日本語訳(非公式)ができましたのでお知らせします
国連中東和平メディア・セミナー 「大きな不穏と困難」の中で開幕
プレスリリース 07/051-J 2007年07月18日
“底辺からの信頼促進を目指す”と広報担当事務次長
“暴力は失望を生むが、絶望すべきではない”
潘事務総長、メディアと市民社会に共存のメッセージを伝えるよう呼びかけ
現地の「大きな不穏と困難」を背景に、6月26日、東京で第15回中東和平国際メディア・セミナーが開幕し、暴力の終結と草の根を含むあらゆるレベルでの新たな対話の呼びかけが行われました。
開会の辞において、赤阪清隆・国連広報担当事務次長は、中東情勢について世論を啓発することだけがセミナーの目的ではなく、イスラエルとパレスチナの間の対話にはずみをつけてこれを支援し、平和な未来への希望をつなぎとめる手助けをすることが重要であると述べました。目指す道は、「とてもささやかではあるが」この期待の実現に貢献することです。
2日間にわたって東京で開かれる「包括的かつ恒久的な政治的解決の探求にイスラエル人とパレスチナ人の関与を再度促す(Re-engaging the Israelis and the Palestinians in the Search for a Comprehensive and Lasting Political Settlement)」と題したこのセミナーは、国連広報局が日本政府、国連大学との協力で開催するものです。
赤阪氏によると、ガザ情勢や、その結果生じた政治的人道的懸念から、セミナーを延期すべきではないかという声も少なくなかったようです。しかし国連は、底辺から和平を確立することを目指すこのセミナーには、現地で高まる緊張や不穏に照らしても、より大きな価値があると確信しているということでした。
「メディアに大きな力と責任があることは十分認識しています」と語る赤阪氏は、イスラエルとパレスチナが直面する問題について伝えるだけでなく、和平プロセスを進めるチャンスと、双方の人々が福祉を目指して協力できる明るい兆しについても報道してもらいたいと述べました。
潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、赤阪氏が代読したメッセージの中で、現在の暴力の噴出が絶望をもたらしてはならないと述べています。「むしろ、私たちは公正で恒久的な中東和平を見出すことに全力を注がなければなりません。そして近年の世論調査から、イスラエルとパレスチナ被占領地域の両方において、二国家制度の枠組み内での平和共存に対し、依然として強い草の根の支持があることが示されていることに勇気を得なければなりません」
メディアは人々に情報を提供して影響を与え、また持続的な対話と理解を促進する強力な媒体であり、参加報道関係者と市民社会の代表者が平和と共存のメッセージを伝える独創的アプローチを求めて話し合うよう期待すると事務総長は語りました。「この会合は、私たち一人ひとりが積極的に平和を求め続けなければならないという現実を強調するものです」。あらゆる方法を用い、関連の安全保障理事会決議、および土地と和平の交換原則に基づき、すべての人々が包括的、公正、かつ恒久的な和平実現に貢献しなければならないとの考えを表明しました。
日本の麻生太郎外務大臣は、歓迎のあいさつの中で、混乱が深まる現状において、まず政治的安定と安全が確保されなければ、パレスチナの経済発展を期待することはできないと語りました。暴力連鎖の原因は、絶望と未来の希望がないことです。安定を促進し、地域の人々の間に信頼を生み出すことを目指し、日本はイスラエル、パレスチナ、およびヨルダンと協力し、「平和と繁栄の回廊」を作ることを提案してきました。ヨルダン川西岸地区にアグロ・インダストリアル・パークを建設し、商品の輸送を支援するなど、地域協力を促進するプロジェクトを共同で作るという構想です。
国連大学のハンス・ファン・ヒンケル学長は、相互関係がますます複雑化する今日の世界において、対話と相手の話を聞く能力の重要性を強調しました。重要なのは、対立する点ではなく、合意できる点を強調することです。今後2日間の議論により、相互理解が深まり、わずかでも前に進める道が見つかるだろうとの期待を表明しました。
またファン・ヒンケル学長は、国連中東和平プロセス特別調整官マイケル・ウィリアムズ氏による本日の基調演説を代読しましたが、ここでは「現在の動力学を変え、より前向きな方向にエネルギーが伝わるようにするには何ができるか」が強調されました。この目標に向け、国連はガザ地区封鎖により生じた深刻な人道問題に対処しようと務めてきました。特別調整官は、対話促進に対する国連の貢献が、核となるイスラエル・パレスチナ・トラックだけでなく、地域レベルにも向けられていることを強調しています。
