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IPCC報告書:削減努力にもかかわらず、世界の温室効果ガス排出は加速 

プレスリリース 14-029-J 2014年04月14日

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は4月13日、報告書を発表し、世界の温室効果ガス排出量は、より多くの気候変動対策が取られているにも関わらず、記録的なレベルに増加したことを明らかにしました。報告書によると、1970年以降でも特に最近の10年(2000-2010年)の温室効果ガスの排出増加が大きいとしています。

IPCCには3つの作業部会があります。気候変動の科学的根拠を扱う第1作業部会が2013年9月に、また、気候変動の影響や被害対策を扱う第2作業部会が今年3月に、それぞれ報告書を発表。今回発表された第3作業部会の報告書と合わせて、今年10月には第5次統合報告書が公表される予定です。以下は IPCC のプレスリリースの日本語訳です。

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削減努力にもかかわらず、温室効果ガス排出は加速

大幅な排出量削減に至る道は多数

ベルリン、4月13日 – 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による新たな報告書は、気候変動の削減を図る政策が数多く導入されているにもかかわらず、世界全体の温室効果ガス排出量は過去最大の水準に達したことを明らかにしました。しかも、2000年から2010年にかけての排出量増大の幅は、1970年以降のいずれの10年間も上回っています。

IPCC第5次評価報告書の第3作業部会報告書によると、幅広い技術的な措置と行動変革を組み合わせれば、産業革命以前と比べた地球の平均気温上昇を摂氏2度以内に抑えることが可能です。しかし、地球温暖化がこの値を超えない可能性を半分以上に高めるためには、制度的、技術的な大転換が必要となります。

報告書『気候変動2014:気候変動の緩和』は、3つの作業部会による報告書の最後となるものです。2014年10月には、気候変動に関するIPCC第5次評価報告書の締めくくりとして、統合報告書の発表が予定されています。第3作業部会は、ドイツのオットマール・エーデンホーファー氏、キューバのラモン・ピチス=マドルーガ氏、マリのユバ・ソコナ氏の3名が共同議長を務めています。

「気温の上昇を2度以内に抑えるためには、大幅な排出量削減をねらいとする気候変動政策が必要になります」。こう語るのは、エーデンホーファー共同議長です。「科学は明確なメッセージを発信しています。気候システムへの危険な干渉を防ぐためには、これまでのやり方と決別しなければなりません」

シナリオが示すところによると、地球の平均気温の上昇を2度以内に抑える目途をつけるためには、世界全体の温室効果ガス排出量を今世紀半ばまでに対2010年比で40%から70%削減するとともに、今世紀末までにこれをほぼゼロにすることが必要になります。意欲的な緩和を図るためには、大気中から二酸化炭素を除去する必要さえあり得ます。

科学文献は、気温上昇目標をこれより低く設定したとしても、同様の排出量削減が必要になることを確認しています。

報告書では、科学文献で提示された約1,200件のシナリオを分析しています。これらシナリオは、全世界31のモデリング・チームが、異なる目標を念頭に置きながら、緩和策の経済的、技術的、制度的な前掲条件と意味合いを探るために作成したものです。

「将来的に、気温上昇を2度以内に抑えるという目標を達成できる緩和策は数多くあります」。エーデンホーファー共同議長はこのように語ります。「どの策を講じるにせよ、多額の投資が必要です。緩和策を直ちに導入し、幅広い多様なテクノロジーを活用すれば、そのコストを抑えることも可能です」

緩和の経済的コストの推計値には、大きな開きがあります。これまでと同じ動向を想定するシナリオでは、消費が年1.6%から3%増大します。意欲的な緩和策を導入すれば、この上昇率が年0.06%程度抑えられます。しかし、根底となる推計値は、気候変動の軽減による経済的利益を考慮に入れていません。

2007年の前回のIPCC評価報告書以来、気候変動緩和については新たな知識が大量に得られています。16章からなる今回の第3作業部会第5次報告書では、約1万件の学術論文が参考文献として掲げられています。

大気中の温室効果ガス濃度を安定させるためには、エネルギーの生産と使用、輸送、建設、産業、土地利用および人間居住に起因する排出量をすべて削減する必要があります。ある部門での緩和への取り組みが、別の部門でのニーズを決定づけることになるからです。

意欲的な緩和シナリオに共通する特徴として、電力生産による排出量をほとんどゼロにするという点があげられます。しかし、エネルギー効率の改善も同じく重要です。

「エネルギーの使用量を削減すれば今後とも、低炭素エネルギー技術の選択の幅が広がるでしょう。そうすれば、緩和策の費用効率を高めることもできます」。こう語るのは、ピチス=マドルーガ共同議長です。第4次評価報告書の発表以来、相乗効果を高め、副次的な悪影響を削減するための気候変動政策に対する関心が高まっています。

気温上昇を2度以内に抑えるという目標を達成するためには、土地も重要な要素となります。森林破壊を抑え、植林を行うことで、土地利用に起因する排出量の増加が止まったり、さらには減少に転じたりするケースも見られるからです。

