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海洋と雪氷圏の未来を決めるのは、今の選択(2019年9月25日付 IPCC プレスリリース・日本語訳)

プレスリリース 19-089-J 2019年10月04日

モナコ、9月25日 – 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の特別報告書は、かつてない海洋と雪氷圏の永続的変化に取り組むタイムリーで野心的、かつ協調的な対策を優先課題とすることの緊急性を強調しています。

報告書はまた、持続可能な開発に向けた野心的で実効的な適応がもたらす利益と、その逆に、対策を遅らせることによるコストとリスクの増大も明らかにしています。

海洋と雪氷圏(地球の凍結部分)は、地球上の生物にとって欠かせない役割を果たしています。高山地域に暮らす6億7,000万人と、低平地沿岸域に暮らす6,800万人の人々は、こうしたシステムに直接、依存しています。北極圏には400万人、小島嶼開発途上国には6,500万人がそれぞれ暮らしています。

これまでの温室効果ガス排出により、地球温暖化は産業革命前との比較ですでに1°Cに達しています。これが生態系と人間に大きな影響を及ぼしていることを示すエビデンスも、圧倒的な数に上ります。海水の温度と酸性度は高まり、その生産性は低下しています。氷河や氷床の融解によって海面水位は上昇し、異常気象の深刻度も増してきました。

2019年9月24日にIPCC加盟195カ国の政府が承認した『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)』は、2015年のパリ協定で世界各国政府が自ら定めた目標に沿い、地球温暖化をできるだけ低いレベルに抑えることの利益を示す新たなエビデンスを提供しています。温室効果ガス排出量を緊急に削減すれば、海洋と雪氷圏の変化の規模を抑えることができます。また、これに依存する生態系や生計を守ることも可能です。

「外海や北極圏、南極大陸、高山地帯は、多くの人々にとってはるか彼方の存在かもしれません」李会晟(イ・フェソン)IPCC議長は、このように語っています。「しかし、私たちはこうした地域に依存しているだけでなく、気象と気候、食料と水、エネルギー、貿易、輸送、娯楽や観光、健康と福祉、さらには文化やアイデンティティーなど、多くの点でその直接的、間接的影響を受けています」

「私たちが排出量を急激に削減したとしても、人間とその生計には大きな影響が及びますが、最弱者層にとって何とか対応できる範囲に収まる可能性もあります」イ議長はこう述べています。「私たちはレジリエンス構築の能力を高めることになり、持続可能な開発にとっても、より大きな利益が生まれます」

報告書で評価された知識は、全世界の人々が現時点でさらされ、また、将来の世代が直面することになる気候関連のリスクと課題を大まかに示しています。また、もう避けられなくなった変化に適応し、関連のリスクを管理し、持続可能な未来に向けてレジリエンスを高めるための選択肢も提示しています。この評価では、個人とコミュニティーの能力や、利用できる資源によって、適応の内容が変わってくることも示されています。

今回の報告書では、36カ国の100人を超える執筆者が、約7,000点の学術論文を参考に、気候変動下での海洋と雪氷圏に関する最新の科学文献を評価しました。

IPCC特別報告書は、12月にチリで開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)をはじめ、間近に迫った気候・環境関連の交渉に重要な科学的知見を提供することになります。

「世界の海洋と雪氷圏は数十年にわたり、文字どおり気候変動の『暑さに耐えて』きましたが、これによって自然と人間には広範囲の深刻な影響が及んでいます」こう語るのは、コー・バレットIPCC副議長です。「地球上の海洋と雪氷圏が急激に変化していることで、人々は沿岸部の都市から北極圏の遠隔コミュニティーへの移動と、その暮らし方の根本的な変更を強いられています」副議長はこのように付け加えました。

「こうした変化の原因と、その結果として生じた影響を理解し、実行可能な選択肢を評価することにより、私たちは適応能力を高めることができます」副議長はこう語っています。「『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書』は、この種の決定を容易にする知識を提供しているのです」

高山域での大きな変化が、下流のコミュニティーに影響

報告書によると、山岳地域の人々は、水の利用性に関する危険と変化にさらされるようになってきました。

氷河や氷雪、永久凍土の後退は、今後も続くことになります。その結果、地滑りや雪崩、落石、洪水など、そこに暮らす人々にとっての危険が高まるものと見られています。

ヨーロッパや東アフリカ、熱帯アンデス、インドネシアなどに見られる小規模氷河は、高排出量シナリオによると、2100年までに現在の質量の80%以上を失うものと予測されます。高山域の雪氷圏後退は引き続き、レクリエーション活動や観光、文化的資産に悪影響を与えることになるでしょう。

