間会談になる」という見解を示しました。
デジタル経済に関し、グテーレス事務総長は、最近になって結論を提出したデジタル協力に関するハイレベル・パネルについて触れ、デジタル経済が人工知能とともに、グローバル経済に「非常に大きな影響」を及ぼすことを指摘しました。
「大量の雇用破壊と大量の雇用創出が起きることになりますが、なくなる仕事と生まれる仕事の性質は異なるものになるでしょう」事務総長はこのように述べ、各国には「第4次産業革命の悪影響を最低限に抑え、そのプラスの貢献を最適化する」ために必要な教育、社会保障、雇用創出を保証するという「強い決意」が必要だと付け加えました。
原文(English)はこちらをご覧ください。
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