多くの危機が重なり合い、世界の経済成長はここ数十年で 最低水準に ― 国連の主要報告書が指摘(2023年1月25日付 国連経済社会局プレスリリース・日本語訳)
プレスリリース pr23-005-J 2023年01月27日
世界経済の復興と開発アジェンダの支援には、より強力な財政政策が必要
ニューヨーク、2023年1月25日 — 2022年の世界経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック、ウクライナでの戦争とそれに伴う食料・エネルギー危機、インフレの高騰、負債の引き締めに気候緊急事態という、一連の深刻で相互に強め合うショックによって打撃を受けました。こうした状況の中、世界経済の成長率は、2022年の推計3.0%から2023年には1.9%に減速する見通しであり、ここ数十年で最低水準になると、本日発表された国連の『世界経済状況・予測2023(World Economic Situation Prospects (WESP) 2023)』報告書は指摘しています。
報告書は、短期的には暗く不確実な経済見通しを示しています。2024年の世界の成長率は、一部の逆風が弱まり始めることで2.7%と緩やかに持ち直す見込みです。しかし、この予測もさらなる金融引き締めのペースや回数、ウクライナでの戦争の推移や結果、そしてサプライチェーンのさらなる混乱の可能性に大きく依存しています。
9月に開催される2023 SDGサミットが2030アジェンダ実施の中間点を迎える中、世界経済の見通しの低迷は、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標の達成をも脅かします。
「今は、不平等を助長し、苦痛を増大させ、SDGsの達成を一層困難にしかねない短期的な思考の条件反射的な緊縮財政を行う時ではありません。この未曽有の時代にあっては、前例のない行動が必要です。こうした行動には、あらゆるステークホルダーが団結した協調的な取り組みから生まれる、革新的なSDGs刺激策が含まれます」アントニオ・グテーレス国連事務総長は、このように述べました。
先進国・開発途上国ともに、暗い経済見通し
インフレが進み、積極的な金融引き締めが行われ、不確実性が高まる中、現在の景気減速によってCOVID-19危機からの経済的復興のペースが鈍化しており、先進国・開発途上国を問わず多くの国の景気が2023年に後退するおそれがあります。2022年は、米国、欧州連合(EU)やその他の先進国で成長の勢いが著しく鈍化し、さまざまな経路を通じてそれ以外の世界経済に悪影響を及ぼしました。
世界的な金融引き締めはドル高と相まって、開発途上国における財政・債務の脆弱性を悪化させました。2021年後半以降、世界の中央銀行の85%以上が、インフレ圧力を抑えて景気後退を回避しようと、金融引き締め政策を取り、金利を立て続けに引き上げました。2022年の世界のインフレ率は数十年ぶりに約9%に達し、2023年には低下するものの、6.5%と高い水準にとどまる見通しです。
雇用回復は弱く、貧困が拡大
2022年には大半の開発途上国で雇用回復が鈍化し、引き続き深刻な雇用の低迷に直面しています。パンデミックの初期に不当に大きく失われた女性の雇用は、完全には回復しておらず、改善が見られるのは、主にインフォーマル雇用です。
報告書によると、成長の鈍化は、インフレの高騰や債務の脆弱性の高まりと相まって、持続可能な開発においてようやく得た成果をも後退させ、現在の危機がすでに及ぼしている悪影響をさらに深刻化させるおそれがあります。深刻な食料不足に直面している人々の数は、すでに2022年時点で2019年の2倍を超え、3億5,000万人近くに達しました。景気減速と所得における低成長が長期化すれば、貧困撲滅を阻害するだけでなく、各国がSDGsにより広範に投資する能力も制約を受けます。
「現在の危機は、最も脆弱な立場に置かれた人々が、自分たちに責任がほぼないにもかかわらず、最も大きな打撃を与えています。国際社会は、人々の苦しみを回避し、すべての人々にとって包摂的で持続可能な未来を支援する共同の取り組みを強化する必要があります」李軍華(リ・ジュンファ)国連経済社会問題担当事務次長は、このように述べました。
国際協力の強化が不可欠
報告書は、緊縮財政を避けるよう各国政府に呼びかけています。緊縮財政は成長を阻害し、最も脆弱な立場に置かれた集団に不当に大きな影響を及ぼし、ジェンダー平等の前進に影響を与え、世代を超えた発展の見通しを妨げるからです。報告書は、雇用を創出し、成長を再び活性化させるような直接的な政策介入を通じて、公的支出の再配分や優先順位の見直しを行うよう勧告しています。それには、社会的保護制度を強化するとともに、的を絞った一時的な補助金や現金支給、公共料金の割引を通じた支援を継続して行い、消費税や関税の引き下げによって補完していく必要があります。
教育、保健、デジタルインフラ、新たなテクノロジー、気候変動の緩和と適応に向けた戦略的な公共投資は、大きな社会的利益をもたらし、生産性向上を加速し、経済的・社会的・環境的ショックに対するレジリエンス(強靱性)を高めることができます。
開発途上国におけるSDGsのための追加的な資金のニーズは、出処によって異なるものの、年間数兆ドルに上ると推計されています。緊急資金援助へのアクセスを拡大し、開発途上国全体の債務負担を再編・軽減し、SDGsへの資金拠出を拡大するため、今すぐ国際的なコミットメントを強化する必要があります。
報告書の全文は、以下より入手できます。
https://desapublications.un.org/
報道関係者のお問い合わせ先:
Sharon Birch
UN Department of Global Communications
birchs@un.org
Helen Rosengren
UN Department of Economic and Social Affairs
rosengrenh@un.org
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