開会に続いて行われた「新パレスチナ非常事態政府とイスラエルの課題とチャンス(Challenges and Opportunities for the New Emergency Palestinian Government and Israel)」と題したパネル・ディスカッションでは、最近の政治的動向が話し合われました。参加者はどうしたらロードマップに戻れるかを含め、平和への道を復活させる見通しについて話し合いました。
きょう2回目のパネルは、「地域的次元:中東和平プロセスにおける近隣諸国の役割(Regional Dimension: the Role of Neighbouring Countries in the Middle East)」がテーマでした。ここでは地域におけるイスラエル・パレスチナ関係の最近の動向が、地域的文脈において和平への道を復活させる見通しにどう関わってくるかが話し合われました。
セミナーは3回のパネル・ディスカッションを中心に構成されますが、1回目は明日6月27日午前9時30分に始まり、地域の経済協力問題が主題となります。
国連事務総長メッセージ
潘基文国連事務総長のメッセージは、赤阪清隆・国連広報担当事務次長により代読されました。その中で事務総長は、長年にわたる占領、暴力、不信により、イスラエルとパレスチナの社会的溝はかつてないほど深まっていると述べました。パレスチナの内政にも危険な亀裂が広がりつつあり、ガザ地区では党派間の武力衝突により、犠牲者と破壊が増えています。
事務総長は、特にガザ地区の内紛に対する深い憂慮の念を表わしました。中東和平プロセスが遅れ、きわめて重要な人道援助の実施も進めることができません。残念なことに、この数週間で暴力はガザ地区以外にも広がり、パレスチナ・イスラエル双方の市民に犠牲者が出ています。事務総長は全当事者に対し、国際法を順守し、市民を守るよう繰り返し呼びかけています。暴力の悪循環を直ちに終結させ、平穏を回復する必要があります。
現在の暴力の噴出は大きな失望をもたらしているが、絶望すべきではないと事務総長は述べています。「むしろ、私たちは公正で恒久的な中東和平を見出すことに全力を注がなければなりません。そして近年の世論調査から、イスラエルとパレスチナ被占領地域の両方において、二国家制度の枠組み内での平和共存に対し、依然として強い草の根の支持が示されていることに勇気を得なければなりません」
この根強い希望が、和平プロセス支援における市民社会の役割に関する議論のもとになっていると事務総長は述べています。メディア・セミナーという形でこうした話し合いが行われるのは心強いことです。メディアは、人々に情報を提供し、持続的対話と理解を促進する強力な媒体です。
「参加している報道関係者と市民社会の代表者が、混乱の時代に平和と共存のメッセージを伝える独創的アプローチを求めて話し合うことを期待しています」と事務総長は述べています。「みなさまの会合は、私たち一人ひとりが積極的に平和を求め続けなければならないという現実を強調するものです。あらゆる方法を用い、安全保障理事会決議242、338、1397、および1515、ならびに土地と和平の交換原則に基づき、私たち全員が包括的、公正、かつ恒久的な和平実現に貢献しなければなりません」
開会の辞
主催国を代表して歓迎のあいさつを述べた麻生太郎外務大臣は、現在パレスチナが大きな困難に直面し、ハマスによるガザ地区占領以来分裂状態にあることは日本政府にとって大きな失望であると述べました。
反目や衝突により、ガザ地区の人道状況が悪化していることは憂慮すべきことであり、またガザ地区の代表者の多くがセミナーに参加できなかったのはきわめて残念であると述べました。日本は和平に向けたアッバス大統領の努力を強く支持し、さらなる状況の悪化を避けるため、全当事者に協力を呼びかけてきました。日本はこのことに関していかなる努力も惜しまないとしました。
昨日シャルム・エル・シェイクで行われたイスラエルのエフード・オルメルト首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領とのトップ会談後、日本は近いうちに和平プロセスに進展があることを期待し、両指導者による和平への取り組みを支持すると外務大臣は述べています。中東は今重大な岐路に立っています。現状では、まず政治的安定と安全が確保されなければ、パレスチナの経済発展を期待することはできません。暴力連鎖の最大の原因は、人種や宗教ではなく、絶望と未来の希望がないことです。パレスチナの人々の30~40パーセントは失業者です。移動の制限により、状況はさらに悪化しています。
中東の安定を促進し、人々の間に信頼を生み出すことを目指し、日本はイスラエル、パレスチナ、およびヨルダンと協力し、「平和と繁栄の回廊」を作ることを提案してきたと麻生氏は語りました。このプロジェクトは、民間の力でヨルダン川西岸地区にアグロ・インダストリアル・パークを建設し、西岸から特にヨルダン経由で湾岸諸国への商品輸送を促進することにより、パレスチナ経済の強化に貢献することを目的としています。
