国連事務総長、COVID-19が及ぼしかねない壊滅的な社会経済的影響に取り組むための計画を発表(プレスリリース・日本語訳)
プレスリリース 20-020-J 2020年04月07日
低・中所得国を支援するグローバル・ファンドを設立
ニューヨーク、2020年3月31日 — 新型コロナウイルス(COVID-19)は、社会の中核を攻撃し、人々の命や暮らしを奪っています。グローバル経済と各国の経済に及ぶと見られる長期的な影響はいずれも厳しいものになっています。
国連事務総長は新たな報告書『Shared responsibility, global solidarity: Responding to the socio-economic impacts of COVID-19(共有の責任とグローバルな連帯:COVID-19の社会経済的影響への対応)』を発表し、この影響に協力して取り組み、人々が受ける打撃を緩和するよう、あらゆる方面に呼びかけています。
報告書は、これまでに204の国と地域で69万7,244人が感染し、3万3,257人の死者を出しているCOVID-19の蔓延の速さと規模、症例の深刻度、それによる社会と経済の混乱を明らかにしています[1]。
「COVID-19は国連の創設以来、私たちがともに直面する最大の試練となりました」アントニオ・グテーレス国連事務総長は、このように語っています。「この人類の危機を乗り切るためには、世界をリードする経済大国による協調的、決定的、包摂的かつ革新的な政治行動と、最も貧しく脆弱な立場に置かれた人々と国々に対する最大限の金融・技術支援が必要です」
この報告に先立ち、国際通貨基金(IMF)は、世界が2009年と同じか、それより深刻な不況に突入したと発表しました。報告書は、少なくとも全世界のGDPの10%に相当する大規模で協調的かつ包括的な多国間対応を求めています。
国連システムと、平和や人権、持続可能な開発、人道支援の実現に努めるその地域事務所、小地域事務所および国別事務所のグローバル・ネットワークは、あらゆる政府やパートナーによる対応と復興を支援していきます。
この目的で、事務総長は低・中所得国での取り組みの支援に特化したCOVID-19対応・復興基金を設置しました。このアプローチは、多くの機関と部門の間で調整の取れた対策により、各国の国内や地方での優先的対策を支援し、COVID-19危機による社会経済的影響に取り組むことで、国連の改革を実証するものでもあります。今回の危機と、その後の復興で政府に対する迅速な支援と施策の実効性については、各国での常駐調整官と国連国別チームのリーダーシップを頼りにしています。
編集者の方々へ
共有の責任とグローバルな連帯に関するロードマップは、以下を求めています。
- ウイルスの感染を抑え、パンデミックを管理下に置く
- 人々の生命と暮らしを守る
- 今回の人類の危機から学び、以前の状態を上回る復興を遂げる
ウイルスの感染を抑え、パンデミックを管理下に置く
報告書は、世界が今すぐ、過去に例を見ないほど充実した協調的な医療対策を講じなければならないと警告しています。世界保健機関(WHO)が主導する、感染を抑え、パンデミックを止めるための多国間的な努力に、最大限の支援を提供しなければなりません。
同時に、ワクチンや効果的な治療法を探るための科学的な協力も、大いに必要とされています。この取り組みには、ワクチンや治療への普遍的なアクセスの保証が伴わなければなりません。
報告書では終始、COVID-19の影響を受けたコミュニティーを巻き込むこと、人権の尊重、さらには包摂、ジェンダーの平等、すべての人の尊厳を求める人間中心のアプローチが促されています。
人々の生命と暮らしを守る
ウイルスの蔓延は、そもそも社会に存在していた格差を明るみに出し、さらに広げることになるとの認識に基づき、ロードマップは、人々の生命や暮らし、経済に対する波及効果を和らげることが欠かせないとしています。
報告書は、労働者や家計を支援するための直接的な資金の供与、医療保険や失業保険の提供、社会保障の拡大、企業への支援による破綻と失業の防止など、各国が取れる対策の実例を明らかにしています。
報告書は、女性と女児の顔が見える対策を講じなければならないこと、深刻な影響を受ける若者の機会を守る必要があることも強く意識しています。
今回の危機から学び、以前の状態を上回る復興を遂げる
世界は復興に際し、ある選択に直面することになります。今までの世界にそのまま戻るのか、それとも、今回、そして将来の危機に対して誰もが脆くなるような状況を作り出している諸問題に正面から取り組むのか、という選択です。