植林によって、土地を大気中からの二酸化炭素吸収に活用することができます。バイオマスを利用した発電を二酸化炭素の回収や貯留と組み合わせても、同じ効果が得られます。しかし、現時点でこの組み合わせは大規模に実現できておらず、二酸化炭素の恒久的な地下貯留は課題に直面しているほか、土地の獲得競争が激化するリスクを管理する必要性も生じています。

「温室効果ガス排出量と経済成長、人口増加の相関関係を断つことが、気候変動緩和の中心的な課題となります」。こう語るのは、ソコナ共同議長です。「エネルギーを利用できるようにしながら、現地の大気汚染を削減することにより、持続可能な開発に貢献できる緩和策も多くあります」

「気候変動は全世界が共同で取り組むべき問題です」。エーデンホーファー共同議長はこのように述べています。「緩和目標の達成には国際協力が欠かせません。協力に必要な国際的制度を導入すること自体が、ひとつの課題です」

第3作業部会報告書は、きょう発表された政策決定者向け要約のほか、より詳細な専門家向け要約、本文16章、そして3つの附属書で構成されています。第3作業部会報告書各章の作成チームには、57カ国から235人の執筆者と38人のレビュー担当編集者が参加したほか、180人の専門家も寄稿者として執筆に協力しています。さらに、800人を超える専門家が報告書をレビューし、コメントを加えました。

「IPCCは、各分野の第一人者である多様かつ極めて有能な執筆者チームを集めることができました」。こう語るのは、ラジェンドラ・パチャウリIPCC議長です。

「この報告書の作成に時間と労力を割いていただいた多くの寄稿者の方々に感謝します。そのおかげで、IPCCは幅広い視点をカバーしながら、総合的に気候変動緩和策を評価することができました」。パチャウリ議長はこのように述べています。「第3部会報告書は、2014年10月に完成予定の統合報告書にとって貴重な要素となります。報告書の内容は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)関連の交渉でも生産的に活用されるものと確信しています」

第3作業部会の政策決定者向け要約、報告書全文および詳しい情報は、www.mitigation2014.orgおよびwww.ipcc.chで入手できます。

 

さらに詳しい情報については、下記にお問い合わせください。

IPCC Press Office、メールアドレス:ipcc-media@wmo.int

Jonathan Lynn, + 49 30 6831 30241またはNina Peeva, + 49 160 9941 0967

IPCC第3作業部会メディア向け窓口

メールアドレス:press@ipcc-wg3.de

Patrick Eickemeier, +49 331 288 24 30

IPCCはフェイスブックとツイッターでもフォローできます。

 

編集者向け注記

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動関連の科学的評価を行う国際機関です。IPCCは1988年、気候変動の科学的根拠、その影響と将来的なリスク、そして適応と緩和に向けたオプションの定期的評価を政策決定者に提供することを目的に、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立されました。

気候変動緩和策の評価を担当する第3作業部会は、ポツダム気候影響研究所のオットマール・エーデンホーファー氏、世界経済研究センターのラモン・ピチス=マドルーガ氏および南センターのユバ・ソコナ氏が共同議長を務めています。第3作業部会の技術支援ユニットは、ドイツ政府の資金提供により、ポツダム気候影響研究所に設置されています。

2008年4月のIPCC第28会期において、IPCCメンバーは第5次評価報告書(AR5)の作成を決定しました。2009年7月にはスコーピング会合が開催され、AR5の対象範囲と概略が定められました。これを受け、2009年10月のIPCC第31会期では、AR5で3つの作業部会が作成する報告書の概略が承認されました。

IPCC第5次評価報告書のうち、第3作業部会(WGIII)が担当する報告書『気候変動2014:気候変動の緩和』は、気候変動の緩和に向けたオプションと、その根拠となる技術的、経済的、制度的要件を評価するものです。報告書は世界、国内および地方レベルでの気候変動緩和策のリスク、不確実性および倫理的根拠を明確にし、すべての主要部門に関する緩和策を検討するとともに、投資や資金の問題についても評価を行っています。

IPCC第1作業部会は、2013年9月に気候変動の自然科学的根拠に関する報告書の政策決定者向け要約を、2014年1月に報告書全文をそれぞれ発表しました。第2作業部会は2014年3月31日、影響・適応・脆弱性に関する報告書を発表しています。第5次評価報告書の締めくくりとして、10月には最終的な統合報告書が発表される予定です。

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関連プレスリリース(日本語)は以下をご覧ください。

IPCC報告書:気候に対する人の影響は明らか(2013年9月、ストックホルム)

https://www.unic.or.jp/news_press/info/4831/

IPCC報告書:気候変動による広範なリスク発生の一方で、効果的な対策の機会も(2014年3月、横浜)

https://www.unic.or.jp/news_press/info/7767/

潘基文(パン・ギムン)事務総長は今年3月にグリーンランドを訪れ、溶解が加速している氷床など、気候変動による影響を自ら視察した©Photo UN/Mark Garten