このイニシアチブについて詳しく説明した麻生氏は、日本の援助により、トマトやオリーブなどの商品をアラブ諸国や日本に輸出できると述べました。今年3月、日本、イスラエル、ヨルダン、およびパレスチナ解放機構の代表者がこのイニシアチブの進め方について合意に達しました。明日、作業部会レベルでの初の4者協議が死海沿岸で行われます。イスラエル、パレスチナ、ヨルダン、および日本は、現地での困難に関わらず、プロジェクトを進める意志を表明しています。プロジェクトが始まれば、パレスチナに未来への希望と収入の道が開かれます。またイスラエル、パレスチナ、およびヨルダンの間に信頼関係も醸成されるでしょう。
赤阪清隆事務次長は、今回のセミナーが、イスラエルとパレスチナ関係が依然として障害に直面し、パレスチナが内部で混乱を抱え、ガザでは食糧と医薬品の不足が深刻になり、人的被害が続き、和平の見通しがつかない中で開催されると述べました。「こうした困難はありますが、未来への希望を捨ててはなりません」。暴力に終止符を打ち、草の根を含むあらゆるレベルで対話を続けなければならないとしました。
セミナーの目的は、中東情勢について世論を啓発することだけでなく、イスラエルとパレスチナの間の対話にはずみをつけてこれを支援し、平和な未来への希望をつなぎとめる手助けをすることが重要であると事務次長は述べています。目指す道は、とてもささやかながら、この期待の実現に貢献することです。
事務次長は、イスラエルとパレスチナの人々の生活は多くの点でつながっており、水、健康、環境など、双方に共通する利益や懸念もたくさんあることを指摘し、「私たちは、このセミナーが推進を目指す市民社会の協力が、より高い政治レベルでの前進とともに、やがては恒久的な政治決着に至ることを期待しなければなりません。そのときはじめて双方の人々は、平和と調和の中に暮らし、自分たちおよび未来の世代にとって豊かな社会の構築に大きなエネルギーと人的資源を注ぎ込むことができるのです」と述べました。
さらに、ガザ情勢や、その結果生じた政治的人道的懸念から、セミナーを延期すべきではないかという声も少なくなかったようです。しかし国連は、底辺から和平を確立することを目指すこのセミナーには、現地で高まる緊張や不穏に照らしても、より大きな価値があると確信しているということでした。「私たちはメディアの力と責任を十分認識しています」と氏は述べ、メディアがイスラエルとパレスチナの直面する問題について伝えるだけでなく、和平プロセスを進めるチャンスと、双方の人々が福祉を目指して協力できる明るいきざしについても報道するよう期待していると語りました。
ファン・ヒンケル学長はセミナーの重要性を強調し、ここ東京から現在の中東情勢をすべて把握するのは難しいが、誰もが和平プロセスを復活させることの重要性を認識していると述べました。相互関係がますます複雑化する今日の世界において絶対的に必要なのは、対話と相手の話を聞く能力です。重要なのは、対立する点ではなく、合意できる点を強調することです。学長は今後2日間の議論により、相互理解が深まり、わずかでも前に進める道が見つかるだろうとの期待を表明しました。
さらに、コフィー・アナン前国連事務総長がよく言っていたように、複雑な問題には簡単な答えはないと述べました。解決の道を探し、今日の複雑な世界を理解しようと務めることは、全参加者の責任です。「希望を生み出さなければなりません。希望なくして前進への道はありません」。理論的根拠に基づいた楽観主義と希望があれば、トンネルの終わりに明かりが見えるのです。全体的な解決には時間がかかるでしょうが、小さな一歩でも前に踏み出すことが重要だとしました。
基調演説
ファン・ヒンケル学長が代読した基調演説において、ウィリアムズ氏は、「平和への道を復活させる」というタイトルがこのセミナーにぴったりであると述べました。実際、これこそが特別調整官の任務なのです。同氏がこの職務についた6週間に、世界はイスラエルとパレスチナのこう着状態がいかに根深いか、また安全保障理事会決議に具体化された土地と和平の交換原則に基づき、占領と紛争に終止符を打つという難題がいかに大きいか、手ひどく思い知らされました。
パレスチナ紛争には数多くの深刻な危機がありましたが、この数週間における一連の出来事ほど潜在的インパクトが大きいものはないのではないかと特別調整官は述べました。それによりパレスチナは事実上地理的・党派的ラインに沿って分割され、再び和平プロセスの基本原則を拒否し続けることによる困難が注目されることとなりました。「不完全であろうと、この和平プロセスはイスラエルにとってもパレスチナにとっても、自由で安全な未来を達成する唯一の道なのです」
レバノンの安定も、「パレスチナ・キャンプ内のみすぼらしさと困窮を糧とする」急進派により大きく脅かされていると言います。急進派の中の日和見主義者たちは、ガザとレバノンの両方からイスラエルにロケット弾攻撃を加えることにより、状況を悪化させようとしています。ロケット弾はパレスチナの大義のためになるどころか、かえって後退させました。レバノンとガザにおけるパレスチナ市民の窮状、またガザとヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの軍事行動も懸念されます。
