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史上最大の不平等の広がりで、何百万もの人々の生活改善に支障(プレスリリース・日本語訳)

プレスリリース 20-003-J 2020年01月22日

格差拡大は経済成長を損ない、政情不安を激化させるおそれ

ニューヨーク、1月21日 — 本日発表された新たな国連報告書「世界社会情勢報告2020(World Social Report 2020)」によると、先進国、途上国双方で不平等が広がっていることで、分断がさらに進み、経済・社会開発が鈍化するおそれがあります。

現在、世界人口の3分の2以上は、不平等が拡大している国で暮らしており、ブラジル、アルゼンチン、メキシコなど、この数十年間で格差が縮まってきていた国々の一部でも、不平等が再び広がり始めています。

不平等の影響は、個人レベルでも国レベルでも実感されています。国連経済社会局(UNDESA)が作成した今回の報告書によると、格差の大きい社会は貧困削減の効果が上がらず、成長は遅く、人々が貧困の悪循環を逃れることは難しく、経済と社会の前進に向けた扉を閉ざすことになります。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、報告書の前書きで次のように述べています。「『世界社会情勢報告書2020:激動の世界における不平等(World Social Report 2020: Inequality in a rapidly changing world)』は、私たちが極めて不平等な世界という厳しい現実に直面している時期に発表されました。先進国と途上国でともに、経済的苦悩や不平等の拡大、雇用不安が相まって、大規模な抗議行動に火がついています。所得格差と機会の欠如は世代を問わず、不平等、苛立ち、不満という悪循環を作り出しています」

報告書は、技術革新や気候変動、都市化、国際移住が格差拡大に影響していることを示す証拠を示しています。事務総長は次のように付け加えています。「世界社会情勢報告2020は、こうした複雑な課題があり続けるということは変えられないという、明快なメッセージを発しています。技術的変化や移住、都市化、さらには気候危機でさえ、より公平で持続可能な世界のために活用できる可能性がある一方、このまま私たちの分裂を広げてしまうおそれもあります」

各国が2015年に全会一致で採択した持続可能な開発目標(SDGs)には、格差縮小をねらいとする具体的なゴールが含まれています。SDGsは「誰一人取り残さない」という原則も掲げています。報告書は、最近の数十年間に見られた驚くべき経済成長が「国内の、および国家間の深い分裂」を埋められていないことを認めています。

こうした国際的、国内的な格差が人々を移住へと駆り立てることは避けられないであろう、と報告書は述べています。そして、移住をうまく管理すれば、移民自身の利益となるだけでなく、貧困や不平等の削減にも役立つと指摘しています。

農村部からの移住が増えている結果、世界人口の過半数は都市部で暮らすようになりました。都市はイノベーションを推進し、豊かさを増大できる一方で、多くの都市住民は極度の不平等に苦しんでいます。都市化がさらに進んでいく世界において、今後の不平等の成り行きは、都市で何が起きるかに大きく依存しており、都市部で格差が縮まらなければ、都市がもたらす恩恵は持続できないおそれもあります。

政府への信頼を損なう不平等

報告書によると、不平等によって政治的影響力はすでに豊かな人々に集中しており、これが機会の格差を持続、さらには拡大させる傾向にあります。「より幸運な人々の政治的影響力が大きくなっていることで、政府が多数者のニーズに取り組める能力に対する信頼が損なわれています」

2008年の金融・経済ショックから完全に立ち直った国でさえ、民衆の不満は高まったままです。

不平等の拡大は最も豊かな人々に利益をもたらしています。先進国、途上国双方で所得税の最高税率が下がり、税制の累進性が低くなっているからです。先進国では、最高所得税率が1981年の66%から、2018年には43%へと低下しています。

そして開発途上国では、最貧世帯と最も脆弱な立場にある民族グループの子どもたちの中等教育就学率が、より豊かな家庭の子どもたちほど伸びていません。富裕世帯はますます、さらに質の高い学校へ子どもたちを通わせるようになっています。健康や教育面の格差と不利益は、世代間で引き継がれています。

不平等を悪化させる気候変動

温室効果ガスの排出量は増え、地球の気温は上昇していますが、気候変動の影響は全世界で一様に感じられているわけではなく、中でも熱帯地域の国々は最も大きな打撃を受けています。報告書によると、気候変動によって世界の最貧国はより貧しくなっており、この問題を放置すれば、今後10年で何百万もの人々が貧困に陥りかねません。気候変動は次世代の状況も悪化させており、特に影響の大きい国々では、これによって雇用機会が減るおそれが大きくなっています。

報告書は、気候変動と同様に、その影響に取り組むための政策も、不平等を拡大させかねないと警告しています。各国が気候変動対策を講じる際には、低所得世帯を保護することが重要となります。

テクノロジーが生み出す勝者と敗者

この数十年間、急速かつ革命的なテクノロジーの躍進は、高度熟練労働者や、自らのスキルを向上できる労働者にとって朗報となってきました。しかし、定型的・集約的な業務に携わる低度・中度熟練労働者には、悪影響も及んでいます。少数の支配的な企業がテクノロジーを独り占めする中で、ますます多くの仕事が減らされたり、なくなったりしているからです。

デジタル・イノベーションや人工知能(AI)などの新技術は、雇用や参画の新たな機会を多く作り出します。一方、報告書によると、新技術が持続可能な開発を促進できる潜在能力を発揮するためには、誰もがこれら新技術を利用できることが必要ですが、現実にはそうなっておらず、新たな「デジタル格差」が生まれています。インターネットにアクセスできる人々の割合は、先進国で約87%に達しているのに対し、開発途上国は19%にすぎません。

技術の進歩は、こうしたテクノロジーに早くからアクセスできる人々に優位を与えることによって、不平等を悪化させかねないばかりか、最富裕層の子どもたちを不釣り合いに支援することによって、教育面での格差を拡大させるおそれもあります。

解決策

報告書は肯定的な例を用いながら、機会へのアクセスを促進し、マクロ経済政策で不平等の縮小に焦点を絞ることを可能にするとともに、偏見や差別に対処できる具体的な政策提言を示しています。

国連が創設75周年を迎えようとする中で発表された今回の報告書は、私たちが望む未来を構築するうえでカギを握る条件として、不平等の縮小に関するグローバルな対話の枠組みとなる分析と政策提言を提供しています。

世界社会情勢報告2020は、http://bit.ly/un-worldsocialreport2020 をご覧ください。

メディアのお問い合わせ先:
UN Department of Global Communications
Dan Shepard, Tel. 1 (212)-963-9495 |E-mail: shepard@un.org

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原文(English)はこちらをご覧ください。

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