2020年の経済成長見通しは、貿易紛争と不透明性の緩和次第 との調査結果を国連が発表(2020年1月16日付 プレスリリース・日本語訳)
プレスリリース 20-002-J 2020年01月17日
5カ国のうち1カ国で、1人当たり所得が停滞または減少の見込み
ニューヨーク、2020年1月16日 – 長引く貿易紛争の影響を受け、グローバル経済の成長率は2019年に2.3%と、この10年で最低の水準に落ち込みました。しかし、きょう発表された国連の「世界経済状況・予測(World Economic Situation Prospect, WESP)2020」によると、リスクを抑え込むことができれば、2020年の世界の経済活動はわずかに持ち直す可能性もあります。
報告書は、2020年に2.5%の成長が可能だとしていますが、貿易摩擦が激化したり、金融が混乱したり、地政学的な緊張が高まったりすれば、回復が頓挫するおそれもあります。下振れシナリオによると、世界経済の成長は今年、1.8%にまで落ち込むことになります。グローバル経済活動の低迷が長引けば、貧困を根絶し、すべての人にディーセント・ジョブ(働きがいのある人間らしい仕事)を確保するという目標を含め、持続可能な開発が著しく後退することにもなりかねません。同時に、格差の広がりと気候危機の深刻化は、世界各地において不満を高めています。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は次のように警告しています。「こうしたリスクは、開発見通しを深刻かつ長期的に損なうおそれがあります。また、グローバルな協力が欠かせない時代に、内向きの政策の台頭をさらに助長することにもなりかねません」
米国では最近、連邦準備制度理事会が金利を引き下げたことで、経済活動が幾分か促進される可能性があります。しかし、政策的な不透明性が消えず、企業マインドが冷え込み、財政刺激策も手詰まりとなる中で、米国のGDP成長率は2019年の2.2%から2020年には1.7%へと減速する見込みです。欧州連合(EU)では、グローバル経済の不透明性によって、製造業の低調が続くものの、民間消費の堅調な伸びがこれを部分的に相殺し、GDP成長率は2019年の1.4%から2020年には1.6%へと、若干持ち直すものと見られています。
強い逆風が吹いているものの、東アジアは引き続き世界で最速の成長を遂げ、グローバル経済成長の最大の牽引役となっている、と報告書は述べています。中国では、金融・財政政策の緩和に支えられながらも、GDP成長率は2019年の6.1%から2020年には6.0%、さらに2021年には5.9%へと、徐々に低下する見込みです。ブラジルやインド、メキシコ、ロシア連邦、トルコを含むその他の主要新興国については、2020年の成長にある程度の弾みがつくものと予測されます。
多くの人々にとって、生活水準の向上はストップ
アフリカでは過去10年にわたり、1人当たりGDPがほぼ停滞しているほか、全世界で多くの国が、2014年から2016年にかけての一次産品価格下落による生産量の減少と貧困削減への取り組みでの後退から、まだ立ち直っていません。一次産品に依存する開発途上国の3分の1にあたる、8億7,000万人の人口を抱える国々では、平均実質所得が2014年の水準を下回っています。その中にはアンゴラ、アルゼンチン、ブラジル、ナイジェリア、サウジアラビア、南アフリカなど、大きな国もいくつか含まれています。
同時に、サハラ以南アフリカの数カ国とラテンアメリカ、西アジアの一部では、極度の貧困状態で暮らす人々の数が増えています。貧困削減を持続的に進めていくためには、生産性の向上を大幅に推進するとともに、大きな格差に断固として取り組むことが必要となります。国連の推計によると、アフリカの大部分で貧困の根絶を図るためには、1人当たり年成長率を過去10年間の0.5%強から8%以上へと、大幅に引き上げる必要があります。
GDP成長率からは、持続可能性と福祉に欠かせない側面が欠落
GDP成長率以外の福祉に関する指標は、世界のいくつかの地域について、さらに暗い現状を描き出しています。気候危機や縮まらない大きな格差、食料不安と栄養不良の増大は依然として、多くの社会で生活の質に影響しています。
「政策立案者は、単にGDP成長率を高めることだけに関心を集中させるのではなく、社会のあらゆる部分で福祉の向上を目指すべきです。そのためには、持続可能な開発プロジェクトへの投資を優先し、教育や再生可能エネルギー、強靭なインフラを整備することが必要です」国連でチーフ・エコノミストを務めるエリオット・ハリス経済開発担当事務次長補は、このように強調しています。
エネルギーの構成を変えれば、経済成長と炭素排出量削減の両立は可能
気候変動に対処するためには、増大の一途をたどる世界のエネルギー需要を再生可能または低炭素エネルギーで充足しなければなりません。そのためには、現時点で全世界の温室効果ガス排出量の約4分の3を占めるエネルギー部門の大がかりな構造調整が必要です。開発途上国の1人当たり排出量が先進国の水準に及ぶようなことになれば、全世界の炭素排出量は、2050年までに正味ゼロ・エミッションを達成するというグローバル目標を250%以上も超過してしまうでしょう。
エネルギー転換の緊急性が過小評価され続けているため、石油・ガス探査や石炭火力発電への投資拡大など、近視眼的な決定が下されています。これによって、多くの投資家や政府が突然の損失の危険にさらされているだけでなく、環境関連のターゲット達成が本格的に危ぶまれています。エネルギー転換に向けた決定的な対策に遅れが出れば、最終的なコストは倍増しかねません。よりクリーンなエネルギー構成への転換は環境面、健康面で利益となるばかりでなく、多くの国に経済的な機会ももたらすことでしょう。
さらにバランスの取れた政策の組み合わせが必要
金融政策への過度の依存は、成長の回復に不十分なだけでなく、財政安定リスクの悪化をはじめ、大きなコストを伴います。経済成長を刺激しながら、社会的包摂やジェンダーの平等、環境的に持続可能な生産も促進するような、さらにバランスの取れた政策の組み合わせが必要です。
「包摂的な成長の欠如に対する不満が高まる中で、全世界で変革を求める声が広がっています。政策措置が分配面、環境面で及ぼす影響に、もっと配慮する必要があります」ハリス事務次長補はこのように結論づけています。
さらに詳しい情報については、www.bit.ly/wespreport をご覧ください。
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