「このような状況で絶望に陥るのは簡単ですが、それは間違っています」と同氏は述べています。「私たちがやらなくてはならないのは、現在の動力学を変え、より前向きな方向にエネルギーが伝わるようにするには何ができるかを考えることです」。この最終目標に向け、ガザでは、国連がガザ地区封鎖により生じる深刻な人道問題に対処するため活動しています。ガザへの道を再び開くためには全当事者の協力が必要であり、ここでは人道的義務が最優先されなければなりません。
多くのパレスチナ人にとって、個人的安全の欠如が最大の懸念だと言います。パレスチナ内で対話または新たな選挙のプロセスがあれば、パレスチナの人々は安定と秩序という圧倒的関心事に誰が一番うまく対処したか見るでしょう。またイスラエルおよび国際社会からの政治的・財政的支援がただちにアッバス大統領とパレスチナ政府に与えられることが不可欠であり、手始めとして差し押さえられているパレスチナの付加価値税(VAT)と関税がすべて引き渡されることが重要です。また入植地前哨からの撤退、バリケードと検問所の撤去、捕虜の釈放など、イスラエルの以前の約束が実行されることが必要です。同様に、パレスチナ自治政府も、暴力行為をやめるだけでなく、制度を一新するという以前の約束を実行するべきです。
「いくつかのステップを組み合わせ、さらにパレスチナ側が成熟した知恵をもって国家統一を果たす究極の必要性を見据えることができれば、パレスチナ被占領地域の危うい状況に安定をもたらすことができるでしょう」。アラブ・イスラエル紛争にあらゆる次元で対処する政治的プロセス作りが急務です。4者協議(カルテット)が再開されたのは喜ばしいことです。アラブ連盟は、2002年に始まった包括的和平イニシアチブに再び着手することを約束しました。
初期の活動において、特別調整官は、対話促進に対する国連の貢献が、イスラエル・パレスチナ・トラックだけでなく、地域レベルにも向けられていることを強調しています。例えばイスラエルとシリアの間で交渉再開の可能性が検討されています。両者は前進に向けた新たな関心の兆候を示し始めています。アッバス大統領と新パレスチナ非常事態政府は、国際社会との関係を再開し、イスラエルとの対話を強化することを期待しています。
特別調整官によると、イスラエル首脳は和平に向けたアラブのイニシアチブを前向きに受け止めており、2006年4月の選挙後できた、ヨルダン川西岸地区の主要部分からの撤退構想に戻りたいと述べたということです。オルメルト首相は、ガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人を支配したいと望んではいないと述べたとのことです。現状では、イスラエル政府はもはや一方的行動という選択肢はないことを認識しており、目的遂行に向けてアッバス大統領と協力することを約束しています。
占領と紛争を終結させるプロセス、しかも緊急かつ最終目標達成を目指すプロセスのみが、すべての関係者にとって信用できるものです。しかしイスラエルは、当然のことながらレバノンでの暴力が北部国境地帯に拡大することを警戒しています。ロケット攻撃は損害をもたらして人命を奪い、PA(パレスチナ自治政府)の支配を超えて蔓延した武器と民兵組織が多くの死者を生み出し、パレスチナに不必要な対立をもたらしました。このような暴力が目指すのは、和平プロセス再開の可能性を封じることです。またイスラエルの中でヨルダン川西岸地区での入植を続けようとする集団の活動も同様です。
「ここにいる私たちすべてにとって、和平プロセスの未来を決定づけるこのような勢力を許しておいていいのかが問題です」と特別調整官は述べました。「私たちの努力を頓挫させる攻撃を放っておくのですか。暴力により、また既成事実を作ることにより、相手側が自分の国の中で平和・安全に暮らせるチャンスを破壊しようとするものに対し、動かずにいていいのでしょうか。平和への道を復活させようとするなら、答えは明らかです」
新パレスチナ非常事態政府とイスラエルの課題とチャンスに関するパネル
「新パレスチナ非常事態政府とイスラエルの課題とチャンス(Challenges and Opportunities for the New Emergency Palestinian Government and Israel)」と題したパネル・ディスカッションは、赤阪氏が進行役をつとめました。氏によると、日本語の「危機」という言葉は危機とチャンスの両方を意味するそうです。つまり、危機は変化を起こすチャンスをもたらすということです。ガザにおける最新の危機は中東の政治動向に変化を起こしました。今新たな困難が生じていますが、新たな機会も生まれています。これに関連し、赤阪氏は、昨日シャルム・エル・シェイクで行われた会議と4者協議について触れ、新たに生じた状況を高度な政治的レベルで協議するための会議であったことを説明しました。「4者協議から何が出てくるか期待しましょう」と氏は述べました。
