IPCC報告書:気候変動による広範なリスク発生の一方で、効果的な対策の機会も
プレスリリース 14-022-J 2014年04月01日
IPCC報告書:気候変動による広範なリスク発生の一方で、効果的な対策の機会も
深刻な温暖化で対策は困難に
横浜、3月31日 – 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は3月31日、報告書を発表し、気候変動の影響がすでに、すべての大陸と海洋に及んでいることを明らかにしました。気候変動によるリスクに対し、世界的な備えができていないケースも多く見られます。報告書はさらに、深刻な温暖化によってリスク管理は難しくなるものの、このようなリスクに対応する機会はあると結論づけています。
IPCC第2作業部会が発表した報告書『気候変動2014:影響・適応・脆弱性』は、これまでの気候変動の影響、気候変動による将来的なリスク、そしてリスク軽減に向けた効果的対策の機会について詳しく述べています。報告書の執筆にあたっては、70カ国から選抜された計309人の調整担当主執筆者、主執筆者、レビュー担当編集者が、さらに436人の寄稿者と総勢1,729人の専門家および政府レビュー担当者の支援を受けました。
報告書の結論によると、気候変動に対応するためには、世界の変化に伴い生じるリスクについて、選択を行う必要があります。気候変動は今後も、予測できない結果を生み続けることになりますが、そのリスクはますます明らかになってきています。報告書は、全世界で弱い立場に置かれた人々、産業、そして生態系を特定しています。そして、気候変動によるリスクは脆弱性(準備不足)や露呈(危険な状態にさらされた人々または資産)が、危険(気候の現象やトレンドの発端となるもの)と重なり合った場合に生じるという調査結果を示しています。これら3つの要素に焦点を絞って賢明な対応を行えば、リスクを軽減することができます。
「私たちは人為的な気候変動の時代を生きています」。こう語るのは、第2作業部会のビセンテ・バロス共同議長です。「私たちがすでに直面している気候関連リスクに対し、準備が整っていないことも多くあります。準備態勢の整備に投資すれば、現在も将来も見返りが期待できるのです」
また、第2作業部会のクリス・フィールド共同議長によれば、気候変動によるリスクを軽減するための適応は始まってはいるものの、取り組みの中心は将来の変化への備えよりも、過去の事象への対応に置かれているのが実情です。
「気候変動への適応は、 これまで試みられたことのない目新しい課題ではありません。全世界の政府や企業、コミュニティが適応の経験を積んできています」。フィールド共同議長はこう語ります。「この経験は、気候と社会が変化を続ける中で重要になる、より大胆で、より意欲的な適応の出発点となるものです」
気候変動による将来的なリスクは、将来の気候変動の規模に大きく左右されます。温暖化の規模が大きくなればなるほど、予測できない、または取り返しのつかない深刻かつ広範囲の影響が及ぶおそれは高まります。
「温室効果ガス排出量が伸び続け、温暖化が進んでいけば、リスクは管理が難しくなるばかりでなく、さらに深刻化し、適応への持続的な投資も限界に達してしまうでしょう」。フィールド共同議長はこのように述べています。
観測されている気候変動の影響はすでに、農業や健康、陸上・海洋生態系、飲料水の供給、そして一部の人々の生活に影響しています。熱帯から極地、小さな島々から大きな大陸、そして最も豊かな国々から最も貧しい国々まで、広く影響が観測されていることは、特に際立った特徴といえます。
「報告書は、世界各地の人々や社会、生態系が弱い立場に置かれているものの、その脆弱性は場所によって異なっていると結論づけています。気候変動はしばしば、その他のストレスと相まって、リスクを高めているからです」。フィールド共同議長はこう述べています。
バロス共同議長は、適応がこうしたリスクの軽減に重要な役割を果たしうることを指摘し、次のように語っています。「適応が極めて重要である理由の一つとして、過去の排出と既存のインフラにより、世界がすでに気候システムに組み込まれた気候変動に起因する多数のリスクを抱えているという点があげられます」
フィールド議長も次のように付け加えています。「気候変動がリスク管理上の課題であることを理解すれば、経済と社会の発展や、将来の温暖化を抑えるための取り組みに適応を組み入れる幅広い機会が生まれます。私たちが課題に直面していることに違いはありませんが、こうした課題を理解し、これに対して独創的な取り組みを行えば、気候変動への適応は短期的にも長期的にも、世界の活性化を促す重要な手段となり得ます」
ラジェンドラ・パチャウリIPCC議長はこう述べています。「第2作業部会の報告書は、私たちが気候変動のリスクをいかに削減、管理すべきかを理解するうえで、さらに重要な一歩といえます。第1作業部会と第3作業部会による報告書と同じく、気候変動の本質的な特徴だけでなく、その解決に向けたオプションの理念的枠組みも提供しているからです」
第1作業部会の報告書は2013年9月に発表されており、第3作業部会の報告書は2014年4月に発表される予定です。IPCCの第5次評価報告書の締めくくりとして、2014年10月には統合報告書が発表されることになっています。
「今回の成果は、第2作業部会の共同議長と、この報告書の作成に進んで時間を割き、協力していただいた数百人の科学者と専門家の方々、そして貴重なご意見をいただいた1,700人以上の査読専門家の方々の献身的な努力の賜物です」。パチャウリ議長はこのように語っています。「IPCCの報告書は人類史上、最も意欲的な科学的試みのひとつであり、私はこれを可能にしているあらゆる人々の貢献に恐縮し、感謝しています」
IPCC第5次評価報告書の第2作業部会報告書(WGII AR5)は、www.ipcc-wg2.gov/AR5およびwww.ipcc.chで入手できます。
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編集者向け注記
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動関連の科学的評価を行う国際機関です。IPCCは1988年、気候変動の科学的根拠、その影響と将来的なリスク、そして適応と緩和に向けたオプションの定期的評価を政策決定者に提供することを目的に、世界気象機関と国連環境計画によって設立されました。
影響、適応および脆弱性の評価を担当する第2作業部会は、ブエノスアイレス大学(アルゼンチン)のビセンテ・バロス氏とカーネギー研究所(米国)のクリス・フィールド氏が共同議長を務めています。第2作業部会の技術支援ユニットは、米国政府の資金提供により、カーネギー研究所に設置されています。
2008年4月のIPCC第28会期において、IPCCメンバーは第5次評価報告書(AR5)の作成を決定しました。2009年7月にはスコーピング会合が開催され、AR5の対象範囲と概略が定められました。これを受け、2009年10月のIPCC第31会期では、AR5で3つの作業部会が作成する報告書の概略が承認されました。
報告書の執筆にあたっては、70カ国から選抜された計309人の調整担当主執筆者、主執筆者、レビュー担当編集者が、さらに436人の寄稿者と総勢1,729人の専門家および政府レビュー担当者から、報告書案に関するコメント提供の形で支援を受けました。第5次評価報告書全体としては、計837人の調整担当主執筆者、主執筆者およびレビュー担当編集者が参加しています。
第2作業部会の報告書は2巻から構成されています。第1巻は政策決定者向け要約、専門家向け要約のほか、部門別のリスクと対応の機会を評価する20章から構成されています。具体的な部門としては淡水資源、陸上・海洋生態系、沿岸部、食糧、都市・農村部、エネルギーと産業、人間の健康と安全保障、生活と貧困があげられます。10章からなる第2巻では、地域ごとにリスクと機会の評価を行っています。具体的な地域はアフリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラレーシア、北米、中南米、極地、小島嶼、海洋となっています。
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