山岳域の氷河後退は、下流での水の利用性と水質も変え、農業や水力発電など、多くの部門に影響を及ぼしています。

「水の利用性の変化は、こうした高山地域の人々だけでなく、はるかに下流のコミュニティーにも影響することになります」こう語るのは、ジャイ・パンマオIPCC第1作業部会共同議長です。

「温暖化を抑えれば、山岳地域やその近くに暮らす人々が給水量の変化に適応し、山岳災害関連のリスクを抑えることにも役立ちます」ジャイ氏はこう述べています。「統合水管理と越境協力は、こうした水資源の変化による影響に取り組む機会を提供します」

氷は解け、海面は上昇

極地と山岳地域の氷河と氷床の融解は、海面水位上昇の加速のほか、高水温の海域拡大も助長しています。

報告書を見ると、20世紀には全世界で15cm程度の海面水位上昇が起きましたが、現時点でその上昇ペースは年間3.6mmと倍増し、さらに加速していることが分かります。

海面水位はこれから数世紀間、上昇を続けることになるでしょう。温室効果ガス排出量が急激に減少し、地球温暖化が2°Cよりはるかに低く抑えられたとしても、2100年までに海面水位は30~60cm上昇しかねないほか、温室効果ガス排出量が大幅な増加を続ければ、海面水位上昇は60~110cmに達するおそれさえあります。

「グリーンランドと南極大陸での氷床からの水の流入に加え、氷河の融解水や高水温海域の拡大の影響もあり、海面水位上昇はこの数十年間で加速しています」こう語るのは、ヴァレリー・マッソン=デルモットIPCC第1作業部会共同議長です。

「今回の新たな評価では、温室効果ガス高排出量シナリオの場合、2100年までに南極の氷床融解が海面水位上昇をどれだけ助長するかに関する予測を上方修正しています」マッソン=デルモット氏はこのように述べています。「2100年以降の海面水位上昇予測に大きな開きがあるのは、特に南極大陸で氷床が温暖化にどのように反応するかに関し、大きな不透明性が残っていることと関連しています」

海面水位の極端現象が頻発

海面水位の上昇は、例えば満潮時や激しい暴風雨の際に生じる海面水位の極端現象の頻度を高めることになります。報告書の示唆によると、温暖化が1°C進むごとに、過去1世紀に1回のペースで起きていた現象は、多くの地域で今世紀半ばまでに毎年1回生じることになり、低平地沿岸域にある多くの都市や小島嶼でリスクが高まります。

報告書が示しているとおり、適応に多額の投資を行わなければ、こうした地域では洪水のリスクがますます高まることになります。報告書によると、気候関連の海洋と雪氷圏の変化により、住めなくなる島嶼国が出てくる可能性が高くなっていますが、居住可能・不可能の境界線を見定めることは極めて困難です。

熱帯低気圧による風雨の強まりは、海面水位の極端現象と沿岸域のハザードを悪化させています。特に温室効果ガス排出量が高止まりする場合、熱帯低気圧の平均的強度や高潮の規模、降水量の増大により、ハザードはさらに大きくなるでしょう。

「しばしば洪水発生への対応として、さまざまな適応手法がすでに実施されていますが、報告書はそれぞれの文脈で、将来的な海面水位上昇に十分に備える総合的対策を策定するための選択肢を明らかにしています。」マッソン=デルモット氏はこのように語っています。

変わる海洋生態系

報告書によると、海洋化学の温暖化と変化はすでに、海洋食物網全体の生物種を攪乱し、海洋生態系やこれに依存する人々にも影響が及んでいます。

海洋はこれまで、気候システムにおける余剰熱の90%以上を取り込んできました。2100年までに海洋が取り込むことになる熱は、地球温暖化が2°Cに抑えられた場合、1970年から現在までに取り込んできた熱の2倍から4倍、さらに排出量が増えた場合には、その5倍から7倍に上ることになります。海洋の温暖化により、水層は混ざりにくくなるため、海洋生物に対する酸素と養分の供給も減ってしまいます。

海洋熱波の頻度は1982年以来、2倍に増加し、その強度も増しています。その頻度、期間、程度および強度はさらに上昇するものと予測されています。2°Cの温暖化で、その頻度は産業革命以前の20倍に上ります。排出量の大幅増加が続けば、発生頻度はさらに50倍に跳ね上がります。