最初のパネリストであるパレスチナ国連常駐オブザーバーのリヤド・マンスール氏は、パレスチナ人民の悲劇が存在しない振りをすることはできないと語り、悲劇を直視することが重要だと述べました。過去40年間、その多くが国際法違反であるイスラエルの占領政策と行動がパレスチナ人の暮らしのあらゆる部分に影響を与えてきました。違法な入植活動もこれに含まれます。このような事実を認めることなしに、二国家共存による和平、そしてイスラエルとパレスチナが隣り合って暮らすという目標を達成することはできません。最近イスラエルのオルメルト首相は、イスラエルはパレスチナを支配したいと思ってはいないと述べていますが、ヨルダン川西岸のかなりの部分を占領しており、ヨルダン渓谷を軍事治安区域とし、イスラエル人専用ハイウェーを建設し、西岸地区を分断しています。
「現実をまっすぐ見つめましょう」とマンスール氏は述べています。すべてはハマスが誕生する以前からの政策だったのです。オスロ以後、パレスチナの人々はイスラエル側と誠実に話し合い、紛争を解決しようと努力してきました。今この歴史的瞬間は最後のチャンスかも知れません。パレスチナ人民とアッバス大統領は無条件でイスラエルと交渉する用意があり、懸案事項を話し合いたいと望んでいます。イスラエル側もそうすることを期待しています。アラブのイニシアチブは新たなチャンスでもあります。特にガザ地区で起きた一連の出来事の後、今このチャンスを生かさなければ、両方の過激派が勢いづき、より強力になることでしょう。
マンスール氏はさらに、非常事態政府には、ヨルダン川西岸地区の安全や国家統一の維持など、やるべきことがたくさんあると述べました。「平和について話し合う以上にやるべきことがあります。これまで捕虜の釈放、税金の押収と引渡し、検問所建設とその数の削減というような段階を経てきました」と述べ、これらの対策はどれも傷口に包帯を巻いただけのことだったとしました。和平プロセスに突破口を開くためには、勇気ある対策が必要なのです。さもないと、ガザで起きたようなことが西岸地区でも起こる可能性があります。しかしこのような突破口を開くことができれば、パレスチナの人々は「ガザですべてをひっくり返し」、イスラエル側との間で、平和、和解、そして歴史的解決への道を進むことができるのです。イスラエルでも、大半は二国共存による和平に賛成しています。今こそ、政権にある人々に対し、和平に向けて前進し、イスラエル・パレスチナ関係に新たな一章を始めるよう要求することが重要です。
駐日ロシア大使ミハイル・ベリー氏は、ロシアは4者協議の他のメンバーとともに、憲法に定められた権限により統一政府を解散し、代わりに非常事態政府を設立したアッバス大統領の行動を支持すると述べました。ハマスはこの行動に反対し、パレスチナの領土は2つに分裂しています。ガザ地区は完全にハマスの支配下にあり、人道状況は急速に悪化しています。
しかし、暴力行為を始めたのはハマス自身ではなく、過激派であったとベリー氏は述べました。ハマスはアッバス大統領との間でパレスチナの統一を復活させる交渉に入る意志を表明しています。今日の緊急課題の中でも、ガザの人道的悲劇を防止することが急務です。現在、合法的なパレスチナ大統領、合法的な非常事態政府、そして合法的な非常事態議会があります。今こそ、アッバス大統領は議会に行き、新政府の構成に関する合意を得るべきです。
ベリー氏は続けて、今は危険な状況にあり、パレスチナ統一の復活を妨げ、内戦を始めようとしているものたちがいると述べました。これに関連して、氏は「単純すぎるスキーム」に警鐘を鳴らし、「悪い人たちの代わりに良い人たち」を選ぼうとすれば新たな悲劇を生む可能性があると述べました。現状では、国際的仲介者である4者協議が中東問題の包括的決着に向けた動きを復活させる責任を果たすべきだとしました。
イスラエルのマアリブ紙・上級政治部記者のベン・カスピット氏は、セミナー参加者に対し、「互いにネガティブなレトリックで傷付け合うのではなく」、互いに分かり合おうとすべきだと主張しました。マンスール氏が述べたことを取り上げ、ガザ地区におけるイスラエルの入植と軍の存在には歴史があると述べました。撤退は非常に勇気ある決断だったのです。もし「ガザの試験的パレスチナ国家」が成功したら、ヨルダン川西岸地区でも同じことができるでしょう。イスラエルの選挙前に、オルメルト氏はヨルダン川西岸地区の90%についても、一方的に撤退したいと語っていました。しかしその後、またもやロケット弾がイスラエル各地に射ち込まれるようになり、ハマスがガザ地区を占拠したのです。
