国連食料システムサミット:事務総長による議長サマリーおよび行動宣言 (2021年9月23日)*日本語訳ができました
プレスリリース 21-057-J 2021年10月21日
包摂的で変革をもたらす食料システムが、飢餓ゼロの達成に向けた前進を促す
裕福な人であれ貧しい人であれ、若者であれ高齢者であれ、世界の誰もが食事を必要としています。安全で栄養のある食料は、活力と健康のみならず希望も与えてくれます。毎日、数十億の人々が食料を収穫し、加工し、市場と私たちの家庭に輸送しています。消費者は、入手可能で手の届く中から何を食べるかを選択します。こうした日々の活動は私たち全員に関わり、私たちの文化、経済、そして自然界との関係を下支えします。食料システムを支えることが多い女性たち、そして若者たちは、私たちを自然と調和した家族、コミュニティー、国家として団結させる、変革をもたらす食料システムに対する新たな希望をもたらします。
私たちは、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための「行動の10年」に入りましたが、世界の食料システムの多くは脆弱で、すべての人が十分な食料を得る権利は満たされていません。飢餓は再び増加傾向にあります。人類のほぼ半数にあたる30億人は健康的な食事を摂る余裕がありません。肥満を含むあらゆる形態の栄養不良は根深く、健康、教育、ジェンダー、そして経済に幅広く悪影響を及ぼしています。紛争、極端な気候、経済のボラティリティーといった食料不安や栄養不良をもたらす要因は、貧困と深刻な不平等によって一層悪化しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、このような懸念すべき傾向を拡大させています。2020年には、世界で最大8億1,100万人が飢餓に直面しました。これは、わずか1年間で20パーセントの増加です。4,100万人以上が飢餓の瀬戸際にあります。
パンデミックがもたらした危機は、私たちが知っているように、気候と生命を脅かしている地球の危機を背景として拡大しています。食料生産と地域の生産者は、気候変動の悪影響に対しますます脆弱になっています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の報告書によると、すべてのシナリオにおいて、今後10年間に世界全体の温室効果ガス排出量を半減しない限り、気温は21世紀中に産業革命以前の水準と比べて1.5°Cから2°Cより高くなります。
同時に、最近の複数の報告書によると、食料システムは温室効果ガス排出量の最大3分の1、生物多様性の喪失の最大80パーセント、淡水使用量の最大70パーセントに寄与していることが明らかになりました。しかし、持続可能な食料生産システムは、これら既存の課題に欠かせない解決策として認識されるべきです。地球を守りながら増加する世界人口の食料を賄うことは可能です。
ピープルズ・サミットは人々と地球、そして繁栄のための解決策に焦点
このような大規模な課題に直面する中、国連は、地方レベルからグローバルなレベルまで数万人の人々を食料システムサミットの旅路へと招集しました。人々のリーダーシップにより、この旅路は「ピープルズ・サミット(人々のサミット)」となり、またそれらの人々の行動提案により、変革をもたらしうる食料システムの力を2030年までにSDGsを達成する原動力とさせる「ソリューションズ・サミット(解決をもたらすサミット)」となりました。各国政府とステークホルダーはこの過程を通して新たな協力の方法を見つけ出し、多国間の場の中にある多様で豊かなエコシステムに新たな機運を吹き込みました。
変革をもたらす食料システムに向けて人々を立ち上がらせるビジョンが生まれたのは、各国政府が、企業やコミュニティー、市民社会を結集させ、148カ国に及ぶ国内対話を通してすべての人々の人権を尊重する食料システムの未来への道筋を描いた時でした。これらの対話から明らかになったのは、2030年までに食料システムをさらに強化し、人々が食料を得る権利の実現を支援するための、各国政府や様々なステークホルダーがとるべき行動の基盤でした。
加盟国、専門家、ステークホルダーは、行動を加速するための2,000以上のアイデアを寄せました。アクション・トラックは、実践コミュニティーを構築し、新たなパートナーシップを育くむために、この豊富なインプットを体系的にまとめました。科学グループは広く協議を行い、サミットの多くの活動に対して情報提供したエビデンスベースに大きく貢献しました。チャンピオンズ・ネットワーク、グローバル食料システムサミット対話と900回以上の独立対話を通し、世界中の人々が国別の優先順位に基づき、行動を起こし、食料システムの変革方法に関するアイデアを提供しました。すべての参加者が、グローバルな政策決定の舵を取る世界食料安全保障委員会(CFS)への参加と成果から恩恵を得ることができました。