海洋は1980年代以来、人為的な二酸化炭素排出量の20%から30%を取り込み、これが海洋の酸性化をもたらしてきました。2100年まで炭素の取り込みが続けば、海洋酸性化はさらに悪化することになります。

海洋の温暖化と酸性化、酸素の喪失、養分供給の変化はすでに沿岸域、外洋、海底の海洋生物の分布と賦存量に影響を与えています。

魚類個体群の分布がシフトしたことで、全世界の漁獲可能量が減少しています。今後は、熱帯海洋をはじめ、いくつかの海域でさらに漁獲可能量が減少する一方で、北極圏などその他の海域では増大が見られるでしょう。海産物への依存度が高いコミュニティーは、栄養上の健康と食料の安定確保でリスクに直面するおそれがあります。

「温室効果ガス排出量を削減すれば、私たちに食料を提供し、私たちの健康を支え、私たちの文化を形作っている海洋生態系への影響を抑えることができます」こう語るのは、ハンス=オットー・ポートナーIPCC第2作業部会共同議長です。「汚染など、その他の圧力を弱めれば、海洋生物の環境変化への対応を助ける一方で、より強靭な海洋を実現できるでしょう」

「漁業管理や海洋保護区などに関する政策枠組みは、コミュニティーが変化に適応し、私たちの生計へのリスクを最小限に抑える機会を提供します」ポートナー氏はこのように述べています。

北極海氷の後退と永久凍土の融解

北極域の海氷は、1年を通じてどの月も縮小し、しかも薄くなっています。地球温暖化が産業革命以前の水準と比較して1.5°Cで落ち着いた場合、北極海では100年に1度だけ、氷が最も少なくなる9月に海氷が消えることになります。地球温暖化が2°Cまで進めば、この現象が3年に1度の割合で起きるおそれもあります。

先住民をはじめ、北極圏で暮らす人々の中には、土地や氷雪条件の季節性と安全性に移動と狩猟活動をすでに適応させている人々もいるほか、沿岸部には移転を計画中のコミュニティーもあります。報告書によると、こうした適応の成否は財源や能力、制度的支援にかかっています。

長年にわたって凍結していた永久凍土の温暖化と融解も始まっており、21世紀には広範な永久凍土の融解が予測されています。地球温暖化が2°Cよりもはるかに低く抑えられたとしても、地表に近い(深さ3~4メートル)永久凍土のおよそ25%が、2100年までに融解します。温室効果ガス排出量が大幅な増加を続ければ、地表付近の永久凍土の約70%が失われるおそれもあります。

北極圏と寒帯の永久凍土には、大気中の炭素のほぼ2倍に相当する大量の有機炭素が含まれているため、その融解が進めば、大気中の温室効果ガス濃度が大幅に上昇しかねません。北極圏の永久凍土が融解を続けていることで、すでに二酸化炭素またはメタンの正味放出が起きているかどうかは、まだ分かっていません。将来的に、植生が広がることで土壌中の炭素貯蔵量が増え、永久凍土融解による炭素放出を相殺する可能性はありますが、長期的に大きな変化は期待できません。

森林火災はほとんどのツンドラおよび北方林地域と山岳地域で、生態系に混乱をもたらしています。

緊急対策のための知識

報告書によると、温室効果ガス排出量を大幅に削減し、生態系を保護、回復し、天然資源の利用を慎重に管理すれば、将来の変化への適応を支援し、生計に対するリスクを抑え、社会に多くの追加的利益をもたらす機会を生み出す存在として、海洋と雪氷圏を保全することが可能になります。

「エネルギー、土地と生態系、都市インフラや産業を含め、社会のあらゆる側面でかつてない転換を遂げない限り、私たちが地球温暖化を2℃よりはるかに低く抑えることはできません。パリ協定履行に必要な野心的な政策や排出量削減は、海洋と雪氷圏も守り、究極的には地球上のあらゆる生命を持続させることになるでしょう」こう語るのはデブラ・ロバーツIPCC第2作業部会共同議長です。

SROCCは、入手できる最善の科学的知識を提供することにより、各国政府やコミュニティーが、避けられない変化と出現確率の高い未来に関するこうした科学的知識をそれぞれの文脈に統合し、リスクと気候変動による影響の規模を抑えるための対策を取れるようにしています。