カスピット氏はさらに続けて、ガザ地区におけるハマスの勝利は、犠牲が多く割に合わないものだったと述べました。実際の溝は、平和を求める人々と自爆テロリストたちの間にあったとし、最近の一連の出来事により、ファタハがイスラエルのパートナーとして浮上したのではないかと述べました。イスラエル、ファタハ、エジプト、その他地域の勢力は、突如として全員が塀の同じ側に立ち、過激で狂信的な共通の敵に向き合っていることに気づいたのです。今こそ、歴史的大チャンスです。ただちにアッバス政権を承認することが重要です。現実に可能な方法として、カスピット氏は臨時境界線内にパレスチナ国家を作り、後日恒久的決着の合意を図ること、ファタハ・パレスチナ自治政府とイスラエルの間で一連の暫定的合意を取り決めること、そして恒久的合意のための予定表を作ること、または恒久的決着合意の締結と施行の間をあけることを挙げました。
「レトリックをやめ、互いに分かり合おうとしましょう、そうすればチャンスはあります」とカスピット氏は主張しました。あらゆる局面において一からスタートすることが必要です。平和には「大胆な決断、勇気ある意志決定者、そして多くの幸運」が必要です。不信と国家的トラウマが紛争のもとになります。人々は互いに相手のことを知らないのです。こういう状況を変えることが必要です。すばらしい合意がいくつも締結されてきましたが、「真の平和を味わったことがない」人々が平和を手にすることはできませんでした。
エジプト、カイロのアルアハラム政治戦略研究センター副長官のタハ・アブデル・アレーム氏は、占領を終結し、パレスチナ難民の問題を解決しない限り、中東に平和は来ないと述べました。ハマスによるガザ占拠から得られた教訓は、イスラエル、パレスチナ、および米国の失敗を指摘しています。平和には条件があります。イスラエルが関連決議と国際法の規定を履行することです。パレスチナの人道的状況、彼らの貧困と失業が、ガザでの出来事をもたらしたのです。
アブデル・アレーム氏は、米国の失敗はテロリズムとの戦い方にあったと言います。イスラエルとパレスチナの問題を解決する代わりに、事実上地域の過激主義とテロリズムに油を注いだのです。米国のもう一つの失敗は、イスラエルの占領政策を無条件に支持したことです。パレスチナの失敗は自爆テロと市民を標的にしたことであり、これは決して正当化されません。
平和は方程式であり、どちらの側も譲歩することが必要です。イスラエルはすべての占領地域から撤退して入植を終結させ、相手側は安全を保障しなければなりません。しかし安全の保障は、200以上もの核弾頭を保有するイスラエルの側にも求められます。またいずれの側にも、平和に反対し、寛容の心を持たず、地域における平和共存の意味を理解しようとしない人々がいて、これにどう対処するかも重要です。もう一つ重要な問題は、「アラブ人の頭と心」の中にあるイスラエルの悪いイメージと、イスラエル人の中にあるアラブの悪いイメージです。
参加者からの発言が認められると、進行役が感動的討論と表現したように、数名の発言があり、理解を促進し、マイナスの面ばかりを指摘するのではなく、プラスのポイントを強調することが重要だということについて意見が一致しました。互いに協力し、イスラエルとパレスチナの間の相互理解を促すことが重要であるとされました。
ある参加者は、パレスチナはイスラエルの責任、またイスラエルはパレスチナの責任のことばかり言うが、自分自身の責任はどうなのか、と問いかけました。別の発言者は、両者とも当然相手を非難し続けるだろうが、未来に目を向けることが重要だと述べました。前進への道について多くのことが言われてきました。わざわざ一からやり直して新しい解決方法を探したり、考慮事項を検討したりする必要はありません。平和への道は、二国家共存を含め、すでに合意されたことを実行することにあります。イスラエルとパレスチナを再び国際法の枠組みの中に戻すことが必要だということでした。
イスラエルの女性ジャーナリストは、互いに非難し合うのをやめるべき時が来ていると述べました。同人はそれに関連して、1929年にヘブロンにおいて、ユダヤ人家族が近隣のアラブ人に虐殺されたことについて触れました。「今私たちがここにいるのは、歴史をゆがめるためではなく、未来について話し合うためです」と述べ、「未来に参加したい人はどうぞ、でも過去をゆがめないでください」と締めくくりました。
これに対しマンスール氏は、自分は過去には興味がないと述べました。「私が望むのは、我が人民の悲劇に終止符を打つことです。あなたは、自分たちが占領者であることを認めなければなりません。私に手を差し伸べ、認めてください。そうすれば希望の未来に歩みだすことができます」
ある参加者は、メディアの役割は重要だが、中東では少々力を持ちすぎている、と述べました。外国メディアが紛争を取り上げるのを見ると、時としてまるでイスラエル人とパレスチナ人が「毎日3度の食事のたびに」殺し合いをしているかのようです。メディアはもう少し責任ある態度を取るべきだと述べました。