パンデミックとそれに関連するロックダウンの中、130を超える国から500人以上がローマで開催されたプレサミット(7月26日-28日)に安全かつ生産的に参加しました。また、183カ国から2万2,000人以上がオンラインで代表として参加しました。参加者はともに、「これまでと同じやり方」では不十分であるという明確なメッセージを伝え、大規模かつ緊急に行動するように呼びかけました。参加者は、必要な移行を実現するために、私たちの世界の複雑性を包含する2030アジェンダに沿って、食料に対しシステムという概念に基づいたアプローチを要請しました。
世界中の人々が食料システムを中心に団結する中、参加者は、人々と地球、そして繁栄が、持続可能な開発のための2030アジェンダの中心にあることを再確認しました。COVID-19の影響を受けて、食料システムを通した変革のための行動は、グローバルな復興を推進する上で欠かせない役割を果たすことができます。食料システムは以下の3つの基本分野で具体的に前進しています。
- 人々 - 「健康と福祉のためにすべての人に栄養を与える」
- 地球 - 「自然と調和した生産」
- 繁栄 - 「2030アジェンダのための包摂的で変革をもたらす公平な復興」
この3つの推進力によって、世界が2030アジェンダの実現に取り組むことができるのです。
食料システムの変革
この旅路で、私たちの食料システムが、より良い世界のための共通のビジョンを実現する力を有することがしっかりと確認されました。食料システムに関わる世界中の人々は、何十億もの人々に栄養豊富な食料を提供する一方、生物多様性と極めて重要な生態系を保護しています。SDGsを達成する上で、先住民の食料システムなどのグッドプラクティスに基づき、科学とイノベーションに投資し、すべての人々、とりわけ女性と若者、先住民、企業と生産者を関与させなければならないという認識があります。
また、万能の解決策はないことにも合意しました。地域ごとに事情やアプローチ、視点は異なるかもしれませんが、SDGsを実現するために、食料システムは地域に適合でき、また適合させなければなりません。そうすることで、今度はパリ協定、国連生物多様性条約といったその他の国際協定の目的の実現などのグローバルなレベルとの関与が強化されるのです。
多くの政府は、食料システムが持つ変革をもたらす力を、2030アジェンダに沿って加速し、深化させることにコミットしています。人々の栄養、健康と福祉に貢献し、自然を回復、保護し、気候中立的で、地域の状況にも合致し、さらにはディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と包摂的な経済をもたらすようなやり方で、増加する人口の食料を賄うことにますます焦点が当てられています。
このような変革は、私たちが段階的かつ縦割り型の行動様式から、システムとしてのアプローチへと早急に移行しなければならないという理解の下、SDGsの17全ての目標によってもたらされ、裏付けられています。食料システムは、すべてのセクターが共通の目標に向けて一丸となって取り組まなければ進展しません。それには、複数の科学分野の相互作用を伴う様々な政府の分野に加え、伝統的な知識や先住民の知識が含まれます。
変革をもたらす行動には、私たちの食料システムを推進する農業従事者、牧畜民、食料に関わる労働者、漁業従事者などの人々の関与やし、積極的な参加が求められます。政府に加え、中小企業から多国籍企業に至るビジネス界は、責任あるビジネス慣行と革新的な解決策を通じ、すべての人が栄養価の高い健康的な食事にアクセスできるよう自らの活動を適応させながら、食料システムをより持続可能で強靱かつ公平にするという重要な役割を担っています。
また、科学や研究も含め食料に対する官民の資金調達のあり方を変え、拡大する必要もあります。この資金調達アプローチの革新と変化においては、過度な隠れた費用を回避し、より健康的でより包摂的、かつより持続可能な結果をもたらすものでなければなりません。
食料の価値もまた、単なる商品をはるかに超えたものとして理解されなければなりません。食料とは、実現しなければならない人々の権利であり、経済、社会、環境が食料に与える影響や外部性もまたより正確に評価し、必要に応じて緩和したり活用したりしなければなりません。
