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緊急の気候行動により、すべての人々が住み続けられる未来を(2023年3月20日付 IPCC プレスリリース・日本語訳)

プレスリリース 23-014-J 2023年03月23日

スイス・インターラーケン、2023320 ― 温室効果ガスの排出量を削減し、人間が引き起こした気候変動に適応するための実行可能かつ効果的な選択肢は複数存在しており、それらは今すぐ利用可能である ― 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が本日発表した最新の報告書(第6次評価報告書 統合報告書)の中で科学者たちはこう述べています。

「効果的で公正な気候行動を取り組みの主流に据えることで、自然や人々が被る『損失と損害』の軽減に限らず、より広範な恩恵が得られます。この統合報告書は、より野心的な行動に対する緊急の必要性を強調し、もし私たちが今すぐに行動を起こせば、すべての人々が住み続けられる持続可能な未来を確保できることを示しています」李会晟(イ・フェソン)IPCC議長はこのように語っています。

2018年に、IPCCは気温上昇を1.5°Cに抑える上で必要となる、これまでにない規模の課題に注目しました。それから5年が経過し、温室効果ガス排出量の増加が続いたことで、課題はさらに深刻なものとなっています。これまでになされた施策のペースと規模、そして現在の計画では、気候変動に取り組むには不十分なのです。

1世紀以上にわたり化石燃料を燃やしてきたことと、不平等で持続不可能なエネルギー・土地の利用によって、世界の温暖化は産業革命以前と比べて1.1°C進みました。その結果、異常気象の頻発化、激甚化が進み、世界のあらゆる地域の自然と人々にますます危険な影響をもたらすことになりました。

温暖化がわずかでも進むごとに、被害は急速に深刻化しています。激しさを増す熱波、降水量の増加、そして他の異常気象は、人々の健康や生態系にとってのリスクを、さらに増大させています。あらゆる地域で、人々は猛暑によって命を落としています。気候変動に起因する食料と水の供給の不安定化は、温暖化の進行とともに拡大すると予想されています。こうしたリスクがパンデミックや紛争などの他の有害事象と共に起きた場合、これらを管理することはさらに困難となります。

議論の中心は「損失と損害」

インターラーケンでの1週間にわたるセッション中に承認された報告書は、私たちがすでに経験し、また今後も経験し続けるであろう、最も脆弱な立場に置かれた人々と生態系にとりわけ大きな打撃をもたらしている損失と損害を議論の中心に据えています。正しい行動を直ちに取ることで、持続可能で公正な世界に不可欠な変革をもたらすことができます。

この統合報告書の93名の執筆者の一人であるアディティ・ムカルジー氏は、IPCC第6次評価の結びの章で「気候正義が決定的に重要である理由は、気候変動に対する責任が最も少ない人々が、不当にその影響を被っているからです」と述べました。

「世界人口のほぼ半数が、気候変動に対してきわめて脆弱な地域で暮らしています。過去10年における、これらの地域での洪水、干ばつ、嵐による死者は、15倍も多くなっています」とムカルジー氏は付け加えました。

これからの10年で、現行の適応策と必要性とのギャップを埋めるべく、気候変動への適応を加速させることが不可欠です。その一方で、気温上昇を産業革命以前と比べて1.5°Cに抑えるためには、すべての部門で温室効果ガス排出量を大幅に、そして急速かつ持続的に削減することが求められます。温暖化を1.5°Cに抑えようとするなら、温室効果ガスの排出量は現時点ですでに減少に転じていなければならず、2030年までにほぼ半減させる必要があるのです。

進むべき明確な道

その解決策は、気候変動に対してレジリエント(強靭)な開発にあります。これには、気候変動に適応するための措置と、温室効果ガス排出量を削減する、あるいはその排出を回避するための行動を、より幅広く恩恵をもたらすように統合することが求められます。

具体例を挙げると、クリーン・エネルギーやテクノロジーへのアクセスは特に女性と子どもたちの健康を増進します。発電の低炭素化、徒歩や自転車、公共交通機関での移動によって、大気環境が改善され、健康が増進し、雇用機会が増え、公正がもたらされます。大気の改善だけを取っても、人々の健康増進による経済的恩恵は排出量の削減または回避にかかるコストと同等、あるいはそれを上回る可能性があります。

気候レジリエンスのための開発は、温暖化が進むにつれて、ますます困難を増していきます。そのため、今後数年で行われる選択が、私たちの未来と来るべき世代の未来を左右する極めて重要な役割を果たすことになります。

それらの選択を効果的なものとするためには、多様な価値観と世界観、そして科学的知見や先住民の知恵、地域の知識などの知識に根差したものにしなければなりません。こうしたアプローチによって、気候レジリエンスのための開発が円滑に進み、地域に適した、社会に受け入れられる解決策が可能になります。

「福祉面での最大の利益は、インフォーマルな居住区で暮らす人々を含めた、低所得で社会から取り残されているコミュニティーが抱える気候災害リスク削減を優先することから得ることができます。気候行動の加速は、資金供給が何倍かに増加して初めて実現します。資金の不足と資金が正しく配分されないことにより進歩が妨げられているのです」報告書の執筆者の一人であるクリストファー・トリソス氏は、このように説明しています。

持続可能な開発を可能に

今存在する障壁を減らすことができれば、温室効果ガス排出量を急速に低減する世界的な資本は十分に存在します。グローバルな気候目標を実現するには、気候変動関連投資への融資を拡大することが重要です。各国政府は、公的資金を提供し、投資家に明確なシグナルを送ることで、これらの障壁を低減する重要な役割を果たします。投資家、中央銀行、金融当局もまた、それぞれの役割を果たすことができます。

