国連事務局経済社会局(UNDESA)
小島嶼国課課長 森田宏子さん
森田 宏子(もりた ひろこ)
国連事務局経済社会局(UNDESA)
小島嶼国課課長
東京都出身。国際基督教大学で異文化間コミュニケーション学び、その後、デンバー大学にて国際関係学修士号を取得。1979年に、国連開発計画(UNDP)ハイチ事務所でJPOとして国連職員のキャリアをスタートさせる。その後、開発のための国連科学技術センター(UNCSTD) で10年間勤務。1993年に国連経済社会局・持続可能な開発部へ移り、情報分析課・課長、学術誌National Resources Forumの編集長、地球サミット+5、ヨハネスブルグ・サミット、リオ+20に事務局の一部として関わる。2009年より現職。
小島嶼開発途上国国際会議、サモアで9月1日に開幕
小島嶼開発途上国(Small Island Developing States – SIDS)とは、開発途上国の中の小島嶼(しょうとうしょ)国、いわゆる島国のことです。SIDSは、地球温暖化による海面上昇の影響を受けやすく、過疎化や人口流出、自然災害など島国特有の問題も抱えています。
SIDSの直面する課題に焦点を当てた、SIDS国際会議が2014年9月1日から4日に、南太平洋のサモア独立国(以下、サモア)で開催されます。この会議は、1994年にバルバドス、2005年にモーリシャス共和国(以下、モーリシャス)で開催され、今回で3度目です。南太平洋諸国にとっては、初めての大規模な国際会議という重要な意味合いがあります。会議が開催されるサモアは、バルバドスやモーリシャスに比べてまだ開発途上の国で、今年2014年1月に最貧国の枠組みから‘卒業’したばかりです。だからこそ、SIDSの現状 ― 気候変動や自然災害の深刻な影響をいかに受けているのか ― を現地で実際に見て、国際社会に理解してもらうには良い機会、良い場所でもあるとサモア自ら主催国を名乗りでたわけです。
サモアがここまで発展してきた背景には様々なパートナーシップからの支援があることを、サモアの人々は認識しています。このような背景があり、今年のSIDS会議のテーマは「純粋で持続可能なパートナーシップ」とされました。
6つのトピックから見る会議の焦点
SIDS国際会議の特徴として、国連会議で通常行われる、首脳・閣僚レベルの代表による一般演説に平行して行われる、「パートナーシップ討論」が挙げられます。サモア会議に向けて政府間協議で決められた6つのトピックがそこで討論されます。
その一つに「気候変動と災害リスク管理」があります。地球温暖化に伴う海面上昇による深刻な被害を受けているSIDSの立場から、気候変動による被害を予防し、軽減するためにはどのようなパートナーシップが有効に機能するのかを話し合う予定です。災害予防に関しては、多くの自然災害の経験を持つ日本にとっても興味深い議論となるのではないでしょうか。
また、「海洋と生物多様性」もトピックに挙がっています。海に囲まれたSIDSにとって、いかに効率よく、そして持続可能的に海洋資源を使うか、ということは、自国の経済・社会・環境の持続的な開発に大きく影響します。日本も同じ島国であり、海洋資源の開発に関してSIDSと共通の課題を発見できると思います。
他にも、「持続可能な経済開発」、「SIDSにおける社会開発・健康と非感染性疾患・青少年と女性」、「持続可能なエネルギー」、「水と衛生・食料安全保障・廃棄物管理」に関しても議論が行われる予定です。日本の皆さんにも、同じ島国の国民として、ぜひSIDSが抱える問題に目を向けていただきたいと心から願います。気候変動、災害管理やエネルギー問題などの共通課題に対して、日本の豊富な知識や経験は大きな貢献となることでしょう。
小島嶼国ならではの強みとは
SIDSのような小さな国では、全体的、統合的な取り組みを積極的にすることができます。というのも、特に島国では環境・経済・社会が密接に関連しているため、政策決定にすべての分野を考慮する必要があるのです。例えば、セーシェル共和国は、無人島で再生エネルギーの実験を行っています。無人島の電力を風力や太陽熱で補い、車を一切使用しないという取り組みを行っているのです。こういった、島全体に及ぶ革新的な取り組みを行えるということが、SIDSの強みの一つだと思います。
小さな島国での国際会議開催に伴う困難と挑戦
サモアのように、大規模な国際会議の主催経験が少ない途上国での開催には、大きなリスクも伴います。ニューヨークの国連本部で行われる総会やその他の会議と異なり、インフラが非常に限られているためです。例えば、ホテルなど宿泊施設の数が不足しています。さらに、開催国は会議のコストを負担しなければならず、財政的に余裕がないサモアには重荷です。こうした理由から、他国からの援助を必要としいて、実際に、サモアでは各国の駐サモア外国大使館や国連機関を通じてパートナーシップならぬ協力体制が組まれ、実行されています。主催国の首相のリーダーシップの下、会場の建築や整備が着実に進行している様子です。例えば、ニュージーランドからは豪華客船が提供され、参加者が宿泊施設として利用します。また、ニュージーランドとオーストラリアからは現地の警備体制の強化支援の提供、中国はITや会議室の家具の貢献、と日本からは会議参加者の移動手段のためのマイクロバスの搬入などが行われました。
会議前に十分な準備をしても、当日何が起こるかは分かりません。リスクはありますが、冒険に望むようなスリル感もあります。それを私は何度も経験してきました。たとえ言葉の壁がなくとも、文化や行動意識の違い、そこから生じる誤解やギャップも出てきます。それを覚悟の上、いろいろなハプニングを楽しむつもりで誠意を尽くすしかありません。
国連職員として働く醍醐味
事務局の一員として国際会議の裏方役を務めるというのは、私にとって国連職員の醍醐味の一つです。国連は、利害、立場が異なる国々に話し合いの場を設けることによって、妥協点、共通点を見つけ出す機会を提供し、解決策の打診やそれに導く支援ができる場だと考えます。長期間にわたる交渉がまとまった時、交渉が難航した際に提案した些細なアイデアが間接的にでも使用された時などは、当事者と同等に喜びを感じる瞬間です。
国連をめざす人へのメッセージ
日本人の若者は、内向き思考だと度々指摘されています。私も、日本で講義を一度行った際に質問を受け付けたのですが、質問をする学生がほとんどおらず、残念な思いをした覚えがあります。海外で働くことは、異文化や言葉の壁から生じる困難も伴いますが、やりがいのある仕事がたくさんあると思います。また、国連では本部でも開発途上国においても仕事、家庭、育児の両立がしやすい環境が整備されているため、特に女性の方に魅力的な職場ではないでしょうか。
就職活動が3年生から始まる日本では、海外留学やボランテイアをしたりして、大学生活を楽しむ余裕がなくなっているのではないでしょうか。是非機会をつくって日本を一時的にでも離れて外から日本と自分を見つめ直してください。若い時こそチャレンジが出来る時です。将来国連や国際機関を目指したい方は英語力だけではく、自分の意見、考えを持つことが大切で、国際機関で勝ち抜く能力は本からの知識から得られるものではありません。失敗を恐れず、試行錯誤を繰り返しながら経験を通じて身につけていくものだと思います。是非みなさん、挑戦してみてください。