パンデミックは、私たちが相互に結びついていること、私たちの健康と動物の健康、地球は本質的につながっていることを思い出させてくれました。そして、国家、地域、グローバルなレベルでの協力を強化し、統合されたシステムに則った「ワン・ヘルス」アプローチを活用し、早急に薬剤耐性と人獣共通感染症に対処すべき必要性を浮き彫りにしました。ワン・ヘルスアプローチは、力強くかつレジリエントな経済にも不可欠です。
開かれた、非差別的で透明性のある、そしてルールに基づいた貿易は、より包摂的でレジリエントな食料システムを構築に欠かせません。グローバルなサプライチェーンに課題があるにもかかわらず、COVID-19は地方や地域の食料システムのレジリエンスを明らかにしました。
2030年までのSDGs達成に向け、私たちの食料システムに必要な変革を実践するために強化と前進を
食料システムサミットは、パンデミックという暗雲の中で、2030アジェンダに欠かせないエネルギーを充足し、希望の兆しをもたらしました。すべてのステークホルダー、とりわけ各国政府は、SDGsの約束を守るために、大規模かつ相互に連帯して緊急に行動するというコミットメントを今こそ再確認しなければなりません。
世界は、SDGs全体にわたって、持続可能な開発における環境、経済、社会の柱の間の複雑な関係性を反映した、食料システムのための明確で野心的な目標を立てました。私たちに新しい目標は必要ありません。必要なのはまさに今、大胆に動いて、私たちが掲げている目標を達成するために必要な変革をもたらす行動を実行に移すことです。私たちには、飢餓に終止符を打つという明示的に食料に焦点を当てた目標がありますが、その他の目標も食料システム内の課題に関連しています。
例えば、食料システムには、貧困に終止符を打ってSDGの目標 1を達成する上で果たすべき重要な役割があります。栄養過剰と栄養不良の共存に対処することは、 目標3の健康に関する目標を達成する上で極めて重要です。農業が中核的役割を果たさなければ、持続可能な形で水資源を管理して 目標6を達成することは不可能です。漁業の持続可能な管理は、海洋の保全と持続可能な利用、そして目標 14の達成の基盤です。食料システムは、さらに広い意味で 目標12の持続可能な消費と生産、目標 13の気候変動への適応と緩和、目標 15の陸上生態系の保護、回復と持続可能な管理に関するコミットメントを反映したものでなければなりません。
今こそ、これらの目標を実現するという私たちのコミットメントを新たにし、加速させようではありませんか。
そのために私たちが取るべきいくつかの重要な行動があります。
- 私たちは、各国の食料システム対話に基づき、包摂的で各国の気候コミットメントに合致する2030年に向けた各国の道筋を策定、実施する国別メカニズムを支援しなければなりません。それには、国連システムと国際金融機関、民間セクター、市民社会を含むすべての関連ステークホルダーが、各国の実施の支援に極めて重要な役割を果たします。
- 行動は、各国政府がその国の状況に応じて国家レベルで推進しなければなりません。2030アジェンダのビジョンを実現するために必要な移行を後押しする、以下の5つの行動分野がサミットの過程で浮上しました。
(1) すべての人々に栄養を与える
(2) 自然に基づく解決策を推進する
(3) 公平な暮らし、ディーセント・ワークとコミュニティーのエンパワーメントを推進する
(4) 脆弱性、ショック、ストレスに対する強靭性を高める
(5) 実施手段を加速する
前進するためには、地方やグローバルな実践コミュニティーとステークホルダーが、これらの行動分野の傘下で各国政府と団結する必要があります。とりわけ財源の確保、データ、科学とイノベーション、ガバナンスと貿易を通じた実施の強化を支援する必要があります。
全体を通して、私たちは、国家レベルでこれらの5つの行動分野から成るSDGsの達成に向けた活動の促進を支援する、新たに生まれた様々なステークホルダーによるイニシアチブや共同の取組を歓迎します。とりわけ、私たちには、強力で包摂的な各国のオーナーシップを維持しつつ、それぞれの国の要求に応える行動や、特に先住民、女性、若者といったステークホルダーを強力に代表される行動、そして各国の目標の実施を支援するため、グローバル・パートナーによるより大きな、かつより連携のとれた投資を促す行動が必要です。
科学に基づく解決策を目指すといった大きな目標をさらに強化するグローバルなイニシアチブは、2030アジェンダ達成の鍵となるでしょう。
サミットの先へ