報告書は、科学的知識を各地の土着の知識と組み合わせることで、気候変動のリスクを管理し、レジリエンスを高めることの利益を証明しています。また、IPCC報告書としては初めて、気候変動や海洋、雪氷圏に関するリテラシーを高める教育の重要性を明らかにしています。

「私たちが決定的な行動を早期に起こすほど、避けられない変化に取り組み、リスクを管理し、私たちの生活を改善し、そして今後とも、全世界の生態系と人々の持続可能性を達成できる私たちの能力は高まるのです」ロバーツ氏はこのように語っています。

さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。

IPCC Press Office
ipcc-media@wmo.int
+377 93 15 36 98

IPCC Working Group II Technical Support Unit
tsu@ipcc-wg2.awi.de
Maike Nicolai
maike.nicolai@ipcc-wg2.awi.de

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編集者向け注記

変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)

『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)』は、IPCCの第6次評価サイクルで作成を予定する一連の特別報告書の第3弾に当たります。本報告書は、IPCC第1作業部会と第2作業部会による共同の学術的リーダーシップのもと、第2作業部会技術支援ユニットによる支援を受けて作成されました。

「雪氷圏(cryosphere)」は、寒気または氷を意味するギリシャ語kryosを語源とする言葉で、雪、氷河、氷床と氷棚、氷山と海氷、湖沼と河川の氷のほか、永久凍土と季節凍土を含め、地球システムを構成する凍結要素を指しています。

政策決定者向け要約では、気候変動下の海洋と雪氷圏について入手可能な科学的、技術的、社会経済的文献の評価に基づき、特別報告書の主な調査結果を提示しています。

『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書』政策決定者向け要約と、追加的情報は、https://www.ipcc.ch/sroccでご覧になれます。

数字で見るSROCC

報告書は36カ国の執筆者査読者104人によって作成されました。36カ国のうち、19カ国は開発途上国または移行経済国です。

女性は31人、男性は73人でした。

報告書全体(最終案)の参考文献は6,981点に上ります。

報告書案には、80カ国とEUから3万1,176件のコメントが寄せられました。

IPCCについて

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に関連する科学的評価を担当する国連機関です。気候変動、その影響と将来的なリスクの可能性に関する科学的評価を政策決定者に定期的に提供するとともに、適応と緩和の戦略を提案することを目的に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が1988年に設置しました。IPCCには195カ国が加盟しています。国連総会は同年、WMOとUNEPによるIPCCの共同設立に支持を表明しました。

IPCCによる評価報告書は、あらゆるレベルの政府に対し、気候変動政策を策定するために利用できる科学的情報を提供します。IPCCの評価は、気候変動に取り組むための国際交渉で重要な参考資料となります。IPCCの報告書は数段階に分けて起草、審査されることで、客観性と透明性が保証されています。

IPCCは、毎年発表される数千点の科学的論文を評価し、政策決定者に気候変動に関する知識の現状を伝えます。IPCCは、科学界で合意が見られる点、意見の相違が見られる点、そしてさらに研究が必要な点を明らかにします。独自の研究は行いません。

IPCCはその報告書を作成するため、数百人の科学者を動員しています。これらの科学者や担当者は、多種多様な背景から選ばれます。IPCC事務局の常駐スタッフはわずか12人です。

IPCCには3つの作業部会があります。第1作業部会は気候変動の自然科学的根拠を、第2作業部会は影響、適応および脆弱性を、そして第3作業部会は気候変動の緩和をそれぞれ取り扱います。また、排出量と除去量測定の方法論を開発する国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースも設けられています。

IPCC評価報告書は、3つの作業部会それぞれによる報告と統合報告書から成っています。特別報告書は、複数の作業部会にまたがる学際的課題の評価に取り組むものです。

  
第6次評価サイクルについて

IPCCは2015年2月の第41会期において、第6次評価報告書(AR6)の作成を決定しました。2015年10月の第42会期では、この報告書と、第6次評価サイクルで作成すべき特別報告書に関する作業を監督する新たなビューローを選出しました。

2018年10月、特別報告書『1.5°Cの地球温暖化』が発表されました。2019年5月には方法論報告書『2006年国別温室効果ガス・インベントリーに関するIPCCガイドライン2019年精緻化版』が発表されました。2019年8月には特別報告書『気候変動と土地』も発表されています。

3つの作業部会からのAR6に対する貢献は、2021年に取りまとめられ、2022年前半にはAR6統合報告書が完成する予定です。

さらに詳しい情報については、www.ipcc.chをご覧ください。

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原文(English)はこちらをご覧ください。