「パレスチナ自治政府は泣く名人だ」という別の発言者は、イスラエルのニーズも考えてもらいたいと述べました。アラファトと違い、アッバス大統領は「力量不足」だと見られています。イスラエルの安全だけの問題ではありません。イスラエルは自分で自分の身を守ることができます。パレスチナ内の安全こそが深刻な問題なのです。
ある発言者は、基本的サービスを提供し、農業を発達させ、雇用機会を増やすことが、パレスチナの人々に新たな希望を与えるが、たとえすべての入植地を破壊したとしても、人が思うほど決着の道は近くないだろうと述べました。ガザ地区の子どもたちはシャヒード(殉教者)になることを夢見ており、このような憎悪と不信を克服するのは難しいことです。もう1人の発言者も、同じ調子でユダヤ人を憎む人々を隔離する必要性について述べました。
その他討論の中で目立ったのは、ガザ地区からのイスラエルの撤退と、アラブ和平イニシアチブの問題でした。後者について、ある発言者は「球は今、イスラエルコートにあります。私たちはまだ平和を求めて手を広げています」と述べました。
地域的次元:中東近隣諸国の役割に関するパネル
「地域的次元:中東近隣諸国の役割(Regional Dimension: the Role of Neighbouring Countries in the Middle East)」と題した本日2回目のパネルを紹介した赤阪氏は、この地域において、特にイラク、シリア、レバノン、およびイランが関係する最近の動向は、和平プロセスに影響を与え続けていると述べました。パネルではこれらの動向がイスラエル・パレスチナ関係に及ぼす意味合いと、地域的文脈の中で和平への道を復活させる見通しを検証するとのことでした。
一人目のパネリスト、朝日新聞社の川上泰徳氏は、主に米国と欧州連合主導による現在の中東に対する国際的アプローチは、和平プロセスを脅かしているように見えると述べました。川上氏は、なぜ彼らが今年はじめに設立された統一政府を支持せず、非常事態政府発足をすぐに歓迎したのかわからないと述べました。彼らがパレスチナ領土の分割を既成事実にしようとしているという懸念を表明しました。
川上氏はガザ地区の状況悪化と、とヨルダン川西岸地区における新たな戦いの勃発について警鐘を鳴らしました。最近の合法的選挙においてハマスが勝利したこと、そして立法議会で過半数を占めていることを忘れてはならないと述べています。諸外国はアッバス大統領政府の合法性を支持していますが、パレスチナ人民は支持していません。ハマスは「人民の一部」であり、その活動家の多くが支持を得ています。
パレスチナの分裂により、中東における様々な分割が強調され、ある国はハマスを支持、他の国はアッバス政府を支持している、と川上氏は述べています。現時点で、国際社会はハマスを政治プロセスから除外するべきではありません。どちらの側が正しいか判定すべきではないのです。近隣諸国がパレスチナにおける両派の和解を促進するべきだとしました。
ヨルダン、アンマンの日刊紙ドストール紙のコラムニスト、アイーダ・タウィール氏は、パレスチナに人道援助を行うヨルダンの役割について発言しました。中でも、ヨルダンは自国内で暮らす800万人ものパレスチナ難民の生活条件を改善しようと努め、彼らの人権を尊重していると語りました。またヨルダンは多数のイラク難民も受け入れています。これは国にとって大きな負担となっているとのことです。
またタウィール氏は、中東の国連活動ではこれまで最大の国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の中東における役割についても言及しました。困っている人々に人道援助を行う近隣諸国の取り組みを国際社会が支援することが重要だと述べました。
イスラエルのテレビ局チャンネル1のアヤラ・ハッソン氏は、過去を見るより、未来を見据えるほうが重要だと述べました。「私たちはみな同じ家族の中に暮らしています。起きたことは起きたことです」。歴史から教訓を得ることは必要ですが、未来を見ることも大切だと述べました。ハッソン氏は参加者に対し、あらゆるトップ会談、イニシアチブ、合意、また和平プロセスに投資された資金のことを考えてみるよう呼びかけました。それは単なるスローガンだったのでしょうか、それとも真の努力だったのでしょうか。和平プロセスがいまだに第一章にとどまっている現在、必要なのは「私たちが使っている言語を変えること」だと氏は言います。「私たちはみな現状の犠牲者であり、前に進むことが必要です」
世論調査によると、イスラエル人の多くは二国共存による和平を信じている、とハッソン氏は続けました。世界が「三国共存」に進まないことを願うのみです。実際ガザの状況は深刻であり、「病気を診断し」、誰が紛争を長引かせようとしているのか調べることが重要です。これに関連し、ハッソン氏はイラン、シリア、そしてヒズボラの名を挙げました。また米国については、イラクで行ったことを考えれば、地域のことを本当に理解しているのか疑問だと述べています。中東各国はこの問題について話し合い、新たな現実を直視する必要があります。「雨が降っていないとはいえません。降っているのですから」