サミットのフォローアップは、各国と支援組織による従来の取り組みを基礎とします。サミットの成果を実行に移して国家レベルでのこれらの取り組みを支援するには、必要に応じて対応力を改善しつつ、既存の機関を活用します。国レベルでは、各国政府は、自国が進む道筋を策定・実施するにあたり、すべてのステークホルダーの関与と貢献の下、そして各種手段やプロセスを活用しつつ、常駐調整官(RC)と国連国別チーム(UNCT)から支援を受けます。
グローバルなレベルでは、国連システム全体でパートナーとともに活動しつつ、ローマに本部を置く機関(RBA)である国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、世界食糧計画(WFP)が、食料システムサミットのフォローアップを支援するより広範な国連システムと協働し、同システムを活用する調整ハブを共同で主導します。これらのパートナーには、市民社会、企業などの非政府の関係者が含まれます。
この調整ハブは以下の主要な機能を果たします。
- ハイレベル政治フォーラム(HLPF)、開発資金フォーラムのプロセスといった主要な政府間フォーラムに加え、環境、気候、生物多様性、食料安全保障、健康と栄養に関連するプロセスを含むその他の重要なグローバルなプロセスとの相乗効果を強化し、このような場や2030アジェンダにとって非常に重要なその他の関連する取り組みにおいて、食料システムがよりしっかりと取り上げられるようにする。
- RBAや、より広範な国連システム、及びその他の専門機関の技術的支援や政策支援を調整・促進し、常駐調整官システムを活用しながら国家の食料システムの道筋を策定し、実施する。
- ハブに助言するため、とりわけ若者、先住民、生産者、女性と民間セクターといった優先順位の高い構成員の代表者を含むチャンピオン諮問グループ(Champions Advisory Group)を設立し、サミットを強力にフォローアップすること。同フォローアップ際しては、これらの人々の意見や課題が実施のためのプラットフォームと道筋に確実に含まれるようにすべきである。
- グローバルなレベルでは、世界食料安全保障委員会(CFS)のハイレベル専門家パネル(HLPE)と協働し、科学政策に関する能力の強化と地方及び国レベルでの橋渡しを支援すること。
CFSは、持続可能で変革をもたらす食料システムを通して、すべての人の食料安全保障と栄養を確保するために協力するあらゆる関係者に欠かせない、政府間・ステークホルダープラットフォームであり続けます。CFSに参加しながら食料システムサミットのフォローアップにおいてリーダーシップを発揮することは、そのマンデートを実現する上で欠かせません。
説明責任 - パンデミックによって、あらゆる関係者は、すべての人々と地球の福祉を確保することに対する説明責任の重要性を、改めて強く認識することとなりました。政府は、企業を含むすべてのステークホルダーが責任を取るような政策環境を確保します。世界的には、既存の機関は、すべての関係者間の相互説明責任を支援するために自らのメカニズムを強化する必要があります。CFSによるリーダーシップと、市民社会メカニズムを含むCFSのメカニズムが、民間セクターを含むすべてのステークホルダーへの説明責任を促す鍵となります。
国レベルでは、常駐調整官と国連国別チームが、事務総長を代表してRBAが調整する年次報告と、各国の道筋への支援に関する国連持続可能な開発グループ(UNSDG)議長への定期報告に貢献します。事務総長は、国、地域、グローバルなレベルにおけるこの作業を活用して、本サミットのフォローアップにおける進捗に関する年次報告書を2030年までHLPFに提出します。各加盟国は、HLPFの文脈の中で本報告書をどのようにとらえるか検討するよう要請されます。
2年間の実績評価 - 事務総長は、グローバルな実績評価会合を2年ごとに招集し、本プロセスの成果の実施と2030アジェンダ達成に向けた貢献における進捗を評価します。この会合は、RBAおよびより広範な国連システムやパートナーから支援を受けます。
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事務総長は、この旅路に貢献することによってリーダーシップを示したすべての人々に深い感謝の意を表します。皆様のアイデア、取り組み、行動を通して、私たちは食料システムとより良い世界への希望を抱いています。2030アジェンダを私たちの青写真として、今-ともに-行動し、私たちのビジョンを実現しようではありませんか。
「朝、朝食を食べ終える前に、あなたは世界の半数以上の人々に頼ったことになるのです」
― マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
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