規模を拡大して適用範囲を広げることで、大幅な排出量削減と気候レジリエンス(強靭性)の達成に貢献することができる、実績のある政策措置があります。政治的な公約、協調的政策、国際協力、生態系の管理、包摂的ガバナンス、そのいずれもが、効果的で公正な気候行動に重要なのです。

テクノロジーとノウハウ、適切な政策措置が共有され、十分な資金が現時点で利用可能であれば、あらゆるコミュニティーが炭素集約型消費を削減、または回避することができます。同時に、適応に大幅に投資することで、私たちはますます高まるリスク、とりわけ脆弱な立場に置かれた集団や地域が直面するリスクを回避することができます。

気候、生態系、社会は相互に関連しています。地球上の陸地、淡水域、海洋の約30-50%を効果的かつ公正に保全することが、健全な地球を確保する一助となります。都市部は、持続可能な開発に貢献する野心的な気候行動のための世界規模の機会を提供します。

食料部門、電力、輸送、工業、建物、土地利用を変化させることで、温室効果ガス排出量を削減することができます。同時に、これらの変化は低炭素化された生活様式への移行を容易にし、健康と福祉の増進ももたらします。過剰消費の帰結をよりよく理解することは、人々がさらに十分な情報に基づいて選択をする上で役立ちます。

イ・フェソンIPCC議長は次のように述べました。「変革の実現は、信頼関係があり、誰もが協力して災害リスクの削減を優先し、受益と負担が平等に配分される場合に、より容易になります。私たちは、変化を起こす上で、あらゆる人々がそれぞれの責任を負い、異なる機会を持つ、多様な世界に生きています。多くのことをできる人がいる一方で、変化を達成するために支援を必要とする人々もいるのです」

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摂氏/華氏の温度換算
1.1C = 2.0F
1.5C = 2.7F

さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。

IPCC Press Office
メール:ipcc-media@wmo.int

Lance Ignon, SYR Communications Specialist
メール:ignon@ipcc-syr.org

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数字で見るAR6統合報告書

査読コメント:6,841件
  政府:47カ国(先進国:21、市場経済移行国:2、開発途上国:22、小島嶼開発途上国:2)
  政府コメント:6,636件(図:1,814点、テキスト:4,822件)
  オブザーバー:5人
  オブザーバーコメント:205件
執筆チーム主要メンバー:49人
査読編集者:9人
拡大執筆チームメンバー:7人
執筆協力者:28人
女性:41人
男性:52人
開発途上国出身執筆者:37人
先進国出身執筆者:56人

IPCCについて

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に関連する科学的評価を担当する国連機関です。気候変動に関する科学的評価を政治指導者に定期的に提供するために、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって1988年に設置されまました。IPCCには、国連またはWMOの加盟国195カ国が参加しています。

世界中から何千もの人々がIPCCの業務に貢献しています。評価報告書については、専門家がIPCCの執筆者として自発的に時間を割き、毎年発表される数千点の科学論文を評価し、気候変動の要因について知られていること、その影響と将来のリスク、また適応と緩和によってそれらのリスクを低下できる方法について、包括的な要約を提供しています。専門家と加盟国政府によるオープンで透明性の高い査読作業は、客観的かつ完全な評価を保証し、多様な視点と専門知識を反映させるIPCCプロセスにおいて不可欠な部分です。

IPCCには3つの作業部会があります。第1作業部会は気候変動の自然科学的根拠を、第2作業部会は気候変動に関連する影響、適応および脆弱性を、そして第3作業部会は気候変動の緩和をそれぞれ取り扱います。また、排出量と除去量測定の方法論を開発する国別温室効果ガス・インベントリー・タスクフォースも設けられています。

IPCCによる評価報告書は、あらゆるレベルの政府に対し、気候変動政策を策定するために利用できる科学的情報を提供します。IPCCの評価は、気候変動に取り組むための国際交渉で重要な参考資料となります。IPCCの報告書は数段階に分けて起草、審査されることで、正確性、客観性、透明性が保証されています。

6次評価サイクルについて

IPCCは包括的な科学的評価報告書を6、7年に1回発表します。直近の第5次評価報告書は2014年に完成し、パリ協定に主要な科学的知見を提供しました。

IPCCは2015年2月の第41会期において、第6次評価報告書(AR6)の作成を決定しました。2015年10月の第42会期では、IPCC議長および副議長、作業部会の共同議長および副議長、タスクフォースの共同議長からなる新たなビューローを選出しました。2016年4月の第43会期では、3件の特別報告書、1件の方法論報告書とAR6の作成が決定されました。

第1作業部会は2021年8月9日に、第6次評価報告書『気候変動2021:自然科学的根拠』を発表しました。第2作業部会は2022年2月28日に、『気候変動2022:影響・適応・脆弱性』を発表しました。第3作業部会は2022年4月4日に、『気候変動2022:気候変動の緩和』を発表しました。

さらに、IPCCは第6次評価サイクル中に、より具体的な課題に関する特別報告書も発表しました。

『1.5℃の地球温暖化』(2018年10月)
『気候変動と土地』(2019年8月)
『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書』(2019年9月)

2019年5月には、『2006年国別温室効果ガス・インベントリーに関するIPCCガイドライン2019年精緻化版』を発表しました。

さらに詳しい情報については、www.ipcc.chをご覧ください。IPCCが公開した多くの動画が、IPCCのYouTubeチャンネルでご覧になれます。

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原文(English)はこちらをご覧ください。

【関連記事】IPCC 統合報告書の発表記者会見に寄せる事務総長ビデオ・メッセージ(2023年3月20日)