サウジアラビアのサウジ・ガゼット紙ジェッダ支局長サブリア・ジャウハル氏は、標的を定めた暗殺、ヨルダン川西岸地区における入植地の拡大、米国によるイスラエルのひいき、および欧州連合の消極的役割が、現状をもたらした主な原因であると述べました。マドリード会議やオスロ合意からアラブイニシアチブにかけて、国際社会はパレスチナとイスラエル双方に安定した未来を保証する中東和平と問題解決を切望してきました。しかし力の目盛りは今大きくイスラエルのほうに傾いています。
米国がテロリスト組織だとするハマスが権力の座についた今、地域でこれから何が起こるかわからない、とジャウハル女史は述べました。イスラエルに対するひいきと際限ない支援、そしてイラクとアフガニスタンにおける戦争は、中東の中に米国に対する悪感情を育成し、米国とイスラエルによるハマスの封鎖は混乱をもたらしました。
一方、アラブ22カ国から伸ばされた救いの手であるアラブ和平イニシアチブは、善意の意思表示でした。イスラエルの回答は、どのような和平プランであっても、イスラエルとパレスチナの間で直接交渉する必要があり、後者が安全を保障しなければならない、というものでした。
ジャウハル氏は地域における影響力が大きいシリアやイランなどの国に対する米国の反発が強まることへの警戒の念を表明しました。ブッシュ政権はアッバス政府を断固支持する一方で、ガザ地区の人々の隔離状態を放置し、すべての原因をハマスのせいにしようとしているように見えます。しかしイランなどの国々がハマスを支持していることを軽視してはなりません。また、もしハマスがガザのコントロールを失ったら、新たなテロリズムへのとびらが開かれることになるでしょう。
その後に行われた対話型討論の参加者は、ハマスを政治プロセスに参加させる必要があるかどうか検討しましたが、過激派を孤立させる必要性を強調する意見がいくつか出ました。
実際に急進派はイスラエルに勝てると信じ、またエジプト、ヨルダン、サウジアラビアなど、アラブの穏健派諸国も同様です。昨年ヒズボラがイスラエルに勝利したとされて以来、今ハマスは浮かれています。シリアとイランはこの状況を維持したいと思っています。しかしアラブ諸国の多くは中東和平を促進しようとしています。これに関連し、何人かがアラブ和平イニシアチブの重要性を強調しました。
「おそらくアラブ社会は私たちが欲しくない商品を私たちに売りたいのでしょう」イスラエルからの参加者はこう述べました。「おそらくイスラエルが欲しいのは、平和ではなく安全なのです」。本当の平和とは、繁栄や、良い大学や、病院があることを意味します。その意味では、イスラエルには平和はあります。「彼らが私たちに安全を与えてくれれば、私たちは彼らに平和を与えます」と同人は述べました。
別の発言者は、アッバス大統領がハマスを含むすべてのグループからイスラエルとの間で最終地位交渉を行う権限を認められたことが重要であると述べました。占領が終わってパレスチナ国家が建設され、イスラエルと平和かつ安全に共存するようになったとしたら、イスラエルはいったい何を失うというのでしょうか。現状はイスラエルにとってもパレスチナにとっても悲惨です。国際社会が解決に向けて大胆な行動を起こさない限り、また現在アラブ諸国が示しているような、突破口を開こうとする政治的意思を持たない限り、過激派が優位に立ち、ハマスを恐れる人々はその影響がますます大きくなるのを見なければならないでしょう。
「私たちは戦争を求めていません。テロリストは必要ありません」。イスラエルから来た別の発言者がこう述べました。アッバス大統領のリーダーシップが強まれば、イスラエルは喜んで彼と交渉するでしょう。しかし現時点でイスラエルは、パレスチナ自治政府大統領の権限が十分強いとは思っていません。
「選択肢は多くありません」と述べたパレスチナからの発言者は、パレスチナ自治政府には「正しい決定を下す」意思があることを強調しました。国際社会のパートナーがアッバス大統領を有意義な方法で参加させなければ、過激派の力がヨルダン川西岸にまで広がるでしょう。「私たちはビジョンを持っています。平和を求めるなら、リスクを負わなければなりません」と語りました。実際ハマスへの支持率は43%を超えたことはなく、その影響力はしばしば誇張されているということでした。
その後の討論で安全問題が話し合われ、何人かから安全と平和は密接に関係しているという意見がありました。しかしテロリズムに関する言い訳や、これを正当化する意見はありませんでした。別の発言者は、パレスチナは平和を必要としているが、平和より前に、まず正義が必要だと述べました。
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Press Release
26 June 2007
PAL/2082
PI/1785