国連の報告書、COVID-19が貧困、医療、教育に関する数十年の前進を後戻りさせていることを明らかに
プレスリリース 20-047-J 2020年07月10日
最も脆弱な立場に置かれた人々がパンデミックで甚大な影響を受け、さらに取り残される
ニューヨーク、7月7日—2030年までに17の持続可能な開発目標(SDGs)を達成し世界各地の人々の生活を改善するための15年にわたるグローバルな取り組みは、2019年末時点で、すでに目標達成の軌道からはずれていました。そして、国連経済社会局(DESA)が本日発表した新たな報告書によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)はほんのわずかな期間のうちに、未曽有の危機を生むとともに、SDGsの達成に向けた前進にさらに混乱をもたらし、世界の最も貧しい人々と最も脆弱な立場に置かれた人々に最も深刻な影響を及ぼしています。
『持続可能な開発目標(SDGs)報告2020』によると、世界はこれまで、その進捗が一様ではなく、SDGsの達成には十分でなかったにせよ、妊産婦および子どもの健康促進、電力へのアクセス拡大、女性の政府への参画増大などの分野で、前進を遂げていました。しかし、こうした前進でさえ、食料不安の拡大や自然環境の悪化、幅広く根強い不平等など、その他の面で相殺されていました。
現在、COVID-19のパンデミックは瞬く間に、私たちが生きている間で最悪の人的・経済的危機に発展して、あらゆる国に広がり、全世界での死者数は50万人、報告された感染者数は1,000万人をそれぞれ超える事態となっています。
「昨年9月に開かれたSDGサミットで加盟国も認識したとおり、グローバルな取り組みはこれまで、私たちが必要とする変革の実現に十分な水準に達しておらず、現在と将来の世代に対するアジェンダの約束の実現が危険にさらされていました」アントニオ・グテーレス国連事務総長は、このように語っています。「そして今、COVID-19による未曽有の保健・経済・社会危機によって、人々の生活と暮らしは脅威にさらされ、SDGsの達成をさらに困難なものにしています」
事務総長は、COVID-19が誰にでも同じ影響を与えているわけではないことを強調しています。「新型コロナウイルスはいかなる人にも、いかなるコミュニティーにも影響を与えているものの、その影響は平等ではありません。むしろ、すでにあった不平等や不正義を明るみに出し、さらに悪化させています」
SDGsの17の目標全体に関する進捗状況を取りまとめる今年の報告書は、最新のデータと推計に基づき、COVID-19のパンデミックにより最も大きな打撃を受けているのが、子どもや高齢者、障害者、移民、難民をはじめとする最も貧しい人々や最も脆弱な立場に置かれた人々であることを示しています。女性もまた、パンデミックの極めて大きなしわ寄せを受けています。
主な調査結果は次の通りです
- 2020年には、およそ7,100万人が極度の貧困に陥るものとみられています。世界で貧困が増加するのは、1998年以来初めてのことです。所得の喪失や限られた社会的保護、物価の高騰が相まって、これまで安定した生活を営んでいた人々さえも、貧困や飢餓に陥るおそれがあります。
- この危機による不完全雇用や失業により、インフォーマル経済ですでに脆弱な立場にある労働者およそ16億人(全世界の労働人口の半数)は、危機当初の1カ月で所得が60%も落ち込んだとみられ、深刻な影響を受けていると考えられます。
- 全世界で10億人を超えるスラム居住者は、適切な住居がなく、自宅に水道もなく、トイレを共有し、廃棄物管理システムをほとんど、またはまったく利用できず、公共交通手段は過密で、正規の医療施設へのアクセスも限られています。したがって、COVID-19によって大きな影響を受けるリスクが極めて高くなっています。
- パンデミックによって最も大きなしわ寄せを受ける人々には、女性と子どもも含まれています。医療や予防接種サービスが混乱し、食事・栄養サービスへのアクセスも限られていることで、2020年には、5歳未満の幼児の死者が十万人単位で、また妊産婦の死者が数万人単位で、それぞれ増えるおそれがあります。女性や子どもに対する家庭内暴力の急増が報告されている国も多くあります。
- 学校閉鎖によって、全世界の学生の90%(15億7,000万人)が通学できなくなったほか、頼りにしていた給食を食べられなくなった子どもも3億7,000万人を超えています。自宅でコンピューターやインターネットを利用できないために、遠隔学習が不可能な子どもも多くいます。2020年3月から4月にかけて、およそ70か国では子どもの予防接種に深刻な混乱が生じたり、全面的な中断を余儀なくされたりしています。
- 極度の貧困に陥る家庭が増える中で、貧しく不利な立場にあるコミュニティーの子どもたちにとっては、児童労働や児童婚、人身取引のリスクも大幅に高まっています。事実、全世界の児童労働削減で見られた前進は、20年ぶりに後戻りしてしまう可能性が高くなっています。
報告書によると、気候変動も依然として、予想を上回る速さで進んでいます。2010年から2019年は、これまでで最も暖かい10年間となりましたが、その締めくくりの2019年も観測史上2番目に暖かい年となりました。その間にも、海洋の酸性化は加速し、土地の劣化は続き、夥しい数の生物種が絶滅の危機に瀕し、持続不可能な消費と生産の様式は広がり続けています。
今回の年次報告書は、全世界の統計専門家による共同の取り組みとして、「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」の初日に発表されます。各国政府や社会の異なる分野のリーダーがこのフォーラムに集い、SDGsの全面的達成に向けた戦略と取り組みの道筋を示すことになっています。報告書は、政策立案・決定者が持続可能な復興に向けた取り組みを先導するために必須のデータを提供するものです。
「SDGsの基盤となった諸原則は、COVID-19からの『より良い復興』のカギを握ります」劉振民(リュー・ジェンミン)国連経済社会問題担当事務次長はこう語っています。「これら普遍的な目標を追求し続けることで、各国政府は成長だけでなく、包摂性や公平性、持続可能性にも引き続き注力できるようになります。パンデミックに対する私たちの一致団結した対応は、すでにその影響がはっきりと表れてきたグローバルな気候変動という、さらに大きな危機を防ぐための準備に向けた『準備運動』になるかもしれません」
報告書の全文は、https://unstats.un.org/sdgsでダウンロードできます。
持続可能な開発目標(SDGs)報告について
この年次報告書では、目標達成に向けたこれまでの世界の取り組みの概要を紹介し、前進が見られた分野と、さらに対策が必要な分野を明らかにしています。報告書は、国際・地域機関と国連システムの機関、基金、計画からの資料提供を受け、国連経済社会局が作成しています。各国の統計学者や市民社会の専門家、学識者も報告書の作成に寄与しています。
詳しくは、https://unstats.un.org/sdgs/ をご覧ください。
ハイレベル政治フォーラムについて
持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)は、2015年9月に世界のリーダーが全会一致で採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と17のSDGsの達成について政治的なリーダーシップや指針、提言を提供するための中心的なグローバル・フォーラムです。HLPFは、各国や市民社会、企業がSDGs達成に向けて行っている取り組みを明らかにし、アイデアと最良事例を共有する機会を提供します。
詳しくは、https://sustainabledevelopment.un.org/hlpf/2020 をご覧ください。
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