医療制度を強化し、極度の貧困状態で暮らす人々を減らすことから、ジェンダー平等の達成と、健全な地球の実現に向けた気候変動対策の実施に至るまで、報告書は、今回の人類の危機から得られた教訓によって、より公正で強靭な社会を構築し、2030アジェンダと17の持続可能な開発目標(SDGs)を実現することができるという希望を与えています。
前進のためのパートナーシップ
どの国も主体も、独力でパンデミックに勝つことはできません。対応と復興を成功させるためには、国際的な協力とあらゆるレベルでパートナーシップが必要です。政府はコミュニティーと足並みを揃えて対策を講じ、民間セクターは危機からの脱出路の模索に加わらねばなりません。連帯に基づくパートナーシップこそが、前進の基盤になります。
市民社会や女性・草の根団体、地域密着型の組織、信仰に基づく社会奉仕団体は、極めて重要な役割を演じます。こうしたネットワークは最も脆弱な立場に置かれた人々の支援として、積極的に経済的な機会や生計を立てる機会を作り出し、コミュニティーの実情に対策を適応させています。これらの団体は世界各地で、個人や家族がCOVID-19の影響に対処し、その後の復興を図る中で最初の、または唯一の相談相手となっています。
行動の呼びかけ
COVID-19のパンデミックは、現代社会の行方を決定づける時です。歴史は対策の効果を、特定の政府主体が個別に取った行動ではなく、人類全体の利益となるよう、あらゆる部門を横断し、どれだけ協調的な対応がなされたかによって判断することになるでしょう。
国連と、確立済みの調整メカニズムに支えられながら、平和と人権、持続可能な開発、人道支援の実現に努めるその地域事務所、小地域事務所および国別事務所のグローバル・ネットワークは、何よりも人命を救い、暮らしを回復し、グローバル経済と私たちが奉仕する人々が、この危機からさらに強くなって立ち直れるようにするため、パートナーと協力していきます。
129人の国連常駐調整官と国連国別チームは各国で、社会全体的アプローチを促し、包括的な政策面、施策面の支援を提供します。適切な対策を講じれば、COVID-19パンデミックは、グローバルな社会的協力の新時代の幕開けを告げるものとなるかもしれません。
COVID-19の影響への対策として推奨される措置:
1 危機の規模に見合ったグローバルな措置
- 全世界の国内総生産(GDP)の1割を超える規模で、人間を中心に据えた、革新的で協調的な緊急経済対策の実施を提唱、支援する
- 保護主義的措置の導入の誘惑に抵抗する
- 開発途上国の経済を後押しするため、明確な措置を講じる
2 地域的な結集
協調性のある地域的アプローチは、影響の集団的な検討、金融・財政・社会措置の調整、ベストプラクティスと得られた教訓の共有を可能にします。
- 他国に危害を与えない通商政策を採用し、接続性を保ち、地域的な金融と財政の協調を確保する
- 民間金融部門と連携し、企業を支援する
- 越境リスクに対処するために、構造的な課題に取り組むとともに規範的枠組みを強化する
3 誰一人取り残さないためには、国内的な連帯が不可欠
今回のパンデミックは、すでに弱体化し、脆くなった世界経済を襲っています。2019年の世界経済成長率はすでに、2008年から2009年にかけてのグローバル金融危機以来、最低の水準に落ち込んでいました。国際労働機関(ILO)の推計によると、全世界で500万人から2,500万人が職を失うおそれもあります。
- 最も脆弱な立場に置かれている層向けに財政刺激策と支援策を導入する
- 人権を守り、包摂を重視する
- 中小・中堅企業を支援する
- ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を支援する
- 教育を支援する
- 社会的一体性を保つ措置を優先する
2020年3月現在のCOVID-19による社会的・経済的影響予測(2020年)
500万人から2,500万人が失業(ILO)
8,600億米ドルから3兆4,000億米ドルの労働所得喪失(ILO)
世界の外国直接投資のフローに30~40%の下方圧力(国連貿易開発会議:UNCTAD)
国際線発着数が20~30%減少(国連世界観光機関:UNWTO)
36億人がオフラインに(国際電気通信連合:ITU)
15億人の学生が就学不能に(国連教育科学文化機関:UNESCO)
[1] 世界保健機関による2020年3月31日現在の数字。